ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

①韓国文学②韓国漫画③韓国のメディア観察④韓国語いろいろ⑤韓国映画⑥韓国の歴史・社会⑦韓国・朝鮮関係の本⑧韓国旅行の記録

韓国に来て間もない脱北者を当惑させる質問 ▸▸▸ 「趣味は何ですか?」 そして・・・

2018-07-22 01:29:40 | 北朝鮮のもろもろ
 初めて脱北者の手記を読んだのは姜哲煥・安赫(アン・ヒョク)「北朝鮮脱出」(1995)だったかな? その後全部で20冊は読んだかも・・・。最近では、リ・ハナ「日本に生きる北朝鮮人リ・ハナの一歩一歩」(アジアプレス)を読みました。両親が<帰国事業>で北朝鮮に渡った在日2世で、彼女は中国を経て2005年に韓国ではなく日本にやってきました。そんな彼女が、日本での生活を中心として書いた本です。
 昨年は、パク・ヨンミ「生きるための選択」(辰巳出版)と、イ・ヒョンソ「7つの名前を持つ少女」(大和書房)の2冊を読みました。2人ともアメリカで英語によるスピーチで自身の体験を語り、大きな反響を呼んだ女性で、→2015年コチラの記事で紹介しました。(スピーチの動画あり。)

 脱北者の手記では、北朝鮮での厳しい生活(とくに多数の餓死者が出た90年代後半)、命がけの国外脱出、中国での公安の目を避けて隠れ暮らした日々、家族との生き別れ、あるいは北朝鮮の政治犯収容所や拷問、公開処刑等について記されているものもあります。
 何冊もそうした本を読んでいると、最初に読んだ当時の衝撃はほとんどなく、「やっぱりな・・・」と、ほとんど再確認といったことになります。
 
 そんな中、上掲のパク・ヨンミ「生きるための選択」で久しぶりに(?)驚いた記述がありました。決して上述のような悲惨な体験というものではありませんが・・・。
 韓国に来たばかりの脱北者たちに、適応教育、つまり韓国で生活するにあたっての必要な知識・常識を教えるハナ院でのことを記した部分です。

 ほかの脱北者も同じかどうかわからないが、私にとって一番大変だったのは、クラスで自己紹介をすることだった。自己紹介のやりかたをほとんどだれも知らなかったので、教師が一から教えてくれた。まず最初に、名前と歳と言う。次に自分の趣味や、好きなミュージシャンや映画スターについて話し、最後に、将来何になりたいかを話す。自分の番になったとき、私は固まってしまった。そもそも“趣味”とはなんなのかわからなかった。自分の楽しみや喜びのためにすることだと説明されても、何も思いつかなかった。北朝鮮では、国や政権を喜ばせることだけが目的とされていたし、“私”が大きくなったら何になりたいかなんて誰も気にしなかった。北朝鮮に“私”はない。あるのは“私たち”だけ。この自己紹介の練習に困惑した私は、ただもじもじしていた。
 すると教師が助け舟を出してくれた。「むずかしければ、あなたの好きな色を教えて」 そう言われて、私はまた固まった。


 <言葉>がないということは、それが示す<概念>もないということ。
 ある記事によれば、20年ほど前(?)まで北朝鮮には<人権>という言葉はなかったとか。もう少しはっきりした記憶では、北朝鮮に<障碍者>という言葉はなく、あるのは昔からの差別意識を含んだ言葉だけ。日本でも私ヌルボの幼い頃(1950年代)はそうだったか・・・。また<自由>という言葉も北朝鮮では使われるとしても、<資本主義>と同じ範疇の否定的な意味合いで、日本や韓国その他とは違うようです。日本でも近代初頭は「そんな自由勝手な振る舞いは許されませぬ!」というふうに良くない意味で使われたそうですが。
 話を戻します。<趣味>という言葉の意味が北朝鮮の人にはわからないとは初めて知りました。(皆そうなのか?は未確認ですが。)
 また、ここに書かれている自己紹介のしかたは日本や韓国では定番(←この言葉は70年代頃までなかった)なのでしょうが、はたして国際基準といえるものなのかどうか? 少なくとも北朝鮮にはない、ということがわかります。もちろん、この部分のポイントは、それ以前の、(他の人とは違う存在としての)自分という個人をアピールするということ自体が北朝鮮では考えられないということです。
 さて、「あなたの好きな色を教えて」と言われて、「私はまた固まった」というその理由は・・・。

 北朝鮮の学校では、なんでも丸暗記するよう教えられるし、ほとんどの場合に正解はひとつしかない。だから、教師に好きな色を尋ねられたとき、必死に“正解”を出そうとした。あるものがべつのものよりいいと考えられる理由を合理的に判断する、私はそういう批判的思考のやりかたを教わったことがなかった。
 教師が言った。「そんなにむずかしくないでしょう? じゃあ私から言うわね。私の好きな色はピンクよ。あなたは?」
 「ピンクです!」 ようやく正解を教えてもらえたことにほっとしてそう答えた。

 韓国に来て、最初のうちは「あなたはどう思う?」という質問が嫌いだった。私の意見なんて誰が気にするんだろうと思っていた。自分の頭で考えられるようになり、自分の意見が大事な理由を理解できるようになるまでには、長い時間がかかった。でも、自由な社会で暮らすようになって五年たったいまは、好きな色はスプリング・グリーンであり、趣味は読書とドキュメンタリーを観ることだとちゃんと答えられる。もうほかの人の答えをまねたりはしない。


 このハナ院の先生は、「自己紹介のやりかた」の最後に、「将来何になりたいかを話す」と教えていますが、これもまた北朝鮮の人々、そして脱北者にとっては非常にむずかしい問題です。パク・ヨンミさんは「“私”が大きくなったら何になりたいかなんて誰も気にしなかった」と書いている背景には、北朝鮮の社会事情があります。
 別のページで彼女は次のように記しています。

 ハナ院で習ったことのなかには、理解できないこともたくさんあった。でも、何度も繰り返し聞いたある言葉は強く印象に残っていた。「民主的な社会では、努力すれば報われる」 最初は信じなかった。北朝鮮ではそんなことはない。努力が報われるのは、出身成分がよくて、コネに恵まれている人だけだ。

 <出身成分>とは、身分のようなもの。(→ウィキペディア。) 上から「核心階層」(約30%)、「動揺階層」(約50%)、「敵対階層」(約20%)の3つに大別され、それにより、居住地や住宅のレベル、進学や就職等まで規定されるということです。たとえば、祖父が地主だったり、親戚が朝鮮戦争の時「南」に逃げたりしたら、家族や自分自身に落ち度がなくても「敵対階層」とされます。
 この出身成分コネが大きく将来を左右するという点についてはイ・ヒョンソ「7つの名前を持つ少女」にも同様の記述があり、次のような具体例も記されていました。

 敵対階層でも何とか[大学を]受けることができ、合格までした女の子がクラスに一人だけいたが、結局、入学は許されなかった。

 この女の子の心情を思うと胸が痛みます。(朝鮮総聯の人はホントに「成分」などはないと思っているのですか?)

 過日、韓国出身でドイツ国籍の女性監督が「北朝鮮の人たちの自然な姿を撮りたい」という姿勢で取材・撮影したドキュメンタリー映画「ワンダーランド北朝鮮」を観ました。
 その中で、監督が1対1で北朝鮮の人に質問をする場面が数ヵ所ありました。観ていた私ヌルボ、そんなシーンで少しハラハラしたのは、まさに上述のような「北朝鮮の人にはむずかしい質問」が含まれていたからです。
 この映画の感想を検索をしたら、私ヌルボと同じ箇所に注目した方がいらっしゃいました。(→コチラ。) そのソラアキラさんのレビューの一部をそのままコピペさせていただきます。

 終始にこやかな表情で、夫との出会いなどをよどみなく語っていたきれいな顔立ちの奥様(この辺はプロパガンダ)ですが、「あなたの夢は?」と聞かれると、しばし沈黙…。にこやかな表情にもうっすら苦悶がよぎります
 おそらくこの質問、台本(当局に事前にインタビュー事項を出しているはずなので)にない、監督のアドリブだったのでしょう(監督の攻めですね)。微妙に間があいて、奥様はやっとこう答えます。
「昔は…、舞台に立つのが、夢でした」。
 夢を思い描くことなんてずっと忘れていた、と言いたげな言葉、表情でした。
 中高年や高齢者が、夢を即答できる国。
 きっとそんな国がほんとうの意味で、幸せな国なのでしょう。

 一方、前出の若い工員女性は、即答でした。「いつか独創的な服を作って世界中の人に着てもらいたい」というのが彼女の夢。
 でも監督が「デザイナー(日本語とほぼ同じ発音)になりたいのね?」とハングルで聞くと、女子工員は「デザイナーって何?」と聞き返します。監督が説明し、「あ、設計家ね」と工員は理解します。この言葉における南北の差にも、2国家間の歴史の「リアル」が感じられます。


 どうも監督は韓国人に訊くように、軽く質問したのではないでしょうか? そしてその質問の<重さ>に後で気づくこともなかったのでは、と私ヌルボは思いました。(「デザイナー」の語の持つ、<芸術家>で多くの人の<憧れの職業>というイメージが「設計家」にあるのか、大いに疑問。)
 今の日本でも、いろんな場面で「あなたの夢は?」と問いかけます。先生は生徒に「夢を持て!」と言います。しかし、たとえば江戸時代にタイムスリップしたとして、日々過酷な労働に明け暮れている水吞百姓の夫婦や子供に「あなたの夢は?」と訊けますか? 相手によっては、時代や国によっては、こうした質問は神経を逆なでしたり、あるいは残酷なものにもなってしまうことは、ちゃんと留意しておきたいものです。
 (ハナ院の先生は、脱北者のとまどいを承知の上で、自己紹介といった「形式」だけではない南北の違いを悟らせるための「適応教育」を意識的にやっているのかどうか、よくわかりません。)
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アンドレイ・ランコフ「北朝鮮の核心」を読む ▸▸▸ <タカ派>も<ハト派>も北朝鮮の核を放棄させられない。しかし北朝鮮からの攻撃はない。

2017-10-12 19:54:32 | 北朝鮮のもろもろ
 見出しの続きは「アメリカも、先制攻撃はしないだろう」「安倍首相が北朝鮮の脅威をことさらにあおるのは憲法改正のための選挙用」です。

 本ブログでは、管理人すなわち私ヌルボの個人的意見・主張を前面に出したような記事はほとんどありません。そもそも、断定的に言えることは「自分は断定的な言い方ができない」ということくらいなものです。
 ところが、最近(に限ったことでもないが)北朝鮮の核の脅威が大きな問題となり、選挙の論点の1つにもなり、またごく最近の新聞報道で「北朝鮮にアメリカが軍事力を行使すること」を支持する人が驚くほど多いことを知りました。
 そこで私ヌルボ、長年の韓国・朝鮮オタクとしてどのような政治的選択をするにしても、それ以前に「こうしたことは広く知っておいてほしい」ということを、ひかえめな(?)意見・主張も交えて書くことにしました。
        

 現在の北朝鮮を理解するにあたって大いに参考とした本はアンドレイ・ランコフ「北朝鮮の核心」(みすず書房.2015)[上左]です。著者は1963年レニングラード(当時)生まれで、レニングラード国立大卒業後の1984年交換留学生として金日成総合大学に留学した経験があり、現在は韓国の国民大学校教授(北朝鮮政治・外交史専攻)という人物。この本も金日成政権の歴史に多くページを割いていますが、とくに力を入れて書いているのは90年代以降から現在の金正恩政権までの政治・経済と外交。具体的なデータの提示と分析、そして北朝鮮への対し方の提言は非常に説得力があります。本書は、とくに政治・外交・メディア等の場で北朝鮮に関わる人たちにはぜひオススメ、というより必読書だと思います。
 なお、[上右]はもうひとつの必読書ブラッドレー・マーティン「北朝鮮「偉大な愛」の幻」[上・下](青灯社.2007)です。コチラの著者は過去5回の訪朝経験があるというアメリカ人ジャーナリストで、実に多くの人に取材してその証言を収めています。上下2巻で各600ページを超える大部ですが、読み物としてもおもしろく、苦労せず読み通せるのではないでしょうか。

 ランコフの本を関係者の<必読書>と書きましたが、やはり実際に読まれているな、と思ったのは「米CIA専門家、金正恩氏は「理性的な政治家」 体制延命が目的」と題した最近(今月初め)のAFPBBの記事(→コチラ)。その中のCIAの朝鮮半島問題の専門家の言葉(金正恩氏は「理性的な政治家」云々)は、まさにランコフの本そのまんまといった感があります。
 ※「理性的」というのは決して金正恩氏を肯定的に評価しているわけではありません。90年代すでに破綻しかけていた国をここまで維持してきた北朝鮮の指導層は「冷徹な計算のできる有能な人々」だということです。

 もちろん、私ヌルボも日本国内で北朝鮮に対する恐怖感が増しているのは当然だと思います。しかし、こういう時だからこそ北朝鮮についての冷静な分析と判断が必要です。
 ただでさえ多くの謎に包まれた国なので正確な理解はむずかしいですが、日本の「常識」で考えると判断を間違えてしまいそうです。とくにそれがそれなりの権限を持つ政治家となると危なっかしい感じがします。

 たとえばこの6月、石川県の谷本知事は「兵糧攻めで北朝鮮国民を餓死させなければならない」と発言して批判を受け、その後撤回しました。「人命は尊重されなければならない」というのが撤回の理由です。
 しかし、谷本知事の発言の誤りは「北朝鮮住民の生命を制裁の道具のように扱った」という倫理的道義的な点のみにあるのではありません。
 彼は1990年代後半の北朝鮮を襲った大飢饉の時代を知らなかったのでしょうか? 北朝鮮で<苦難の行軍>と呼ばれるこの時期、餓死者総数の推定値は25万人~300万人まで幅があって正確な数は不明です。しかし地方の町などでは路上に餓死者の屍体が転がっていて、放置されている状態だったそうです。
 ところが、そんな状態でも反政府の暴動などは起こらず、金正日をはじめとする為政者は責任を取らなかったのです。そればかりか、権力層は外国からの支援食糧を極力自分たちのものとなるように「手を尽くした」のです。(支援組織のスタッフの目の前で住民に渡された食糧を、夜役人が回収する等。また政府のあてがった通訳が常に同行して、現地の人との直接的コミュニケーションを阻んだ。また食糧援助に際し朝鮮語のできる人の入国は許されなかった。)
 つまり、北朝鮮の権力層は「自国民の生命のことなどなんとも思っていない」のです。その点谷本知事は遅きに失したものの「人命尊重」を口にして日本の(そして大多数の国の)常識にちゃんと立ちかえっているのはまあフツーの人なのかもしれませんが、フツーではない相手に対して「兵糧攻めで北朝鮮国民を餓死させて・・・」とはどうしようもなく的外れでトンチンカンです。

