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SAT隊員死亡事件と業務上過失致死

2007年05月18日 12時47分33秒 | 法関係
大変優秀な隊員であったそうで、警察学校を首席で卒業され、23歳という若さでSAT入隊となったエリート警察官の方だったようです。まことに残念な結果です。まだ1歳にも届かないお子様をお持ちであったとのことで、無念でありましょう。御悔み申し上げます。


Yahooニュース - 毎日新聞 - <愛知立てこもり>防弾チョッキかすめ胸に被弾 林巡査部長

(記事より一部引用)

最初に銃撃を受けた長久手交番の木本明史巡査部長(54)を救出しようと、ジュラルミンの盾を持った完全武装の警察官約20人が立てこもっている大林久人容疑者(50)の自宅の敷地内に突入したのは午後9時23分ごろ。
 撃たれて倒れたままの状態で、同6時ごろまで無線機を通じて伝わっていた木本巡査部長のあえぎ声はもう聞こえない。その瞬間、銃声が響き、民家から7、8メートル離れた路上で警戒にあたっていた特殊部隊(SAT)の林一歩巡査部長(23)の左胸を弾丸が貫き、林巡査部長は約3時間後に死亡した。
 警察庁によると、銃弾は死亡した林一歩巡査部長の防弾チョッキと首の部分の境目付近に命中していたという。同庁幹部は「倒れている警察官は一刻も早く救出が必要だった。どうして撃たれるような事態になったか検証が必要だ」と話した。




現実の結果とは、極めて稀な確率でしか起こりえないことが本当に起こってしまうのです。詳しい状況は判りませんが、記事から判る範囲でSATの救出作戦で起こった悲劇の要因について考えてみます。


①相手(犯人)側要因:
暗闇で視界が不明瞭であったにもかかわらず、救出に向かったSATの方に向けて発砲

②救出部隊側要因:
a)人数は約20人
b)金属製の盾
c)全員防弾チョッキを着用
d)死亡した隊員の体の動き

死亡した隊員は、やや前かがみになった姿勢で肩口付近から体内に入った弾丸が心臓まで到達して死亡したのではないかと推測する。犯人が発射した弾丸と隊員の肩~胸の角度が、まさしく「その一直線上」以外有り得ない、というほどの稀な一致を見せた為致死的となったのだろうと思われる。犯人がその瞬間に発射しなければ、別な角度で当たって肩付近を撃たれたとしても死亡には至らなかった可能性はある。
つまり、犯人が引き金を引いた時間、発射した方向、撃たれた隊員の体の角度、これが「その瞬間」に全て揃わなければ起こらなかった可能性が高い。その他、
・②-a:隊員の誰かが撃たれる可能性は約20分の1なのに、死亡した隊員だけが被弾した
・②-b:のように、盾で取り囲んでいて殆ど隠れていたのに、極々僅かに生じた隙間が「あの1発弾丸」の軌道を残した
・②-c:防弾チョッキに被覆される主要部分以外に被弾する可能性はごく僅かで、入射方向が心臓方向になるのは極めて稀


これまでいくつか書いてきたように(参考記事1)、全ての事象を予測することなどできないのである。今回の隊員死亡となった件を、司法権力側の論理に基づいて、「業務上過失致死罪」を適用することができることを述べてみる。警察諸君には申し訳ないが、本件の作戦指揮者及び本部長は覚悟しておくべきであろう。

1)犯人発砲に伴う危険性の予見可能性について
・犯人はいつ発砲するか判らない
・犯人が「弾丸は100発はある」と豪語しており、これは周知であった
・倒れていた警官と犯人との距離は近く、暗闇であったとしても発砲すれば命中の危険性がある

2)SAT側の予見可能性について
・金属の盾は個々に分割されており、隙間があることは事実
・防弾チョッキには被覆されない部分が広範に存在することは事実
・これら被覆部分以外に被弾する可能性を考慮することは困難でない

