池田氏は、「みのもんたの古い脳」は誤りだと説いている。
池田信夫 blog みのもんたの古い脳
記事から引用してみる。
著者が「みのもんた」の例としてあげるのが、貸金業法の改正だ。当ブログでも論じたように、上限金利を下げたら貸金業界が崩壊して消費者がかえって困ることはわかっていたのに、みのもんたは(規制強化を主導した)後藤田正純氏をゲストにまねいて、彼を正義の味方とたたえた。
当ブログで紹介してきた進化心理学の言葉を借りると、みのもんたが代表しているのは、感情をつかさどる「古い脳」である。同情は、人類の歴史の99%以上を占める小集団による狩猟社会においては、集団を維持する上できわめて重要なメカニズムだ。感情は小集団に適応しているので、「高金利をとられる人はかわいそうだ」といった少数の個人に対する同情は強いが、規制強化で市場から弾き出される数百万人の被害を感じることはできない。
これに対して「金利を無理に下げたら資金供給が減る」というのは、経済学ではきわめて初等的な理論だが、「新しい脳」に属す論理的推論を必要とし、多くの人にはそういう機能は発達していない。
続いてコメントから引用。
金利規制:
貸金業法の改正で、個人事業者から資金が引き揚げられ、倒産が倍増しています。自殺が倒産の増加関数だとすると、金利規制の強化は自殺を増やすと思いますね。
禁酒法:
借金をアルコールと比べる意見もよくありますが、今度の規制強化は、まさに1920年代のアメリカの禁酒法と同じです。これによって20%以上で貸している中小の貸金業者は壊滅し、かなりの部分が闇金融になると予想されます。他方、800万人以上の債務者が借り入れできなくなり、闇金融に流れるでしょう。禁酒法がマフィアを育てたのと同じです。
今度の改正では、闇金の規制強化も打ち出していますが、この措置が有効だと予想する向きはほとんどありません。今でも、サラ金の90%以上は闇金です。アルコールと同様、消費者ローンのように大きな市場を非合法化することは不可能なのです。
むしろ行政やマスコミがサラ金を差別することが、大手金融機関の消費者金融への進出を阻害し、サービスの質を悪化させています。これは売春、大麻などと同じ問題で、合法化して政府が管理したほうがいい。マフィアをなくす最善の対策は、彼らのビジネスへの需要をなくすことです。
池田氏が主張の根拠としているのは、彼が信じて疑わない「初等的経済学理論」のようである。何度か指摘してきたのだが、今回も過去の例に漏れず、こちらの質問には恐らく答えられないだろうが、一応書いておく。
消費者金融市場のうち、個人向け無担保融資を行っている所謂消費者金融(武富士、アコム、プロミス、アイフル等)に該当するものを「貸金業」と呼ぶことにする。銀行、ノンバンク、カード会社などは除外するものとする。
質問①:池田氏は以前「ゾンビ企業に追い貸しするのは、生産性を低下させるので良くない」という主張をしていたと思う。そうであるなら、個人事業者についても同様のことが考えられるのだが、貸金業者から追加融資を断られるような個人事業者が延命することは経済学的に望ましいと言えるか。
質問②:池田氏の過去の記事やコメントから見れば、金利規制を行うと、a)かなりの中小貸金業者は闇金になる、b)800万人が借入できなくなり闇金から借入を行う、ということを主張しているようである。
そこで、a)の根拠は何か、お尋ねする。現在存在する中小業者はかなりの人たちが将来「闇金業者になる」ということになれば、犯罪者予備軍ということであろうか。これと併せて、池田氏は「今でも、サラ金の90%以上は闇金です。」と述べているので、これについても具体的に説明できるはずである。
b)の800万人が借入できなくなる、というのは、「現在20%を超える金利で借りている人たち全部」が借入している全額(元利合計)の一括返済を迫られる、ということでしょうか?ならば、これに応じられないほぼ全員が破産等(民事再生含む)の処理を行う、ということですね?それとも、過去の債務はそのまま残り、新たな借入が停止される、ということでしょうか?
