「なくしもの」 谷川俊太郎
ごくつまらぬ物をひとつ失くした
無いとどうしても困るという物ではない
なつかしい思い出があるわけでもない
代わりの新しいやつは角の店で売っている
けれどそれが出てこないそれだけのことで
引き出しという引出しは永劫の目色と化し
私はすでに三時間もそこをさまよっている
途方に暮れて庭に下り立ち
夕空を見上げると
軒端に一番星が輝きはじめた
自分は何のために生きているのかと
実に脈略の無い疑問が頭に浮かんだ
何十年ぶりかのことであるけれど
もとよりはかばかしい答のあるはずがない
せめて品よく探そうと衣服の乱れをあらため
勇を鼓してふたたび室内へとって返すと
見慣れた什器が薄闇に絶え入るかと思われた
ごくつまらぬ物をひとつ失くした
無いとどうしても困るという物ではない
なつかしい思い出があるわけでもない
代わりの新しいやつは角の店で売っている
けれどそれが出てこないそれだけのことで
引き出しという引出しは永劫の目色と化し
私はすでに三時間もそこをさまよっている
途方に暮れて庭に下り立ち
夕空を見上げると
軒端に一番星が輝きはじめた
自分は何のために生きているのかと
実に脈略の無い疑問が頭に浮かんだ
何十年ぶりかのことであるけれど
もとよりはかばかしい答のあるはずがない
せめて品よく探そうと衣服の乱れをあらため
勇を鼓してふたたび室内へとって返すと
見慣れた什器が薄闇に絶え入るかと思われた
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