上記1)及び2)については、常識的に考えれば専門家ではなくても、誰でも考えられる程度の危険性に対する認識である。即ち、全て予見可能であったと言わざるを得ない。
つまり、犯人発砲に伴う危険性を防ぐ為の義務があったのであるから、SATの指揮者及びその作戦を承認した本部長には作戦の中止・変更などの命令を出すべきであったにも関わらず、不十分な対策しか行わせないまま作戦を遂行したのである。犯人が発砲すれば、金属製の盾の間隙を縫って弾丸が到達し得ること、到達した弾丸は防弾チョッキで被覆されていない部分に着弾する可能性があること、これら予見可能な危険性に対して取りえる対策を実行させる注意義務があったことは明白であり、これを行っていなかったことは過失があったと言わざるを得ない。

起こった出来事が稀な事象であり止むを得なかったとの主張はあるものの、金属製の盾を持つ隊員の編成を変え、間隙を生じることなきように輪を2重に組むなどの対処は可能であった。万が一犯人が発砲したとしても、少なくとも隊員たちに直接被弾する射線を封じる対策は取り得たのであるから、この命令を出さなかったことは過失を免れ得ない。事実、これまでのSATの歴史の中においても、隊員が被弾死亡した事例は皆無なのであって、常に隊員死亡への対策が講じられていたということを推認することは容易である。

作戦指揮に当たるものの責任の重大さに鑑みれば、これら対策を講じることが甚だ困難であったということは認められず、それを行ってさえいれば本件隊員が死亡するには至らなかったことは疑う余地はない。よって、作戦指揮者及び本部長は「業務上過失致死罪」の適用をせざるを得ない。




如何でしょうか?注意義務を怠ったのですよ、警察は。過失があったのですよ。そういう理屈が成立してしまうんですよ。

実際にこれを適用せよ、などと言いたいのではない。今回の死亡は、本当に有り得ないほどの確率で起こった。金属製の盾の隙間を狙って犯人が撃てると思うか?否である。メチャクチャに、暗闇の中の「塊」に向けて発砲したら、偶然にも金属製の盾のほんの僅かな隙間をすり抜けたのである。普通、それが隊員の防弾チョッキ以外の部分に命中するなどということがあろうか?否である。しかし、現実には命中しており、それが致死的となってしまっているのである。

参考記事にも書いたような、落雷を受けて死亡した、というものと同じく殆ど起こりえないのであるが、今回の死亡事件は「危険性」「予見可能性」だけ考えれば、誰でも思いつく程度のものである。万分の1、或いはもっと少ないだろうが、現実に起こった結果が悪ければ、逮捕、起訴、裁判、となっている医療裁判の意味が、警察諸君にも理解できるであろう。こういうことを責められるということである。

不確実な部分というのは、犯人側の行動であるとか、金属製の盾を持っていた隊員たちの動き(並び方、盾の位置、隙間の場所等)、撃たれた隊員の体の動き等々、それら現象が事件の通りに揃った時にはじめて、犯人の持っていた銃と撃たれた隊員の致命傷とを結ぶ直線が完成したのである。その直線をたった1つの弾丸が通過したということである。その瞬間にしか起こりえなかったことが、まさしく起こってしまったのである。

医療においても、生体側反応というものが不確実なのであり、そういう不確実な要因が積み重なって、たった一つの結果を生じるのである。確率の問題として「極めて稀」であろうとも、SAT隊員が死亡に至ったのと同じく、悪い結果というものが起こるということである。これを全て事前に予期などできない。被告側は「金属製の盾を用いて用心していた」「防弾チョッキを着用させ注意していた」と主張しようとも、裁判ではこれでは十分とは認められず、「もっと注意しておけば防げた、取りえる手段は(理論上)有り得たのであるから過失と認定」と言われてしまうのである。


それにしても、愛知県警の上層部は責任を感じて欲しい。作戦指揮に問題があれば、犠牲になるのは隊員たちなのである。町田の一件で「マズった」(日本の「警察力」~SAT&SIT警視庁幹部はウソが下手だね(笑))のを気にしていた?のかもしれないが、犯人射殺であっても「止むを得なかった」とは思えるが、優秀な警官が死亡することは「止むを得なかった」などとは考えられないよ、普通は。