 これまでの人生の中で、幸いなことに他人から脅されたりすごまれたりした経験のほとんどない私ヌルボは、たぶんちょっと脅されただけでビビってしまって心ならずも謝ったり金を出したりしそうです。(ずいぶん前新宿でタカリのオッサンに100円玉2個(?)くれてやったことを思い出した。)
 そんな善良だが弱気な日本人はきっと大勢いると思います。ところが北朝鮮の場合は過激な脅し文句以外のボキャブラリーはないのか?と思われるほどです。
 しかし、そのような激烈な言葉は今に始まったことでもありません。有名な(?)「ソウルを火の海にする」というセリフは20年以上前からのものです。1994年3月板門店で開かれた南北特使交換のための実務接触の際、北朝鮮祖国平和統一委員会書記局の朴英洙副局長がこの表現を口にして物議をかもしたのが最初で、2010年にも韓国側の北に向けた拡声器設置に抗議して「ソウルの火の海までも見越した無慈悲な軍事的打撃で対応するだろう」と警告しています。また米韓合同演習等に対して「こうなったら(朝鮮戦争の)停戦協定の破棄だ!」と、宣戦布告とも受け取られそうな表明をしているのも1994、2009、2013(あ、1996、2003、2006年もか?)等々、何度にも及んでいます。

 ・・・と書くと、「北朝鮮の強気発言を真に受けるな、というのか!? 攻撃される可能性は高くなくても、<備えあれば憂いなし>ではないか!」と反論されそうです。なるほど<備えあれば憂いなし>論についてはいろいろご意見はあろうかと思います。とりあえずは北朝鮮の強気発言に必要以上にビビることはない、ということです。

 では、そんな北朝鮮の脅威にどう対処するか? ・・・ですが、おそらく北朝鮮を深く知る人ほど明確な答えを出せないのではないでしょうか?
 ランコフは「北朝鮮の核心」の<結論 - 容易ならぬ結末>の冒頭を次のような文章で書き出しています。

 本書を終えるにあたり、何をいえばいいのだろうか。おそらく、ふたつの残念な話から始めるのがよいだろう。ひとつ、北朝鮮は国自体が問題と化している。ふたつ、この問題を解決する手っ取り早い簡単な方法はない

 もしかして、日本にも相当数いると思われるいわゆる<タカ派>の人は「そんなの簡単じゃないか」と言うかもしれません。つまり、先制攻撃
 しかし、そう主張する人は<3手の読み>さえもしていないのではないでしょうか? 将棋で、①自分がこう指したら ②相手はこう指すだろうから ③そしたら自分はこう指す ・・・と、少し先まで読むこと。将棋上達の基本で、プロとなると②の相手の応手も何通りか考え、それぞれに対して自分の3手目、さらにその先まで読むのです。
 で、たとえばアメリカが先制攻撃をして北朝鮮を打ち破っても、北朝鮮からの反撃でたとえばソウルが「火の海」になって大きな人的被害を被ったら「とにかく金正恩政権を倒してよかった」などと言えるでしょうか? 周知のように(?)ソウルは北との軍事境界線から30㎞ほどしか離れていません。ちょうど東京~横浜の距離と同じです。その反撃はもしかしたら核攻撃かもしれないし、標的はソウルでなく日本のどこかかもしれません。むしろ技術的に大差がなければ同じ民族の韓国を狙うよりも日本を攻撃するのでは? アメリカと北朝鮮が戦ったら誰がどう見ても北朝鮮の負けで、北朝鮮の独裁政権もオシマイです。それは彼らも十分わかっています。自分の方から戦いをしかけるような自殺行為はするわけがありません。しかし攻撃された場合、1度刺したら死ぬしかないミツバチのハリのようなものでも武器として持っていれば十分抑止力にはなるのです。
 韓国でも計画されていたという金正恩個人をターゲットにした「斬首作戦」はまだ良さそうに(一見)思えます。しかし、作戦に成功したとしても、やはりその後のことまでちゃんと考えられているのでしょうか? 金正恩崇拝者の側近が「指導者同志のカタキ!」とばかりに核ボタンを押す可能性は皆無なのでしょうか?

 ・・・しかし、昔から強硬論を唱える人は他国民を将棋の駒のように考える傾向がありますねー。もしかしたら自国民についても? そして自分の命も失われる可能性など全然考えているように思われないのは、倫理的・道義的問題とともに現状認識からして問題があると言わざるをえません。
 もし、<タカ派>の皆さんの願う通りにコトが運んで、先制攻撃により核施設その他軍事施設がすべて破壊され、金正恩等政権中枢も全員消されたとしても、その後の北朝鮮及び(日本を含む)周辺がどうなるか、しっかりした青写真があるのでしょうか? (はたして、アメリカはサダム・フセインを倒した後のイラクをどの程度見通していたのか、大いに疑問。)

 ところで、昨日(10月11日)のTBSニュース<米朝がモスクワで接触の可能性、非難応酬の陰で対話模索か>というニュースが報じられました。米朝間の<水面下の接触>についてはこれまでもいくつか読みました。(その中でも内容が濃いのは松尾文夫氏の→コチラの記事です。)
 しかしその秘密の接触もこれまで不首尾に終わっているのは、どんなにアメリカが軍事的圧力を強めても北朝鮮側は頑として核・ミサイル開発を放棄しようとしないから・・・、と私ヌルボは(あ、「ランコフは」か?)推測します。
 「やるならやってみろ! ソウル(や日本?やアメリカ?)がどうなってもいいのか!?」と言われて、「やったるわい!」とブチ切れるほどトランプ大統領は(そこまで)バカではないでしょう。

 では、「圧力よりも対話を!」という(本心ではもっと強く訴えたい)韓国の文在寅大統領など、<ハト派>の方策には成算があるのでしょうか? これまたはなはだ疑問です。
 そもそも、対話といっても具体的にどんな説得を試みるのか? 「そんなアメリカ相手にツッパって緊張を高めても制裁は受けるし攻撃されるかもしれないし、いいことないよ」とか? しかし北朝鮮は百も承知でやっているのです。そう、「緊張を高める」ために。
 あるいは、「中国やベトナムのように改革・開放政策を取るならば積極的に支援する」と言うのでしょうか?
 中国やベトナムの経済発展について北朝鮮が知らないはずはありません。ではなぜ北朝鮮はこれまで開放政策を選ばなかったのか? 「それはアンタら南朝鮮があるからだよ!」と指を突きつけられたら文在寅はどんな顔をするでしょうか? 中国には南中国はなかったし、台湾はライバルというには軽量すぎました。南ベトナムはドイモイ政策のずっと前に滅ぼされました。ところが韓国という北朝鮮の不倶戴天のライバルは朴正熙時代から急速に発展して水をあけられてしまった・・・。統一前の東西ドイツの場合、1人当たり国民所得の差は1対2または1対3だったが、現在の北朝鮮と韓国の差は最も楽観的なものでも1対15、悲観論者の数字では1対40になるとのことです。
 そんな今さらどのツラさげて・・・というプライドの問題もさることながら、何よりも北の指導者たちにとっての大問題は、開放政策が必然的にもたらす情報の自由、国内外の移動の自由、職業選択の自由等々が、これまで必死に統制をしてきた管理国家体制を根底から突き崩すのではないか?ということ。それはつまりこれまで指導者層が民衆に流してきた情報、学校等で教えてきたこと等がほとんどデタラメだったことが明らかとなり、ひいては公開処刑で悲惨な最期を遂げたルーマニアのチャウシェスクのような運命をたどるのでは?というおそれの感情で、なるほど予測としては全然ありえない話でもないかも・・・。

 ここでちょっと話が逸れますが、北朝鮮では「人権」という言葉は誰もが知っている言葉ではありません。脱北者に対する調査によると、「人権」という言葉を聞いたことがあるという人は4人に1人程度。 ※「知らなかった」という脱北青年の記事→google翻訳[2022年5月10日の追記] 参照→<脱北者の42%「人権という言葉すら聞いたことなかった」>
 これに関連した「北朝鮮の核心」に書かれていたひとつのエピソードを紹介します。

 数年前のことだが、政府高官のひとりが西側の外交関係者にこんな言葉を漏らしたという。「人権やそれに類した概念のすばらしさは認めるが、われわれはきっと、それをわが公民に説明したとたんに殺される」。おそらく、これは官僚のあいだに共通する認識だろう。私(ランコフ)も含め、北朝鮮を訪問したことのある人の多くは、案内員から小声で「旧東ドイツの党と警察の職員はどうなったのか」と尋ねられた経験をもつが、これも偶然の一致とはいえない。

 つまり、北朝鮮の支配層にとって、核・ミサイルは対外的な意味もさることながら、まず第一に自らの独裁政権を維持するために不可欠なものなのです。
 これまでも核兵器の開発と軍事的挑発を通じて韓国・米国など国際社会から最大限の援助を引き出すことに成功してきました。それが今も北朝鮮のエリートたちの最も合理的な戦略と考えられている(他になにかある?)以上、外国の<タカ派>の圧力も<ハト派>の誘いも関係ナシです。

 ではランコフ教授は今後北朝鮮に対して何の方策も提示していないのかというと、そうではありません。長期的な視野に立って次のような3つのルートで外界についての情報を北朝鮮の民衆に伝えることを提案しています。
  ①北朝鮮当局から認可・後援を受けた学術・文化交流あるいは個人間交流。
  ②ラジオ放送とデジタルメディア
  ③故郷(北朝鮮)の家族や友人と連絡を取りあっている韓国在住の脱北者。

   ※北朝鮮との間の学術交流については、先の→松尾文夫氏の記事にアメリカの大学による北朝鮮留学生受け入れの事例等が紹介されています。
 このような気長な方法が、結局は政権の改革を促す国内圧力になり、また世界的な視野と知識を身につけた北朝鮮人は未来の社会を担う主体となる、・・・という展望は、ソ連→ロシアの大変化の中を自身が生きてきたランコフの言葉だからこそ説得力があります。
 こうした観点から、彼は開城工業団地についても肯定的な評価を記しています。韓国側の社員の体格や身なり、製品作りの技術水準、工業団地の景観等々だけでも(北朝鮮の支配者層にとっては)危険な外界の情報が伝えられるというわけです。私ヌルボは、開城工団は北の権力層と南の企業が結託して労働を収奪する仕組みなのに、なんで就職難にあえぐ韓国の若者たちは抗議しないんだ!?と批判的に見ていましたが、ちょっと考えを変えようかなと・・・。と言っても、2016年2月朴槿恵政権が北朝鮮による弾道ミサイル発射実験を受けて操業停止して韓国人を引き揚げさせた後、北朝鮮が施設・設備等を接収して独自に操業を再開しちゃったようですから、もう元には戻らない感じですかねー。

※上述のブラッドレー・マーティン「北朝鮮 「偉大な愛」の幻」にも次のように記されている。
  もしアメリカがどうしても北朝鮮とたたかわなければならないなら、(私[マーティン]が何十年も発信し、書いてきたように)、それは砲弾の応酬ではなく情報戦であるべきだ。元トラック運転手だった亡命者のコ・ジュンは1998年私とのインタビューでこう言った。「もし北朝鮮の国民が外界のことを知っていたら、学生がどんなふうにデモをするか知っていたら、国民は100パーセント立ち上がりますよ。撃たれたってかまわない。やり方をしらないだけなんだ。外界のことを全然知りませんからね。」

 書きたいことはまだありますが、今回は一応ここまで。
 たぶん、次の記事も北朝鮮関係です。
 テーマは「豊かになっている北朝鮮」。なんと自家用車を乗り回している人もいるらしいですよ。あ、「豊かになってる」といっても金正恩の手柄ではないですよ。
 とくに私ヌルボが注目しているキーパーソンが朴奉珠(パク・ポンジュ)首相なんですが、彼は今頃何を考えているのかな・・・?

[10月19日の補記]

[10月20日の補記]
 → 毎日新聞(國枝すみれ記者)の記事「北朝鮮 脱北者が見る今」でも、アメリカ在住の脱北者李氏は、「当局は住民が事実を知ることを恐れ、情報から隔離しようとする。・・・・このバリアーを壊すには、最終的には北朝鮮に関与する政策しかない。住民に情報を与えるべきだ」という言葉を伝えています。北朝鮮当局が韓国の民間団体による風船作戦(北に飛ばして外部情報を知らせる)に神経を尖らせ強硬な抗議をしてきたのもそれだけ効力があるということでしょう。(ランコフ氏はラジオ等と比べてあまり評価していませんが・・・。)
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ハングルが読めなくてもわかる、北朝鮮の教科書の特色

2016-10-10 13:57:17 | 北朝鮮のもろもろ
 10月1~2日、グローバルフェスタというイベントに行ってきました。
 場所はお台場センタープロムナード。・・・って、どこなんだか私ヌルボはわかりませんでしたが。最寄り駅のりんかい線東京テレポート駅(orゆりかもめ青海駅)も初めてだし、このイベントも初めて。
 国内最大級の国際協力のイベントで、毎年NGOやNPOのほか、JICAや大使館など250以上の団体が出展しているとのことなんですが、このイベントの認知度はどれくらいなんすかねー?
 実際行ってみると、1日はどんよりとした空模様でとりおり小雨も降るという、行楽には向かない天気。しかし意外なほどの人出。2日は晴れたといっても蒸し暑い一日。しかしその後の情報では両日で来場者は約10万人に上ったとか。いやー、そんな催しが以前から続いていたんですねー。(一昨年までは日比谷公園で開催)

 さて、私ヌルボのお目当ては北朝鮮難民救援基金のブース。公式サイト(→コチラ)の出展者紹介のページには「北朝鮮人権侵害の実態を示す、体験者によるイラスト画の展示、日本に定住した元脱北者の体験談、教科書の展示」とあります。
 行ってみると、さして広くはない(というより狭い)空間内にいろいろ興味深い展示物がありました。
 で、今回はその中で北朝鮮の学校で用いられている教科書について紹介します。

          

 左から小1の数学、中学の英語、小3の自然。一見してわかることは、紙質の悪さ。印刷のレベルも低く、いくら実際に用いられたものにしても、日本人の基準では半世紀以上も前のものといった感じ。多くは(全部?)21世紀に入ってからのものなんですけどね。

★私ヌルボのただし書き・・・・この記事は決して北朝鮮を見下したり、からかったりするような差別的意図で書くものではありません。要は正確な北朝鮮の現実を認識し、それを多くの皆さんと共有するのが目的です。教科書の紙質や印刷のことをすぐ上で書きましたが「これはひどい!」という感想も「日本人だからそう思う」ので、「北朝鮮のような社会で生まれ育った人はそれが標準」です。このような双方のモノサシの大きな差異は、諸製品や技術等のレベルに限らず、一般的な知識や価値観等についても当然あるわけです。かの国の政府や人々と接する場合もそうしたことを念頭に置く必要がある、ということです。

 さて教科書の表紙をめくると・・・。


 そして表紙をめくると・・・。

     