以下は、この問題について、あまり過去の記事をお読みになっていない方に向けて書いておきます。
①の補足・・・個人事業主であっても、借入先は銀行やノンバンク等、貸金業者よりも低金利業者を選択することは可能である。しかし、既に借入額が大きい、事業がうまくいっていない等何らかの理由により融資を断られることはあるだろう。そのような場合に貸金業者からの借入を行うことは有り得るが、その事業者が「ゾンビ」ではなく利益率の高い効率的な事業者であることを想定するのは困難だと考えている。複数の貸金業者から借入を行い、しかもその金利が20%以上であるなら、事業から得られるリターンは当然それを上回る水準であるはずであろうが、現実にはそうした個人事業者が多いとは思われない。もし、それほど高い利益率であるならもっと低金利の融資を受けることが可能であろう。例えば、「18%の借入を断られながら25%ならば借入可能であって、プロジェクト失敗にはならないはずの個人事業者が貸金業者から借入できない為に倒産する」、ということが圧倒的に多いということでもない限り、池田氏の主張が正当であるとは思わない。無駄な延命をするよりも、再生なり破綻処理なりを行う方がよいと思う。
そもそも個人事業者の事業成功率が極めて高く、貸倒にはならないのであれば、もっと高金利が適用できる日賦業者からの借入を行えば済む話であろう。日賦業者は事業者向け融資はできるので、短期資金を30%とか40%で貸し出せばいいだけである(上限は54.75%だったか?なのでもっと高金利でも貸せるはずである)。通常の貸金業者が25%とか29.2%で貸し出せる相手なのであれば、その審査が適正である限り、日賦業者も同じ金利で貸せるはずだろう(現実には業者のコスト率が異なるので適用金利は変わるはずだが、池田氏が主張している初等的経済学の理論によれば同一人物が借入を行う場合にはどの業者であっても全部同じ金利が適用される、と信じているのだそうだ)。
②の補足(a について)・・・酷い決め付けではないかと思いましたが、どうなんでしょうか。無登録業者であれば闇金だが、登録業者であっても9割以上が「闇金」であると?ならば、大手・準大手以下の登録業者を摘発すれば、闇金業者の多くは一網打尽にできるのではないですか?もし中小業者の多くが不良業者であると言うなら、上限金利規制によって、そういう業者が消滅したところで何も問題はなさそうに思えます。
②の補足(b について)・・・池田氏の理屈からすると、20%以上の金利を適用されていた人は、(もし収入等の条件が変わらないとすれば)決してそれ以下の金利では「借りられない人たち」ということになるでしょうから、合法の貸金業者からは借入できなくなる、ということでしょう(闇金が資金提供するとして、数兆円規模で資金供給が必要になるだろう。そんなことが可能なのか?)。貸金業界の実際の利用者数は推定が難しいのですが、実人数で800万人が排除されるとなれば、控えめに見て「貸金業者の2社以上から借入を行っている人」はほぼ全員という規模でしょうね。債務残高によっては、1社だけから借入してる人も含まれるかもしれません。大手業者の推定などでは利用者は800万人程度という数字もありますが、そうであるなら現在大手貸金業者に債務のある殆どが「借入できない」ということですね。つまり、完全にグレーゾーンが廃止されたら、全く新たな顧客か、これまでの利用者のうち「完済して現在債務のない人」を対象として貸し出すという、別な市場を作っていく、ということですか。この市場には、これまで借りてた800万人は入れない、と。もしそうなれば、圧倒的大多数の貸金業者は貸出残高を維持できなくなるでしょうね。それが判っているならば、完全にグレーゾーン金利が廃止される前に廃業した方が有利に思えます。何故即刻廃業するとか、他の事業に移るとかして、貸金業界から完全撤退してもよさそうです。
参考までに、焦げ付きが問題となった米国のサブプライム・モーゲージについての規制も、借金という点では似ている。池田氏の主張するところによれば(初等的経済学理論は日米共通なのであろう?)「同じ現象」が観察されてもよいと思うが、いかがであろうか。例えば、「HOEPAのような規制強化→資金供給が減り貸出は減少する」、ということが起こりそうなものだが、どうなのか?実際には、サブプライム・ローンの融資額は増加したようだが。この貸出が減ってない理由を、池田式の初等的経済学理論に沿って説明してもらいたいものです。池田氏の論に従えば、どうやらFRBも初等的経済学理論さえ理解できない、ということになってしまうのですけどね(笑)。