 左は(上左の)小1数学、右は(上中の)中学英語です。それにしても、このねずみ色の紙、数回消しゴムでこすると穴が空きそうです。

 また、このページを見て気づくのは、文章の最初の方に太字の部分があること。(どの教科書も同様です。)
 何が書いてあるか、具体的に見てみます。



 これは小1数学の冒頭の4行。

 偉大なる領導者金正日元帥様は次のようにおっしゃった。
 《数学を知らなくては科学技術分野で現れる問題を正しく解き明かすことができません。》


 つまり、「金正日」という文字と、彼の「お言葉」の部分が太字になっています。


 こちらは中学英語です。

               まえがき
 偉大なる領導者金正日元帥様は次のようにおっしゃった。
 《外国語は理解することに留まるのではなく、活用できるように学習しなければなりません。そうするとなると練習をたくさんしなければならなりません。たくさんの練習を経て、熟練した外国語の知識だけが活用できるのです。》
 敬愛する父金正日元帥様が外国語学習をするにあたって下さったお言葉を深く承って、2学年英語教科書は聞いて話すことを主としつつ、読みと作文を適切に取り合わせるという原則で構成した。


 これも同様。他の教科書もみな同じ。あ、「金正日元帥様」の前に「敬愛する首領金日成大元帥様」の「お言葉」が入っているものもありましたね。

 また、教科書だけでなく、あらゆる分野の書物や、博物館等の施設の説明文にも必ず同じような形式の「お言葉」が冒頭部分に掲げられています。どれも上のような太字で記されているので、ハングルが読めなくても「例のアレだな」とすぐわかります。

  記述内容については、ここでは深入りしません。ただ、中学英語の最初の章のページと、高等中学美術の数ページだけ紹介します。


 せめて英語くらいは外の世界に開かれた内容を期待したいところですが、それは望むべくもありません。 タイトルからして「偉大な指導者金正日元帥の健康を祈る!」ですから。その下の絵は白頭山で「白頭山秘密キャンプの偉大なる指導者金正日元帥の生地」と記されていますが、「白頭山生まれ」というのは「金正日神話」の1つで、少なくとも外国ではよく知られた「虚構」です。※実は極東地方生まれで、この密営という丸太小屋も1987年に造られたもの。

     

 高等中学校の美術の教科書の第一印象は、印刷が悪いこと。キレイな印刷を求められるはずの美術教科書なのに、他の教科書以下のようにも思えます。人物画のページ(右)の変に赤みがかった色はいくらなんでも原画の色調ではないでしょう。印刷が「悪い」というより「ひどい」レベルです。※ちなみに、描かれている人物は左ページ上が祖国解放戦争の時期の遊撃闘争中に敵に逮捕され死刑に処せられる最後の瞬間まで屈することなく戦った趙玉姫(チョ・オッキ)英雄の闘争を描いた作品。また右ページ上は「将軍様の戦士「柳京洙(リュ・ギョンス)先生様」(部分)。柳京洙は朝鮮戦争開戦時の北朝鮮軍の第105戦車旅団長。他の絵は自画像等です。

 美術の教科書の内容面での特色は、日本ではよく知られているヨーロッパの名画が全然ないこと。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ミレーやゴッホ、ピカソ等々。ざっと見たところ、私ヌルボの知っている画家では、朝鮮王朝後期の絵師金弘道(キム・ホンド)の風俗画がページの下の方に小さく載っていたくらいでした。
 そしてもう1つの特色は、宣伝画に4ページものページを割いていることです。

       

 宣伝画といっても商品や催し等の宣伝ではありません。章の初めには、宣伝画が大衆に対する宣伝・扇動事業に重要な位置を占めること等が記されています。(上左) その下の、銃剣を高く掲げた4人の絵には青字で大きく「われわれは勝つ!」、そして絵の上には「偉大なる将軍様がいらっしゃれば」と書かれています。
 その右のページ(上右)も銃を持った兵士の絵。「党中央を決死擁衛(護衛)する銃・爆弾になろう!」というスローガンが入っています。※「党中央」は金正日とほとんど同義。
 その下右の絵だけは作画技術についての説明。これだけ異質な感じです。

       

 さらに宣伝画の中から2つピックアップして紹介します。
 左は「米帝を追い出して祖国を統一しよう!」というスローガンが記された絵(部分)。いかにも、という感じです。米軍兵士がひっくり返っていますが、「こうした敵愾心をあおるような教育があっていいのか!」という国際標準的疑問は、この国には遠くの雑音か、それ以下のものでしかなさそうです。
 右の絵は、書かれた文字とその背景の意味がわからなければ単に「かわいいウサギの絵」と思ってしまうかもしれません。ところが、赤い大きな字は「より多くのウサギを育てよう!」、そして右上の黄色い字は「学校で家庭で」なのです。この宣伝画が書かれたのは「主体69年(西暦1980年)」ですが、それ以前(1960年代初め?)から北朝鮮では金日成大元帥様の指示で始められたのがウサギ飼育の奨励(というか強制というか・・・)でした。「軍や党の運用資金を補う」のがその目的で、とくに小中学校の子供は夏休みの宿題でウサギの皮3~5枚提出というのがあったりして大変だったようですよ。詳しくは→コチラの記事を参照してください。

 以上、6、7冊ほどの教科書をざっと見て、そのうわべと中身について少しだけ書きましたが、それでもこれだけの分量になってしまいました。

 教科書に限らず、北朝鮮の文物を直接見たりすることはめったにないでしょうが、そんなことがあった時の参考にしていただければと思います。
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北朝鮮レストラン従業員集団脱北その後 ②脱北者団体から逆に「究極の選択」を迫られた進歩系弁護士組織

2016-07-11 14:30:52 | 北朝鮮のもろもろ
1つ前の記事の続き。6月以降、事態はさらに「ややこしく」なってきました。

 ※青字の部分は新聞記事(日本語)の要約。黒字部分は私ヌルボの補足・感想等です。

【6月21日~その1】
 ★(進歩系弁護士組織の)民主社会のための弁護士会(民弁)が求めていた女性従業員12人に対する人身保護救済審査請求裁判が中止となった。ソウル中央地裁は女性従業員12人を出頭させるよう国情院に出席命令召喚状を送っていたが国情院は代理人の出席を主張しこれを拒否。裁判所は女性従業員が出頭しなくてもかまわないと態度を一変させた。
  この日女性従業員12人は法廷に出席せず、法定代理人である弁護士が出席した。民弁の弁護士らも法廷に出たが裁判所は審理の非公開を宣言、また録音や速記録の作成も禁止した。その状態で審理を終えようとしたが、民弁の弁護士らは「公開裁判の原則を破った」としてその場で忌避申立を行って対抗した。(参照→6月21日付「ハンギョレ」6月22日付「朝鮮新報」)
 ★民弁は、会見の場で「人身保護裁判は本来、公開して行われるものであるため、改めて公開裁判を要求する」との考えを示した。さらに「政府の方から(元従業員らが柳京食堂で働いていた)事実を先に公表しておきながら「裁判をすれば身元が明らかになる」などと今になって主張するのはおかしい」とした上で「(北朝鮮に残る)家族らが危険な状況に追い込まれるとすれば、これは韓国政府が責任を取るべき問題だ。家族が危険になるのは(元従業員たち)本人も甘受しているだろうが、本人の意志とは関係なく、帰順の事実が公表されることまでは甘受していなかったはずだ」と主張した。(参照→6月21日付「朝鮮日報」)

 ・・・・極力自分の主張は抑え気味で書くように努めているヌルボですが、この民弁の会見内容が事実だとすればオドロキです。「家族が危険になるのは本人も甘受しているだろう」などと平然と(?)発言していますが、娘の言動によってその家族が危険にさらされること自体がいかに人権をふみにじり民主社会に反することかという認識が欠落しているのでしょうか? 脱北した黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記の家族は11親等の遠い親戚まで処刑あるいは収容所に収監されたそうですが、そんな前近代的な連座制を法の専門家としてどう考えているのか? 「家族の安全はわれわれが北朝鮮当局に強く働きかけて請け負うから」とは言えないだけでもナサケナイのに、家族に危害が及ぶことがあってもそれは韓国政府の責任とは無責任極まりない・・・って、もしかして保守紙「朝鮮日報」の伝え方の問題ですか?

【6月21日~その2】
★韓国政府当局者は北朝鮮レストランから脱出した13人の保護を決めたことを伝えた。
 これにより13人は脱北者の定着を支援するハナ院には行かず、保護施設に残り韓国社会への適応教育を受ける。
  脱北者は通常70日間保護施設に滞在した後ハナ院に移り12週間の教育を受けるが、今回の保護決定によって13人は通常の脱北者よりも保護施設の滞在期間が最長で6ヵ月長くなる見通しだ。※保護施設はハナ院よりもセキュリティー水準が高い。(参照→6月21日付「聯合ニュース」)

 ・・・・この「特例措置」を脱北者たちの保護とみるか、政府・国情院による監禁・事実の隠匿とみるか? なんという大きな認識の相違でしょうか? 国情院といえば数々の拷問や冤罪事件で怖れられたあの朴正煕時代のKCIA(中央情報部)→全斗煥時代の安全企画部の後継組織で、今ではずいぶん変わったとはいえ、進歩系の人たちにとっては依然として陰で暗躍して保守政権を助ける機関といったイメージが強いということもあるかもしれません。(あながち否定もできない?)

【6月21日~その3】
 ★与党(セヌリ党)の鄭鎮碩院内代表は党の会合で「民弁の主張は、北朝鮮によって完全に利用されたものだ」とした上で「(陳述の内容によっては)北朝鮮に残る家族たちが大きな危険にさらされる恐れがある」と指摘した。民弁が米国在住の親北韓国人ノ・ギルナム氏を通じ、元従業員らの家族から委任状を入手したプロセスについても問題視し、政府当局に対して徹底した捜査を行うよう求めた。野党・共に民主党はプレスリリースを通じ「中国の北朝鮮レストランからの集団脱北事件については徹底した検証が必要であり、外交統一委員会次元で多角的な努力を進めることにした」と明らかにした。(参照→6月22日付「朝鮮日報」)

 ・・・・ネタ元の「朝鮮日報」の見出しには「与野党議員が舌戦」とありますが、野党(共に民主党)の方は本文記事にもあるように「当面は今後の行方を見守るという意味合いに解釈できそう」ということですね。おそらく、党内にも親北朝鮮の色合いの濃淡があるのでは? (「色濃い人たち」の集まりだった統合進歩党は2014年12月解散させられてしまった前例もあるし・・・。)

【6月23日】
 ★複数の脱北者団体は記者会見を開き、民弁による人身保護救済審査請求は「従業員に対する干渉だ」と非難し、それは脱北者や北の住民たちの人権を助けるどころか、北に残っている家族の身体の自由、良心の自由、意思表明の自由を抑圧するものだと主張した。記者会見終了後、脱北者の人権を脅かしているとして、民弁をソウル中央地検に告発した。
  脱北者団体は告発状で「民弁は韓国の国家機関やその関連者の活動に対しては無条件に極度の疑いを持ちながらも、北の当局が介入した行為に対しては少しの疑いも提起しない偏向的で矛盾した行動を見せている」と主張した。(参照→6月23日付「聯合ニュース」)

 ・・・・いよいよここから新たな展開が始まりました。
 韓国にはすでに約3万人もの脱北者がいますが、北朝鮮での一般常識や生活様式と大きく異なる韓国社会では就職も困難で多くが厳しい生活を強いられています。そればかりか、以前(10数年くらい前まで?)はとくに北朝鮮を好意的に見る(主に進歩系の)人たちからは「北朝鮮で犯罪を犯して逃げてきたのでは?」とか「裏切り者」と見られたりしたこともあったそうです。(今も心の中でそう思っている人が相当数いるのか・・・。) そんなまさに人権の保護が必要とされる脱北者の団体が「民主社会のための」弁護士会を相手取って「人権を脅かしている」と告発するとは意外に思う人もいるかもしれませんが、以前からの韓国ウォッチャーにしてみれば「やっぱりなー」といったところです。
 ※在日2世で1960年「帰国船」で北朝鮮に渡り、2003年に脱北に成功した鈴木栄子さんはこの民弁の集会で発言したこと等を→コチラの7月4日付の記事<”民弁”の脱北者人身救済請求、このまま置くべきか>で記しています。「質疑応答の時間に発言権を得た私は北朝鮮は人権について口を開けるような国ではないし、北朝鮮とつながっている民弁もとんでもないことに手を貸していると話した」とのことです。また「もしも脱北してまだ何ヶ月にもならない人たちの家族の再会が論じられるならば北朝鮮帰国事業で北朝鮮へ行った人たちは55年が過ぎた今日までもどうして日本への往来が認められず、親兄弟にも会えないで死んでいっているのか?」とも。
 ※自身脱北者でもある「朝鮮日報」姜哲煥客員記者は、6月22日付「朝鮮日報」で<脱北従業員の人権を蹂躙する韓国の「民主派」弁護士団体>と題した記事(→コチラ)で、「13人の元従業員たちも平壌に残る家族を思えば当然夜も寝られないだろう。・・・金正恩政権は彼女らのこのような感情を悪用し、家族を逆に前面に出すことでその気持ちに揺さぶりをかけようとしているのだ。これは故・金正日総書記の時代には行われなかった手口だ」とし、「この国の一部の弁護士たちが、彼女らを法廷に立たせて真実を明らかにするなどと口にしている。これこそまさに人倫に反する極悪な犯罪行為に他ならない」と民弁を厳しく批判しています。

【7月1日】
 ★脱北者のグループが北朝鮮の強制収容所などに収監された家族らの救出を求め、裁判所に人身保護救済請求を求める文書を提出した。
  また朝鮮戦争の際に北朝鮮に連行され、最近になって生存が確認された被害者の家族も、同様の保護請求を求める計画だ。拉致被害者家族会は「政府が公式に認めた拉致被害者516人も全員が対象で、まずは平壌に住んでいることが確認された21人について請求を行いたい」と述べた。
  家族会などはこの日、民弁に今回の訴訟の弁護を要請したことも明らかにした。「民弁は韓国政府が脱北者を拉致したなどとして人身保護を請求したが、それなら逆に北朝鮮による拉致が正式に確認された被害者の弁護も当然引き受けるべきだ」と主張している。(参照→7月2日付「朝鮮日報」)

 ・・・・「朝鮮日報」の記事の見出しは<脱北者ら、韓国の民主派弁護士団体に意趣返し? 民弁に「北朝鮮の政治犯収容所にいる家族の救済」を要請>となっています。近頃の日本人でも知らない人がふつうにいそうな「意趣返し」といった言葉を使うとは、「朝鮮日報」にはなかなかの日本語の熟達者がいるものです。
 たしかに、韓国に拉致された(?)人たちの人身保護を請求するのであれば、脱北者たちの家族の身辺の安全を求めるのも正当な請求であり、また「(拉致された?)彼らを北朝鮮に返せ」というなら「北朝鮮に拉致された人たちを韓国に返せ」という要求を退けるわけにはいかないでしょう。とはいうものの、民弁の立場としては・・・。

 この記事の見出しで<逆に「究極の選択」を迫られた・・・>と書きました。
 究極の選択その1は、これまでの記事でもふれましたが具体的に書くと今回の脱北者(拉致被害者?)たちが直面した次のようなものです。
 彼女たちが公の場(法廷)で「自分の意志で脱北しました」と言えば北朝鮮の家族たちが危険にさらされ、(家族を救おうと)「拉致されて(orだまされて)来ました」と言えば(意に反して)自分が北朝鮮に戻らざるを得なくなる、ということ。
 この究極の選択その1は国情院の強権(?)により阻まれましたが、民弁は全然別の究極の選択2がわが身に降りかかってくることは予測していなかったのではないでしょうか?
 はたして民弁が家族の安否を心配する脱北者たちの要求を受け入れ、彼らの家族の人身保護請求を提出したり、拉致被害者の送還を求めるといった北朝鮮当局を困らせることができるでしょうか?
 それができればリッパだとヌルボは思いますが、できない(やらない)でしょう、たぶん。北朝鮮にとっては「裏切り者」の脱北者の弁護を引き受けると、民弁も(意に反して)北からは「裏切り者」になってしまいます。しかし脱北者や拉致被害者家族の要求を退けると「なんで拒否するのか?」との非難は当然出てくるわけで、その場合どんな理由づけをするのかがむずかしいところ。

 私ヌルボ、民弁の弁護士たちが望んでいた「かくあるべき展開」は次のようなものだと推測します。
  (1)12人の脱北従業員女性たちが「私たちは意に反して連れて来られた」と証言する。
  (2)この「拉致事件」は、総選挙で与党が有利になる材料とするため国情院が仕組んだ「企画脱北」であることが明らかになる。
  (3)従業員女性たちは北朝鮮に戻り、家族たちと喜びの再会を果たす。
 ・・・これでめでたく一件落着。
 もしかして、「この想定のどこが間違っているのか?」と本気で問い返す人は少なからず(4、5人に1人くらい???)いるかもしれません。
 要は、今の保守政権&国情院と北朝鮮のどちらがより信じられるか?といった点に帰着するのでしょうか?

 私ヌルボとしては、これまで何度か書いてきたことですが、韓国の進歩系の人たちの北朝鮮認識は相当に甘いと思っています。
 本ブログ6月24日の記事(→コチラ)で紹介した「国連北朝鮮人権報告書」は韓国では本になっていないし、その報告をまとめた国連北朝鮮人権調査委員会のマイケル・カービー委員長(当時)も北朝鮮の人権問題に対する韓国の無関心について講演・記者会見等の場で嘆きを込めて語っています。(→コチラの記事参照)

 以上、日本語の記事を中心に亡命事件(拉致事件?)のその後をたどってきました。私ヌルボの見解は上述のように民弁や進歩系メディアに批判的、いや、それ以上に「これはひどい!」とさえ思います。
 しかしそれはそれとして、本来的に正義感の強いと思われる進歩系の人たちがなぜそのように考えるのか?ということも冷静に探ってみたくて、いろいろ韓国の記事も読んでみました。たとえば、「朝鮮日報」の記事1つ1つに具体的に反論している「オーマイニュース」の記事(→コチラ)等。

 今後のことですが、もしかして、左右両派間で少なくとも韓国・北朝鮮を問わず拉致・監禁や連座処罰等のないようにすることを確認しあうとか、家族が圧力や干渉等を受けず彼らだけで会えるよう第三国に場所を設定する等の合意はできないものでしょうか?(それでさえも不安は残りますが・・・。) もっとも、双方とも相手を信頼していないし、一般に韓国では「妥協=敗北」という感覚があるようなので、実現可能性はゼロに誓いでしょうが・・・。
 とりあえずは究極の選択の逆襲を受けた民弁の判断に注目。すでに7月8日には脱北者団体の会長を含む3人と面談をしたことまでは報じられています。
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北朝鮮レストラン従業員集団脱北その後 ①「拉致」の可能性? 本人の意志確認をめぐりまたも左右の確執が激化

2016-07-09 23:08:33 | 北朝鮮のもろもろ

 このテーマで私ヌルボが長々しく、それも2回に分けて書く記事を、「こんなクダクダしい文章を読む気にはならない」と思われる方は、<livedoor'NEWS>に「北朝鮮レストラン従業員亡命劇、韓国メディアで論争=「政治的思惑」の疑念消えず」という見出しの実にサラ~と手際よくまとめた記事(→コチラ)があるので、せめてそちらの方でも目を通してて下さい。

 4月7日中国・寧波の北朝鮮食堂の支配人(男性)と12人の女性従業員が韓国に亡命したことは日本の主要紙でも報じられましたが、4月9日の「朝日新聞」(→コチラ)等、国際面に2~3段程度の小さな扱いでした。一方、「朝鮮日報」は上画像のように9日1面トップで大きく報道しました。(2面トップにも。) 他紙は見ていませんが、代表的保守紙ということで大きく載せたのかもしれません。これだけの大人数がまとまって脱北したのは異例のことでしたが、この「事件」をめぐるその後の北朝鮮の反応もあり、また韓国内では例によっての進歩陣営と保守陣営間の対立が深刻化し、それぞれのメディアだけでなく脱北者団体等も登場し、政治の場でも問題化しつつある状態に至っています。
 以下、何がどう問題になっているか、彼等13人の韓国入国から今までの経緯を日を追って見ていきます。
 ※青字の部分は新聞記事(日本語)の要約。黒字部分は私ヌルボの補足・感想等です。

【4月7日】
★2日前(5日)、中国の浙江省寧波にある北朝鮮レストラン・柳京食堂から脱出した従業員13人(女性店員12人、男性支配人1人)が集団亡命し、4月7日韓国に入国した。


 ・・・・翌8日統一部(省に相当)がこれまでの慣行を破り、脱北者の入国直後事実を公表したことについては、4月13日の総選挙で政権側(保守陣営)が有利な材料となることをねらったものという見方がある。進歩系メディアだけでなく、保守系の「中央日報」も6月21日の社説(→コチラ)で批判しています。また4月11日には2015年5月にアフリカ駐在の北朝鮮外交官一家4人、同年7月に北朝鮮の偵察総局出身大佐が韓国に亡命していたことを記者会見で明らかにしています。(参照→4月11日付「ハフィントンポスト」吉野太一郎氏の記事)
 ※選挙前にしばしば流される北朝鮮に否定的なニュースは「北風」とよばれ、北朝鮮に厳しい姿勢をとる保守陣営に有利に働くと見られてきました。しかし今回の総選挙の結果は大方のメディアの予測に反して保守陣営(セヌリ党)の敗北に終わりました。
 なお、この集団脱北以前に韓国に亡命した北朝鮮レストランの女性従業員は過去2人いました。1人目は2004年母・妹の3人で脱北し、ポペラ歌手として知られるミョン・ソンヒ(명성희)さん。(彼女がTV番組中で歌った場面は→コチラ。) 長春の北朝鮮食堂で歌手として働いていたことがあったとか。そして2人目は、上海の北朝鮮食堂元従業員で、ソウル大出のエリート社員と熱愛の末脱北したXさん。私ヌルボ、たまたま最近「新東亜」の6月号を読んでいたら彼女のインタビュー記事があって知りました。脱北の時期も本名もその記事では伏せています。

【4月21日】
北朝鮮赤十字社中央委員会が13人の送還を求めた。特に必要ならば北朝鮮の家族を板門店またはソウルに派遣して亡命者と会わせると明らかにした。また「我々の正当な要求を拒めば、集団誘引拉致行為を自ら認めることになるだろう」と主張した。柳京食堂で一緒に働いていた20代の女性従業員7人は、この日放映されたCNNインタビューで「仲間は支配人にだまされて韓国に連行された」と主張した。首席従業員チェ・ヘヨンさんは「韓国で苦労する仲間のことを考えると胸が張り裂ける」と涙を流した。CNNは18日平壌・高麗ホテルで彼らに会ったと報じた。 (参照→4月22日付「中央日報」)


 ・・・・このあたりまでは「想定内」ですね。ある韓国記事には、「上海の北朝鮮食堂で従業員が1人いなくなったが、店長は上部に報告せず必死で探している」といったことが書かれていました。もし韓国で13人の集団脱北が報道されなければ、北朝鮮が事実を知ったとしてもこのようなメディアを通じての抗議をやったでしょうか?

【5月3日】
平壌で脱北した従業員の同僚や残された家族による合同記者会見が開かれた。元従業員は「今回の事件は南側(韓国)が計画した組織的な拉致行為」などと訴え、事件の朝、韓国側が仕向けた「誘拐バス」から間一髪で逃れた場面まで描写して見せた。また家族たちは、「すべては保衛指導員(秘密警察)の監督不行き届きのせいだ」として当局を強く非難した。(参照→5月4日付「デイリーNK日本」の記事・→5月13日付「デイリーNK日本」・高英起氏の記事)


 ・・・・元従業員の発言の中に、「食堂の支配人がバスに乗ってきた連中の1人に近寄って「国情院チーム長と呼びながらぺこぺこするのを直接目撃することになった」とか「(国情院の)要員らは、バスに乗った友だちだけを連れてあわただしく逃げた」などとあります。以前延吉で食堂を運営していた時から支配人と謀議をこらしていた人物とのことですが、それが事実だとすると、かなり早い段階から国情院(韓国国家情報院)が関わっていたということになり、それはたしかに問題を含んでいそうです。
 しかし、北朝鮮が「拉致」を非難するとは、多くの日本人にとっては「一体どの口が言ってかだ!?」といったところですね。元同僚の女性たち、これまで12人の数十倍もの韓国人・日本人等が北朝鮮によって拉致されていることを知ったらどう思うでしょうか?
 北朝鮮がこのようにメディアに脱北者の家族等を登場させて韓国側を非難するということはしばらく前から行われてきました。あるいは、1度は脱北した人が再び北に戻り、TVで「南朝鮮はひどいところだった」と語る等々。ただ、そこには北朝鮮当局がなんらかの脅し(「家族の安全」とか)をかけてそのように言わせたり、本人が状況を把握し、そう語ることによって保身を図ったり、といったことも十分考えられるので、話された内容がどこまで真実かは疑問。

【5月19日】
★アメリカ市民権を持つ親北朝鮮的な在米韓国人ノ・ギルナム氏が、自身が運営するニュースサイト「民族通信」で脱北ウェイトレスたち12人の顔写真・実名・生年月日を公開した。また同通信は「この中のソ・キョンアさんが「家族のもとに返して欲しいとのハンガーストライキを行う中で、死亡したことが確認された」と報じている。
 同通信によれば、北朝鮮に残された家族たちは韓国の民主社会のための弁護士の会(民弁)に本人たちとの接見を委任したが、国情院はその接見要求を拒否しているという。(参照→ 「デイリーNK日本版」)


 ・・・・ノ・ギルナム氏(72?)は北朝鮮を60回以上訪問したという親北人士で、2008年には金日成大学で博士号を取り、2014年には金日成賞を受賞したとのこと。同年10月の「東亜日報」の記事(→コチラ)では、「脱北者を含めた金正恩政権の人権弾圧には、なぜ目をつむるのか」との質問に対し「北朝鮮にはなんら人権問題など無い」と答えています。
 もしソ・キョンアさんが「民族通信」の報じるようにハンストの末に死亡したとするとゆゆしき問題です。しかし、韓国メディアも(たぶん)知り得ないことがなぜ「わかる」のでしょうか? なお、→6月20日付「朝鮮日報」は、大韓弁護士協会が推薦した国情院人権保護官の弁護士パク・ヨンシク氏の「従業員たちは北朝鮮に残してきた家族や自分たちの安全を懸念し(個人情報や発言内容が)外に出ることを絶対に望んでいない」、(従業員の一部がすでに死亡したとのうわさについて)「そんなデマを信じるのか」、「13人は全員が健康に過ごしている。そのことだけは明確にしておきたい」という発言を伝えています。
 上記のように、北朝鮮と直接パイプを持つノ・ギルナム氏を通じて民弁が北朝鮮の家族たちから委任を受けること自体も問題のタネになりそう・・・どころか、この後実際に問題とされています。

【5月24日】
★民主社会のための弁護士会(民弁)は、北朝鮮離脱住民保護センターに収容されている女性従業員たちとの面会を求めてきたが、センターを管轄する国情院はこれを拒否してきた。そこで民弁はこの日女性従業員の家族から委任を受け、ソウル中央地裁に女性従業員12人に対する人身保護救済請求を行った。その家族からの委任状は、前述のように米国在住のノ・ギルナム氏を通じて入手したものである。
 ※「人身保護救済審査請求」とは、違法な行政処分や他者の意志によって不当に施設などに収容された被害者の基本権を保障するため、裁判所に被害者の救済を求める手続き。(参照→6月22日付「朝鮮新報」その他)


 ・・・・「朝鮮新報」は、朝鮮総聯の機関誌だけあって、記事の見出しからして「集団拉致事件、女性従業員の裁判が中止に/国情院、裁判所の出頭通知を拒否」ですからね。

 さて、ここまでが4月の事の発端からの3ヵ月の前半部分。後半の6月以降は、さらにドラマチックな展開になっていきます。

 上掲の「新東亜」6月号のインタビュー記事で、今回の出来事の感想を問われた元従業員のXさんは、「家族のことが一番気懸り」、「13人が一緒に大胆な決断をした点については釈然としない、何かウラがある」、そして「メディアに脱北の事実を公開したのは本当に政府の誤り。北に残された家族が被害を受けるのです」と答えています。
 私ヌルボも同感で、最初に政府が大きなミスを犯し、その上に進歩系弁護士団体(とメディア)がどんどん事態を悪化させているように思われます。

☆直接上記の記事内容とは関係ないことですが、日本・韓国の記事で美人従業員」という言葉を用いているものが多いことが気になりました。いかにも「男目線」です。単に「女性従業員」でいいではないですか。

 → 北朝鮮レストラン従業員集団脱北その後 ②脱北者団体から逆に「究極の選択」を迫られた進歩系弁護士団体
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最近刊行された「国連北朝鮮人権報告書」は北朝鮮人権問題の画期的総集成!