更に、池田式理論が正しいのだとすれば、「借金ができなくなる→闇金に行く」ということが、常に観察されるはずであろう。では、サブプライム・ローンの焦げ付いた債務者の大多数は闇金から借入を行っていたか?そうとは思えないのですけどね。調べてないから、判らんけど。ただ、池田式経済学理論の通りなら、米国における「禁酒法という規制強化→闇市場化」という現象が日本の借金にも適用できるのであれば、米国での借金であっても同じく「規制強化で借金ができなくなる→闇市場化(闇金から借りる)」ということになるはずであろう。もしもこれが大多数で起こってないとしたら、「借金できなくなる→闇市場化」ということが必ずしも正しいとは言えないのではないか?池田氏にとっては、「規制強化によって闇市場化するのが当然」とお考えなのだろうけど(笑)。
池田氏の説は、過去の記事から含めて、極めて疑問であると思う。
*一応TBしたし、コメント欄にもTBした旨記載した。
池田信夫 blog みのもんたの古い脳
記事から引用してみる。
著者が「みのもんた」の例としてあげるのが、貸金業法の改正だ。当ブログでも論じたように、上限金利を下げたら貸金業界が崩壊して消費者がかえって困ることはわかっていたのに、みのもんたは(規制強化を主導した)後藤田正純氏をゲストにまねいて、彼を正義の味方とたたえた。
当ブログで紹介してきた進化心理学の言葉を借りると、みのもんたが代表しているのは、感情をつかさどる「古い脳」である。同情は、人類の歴史の99%以上を占める小集団による狩猟社会においては、集団を維持する上できわめて重要なメカニズムだ。感情は小集団に適応しているので、「高金利をとられる人はかわいそうだ」といった少数の個人に対する同情は強いが、規制強化で市場から弾き出される数百万人の被害を感じることはできない。
これに対して「金利を無理に下げたら資金供給が減る」というのは、経済学ではきわめて初等的な理論だが、「新しい脳」に属す論理的推論を必要とし、多くの人にはそういう機能は発達していない。
続いてコメントから引用。
金利規制:
貸金業法の改正で、個人事業者から資金が引き揚げられ、倒産が倍増しています。自殺が倒産の増加関数だとすると、金利規制の強化は自殺を増やすと思いますね。
禁酒法:
借金をアルコールと比べる意見もよくありますが、今度の規制強化は、まさに1920年代のアメリカの禁酒法と同じです。これによって20%以上で貸している中小の貸金業者は壊滅し、かなりの部分が闇金融になると予想されます。他方、800万人以上の債務者が借り入れできなくなり、闇金融に流れるでしょう。禁酒法がマフィアを育てたのと同じです。
今度の改正では、闇金の規制強化も打ち出していますが、この措置が有効だと予想する向きはほとんどありません。今でも、サラ金の90%以上は闇金です。アルコールと同様、消費者ローンのように大きな市場を非合法化することは不可能なのです。
むしろ行政やマスコミがサラ金を差別することが、大手金融機関の消費者金融への進出を阻害し、サービスの質を悪化させています。これは売春、大麻などと同じ問題で、合法化して政府が管理したほうがいい。マフィアをなくす最善の対策は、彼らのビジネスへの需要をなくすことです。
池田氏が主張の根拠としているのは、彼が信じて疑わない「初等的経済学理論」のようである。何度か指摘してきたのだが、今回も過去の例に漏れず、こちらの質問には恐らく答えられないだろうが、一応書いておく。
消費者金融市場のうち、個人向け無担保融資を行っている所謂消費者金融(武富士、アコム、プロミス、アイフル等)に該当するものを「貸金業」と呼ぶことにする。銀行、ノンバンク、カード会社などは除外するものとする。
質問①:池田氏は以前「ゾンビ企業に追い貸しするのは、生産性を低下させるので良くない」という主張をしていたと思う。そうであるなら、個人事業者についても同様のことが考えられるのだが、貸金業者から追加融資を断られるような個人事業者が延命することは経済学的に望ましいと言えるか。
質問②:池田氏の過去の記事やコメントから見れば、金利規制を行うと、a)かなりの中小貸金業者は闇金になる、b)800万人が借入できなくなり闇金から借入を行う、ということを主張しているようである。
そこで、a)の根拠は何か、お尋ねする。現在存在する中小業者はかなりの人たちが将来「闇金業者になる」ということになれば、犯罪者予備軍ということであろうか。これと併せて、池田氏は「今でも、サラ金の90%以上は闇金です。」と述べているので、これについても具体的に説明できるはずである。
b)の800万人が借入できなくなる、というのは、「現在20%を超える金利で借りている人たち全部」が借入している全額(元利合計)の一括返済を迫られる、ということでしょうか?ならば、これに応じられないほぼ全員が破産等(民事再生含む)の処理を行う、ということですね?それとも、過去の債務はそのまま残り、新たな借入が停止される、ということでしょうか?