2016-06-24 19:07:55 | 北朝鮮のもろもろ

 4月に「日本語訳 国連北朝鮮人権報告書」(ころから)が刊行されました。
 2014年3月17日に北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)が国連人権理事会に提出した「北朝鮮における人権調査報告書」を翻訳したものです。
 本ブログの過去記事(→コチラ)でも記した通り、この報告書は→コチラからダウンロードすることができますが、表記は英・仏・スペイン・露・中・アラビア語の6ヵ国語だけです。外務省のサイトには一応日本語訳がアップされています(→コチラ)が、認知度は低く、誤訳も散見され、またパソコン上で読むのもたいへんです。
 そんな中、→コチラコチラの記事に書かれているように木瀬貴吉さんという方がクラウドファンディングを提起し、今年1月目標額(60万円)を上回る支援を得て、木瀬さんご自身が設立した出版社「ころから」からの刊行が実現したというわけです。
 ネックは8000円(+税)という値段なのですが、私ヌルボはより多くの皆さんにも読んでもらおうということも期待して図書館にリクエストしたところ、購入が決まって今日初めて手にすることができました。感謝感謝! 横浜市、それも図書館の近所に住まいしてホントによかったです。

 さて、この本の内容を目次で見てみると・・・。

 巻頭で「ころから編集部」が<刊行にあたって>という一文を置いています。その中で次のように記している点に私ヌルボは強い共感を覚えました。
  本書に、ある種の溜飲を下げるための糾弾を期待することは目的違いとなる。
   非道・無法国家としての北朝鮮像をより強固にするだけの目的にも応じかねる。
 つまり、北朝鮮の人権問題を、人権問題そのものではなくなんらかの目的の材料・手段として用いようとする事例がしばしば見られるということです。
 また、北朝鮮による「内政干渉である」「アメリカこそが人権侵害をやめていない」との反論については次のようにかかれています。
  人権のための国際法は、第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるホロコーストを国際社会が防げなかったことへの反省から生まれた。「内政不干渉」の名の下、数百万の命を見殺しにした事実から、こと人権においては内政干渉する、という原理が築かれつつある。
   人権侵害をおかしている国は北朝鮮一国でないことは、だれの目にも自明である。(日本も国連人種差別撤廃委員会から何度も勧告されている。)
  その意味で、本書で報告される人権侵害は、日本を含む他国とも地続きであることは否めない。
   第Ⅶ章「結論及び勧告」において、北朝鮮政府のみならず、国際社会にも責任を求めていることに、本報告書の存在意義があると考える。

 報告書は、初めに調査の作業方法について記しています。

 調査の大きな障害になったのは北朝鮮の非協力。調査委員会の入国を認めず、ソウル・ロンドン・ワシントンで開かれた公聴会への招待に対しても無返答。まあ、これは「想定内」でしょうが・・・。
 したがって、調査の主な対象者(直接の証人)は約3万人の脱北者に限られましたが、北朝鮮による自身や家族への報復を恐れる人が多く、公聴会等では顔を隠したり匿名の人も相当数いたし、聞き取り調査も非公開を条件にしたケースが240件以上に及んだが、「こうした徹底した保護策をとっても報復の危険性は否定できない」。これも想定内ではありますが、日本でも顔を隠し本名を明かさない脱北者はわりとふつう(?)にいるということは、それだけ恐怖感が根強く、また実際に彼らに対する「北からの働きかけ」がそれなりに現実味を帯びていることをうかがわせます。

 Ⅲ章では北朝鮮の人権侵害の歴史的・政治的背景が前近代から現代に至るまで叙述されています。冒頭に「儒教的社会構造と日本の植民地支配下での抑圧が、今日の北朝鮮に広がる政治構造と政治意識の特徴を作りだした」と規定している点が注目されます。また日本の植民地支配の評価については「日本が最終的に挑戦の発展を助けたのかどうかの問題は、政治的また学問的両面で、いまだに多くの論議を残している」としています。戦後の党派抗争、朝鮮戦争、「金王朝への権力統合」(←報告書中の用語)についても、(ヌルボの目には)客観的で妥当な文章で略述されています。


 Ⅳ章は「調査結果」。さまざまな自由・権利の侵害の実態が多くの証言者によって語られます。あるいは各種の具体的なデータが掲げられています。つまり、聞き取り等の微視的な資料と、巨視的な観点の両方からまとめられているということ。

 たとえばこの地図。
      
 <地方別重度の栄養失調の人の人口に占める割合>(左)と、WFP(国連世界食糧計画)の活動範囲(2012~13年)=白い部分が活動不能地域。本文では、支援のため現地に赴いた人道組織が直面した際の問題が具体的に記されています。

 本書では、いくつもの差別のベースになっている要素として「成分」について詳しく記されています。本ブログの最近の記事<韓国の連座制&遡及法を考える③>(→コチラ)でも書きましたが、本人だけでなく家族や親戚の経歴によって仕事や進学、居住地まで決定づけられるという制度です。本書では韓国・統一研究院の資料により核心階層が人口の28%、基本階層が45%、複雑(動揺・敵対)階層が27%という数字を紹介しています。
 政治犯収容所(北朝鮮では「管理所」という)や一般刑務所(北朝鮮では「教化所」という)、公開処刑、障碍者差別、移動や居住の自由がないこと等々、ぜひ多くの人に知ってほしい個別事例はたくさんありますが、ありすぎて書けません。
 1つだけ、「越北者」の、残された家族が韓国で差別されたことに関連して。自分の意思で韓国から「北」に行った共産主義者等の脱北者の、残された子供が進学や就職で差別されたことは、これも<韓国の連座制&遡及法を考える②>(→コチラ)で書きました。ところが、そんな反共が国是だった当時の<パルゲンイ(アカ)>の家族だけではないのです。北朝鮮には帰還できずにいる数多くの朝鮮戦争時の韓国人捕虜や、戦争後北朝鮮に拘束・拉致されたままの韓国人が(公的には)516人もいるのですが、1990年代まではこのような拉致被害者の家族まで「高等教育と政府系の職業に就くことを拒否された」とのことです。ある拉致された漁師の娘である証人は、彼女が警察から目をつけられることを嫌った雇い主によって解雇されたとか。家族が拉致されても国は保護・支援をしたり返還に尽力してくれるどころか監視対象(!)にされてしまったとは・・・。また金大中大統領以降は「太陽政策」の一環(?)で拉致問題は「離散家族」問題の中に組み込まれたそうです。(~2008年。) 家族たちのロビー活動の結果、拉致被害者家族が申請すれば国から賠償されるという法律が成立したのはやっと2007年のことなのですね。
 拉致関係では、韓国・日本以外にも中国人、レバノン人、タイ人、シンガポール人やマレーシア人、ルーマニア人等の事例が記されています。
 以前にも書いたことですが、拉致被害者問題は日本人限定ではなく、よりグローバルかつ多角的な観点から取り組むべき問題だと思います。

 Ⅴ章は「人道に対する罪」について。
 上記の収容所等での人道に対する罪や、宗教信仰者に対する迫害、国外逃亡者に対する監禁・拷問等々。これもこの本に記されていることはあまりにも多い事例のごくごく一部にすぎません。ふつうの国であれば、たとえば1件でも拷問死があったり、飢えに瀕した子供たちを放置したことがあれば大きな問題とされるのに、それが北朝鮮のこととなると無関心だったり、事実を知らなかったり、知ったとしても「あの国ならそんなこともあるだろう」としか思わない人が日本に限らず多いのではないでしょうか?
 先の<刊行にあたって>にも記されていたように、この報告書は「北朝鮮政府のみならず、国際社会にも責任を求めている」ということを、私たちも「国際社会の一員として」銘記すべきだと思います。

※ヌルボ同様、多くの皆さんがこの本を地元の図書館の蔵書に加えるようリクエストして下さることを期待しています。(もちろん自分で購入されてもいいですが・・・。)
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韓国の連座制&遡及法を考える③ 北朝鮮の連座制と<成分>、金日成の「輝ける家系」等

2016-06-02 18:10:33 | 北朝鮮のもろもろ
 このシリーズの①(→コチラ)では韓国の「親日」、②(→コチラ)では「パルゲンイ(アカ)」についての連座制の事例をあげました。
 しかし、連座制や遡及法が今も社会に根を深く下しているという点では北朝鮮がはるか上を行っています。多くの北朝鮮本が伝えているので、すでに多くの人が知るところではありますが・・・。

 連座制については、たとえばそれまで国の重要なポストに就いていた人物が失脚したり粛清の憂き目に遭ったりすると、家族たちも収容所送りになるという話は、いろんな本で読みました。近所の人たちの目にふれないように、早朝や深夜に連行されていくとか・・・。
 明らかな国家反逆者・裏切り者の場合、家族も無条件で収容所送りでしょう。

 1997年韓国に亡命した黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元労働党秘書の場合は、→コチラの記事によると、妻と1男3女の家族は自宅軟禁状態におかれていたが98年息子のファン・キョンモ氏が亡命を試みて友人1人と平壌を出たものの2週間後に龍川で公安当局に逮捕され、結局母親とともに銃殺刑に処せられたそうです。韓国ウィキペディアでは、3人の娘も皆「死亡」となっています。
 しかし<ナムウィキ>(→コチラ.韓国語)には「子供は1男2女で、息子は外交官、長女は外国文学を専攻した学者、次女は医学部を卒業した医師」とあり、彼の亡命後家族達の安否は自殺・処刑・生存の諸説あって確かではないが、妻は自殺し他の家族は政治犯収容所に送られたとみられるとのことです。また収容所に送られることとなった遠い親戚の軍人は「党に忠誠を尽くしていた私が、なぜ顔を一度見たことのない黄長秘書のために収容所に行かなければならないのか」と抵抗し自殺したということも記されています。
 黄長燁亡命に伴ってこのような遠縁まで含めた家族・親族に対する処罰つまり「縁座」だけでなく、それ以外に係累として処罰された者は計3千人にも及んだとの推定もあるようです。
 例の張成沢の粛清に関しては、直系の家族が処刑された他、処罰の対象者は万単位に上るという記事もありましたが、真偽のほどはよくわかりません。

 1987年大韓航空機爆破事件を実行した北朝鮮の元工作員・金賢姫の家族の場合は、耀徳(ヨドク)政治犯収容所に送られたという説もありましたが、2012年1月その家族たちと親しかったという脱北者が「清津の古いマンションで25年間にわたり徹底監視網の中で、生活に苦しみながら暮らしている」と証言したことが報じられました。(→「中央日報」、→「DailyNK」。)

 また、脱北したら家族が処罰されるという話もありますが、近年脱北者の手記を読むと、まず自分が脱北した後ブローカー等を通じて家族と連絡をとり、一家全員の脱北に成功したという事例が少なからずあるようです。2008年の<DaylyNK>の<“北‘家族ぐるみの脱北’を阻め”…連座制強化>と題した記事(→コチラ)には「国家が脱北と推定される失踪者たちの家族と親戚に対する監視と処罰を一層厳しくしている」とあるのですが、その後どれほど実際に強化されたのでしょうか?
 今年4月初めに報じられた中国・寧波市の北朝鮮レストランの支配人と従業員13人の集団亡命事件の場合は、事態はまだ進行中です。北朝鮮当局は4月27日中国国内のレストランから韓国の諜報機関によって拉致されたと発表し、女性従業員の両親のビデオ映像を公開しました。関連記事(日本語)は→コチラ、その映像は→YouTubeで見ることができます。両親は涙ながらに娘を帰すように訴えています。
 数年前からな本や講演等で北朝鮮を批判してきた収容所から生還したという脱北者・申東赫(シン・ドンヒョク)に対しても「ウソを暴く」ため北朝鮮当局は両親が登場する動画を公表(→YouTube)しましたが、こうした対応が増えてきているとみていいのでしょうか?

 「連座制」と並ぶもう1つのテーマ「遡及法」について。
 北朝鮮が、<出身成分>により国民を3階層・51区分に分け、居住地・職業・進学等々さまざまな場面にそれを反映させて国民を統制していることも90年代頃から一般に知られるようになってきました。
 3階層とは次の3つです。※→ウィキペディア参照。

 ○核心階層・・・特権階級。労働党員・抗日戦士・パルチザン・栄誉軍人・労働者・貧農等の子孫。
 ○動揺階層・・・国に反抗する可能性があり、要注意とされる。中農・商人・手工業者等の子孫。(※帰国事業により日本から帰還した人々は、この階層の最下位に位置づけられている。)
 ○敵対階層・・・国に反抗する可能性が高く、監視の対象とされる。富豪・地主・資本家・宗教家・親日派・親米派・罪人等の子孫。>

[2018年7月22日の追記] 伊藤亜人「北朝鮮人民の生活」(弘文堂.2017)によれば、核心階層=全人口の約30%、動揺階層=約50%、敵対階層=約20%。

 問題は、こうした区分が本人の能力や希望や人となり等とは関係なく、祖父や父が何をしていたかで人生の重要なことが決定づけられてしまうということ。封建社会の身分制度とどこが違うのか?といった感じです。世界の国々の中に同様の国がはたしてあるかどうかはわかりませんが、現存する「負の歴史遺産」として登載される資格はありそうです。

 こうした先祖の行跡が子孫を規定するというのは、別の面で見れば「偉大な先祖」は子孫に福をもたらすということ。あるいはさらに「先祖の偉大さ」を周知させ称えることは現代の自分個人や一族にとっても大きなプラスとなるということです。
 その典型はもちろん金日成です。
 白峯(著)「金日成伝」(雄山閣.1969)は、彼の家系から書き起こされていますが、まず曽祖父の金膺禹(キム・ウンウ.1848~78)は万景台で地主の墓守として小屋に住み、「小作をしながら苦しい生計をたて」ていたが、「アメリカの海賊船シャーマン号が大同江へ侵入してきたとき(1866年)、・・・群衆の先頭にたって勇敢にたたかった」と記しています。(→ウィキペディアには、さらに細かなエピソードが書かれている。)
 祖父の金輔鉉(キム・ボヒョン.1871~1955)「息子や孫たちの独立運動と革命活動をたすけることに一生をささげた人たった」と記載。※→ウィキペディアには、「誠実な人であったため、(金日成の)欺瞞に耐えられず、後日平壌で行われた金日成将軍の凱旋祝賀会には欠席をしている」とか「孫の金成柱(金日成)が朝鮮民主主義人民共和国を建設し、親族が官僚に登用される中で、政府の要職に就くことを嫌い、万景台で従来通り、農夫として生活した」等々の興味深い記述がある。)
 そして父の金亨稷(キム・ヒョンジク.1894~1926)について伝記は「祖国光復のために一生をささげた熱烈な愛国者であり、強力な地下組織をつくって献身的にたたかった前衛的な闘士であり、すぐれた革命家であった。そしてまた先生は、数多くの青少年を愛国思想で教育し、かれらを勇敢な闘士に育てあげた教育者でもあった」と称賛しています。(→ウィキペディア。)
 また母親についても康盤石(カン・バンソク)女史もまた、反日闘争に生涯をささげた意志の強い女性であった。女史は革命家の忠実な妻として、婦人たちのなかで反日啓蒙活動をねばり強くおしすすめただけでなく、三人の息子たち、なかでも長男の金日成将軍を革命家に育てあげ、祖国光復の偉業にむかわせたすぐれて母親であり、数多くの投資をわが子のように愛した朝鮮のまことの母であった」とこれまた大絶賛。そればかりか「熱烈な革命家」で西大門刑務所で獄死した叔父・金亨權(キム・ヒョングォン.1905~36)や、やはり「熱烈な反日闘士」で、20歳で世を去った金日成のすぐ下の弟・金哲柱(キム・チョルジュ)についても言及されています。
 そして「このように、金日成将軍の一家は熱烈な反日愛国の家柄であり、一族が代をついで祖国の独立のために身をささげた世界でもまれな革命家の家筋であった」とまとめられています。

 実は私ヌルボ、最近の韓国でも「偉大な先祖」を顕彰することが現在の自分たち一族の自尊心を高めるという事例にふれる機会がありました。もしかしたら、自尊心・アイデンティティといったレベルだけでなく、なんらかの「実利」につながる部分もあるかもしれません。

 こうした社会の慣習や制度、過去の見方や先祖に対する考え方は韓国と北朝鮮に共通するもので、一方では日本との間の「歴史認識」をめぐる対立にも大きく作用しているのでは、と思います。

 このシリーズはあと1回です。このテーマ設定のきっかけになった本を紹介します。

☆記事とは直接関係ありませんが、「失脚した人物の家族」ということで思い出したのがブルガリア映画の秀作「ぼくと彼女のために」(1988)です。
 DVDも出ておらず、そんなに話題にもならなかった作品で、ネット情報もわずかにすぎません。自分のメモとして→コチラの記事にリンクを張っておきます。

 → <韓国の連座制&遡及法を考える④ 本間九介「朝鮮雑記」(1894)にみる連座制の事例から考えたこと>
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北朝鮮の公式サイトのパロディ版を発見! 「アンニョンハシムネカ?」と言いながら見てみると・・・

2015-09-08 17:46:51 | 北朝鮮のもろもろ
 1ヵ月近く前のこと。ネットサーフィンしていてたまたま行き当たったのが次の画面。

 あら、これは北朝鮮の公式サイト<우리 민족끼리(ウリミンジョクキリ.わが民族同士)>ではないの!? ・・・と数秒間頭脳を働かせました。検索内容からいってそこにたどりつくはずはなかったので・・・。
 つまり、これはニセモノ。しかしホントによく似ています。下がホンモノの<우리 민족끼리>です。(同じ日のもの。)

 このホンモノのサイトについては、本ブログでも2010年に<北朝鮮の公式サイトを見る方法①(ハングルを知らない人でもOK)>と題した記事を書いたことがありました。(→コチラ。) その後も時たまのぞいたりしています。なお、<ウリミンジョクキリ>のツイッターやYouTubeについてはその記事の続編(→コチラ)参照。

 この真贋2つのサイトの違いは記事を読めばすぐわかるのですが、細かなところでもいろんな工夫(というか、オアソビというか)が施されています。
    
 左はホンモノ。タイトルの下に「조국 평화 통일위원회(祖国平和統一委員会)」と記されています。
 一方、パロディ版(右)の方は「북조선 민주화위원회(北朝鮮民主化委員会)」
 さらにその下にあるサイトのURLを比べてみると、ホンモノはhttp://www.uriminzokkiri.com/でパロディ版の方はhttp://www.uriminzokiri.com/
 いやー、これも一瞬同じかと思いましたが、よく見るとkkkだけというわずかな違いです。

 次に日付を見ると・・・。


 ホンモノ(上)には主体104(2015)年8月12日[日付選択]」と表示されていますが、パロディ版(下)の方は「今日は金正日のヤツがくたばってから1334日」です。
 ※<主体>は金日成の生年1912年を元年とする北朝鮮独自の年号で、1997年から用いられている。

 まあこんな細かなところを見るまでもなく、何秒か経過するとタイトル下の画像が現れたので一目瞭然なんですけどね。
 金正恩の眉の上におぞましくも鎌が突き刺さっています。赤い字は「最高尊厳冒涜に対する厳重警告」。その左の小さい画像の方の赤い字は「民族の怨讐! 돼정은(豚正恩)をぶっ殺せ!」
 そしてこの画像をクリックすると、あの李春姫(リ・チュニ)アナウンサーの声「김정은 개새끼 해보라!(金正恩のヤツと言ってみろ!)」という音声が出てきます
 なお、その下には「새 동무들의 기입인사 (新しい仲間たちの挨拶)」という欄があって、このサイトの新会員たちが「안녕하십네까? (アンニョンハシムネカ?)」等の北朝鮮風の言葉で「김정은ㄱㅅㄲ(金正恩ケーセッキ)」といったカキコミをしています。(「ㄱㅅㄲ」は개새끼のネット上の略語。)
 なお、上記のように金正恩の名を돼지(テジ.豚)の돼と組み合わせて돼정은と言ったり、金日成・金正日をそれぞれ돼일성돼정일と言ったり、合わせて돼지 삼 대(豚三代)と呼んだりするのはとくにこのサイトにかぎらず、反北朝鮮のサイト等ではけっこう使われている軽蔑語のようです。
 ただ、このサイトは、このような金正恩や、韓国内のいわゆる「従北主義者」等に対する風刺や揶揄だけでなく、脱北者の手記や北朝鮮関連の諸情報・資料等も載せられています。

 この紛らわしいサイトには、朝鮮総聯の機関誌「朝鮮新報」もだまされて一時リンクを張ってしまったこともあるとか・・・。(<ナムウィキ>の記事による。)
 また、→コチラのブログ記事によると、2013年11月ホンモノの方がこのニセサイトを非難したことがあったそうです。その理由となったのは、ニセサイトが金正男を新しい指導者として推戴しようというよびかけをしたためで、「糾弾を免れない卑劣な反北朝鮮謀略騒動」という記事を自サイトにアップして非難したとのことです。
 ニセサイトの活動領域はこれらに止まらず、Uriminzokkiriのアカウントで<YouTube>にたくさん寄稿しているホンモノの向こうを張って_북민위 우리민족끼리の名で動画のアップロードも続けたりもしています。その第1回の動画ニュースは→コチラ。その他では「北朝鮮・平壌住民の1日(북조선 평양주민의 하루)」(→コチラ)という48分にもなる動画もあります。

 細かく見れば見るほどテマヒマ、そしてカネもかかったサイトです。しかし、韓国内での認知度はまだ必ずしも高くはなさそう。本元の<ウリミンジョクキリ>が韓国では接続できないようになっているのも一因かもしれません。なにせオリジナルがあってこそのパロディですから。<DCインサイド><イルベ>のようなオタク掲示板サイトでは<ウリミンジョクキリ>のことをふつう<우민끼(ウミンキ)>という略称で呼んでいます。最近の<イルベ>に、「なんとなく検索して(ニセの)<ウミンキ>を初めて見たが<イルベ>よりおもしろそう」というカキコミがありました。そういう(たぶん)韓国の若い人たちの北朝鮮認識なんてどんなものなんでしょうね?

 ・・・ということで私ヌルボの感想。個人的にはいくら北の独裁者だとしても、鎌を突き立てたりとか罵倒の言葉を濫発するのは趣味ではありませんが、それも含めて韓国・朝鮮の伝統文化(!?)ではあるし、単純に笑える要素もあります。そしてこんな笑いの要素と、命懸けの人生や厳しい政治的な対立や抗争・抑圧といったような現実がここに絡み合っているわけで、そう考えるとずいぶんドロドロしたサイトであり、笑ってすませられるようなものでは全然ないのではとも思えてきます。
 今回も締めの言葉はうーむ、だけです。
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ぜひ見て、聞いてほしい! 脱北者女性3人の証言の動画  = イ・ヒョンソ、パク・ヨンミ、パク・ジヒョン =

2015-07-26 11:52:58 | 北朝鮮のもろもろ
 韓国統一部によると、2014年末までに韓国に来た脱北者は2万7千人を超えたとのことです。
 2006~11年には毎年2000人以上の脱北者が韓国に入国しましたが、金正恩時代になって減少し、2012年は1502 人、13年は 1514 人、14年は1397人となっています。
 ※韓国ウィキペディア「북한이탈주민(北韓離脱住民)」の項目(→コチラ)参照。
 この説明文中で私ヌルボが注目したのは、脱北者の年齢は30代=32%、20代=27%と、青年層が過半数を占めていること(2011年6月基準)、そして女性の割合が着実に増加し、2012年10月の暫定統計では69%にも達するということです。
 また、中国や東南アジアなどで隠れて過ごしている脱北者も数十万人に達すると推測される、とのこと。つまり、韓国に入国できた脱北者は、脱北者の一部にすぎないのです。
 しかし、無事韓国にたどり着いても、北朝鮮で身につけた知識・技術は使い物にならず、社会の制度・習慣もまるで違う韓国社会に適応するのが困難で、多くは苦しい生活を強いられ、差別的な扱いも受けたりして、さらにイギリス等へ出国する人も増えているようです。

 以前から、脱北者たちが書いた手記は韓国の脱北者団体のサイト等で数多く読むことができます。(少しずつでも訳出していこうと思いつつ、手をつけていないままですが・・・。) また最近は自身の体験を語った動画もいくつか見られるようになりました。
 そんな中で、日本語の字幕がついているものを3つ紹介します。いずれも女性です。

①イ・ヒョンソ(이현서)さん
 「苦難の行軍」といわれる深刻な食糧難で多数の餓死者が出た頃の1997年、14歳の時に鴨緑江に面した中国との国境の町恵山(ヘサン)の家を出て脱北した彼女。瀋陽の親類の元に送られて10年間中国で公安の目を恐れつつ生活し、また実際に公安の訊問の危機をくぐりぬけたりした後ラオスを経由して韓国へ・・・。
 彼女が多数の聴衆を前にしての英語による講演は、さまざまな人に多様な内容の発表の場を提供しているTEDというアメリカの講演会グループの設定の下で行われたもので、また動画配信もそのTEDのサイト内でアップされています。日本語字幕付きです。
 コチラです。
 非常に巧みな弁論で、説得力があります。最後の、ラオスで危機に直面した時のエピソードはとても感動的です。
 YouTubeにも韓国語字幕付きの同じ動画があったので貼っておきます。コチラにはネチズンのコメントがいくつか書かれています。

 なお、最近(2015年7月2日)の<newfocus >の記事(→コチラ)によると、彼女は韓国外国語大学に在学中(英語・中国語を専攻)とのことです。

②パク・ヨンミ(박연미)さん
 2014年10月の<聯合ニュース>の「脱北女子大生、イギリス議会で北韓の実像証言」という記事(→コチラ.韓国語)によると、その時点で21歳。2009年秋モンゴル経由で韓国に入り、東国大学校警察行政学科に在学中。下の動画ではインタビューに答えて「職業はジャーナリスト」と語っていますが・・・。
 とりあえずYouTubeの動画を貼っておきます。
 この動画の内容は→コチラの記事でほとんど文章化されています。
 ただ、私ヌルボが「気になること その1」は、この動画を提供している<ザ・ファクト>が幸福の科学の公式インターネット番組ということ。こうした北朝鮮関係以外では嫌韓嫌中とか、反安倍の組織・運動に対する批判の記事・動画が満載です。北朝鮮の人権抑圧を批判するなら、日本国内の人権状況についても敏感であってほしいものです。
 「気になること その2」は、「美人すぎる脱北者」云々というタイトルの軽薄さ。「美人すぎる市議」あたりからか、「美人すぎる○○」という表現がアチコチで目につきますが、こういうところで用いるのは無神経でしょう。もっとも、韓国では2012年頃からチャンネルAで脱北者の美女たちを集めたトーク番組「今会いに行きます(이제 만나러 갑니다)」が人気を集めて・・・といったことがありました。(→過去記事及びコチラの記事参照。) 中国で人身売買の対象になっている多くの脱北者女性を「値踏み」する目と、どこか通底する嫌な感じがするんですけどねー・・・って、これは考え過ぎですか?
 まあ、こんな「気になること」はあるにせよ、パク・ヨンミさんの話している中身は耳を傾けるべきものだと思います。

③パク・ジヒョン(박지현)さん
 パク・ジヒョンさんも90年代後半に、飢えのため声も出なくなった父親の身振りの指示に従い、瀕死の父を後に残して脱北した女性です。この動画は、アムネスティが彼女にインタビューし、編集したものです。中国では売り飛ばされたり、男の子を産んだり、また公安に見つかって北朝鮮に送り返されたり等々非常に過酷な経験をしてきましたが、今は結婚して2008年イギリスのマンチェスターに定着し、北韓人権ヨーロッパ聯合(EARHNK)で活動しているとのことです。※→コチラと→コチラの記事(韓国語)参照。


 この3人の女性が経てきた苦難の物語は韓国に来た3万人近い脱北者それぞれにもあります。3人は本人の強い意志と努力、そして幸運により死地を脱することができました。しかし韓国に来た脱北者をめぐる状況は先に記したように厳しいものがあります。
 そして、上述のように中国等で隠れ過ごしている数十万人ともいわれる脱北者たちにとっては、今まさにその生死の瀬戸際に立たされているということに、世界は、そして私たちはもっと目を向けるべきだと思います。苦難の物語が悲劇のまま終わってはあまりにも悲惨です。先の北朝鮮の生体実験の記事(→コチラ)でも書きましたが、慰安婦問題や歴史遺産問題等々よりも喫緊の問題だと私ヌルボは思うのですが・・・。
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北朝鮮がらみの話となると論理が矛盾or破綻する一部の(?)人権活動家の言説

2015-07-05 22:17:12 | 北朝鮮のもろもろ
 1つ前の記事に続いて北朝鮮関係。
 7月3日「北朝鮮、拉致被害者の調査報告「延期」を連絡」というニュースが伝えられました。昨4日が調査開始から1年目という日でした。
 当初は「今度こそは・・・」と期待をかけた人たちもいたでしょうが、結局は案の定の成り行きとなりました。
 よく「韓国は日本との間の取り決めを一方的に無視してしまう」という批判がありますが、北朝鮮はその上を行っています。
 日朝間に限らず、たとえば米朝枠組み合意の経緯等を見てもまさにその通りで、94年の合意に基づいて供与された重油にしても結局は食い逃げ。
 その他韓国との間でも約束不履行、食い逃げの事例はいろいろあり、最近モスクワで開かれた対ドイツ戦勝70周年記念式典(5月9日開催)への金正恩訪露ドタキャンなどは国際常識には反していても北朝鮮としては「なんということはない」ネタでしょう。
 ※「約束」がどれだけ重視されるかは、その社会の歴史や政治・経済・文化との関連がありそうです。とくに「契約」の遵守が前提となる商業。

 ところが、この拉致問題についてもなんとも「不可解」な見方をする人がいるものだなあと思ったことがありました。
 少し古くなりましたが、昨年12月のこのニュースです。(元は→コチラ。)

   在日朝鮮人の人権尊重を アムネスティ調査員が講演
 国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」のアーノルド・ファン調査員が16日、東京都内で講演し、「日本が在日朝鮮人の人権を尊重して模範を示すことが拉致問題の解決につながる」との認識を示した。(以下略)


 私ヌルボ、このニュースをよんで唖然としました。
 いろいろ検索してみると、この講演に参加した方のブログ記事がみつかりました。(→コチラ。)

 それによると、「人権報告書の説明」に続いて「日本に期待する役割」についての話があり、「拉致問題解決に対して在日朝鮮人の人権問題の解決が急務である」とし、「①在日朝鮮人のヘイトスピーチや差別への対策 ②朝鮮学校への高校無償化制度からの除外は差別を広げる」との説明があったそうです
 この後<日本に期待する役割>に関して何人かの質問があったがアムネスティ側は司会の女性、受付の男性、事務局長が浮き足立ち、「この件は今日の主題ではないので!」と北朝鮮からの脱国者の発言を途中でさえぎって、さっさと報告会は閉会された。(拍手なし)
 ・・・とのことです。

 この新聞報道に対しては<2ちゃんねる>等でも当然のように恰好の「笑いもの」のネタとして取り上げられました。(→コチラ。)
 「なんで拉致被害者の側が加害者側のご機嫌をとらなくっちゃならないの?」というのは2ちゃんねるファンならずとも多くの日本人が抱く当然の疑問でしょう。
 常識的に考えて、在日朝鮮人に対する差別があったとしても、それは拉致問題とは全く別個の問題です。