以下は、この問題について、あまり過去の記事をお読みになっていない方に向けて書いておきます。
①の補足・・・個人事業主であっても、借入先は銀行やノンバンク等、貸金業者よりも低金利業者を選択することは可能である。しかし、既に借入額が大きい、事業がうまくいっていない等何らかの理由により融資を断られることはあるだろう。そのような場合に貸金業者からの借入を行うことは有り得るが、その事業者が「ゾンビ」ではなく利益率の高い効率的な事業者であることを想定するのは困難だと考えている。複数の貸金業者から借入を行い、しかもその金利が20%以上であるなら、事業から得られるリターンは当然それを上回る水準であるはずであろうが、現実にはそうした個人事業者が多いとは思われない。もし、それほど高い利益率であるならもっと低金利の融資を受けることが可能であろう。例えば、「18%の借入を断られながら25%ならば借入可能であって、プロジェクト失敗にはならないはずの個人事業者が貸金業者から借入できない為に倒産する」、ということが圧倒的に多いということでもない限り、池田氏の主張が正当であるとは思わない。無駄な延命をするよりも、再生なり破綻処理なりを行う方がよいと思う。
そもそも個人事業者の事業成功率が極めて高く、貸倒にはならないのであれば、もっと高金利が適用できる日賦業者からの借入を行えば済む話であろう。日賦業者は事業者向け融資はできるので、短期資金を30%とか40%で貸し出せばいいだけである(上限は54.75%だったか?なのでもっと高金利でも貸せるはずである)。通常の貸金業者が25%とか29.2%で貸し出せる相手なのであれば、その審査が適正である限り、日賦業者も同じ金利で貸せるはずだろう(現実には業者のコスト率が異なるので適用金利は変わるはずだが、池田氏が主張している初等的経済学の理論によれば同一人物が借入を行う場合にはどの業者であっても全部同じ金利が適用される、と信じているのだそうだ)。
②の補足(a について)・・・酷い決め付けではないかと思いましたが、どうなんでしょうか。無登録業者であれば闇金だが、登録業者であっても9割以上が「闇金」であると?ならば、大手・準大手以下の登録業者を摘発すれば、闇金業者の多くは一網打尽にできるのではないですか?もし中小業者の多くが不良業者であると言うなら、上限金利規制によって、そういう業者が消滅したところで何も問題はなさそうに思えます。
②の補足(b について)・・・池田氏の理屈からすると、20%以上の金利を適用されていた人は、(もし収入等の条件が変わらないとすれば)決してそれ以下の金利では「借りられない人たち」ということになるでしょうから、合法の貸金業者からは借入できなくなる、ということでしょう(闇金が資金提供するとして、数兆円規模で資金供給が必要になるだろう。そんなことが可能なのか?)。貸金業界の実際の利用者数は推定が難しいのですが、実人数で800万人が排除されるとなれば、控えめに見て「貸金業者の2社以上から借入を行っている人」はほぼ全員という規模でしょうね。債務残高によっては、1社だけから借入してる人も含まれるかもしれません。大手業者の推定などでは利用者は800万人程度という数字もありますが、そうであるなら現在大手貸金業者に債務のある殆どが「借入できない」ということですね。つまり、完全にグレーゾーンが廃止されたら、全く新たな顧客か、これまでの利用者のうち「完済して現在債務のない人」を対象として貸し出すという、別な市場を作っていく、ということですか。この市場には、これまで借りてた800万人は入れない、と。もしそうなれば、圧倒的大多数の貸金業者は貸出残高を維持できなくなるでしょうね。それが判っているならば、完全にグレーゾーン金利が廃止される前に廃業した方が有利に思えます。何故即刻廃業するとか、他の事業に移るとかして、貸金業界から完全撤退してもよさそうです。
参考までに、焦げ付きが問題となった米国のサブプライム・モーゲージについての規制も、借金という点では似ている。池田氏の主張するところによれば(初等的経済学理論は日米共通なのであろう?)「同じ現象」が観察されてもよいと思うが、いかがであろうか。例えば、「HOEPAのような規制強化→資金供給が減り貸出は減少する」、ということが起こりそうなものだが、どうなのか?実際には、サブプライム・ローンの融資額は増加したようだが。この貸出が減ってない理由を、池田式の初等的経済学理論に沿って説明してもらいたいものです。池田氏の論に従えば、どうやらFRBも初等的経済学理論さえ理解できない、ということになってしまうのですけどね(笑)。
更に、池田式理論が正しいのだとすれば、「借金ができなくなる→闇金に行く」ということが、常に観察されるはずであろう。では、サブプライム・ローンの焦げ付いた債務者の大多数は闇金から借入を行っていたか?そうとは思えないのですけどね。調べてないから、判らんけど。ただ、池田式経済学理論の通りなら、米国における「禁酒法という規制強化→闇市場化」という現象が日本の借金にも適用できるのであれば、米国での借金であっても同じく「規制強化で借金ができなくなる→闇市場化(闇金から借りる)」ということになるはずであろう。もしもこれが大多数で起こってないとしたら、「借金できなくなる→闇市場化」ということが必ずしも正しいとは言えないのではないか?池田氏にとっては、「規制強化によって闇市場化するのが当然」とお考えなのだろうけど(笑)。
池田氏の説は、過去の記事から含めて、極めて疑問であると思う。
*一応TBしたし、コメント欄にもTBした旨記載した。