 この2ちゃんねるのカキコミの中に次のようなものがありました。

 アムネスティ日本ってこんな呆れた団体ですよwwwwww
 2006年にアムネスティ日本の総会において北朝鮮の人権・拉致問題への積極的な取り組みを求める決議案が提出されたが否決された。
 アムネスティ日本が主催する人権パレードに際し、北朝鮮の人権問題に取り組む団体が持参した金正日の似顔絵や「朝鮮のヒトラー 金正日に裁きを」というプラカードを撤去するようアムネスティ側が要求した。
 1997年3月に拉致被害者の家族がアムネスティ日本を訪ねて協力を要請した際に、「調査には相手国の受け入れが必要」と答えた。
 アムネスティが北朝鮮の人権問題に消極的である理由をアムネスティ本部の東アジア担当調査官ラジブ・ナラヤンに直接質したところ、ナラヤンは「アムネスティとしては北朝鮮の人権問題間に関しては慎重にアプローチ すべきであるという判断が立ち、それを日本のアムネスティも支持した」と答えた。
 アムネスティ日本はほとんど北朝鮮の工作機関みたいなものですwww


 ・・・ここで明らかにしておきますと、私ヌルボはアムネスティの会員です。本ブログでも、以前<北朝鮮の強制収容所についてのアムネスティのアクション>について書いたこともありました。(→コチラ。)
 で、上記の2ちゃんねるのカキコミについては、「2006年にアムネスティ日本の総会において北朝鮮の人権・拉致問題への積極的な取り組みを求める決議案が提出されたが否決された」というのは事実です。が、その後再び「北朝鮮の人権問題に日本支部は積極的に取り組むべし」という決議案が可決されて今日に至っています。
 したがって、このアーノルド・ファン調査員の講演についてはアムネスティに対する誤解・偏見を増幅させるものとして憤っているというのが正直なところです。ヌルボが身近に接している会員の間にもこの講演の内容に賛同する人はいません。日本の会員全体の中には何%か(??)いるかもしれませんが・・・。
 しかし、北朝鮮のこととなると、人権運動に関わっている人たちの中にも日頃の言説とはずいぶんと違った語り口になってしまう人はあいかわらず大勢いるのは残念なことです。最近あまり読んでませんが、「週刊金曜日」はその後どうなんだろ?
 ※「その後」というのは、具体的には2010年の過去記事「北朝鮮政府だけは擁護する<人権派>って・・・・」(→コチラ)以降ということ。
 1つ前の記事で書いたようなこと、その他もろもろ、政府自体が国の内外で「ありとあらゆる」と言っても過言ではない悪事を犯し続け、世界の国々の中でも人権状況が最悪のランクに位置付けられているこの国に今もなお「思い入れ」を抱いている人たちの現実認識は一体どうなっているのだか・・・。皆さん、本来的には「善良」な人たちだとは思うんですけどねー。(人間が「善良」か否か?ということと、現実認識が正しいか否か?ということは全然関連がないことではありますが・・・。)

 ※そもそも、北朝鮮当局がどれほど在日の人権問題に関心を持っているのでしょうか? ホントに関心があるなら、とっくに自国の住民の人権状況の改善に取り組んでいるはずなのに・・・。
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北朝鮮生化学武器研究員が欧州に亡命 「政治犯を実験台にサリンガス等の生体実験をしている」との証言も

2015-07-05 19:24:58 | 北朝鮮のもろもろ
 7月3日の<DailyNK>(韓国語版)に「北、政治犯・キリスト教信者を生物化学兵器の実験対象に利用」という見出しの記事がありました。(→コチラ。)
 副見出しは「MBC、生物化学兵器研究員出身の脱北者がフィンランドに亡命と報道」です。
 以下、記事全文を訳出してみました。

 生物化学兵器開発に関与したことがある北朝鮮の研究員が生体実験関連資料を持ってヨーロッパに亡命したとMBCが2日報道した。
 報道によれば、韓国内のある北朝鮮人権団体は慈江道の江界(カンゲ)微生物研究所所属研究員李某氏(47)が6月6日フィンランドに亡命したと明らかにした。
 昨年中国の医療機関に派遣されていた李氏はベルギーの人権団体の助けで亡命したとMBCは付けくわえた。
 李氏は亡命直前、1年に200人あまりの北朝鮮住民が江界研究所のサリンガスと炭疽菌の性能強化実験の対象となっていると人権団体側に暴露したと伝えられた。
 李氏は団体側に「実験対象となった住民たちを研究所地下2階にあるガラス部屋に閉じ込めてサリンガス実験をして、国家安全保衛部が政治犯やキリスト教信者たちを実験対象として供給した」と語った。
 また彼は「長期間の生体実験を通して炭疽菌100㎏で100万人を殺傷することができる」とも語ったとのこと。炭疽菌は6月16日国防部(日本の防衛相に相当)が国会で開かれた国防委員会全体会議で報告した「懸案報告書」で北朝鮮が有事の際に培養して武器化する可能性が高い菌体であると明らかにした伝染性の高い5種中の1つである。
 一方、北朝鮮は炭疽菌を含むペスト、コレラ、細菌性赤痢、腸チフスなど13種の生物化学兵器を保有中であると報じられている。


 実は、ほとんど同じ内容の記事がやはり7月3日付<中央日報(日本語版)>にあります(→コチラ)が、記事の最後の部分が少し詳しく記されているので上掲の記事を紹介したというわけです。一方、「中央日報」の記事の方には「L(李氏)は今月の欧州議会で生化学武器の生体実験資料を提示するなど非公開で証言を行うだろうとMBCは説明した」という文が末尾に付されています。

 私ヌルボが問題提起したいのは、まず非道な人体実験に目を向けるべきだということ。
 炭疽菌といえば、この5月米軍が烏山空軍基地等韓国の10ヵ所に誤って生きたまま送っていたことが明らかになり、また韓国政府に知らせないまま炭疽菌を使った実験を行っていたことも判明して韓国内で問題になっています。(→関連記事。)
 また、<ハンギョレ>は「在韓米軍は世界規模の生物化学兵器戦実験場だったのか」と題した記事で在韓米軍の生物化学兵器実験とその関係施設について詳細に記しています。(→コチラ。)
 たしかに、生物化学兵器(韓国語では생화학무기(生化学武器))は重大な問題です。ところが、その開発のために人間を実験台として使うとは、それだけで非常にゆゆしき問題というか、メディアとしてはもっと大々的に扱ってしかるべきことではないでしょうか!?

 ところが、同じ韓国メディアでも同じネタを取り上げた<聯合ニュース>(韓国語版)の7月2日付の記事「北朝鮮の生物化学兵器研究員、生体実験の資料を持って亡命」という記事(→コチラ)を見ると、次のように記されているだけです。

 北朝鮮の生物化学兵器研究所研究員が膨大な量の生体実験関連資料を持ってヨーロッパに亡命したことが明らかになった。
 北朝鮮慈江道の江界微生物研究所所属研究員李某氏(47)が6月6日フィリピンを経てフィンランドに亡命したとある北朝鮮人権団体が2日明らかにした。
 この団体代表は聯合ニュースとの電話通話で「李氏が表面上掲げた亡命理由は、研究に懐疑をを感じたため」と語った。


 これが記事の全文です。先の記事にあったような政治犯やキリスト教信者が実験対象云々の記述はありません。また、この記事の上に何やらおぞましい資料写真が載せられていますが、説明によると日本731部隊の生体実験模型(!)とのことです。
 ※このニュースは<聯合ニュースTV>でも放映されました。<YouTube>でも見ることができます。(→コチラ。) アナウンサーの放送原稿の内容は、上記の記事と同じです。

 ところで私ヌルボ、このニュースに接して考えたのは「ニュースの重要性」といったことです。
 厖大な数のニュースの中から何をピックアップし、どれをとくに大きく取り扱うかは各メディアの価値判断の問題で、正解があるわけではありません。
 ところが、今この人体実験の問題や、これまでも伝えられているような北朝鮮の政治犯収容所のような北朝鮮の人権問題については、韓国も日本のメディアも非常にわずかしか取り上げていないのはフツーの価値観から考えてどうもヘンだと思います。
 たとえば例の「慰安婦問題」について考えてみると、基本的には「過去」の事実(?)をめぐる問題で、現在の元慰安婦ハルモニたちは生存権はもちろん基本的人権が脅かされているわけではありません
 ところが上述の北朝鮮の(未確認情報とはいえ)「人体実験」や「政治犯収容所」の問題は「現在」生きている人たちの「人権」、というより「生存権」、というよりまさに「命」に関わること・・・。
 ですから、フツーに考えると「慰安婦問題」よりもはるかに重大なニュースではないか?というのが私ヌルボの主張です。ところが「慰安婦問題」に対する関心の10分の1さえもコチラの方に向けられないのはなぜなのでしょうか?
 「慰安婦問題」で熱くなっている日韓の人たちはどう考えるのか? とくに韓国の進歩的な人権活動家の人たちに訊いてみたいです。
 およそ前近代的な連座制や公開処刑のようなネタでも、それが北朝鮮でのこととなると「あり得る話だ」、と「自然に」受けとめられてしまうのでしょうか? たとえば中国・アメリカ・日本(!)といった国が「人体実験をやっている」となると大ニュースになるでしょうが、北朝鮮だと小さな記事にとどまるのでしょうか? 私ヌルボはどこの国かを問わず新聞のトップ記事として報道すべきだと思うのですが・・・。
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金正恩はいつか国際法廷で裁かれる? 北朝鮮の人権侵害に対し国連で処罰決議採択

2014-11-20 18:46:47 | 北朝鮮のもろもろ
 昨日(11月19日)NHK(→コチラ)その他のメディアで伝えられた通り、18日国連総会の人権問題を扱う第3委員会で、北朝鮮での深刻な人権侵害が国際法上の「人道に対する罪」に当たるとして、国際刑事裁判所(ICC)に付託して責任者の処罰を求める決議案が出席185ヵ国中111ヵ国の賛成で採択されました。 反対は中国、ロシア、イラン、ビルマ(ミャンマー)など19ヵ国、棄権は55ヵ国でした。
 決議案はEUと日本が起案し、60カ国が共同で提出したものです。
 
北朝鮮の人権侵害問題に対するこれまで国連の取り組み[須田洋平弁護士の講演より]

 先週12日、アムネスティ日本東京事務所で開かれた須田洋平弁護士の講演によると、北朝鮮の人権侵害問題に対するこれまで国連の取り組みはおよそ次のようなものでした。

 公開処刑、政治犯収容所での拷問や強制労働、そして拉致問題等々、北朝鮮の人権問題は周知のように以前からありました。
 衛星写真で収容所の存在が知られるようになり、そこで嬰児殺しがあるとも伝えられて、欧米でも問題として取り上げられるようになったのが2002~03年頃です。そのような中で、2004年国連人権委員会(国連人権理事会の前身)では北朝鮮の人権状況を懸念する決議が通ってこの問題が重要なテーマに設定され、以後「特別報告者」に任命されたムンタボンさん(タイ)が2010年まで毎年報告をすることになりました。
 しかし北朝鮮はムンタボンさんの入国を拒否したため、彼は周辺国で調査をして報告書を書いてきました。その2010年の最後の報告書では、北朝鮮には「組織的な国家による人権侵害」があり、またその「責任者の追及が必要」とするなど、一段と踏み込んだ表現になっている上、「「人道に対する罪」に関する調査委員会を立ち上げよ」とも提言しました。これが以後運動が盛り上がるきっかけになったのです。
  調査と事実認定がこの調査委員会の役割で、聞き取りを中心に調査をして報告書にまとめ、その原因や責任を明らかにして国際社会に提言をします。この調査委員会の報告は、先の特別報告者による報告よりも国際世論への影響力がはるかに大きいものです。

 北朝鮮の人権侵害に対する調査委員会の設置に大きな役割を果たしたのが2011年9月に東京で結成されたICNKです。これはアムネスティ・インターナショナル、ヒューマンライツ・ウォッチ、FIDHをはじめ世界各地の40団体で構成された際NGOの連合組織です。
 以後ICNKは、北朝鮮における「人道に対する犯罪」を調査・査察する国連調査委員会(COI)の設立を求めて世界各国でロビイングを続け、その結果2013年に人権理事会の決議で調査委員会が設立されました。

 2013年夏から調査委員会の調査が開始されました。委員はマイケル・カービーさん(オーストラリア.委員長)、ムンタボンさんの後を受けて特別報告者となっていたマルズキ・ダルスマンさん(インドネシア)、そしてソーニャ・ビセルコさん(セルビア)の3人です。
 ところが北朝鮮は聞き取り調査のための入国を認めず、脱北者の送還等で北朝鮮に加担している中国も協力を拒否したため、日本・韓国・アメリカ・イギリスで公聴会を開いて脱北者や専門家の話を聞いたほか、多くの拉致被害者や脱北者がいるタイでも現地調査が行われました。
 このような過程を経て、今年2月調査報告書が公表され、3月に正式に人権理事会に提出されました。その調査報告書は→コチラで見ることができます。このリンク先の最初にある<Report>のリスト上段は36ページの概要版、下段は372ページの詳細報告書です。ただ、前者は英・仏・スペイン・露・中・アラビア語の6ヵ国語、後者は英語だけです。
 また、外務省の公式サイト内に「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)最終報告書」というページがあり、その「本文(英文)及び和文仮訳」、「詳細版の拉致問題関連部分仮訳」、「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会ウェブサイト」とのリンクが張られています(→コチラ)が、とくに、「本文(和文仮訳)」はぜひ目を通してほしいと思います。(→コチラ。)
 これには、数々の人権侵害が列挙されているばかりではなく、調査に対する北朝鮮当局の非協力や、国外居住者さえも北朝鮮当局の監視や報復を恐れて証言をためらうことが調査の大きな障害となったと記されています。

※本ブログでは今年2月の<国連・北朝鮮人権調査委員会の報告書にある全巨里教化所の衝撃的なイラストについて>と題した過去記事(→コチラ)で調査報告書の内容の一部を紹介しました。

調査報告書(今年2月公表)の衝撃的な内容と、ICCへの付託を求める厳しい提言

 調査報告書の内容について、日本ではとくに拉致問題に焦点が当てられて大きく報道されました。しかし北朝鮮国内の住民に対しても「人権侵害のデパート」ともいうべき重大な人権侵害が数多くあることが記されています。また、それらが最高指導者の意思の下で、あらゆる国家組織が関わっているとされています。つまり北朝鮮の人権侵害は北朝鮮の現体制と不可分一体のものであるということです。
 公開処刑のような殺人、政治犯収容所での強制労働(奴隷行為)や拷問・拘禁・性的暴力等の他、「絶滅させる行為」についても報告書では言及されています。これは「食料や医療へのアクセスを妨げて人を死に追いやる行為」のことです。収容所での餓死の事例だけでなく、1990年代、深刻な食糧難に陥っているのに国際社会からの援助を断ったことは国民一般に対する「絶滅させる罪」に当たるのではないかということが示唆されています。調査委員会は「北朝鮮は、食料を国民統制の道具として使っている」と言い切っています。
 強制失踪に当たるのが拉致問題です。また北朝鮮国内である日突然に収容所送りになってしまうのも強制失踪です。日本人政府は17人が拉致され、うち5人が帰国したとしていますが正確な数はわかっていません。(警察の発表では883人が拉致された疑いがあるといっています。) 調査報告書は、詳細な調査の結果100人以上の拉致被害者がいると記しています。
 報告書で脱北者についても言及しています。中国に多くいる脱北者は基本的に難民であり、中国はノン・ルフールマン原則にしたがって彼らを拘束して北朝鮮に送還すべきではないとしています。
 このように、一般国民(や外国人拉致被害者)を対象とした、組織的で広汎な人権侵害が行われているという点で「人道に対する罪」が成立するとして、報告書では安保理が北朝鮮の人権問題をICCに付託するか、または特別裁判所を設けることを提言しています。
 3月、人権理事会は国連総会に対してこの調査報告書を安保理に提出することを求めました。つまり、北朝鮮の人権問題のICCへの付託あるいは特別裁判所の設置です。
 調査報告書によれば、かりに安保理でICCへの付託や特別裁判所の設置が否決されたとしてもそれで終わりではなく、国連総会で特別裁判所の設置を決めることができます。

拉致問題も、北朝鮮国内の問題など数多くの人権侵害のひとつとして訴えるべき

 以上が前述のICNKにも設立時から関わってきたという須田洋平弁護士の講演の要旨です。北朝鮮人権問題に対する国連のこの約10年の流れの現在の状況がよくわかる内容でした。
 とくに私ヌルボが共感を覚えたのは、次のような提言です。
 拉致問題について日本政府は積極的にアピールすべきですが、その際日本人の拉致のみを強調するのでなく、まず北朝鮮国内で人権侵害を受けている人たちを助けるべきこと、そしてヨーロッパや東南アジア等の多くの国に拉致被害者がいることを広く訴える必要があります。それがより多くの力を結集することにつながります。

 北朝鮮のさまざまな深刻な人権侵害は、政治的立場以前の問題だと思います。

    「脱北者・申東赫(シン・ドンヒョク)氏の証言は捏造」だって!?
北朝鮮の必死の「逆宣伝」も通じず、非同盟諸国の多くも決議案賛成に回る

 さて、上述のような経緯を経て、今秋に入り国連で北朝鮮の人権問題のICCへの付託が現実の課題となると、北朝鮮の動きが「活発化」してきました。
 11月17日の朝日新聞は「北朝鮮、異例の国連外交 DVD配り「人権侵害ウソ」」との見出しの記事を掲載しました。(→コチラ。)
 その記事によると、「国連総会第3委員会では今週にも、安全保障理事会に北朝鮮の人権問題を国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう促す決議案が採決される見通し。最高指導者の責任にも触れる決議案が総会を通るのを何としても避けたい北朝鮮は、異例の対話姿勢に転じた」とのことで、北朝鮮国連代表部は10月7日に独自の人権報告書を配布して人権問題の存在を否定し、また「嘘と真実(Lie and Truth)」と題するDVDも配布しました。「米国と悪意に満ちた勢力が、我が国に存在しない人権侵害を子どもじみた策略で広めている」と訴え、脱北者の申東赫(シン・ドンヒョク)さんの実父とされる男性等が「収容所で暮らしたことはない」などと証言を否定する映像が流れるというものです。
 ※申東赫さんについては→コチラと→コチラの過去記事を参照のこと。 
 この「嘘と真実」の動画は、北朝鮮の公式サイト<ウリミンジョクキリ(わが民族同士>中の→コチラの記事で見ることができます。(英語字幕付き) また、YouTubeにもアップされています。→1・→2
 この動画については、10月31日の毎日新聞の記事「東アジアの気になるあれこれ:対外宣伝用動画から見える日朝協議の困難」(→コチラ)に詳述されています。
 また11月6日BLOGOSには、「北朝鮮メディア:人権問題について脱北者の「うそ」を暴く動画を公開」との見出しのついた新華ニュースが翻訳・掲載されています。(→コチラ。)
 そして11月19日韓国紙・東亜日報にはファン・ホテク論説委員の「シン・ドンヒョクは捏造か?」と題したコラム(韓国語)が掲載されています。(→コチラ。) それによると申東赫さんはFACEBOOKで動画中の人物が父であることを認めつつ「北朝鮮が父を人質にした」と非難しているとのことです。コラムは申東赫と国家情報院に北朝鮮に具体的に反論せよと述べています。
 「最高尊厳」の訴追(&人権問題の解消→体制の破綻)をなんとか阻止しようという北朝鮮側の「逆宣伝」は結局実を結ばす、冒頭に記したように国際刑事裁判所(ICC)に付託して責任者の処罰を求める決議案は採択されました。北朝鮮に好意的だった非同盟諸国の相当数も賛成票を投じたそうです。

安保理の見通し等、今後の展開はどうなる?

 今回の国連決議について、韓国メディアの中では、進歩陣営の代表紙「ハンギョレ」がICC付託の部分を除いたキューバによる修正案(否決された)のことも含め詳しく報じているのが注目されます。(→コチラ.日本語版。)
 一方、保守系3紙はいずれも今日20日の社説でこのニュースを取り上げています。→「朝鮮日報」「東亜日報」「中央日報」(いずれも日本語版)で、「韓国政府も北朝鮮人権に関連した韓国の役割と責任をしっかり検討して、必要な戦略と措置を用意しなければならない。人権弾圧に対する沈黙は、結果的に擁護と変わらないというのが国際社会の見解だ」(「中央日報」)と政府に注文をつけたり、安保理で反対するとみられる中国とロシアに対して「両国は、北朝鮮をかばう前に人権の普遍的価値と北朝鮮住民の苦痛を考えなければならない。人権は決して他国が干渉できない一国の内政問題と見ることはできない」(「東亜日報」)と牽制している点は3紙に共通しています。
 また「朝鮮日報」はこの社説で、また「東亜日報」は→コチラの記事で、10年間も韓国内で棚上げ状態のままで成立をみていない北朝鮮人権法について言及しています。
 北朝鮮の劣悪な人権の現実に厳しく対応しようとする保守陣営に対し、「人権問題の提起は南北関係に否定的な影響を及ぼす」と反発し、南北間の対話や人道支援の活性化を通じて人権状況の改善を図ろうというのが進歩陣営。その両者の対立でここまで平行線をたどってきたというものです。
 上述した調査委員会のマイケル・カービー委員長は、実態調査後の2013年11月、「東亜日報」の取材の場で「北朝鮮の人権に対する韓国の無関心にがっかりした」と述べました。(→コチラ参照(日本語)。)
 今回の国連の決議が、はたして韓国の世論になんらかの影響を及ぼすでしょうか?(かなり疑問・・・。)
 今後、安保理の常任理事国の中国やロシアがどう出るか注目されるところですが、上述のように安保理で否決されたとしても国連総会で特別裁判所の設置を決めることができるとのことですから、この問題は長く続きそうです。
 なお、ICCは規定では2002年7月1日以降の犯罪しか裁けないとされているそうです。ということはそれ以前の拉致事件等は裁けないということなので、特別裁判所を作った方がいいのではと、須田洋平弁護士は語っていました。

※蛇足、かな?
 講演の後の質疑で、韓国人留学生という方から「現地調査のない中で、脱北者の証言の信頼性はいかに確保されるのか?」といった質問がありました。
 「脱北者の証言」や「元慰安婦のハルモニの証言」等への信頼度は、聞く人の「政治的立場」によってずいぶん違ってくるんだろうな、と思った次第です。(この方は「政治的立場」と関係なく質問したのかもしれませんが・・・。)
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4月13日平壌国際マラソンに外国人市民ランナーたちも参加。 日本からのツアーは30万円以上!

2014-05-03 22:22:59 | 北朝鮮のもろもろ
 万景台賞マラソン大会(通称:平壌国際マラソン大会)は今年27回目。
 4月13日開催というのは、15日の<太陽節(金日成誕生日)>祝賀という意味があるとのことです。→コチラの記事
によると、昨年までは、男子は2時間27分以内、女子は2時間38分以内という高い参加基準がありのしたが、今回初めて世界各地の観光客の参加が認められました。(それでも4時間以内に42キロを完走できなければスタート地点に戻されるのだそうですが・・・。)

 当日の競技のようすは「産経新聞」(共同)等でも報道されました。日本からも会社経営者(44)の方が参加されたそうです。そして「トップクラスのレースでは、男女とも北朝鮮の選手が優勝」ということで、北朝鮮選手・関係者はホッとしたことでしょう。
 ※ANNニュースの動画もYouTubeにアップされています。(→コチラ。)
 ※ランナー(カナダ出身・上海在住のJen Loongさん)による写真集は→コチラ

 そして、今日(5月3日)の「中央日報」にはさらに詳しい記事が載っていました。(→コチラ.韓国語。)
 それによると、27ヵ国から225人出場したアマチュア選手のほとんどは「<マラソン>よりも<平壌>に引かれたようだ」(北朝鮮専門旅行会社の代表の言)とのこと。(そりゃそうでしょ。)
 以下は、北京で雑誌記者として働くイギリス人ウィル•フィリップスさんへのインタビューから。
・最初は最初は音楽を聴きながら走るのはダメとか、国旗や特定のメッセージはダメとされていたが、ドイツやイギリスの国旗をつけている人やMP3プレーヤーを持って走る人を見た。
・ナイキやアディダス等のロゴも問題なし。後で聞いた話では、日本とアメリカの国旗は禁止されたそうだ。カメラを持って走ることもでき、 いちいちチェックされることもなかった。
・簡易トイレもなく、用足しは建物の2階で。
・ガイドなしで身近に平壌を見ることができた。
平壌は1960年代で止まってしまった都市だった。ネオンサインも広告の看板もなかった。 衛星アンテナとエアコンが設置されたロシア大使館の前を通り過ぎたが、平壌のどんな建物もこのような施設を備えていなかった。 灰色の道路を走る古い路面電車を見ると、緑の草さえ過去から来たような感じがした。
・参加手続きが複雑なことと、3日間の日程で900ユーロ(約13万円)という費用はいかがなものか?


 ・・・ということですが、私ヌルボの感想としてはとくに驚くこともありませんでした。あ、ガイドなしで街を歩いて、一般市民が「こんにちは」と挨拶してくれたりして「通常の大会で出会う人々と変わらなかった」というのは意外かもしれません。が、考えてみればヌルボが1991年に行った時もその気になれば機会がなかったわけではありません。実際、各施設の職員等何人かとはカタコトながら話はしました。

 ところで、「産経新聞」の記事を読んで「あれっ、今日本人が北朝鮮に行けるの!?」と疑問に思った人はもしかして大勢いらっしゃるのでは?
 直接でなければ行けるのです。
 まさにこの平壌マラソンへの参加を募っている旅行社のサイトと、そのツアーの詳細を見つけました。
 その<北京から平壌、開城、マラソン大会の5日間 日本人参加可能マラソン大会>の日程・料金等は→コチラ
 マラソン参加だけでなく、北朝鮮観光お決まりの万寿台等の「聖地」巡礼の他、定番のいろいろ(国家贈り物館はヌルボ行ってないんですよ。サーカス観覧も。) オプションで犬鍋(!)なんかもあるのは魅力ですね(?)。開城&板門店観光も入っているし・・・。
 しかし。
 お値段の方は北京発&着の4泊5日でお1人様だと¥285,000+国際線航空券。さらに施設入場料等々が別途加算され、もちろん日本→北京の往復飛行機代もあるわけだから、30数万円から、北京での宿泊等も考えると40万円くらいになるかも・・・。
 1991年のヌルボの旅行も8日間くらいで約30万円かかったからなー・・・。

 この朝鮮国際旅行社代理店(スリーオーセブンインターナショナル)のサイトのトップページ(→コチラ)を見ると、北朝鮮内では開城や白頭山等へのツアーが用意されています。
 ※白頭山は私ヌルボ、2004年に中国の側から行ったことがあるんですよ~、ふっふっ。相当に細々と記した旅行記録があるので、いずれ何回かに分けて公開するかな。(と、いつもの空手形。)
 その他、いろんな国々へのツアーが・・・、と見てみると、お、シリアもあるでないの!と思ったら、さすがに「現在政情不安のため手配は控えさせていただいています」と但し書きが・・・。
しかし、モロッコだのブータンだの、興味をそそられる国名がならんでます。リビアなんてとくにゾクゾクしませんか?
 それから、注目は、これ!
 本物のカンボジア陸軍の戦車に乗車して「バズーカ砲やマシンガン射撃、戦車乗車などのオプションを体験」(→コチラ)というツアーがあるんですねー。バズーカ砲1発のほか、マシンガン 100発、カラシニコフ30発を撃つことができるそうです。(→コチラ。)
 いやー、こういうことをやってみたいという需要があるところには、ちゃんと供給があるものですね。
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映画「北朝鮮強制収容所に生まれて」を観て考えたこと。とくに虐待をした「加害者」のこと等。

2014-03-27 19:54:20 | 北朝鮮のもろもろ
 3月10日のユーロスペース。13:00からの「北朝鮮強制収容所に生まれて」は、9割ほど、つまり100人以上の観客の入り。平日の昼過ぎなのにこの大入りは、上映後に宇都宮健児さんのトークがあったからです。

 先に申東赫(シン・ドンヒョク)さんの手記等を読んでいたため、映画のおおよそはすでに知っていることではありましたが、それでも映像の力は大きいなと思いました。

 本に書かれていないことで私ヌルボがとくに注目したのは、収容所の元秘密警察要員のO氏と、第14号収容所の保衛員だったK氏の証言が含まれていたこと。

 K氏は14号管理所の警備員指導者、O氏は(自らも言う)ゲシュタポのような秘密警察で数百人の市民を収容所に送り込んだ後尋問と拷問、処刑を行った人物。私ヌルボの判断で、実名は避けます。ネット検索すれば名前も顔写真もあるのですが。
 しかし、印刷物や日韓のネット上の記事をいろいろ見ても、両氏の経歴については当時の職位をはじめどうもはっきりしません。
 つまり、2人とも、かつてはれっきとした「加害者」だった人たちです。

 宇都宮さんは、申東赫さんについて「人間は、人間に生まれるのではなく、周りの環境等によって人間になっていく」のであり、「家族も、(最初から家族間の愛情や結びつきがあるのではなく)家族になっていく」のだ、と感想を述べておられましたが、私ヌルボもナットク。
 それから、上記O氏やK氏のような保衛員等として収容者を虐待したり殺したりした人も、(映像でみるような)一般の人であるのもかかわらず環境によってひどいことをやってしまう。「人間とは何か」ということを考えさせる、と語っておられました。

 パンフレット中の「マルク・ヴィーゼ監督へのインタビュー」によると、「かつての司令官(K氏)と収容所の警備員(O氏)は「アシスタントをしてくれた韓国の有名な女性ジャーナリスト」が見つけてくれたとのことです。
 元警備員について、監督は次のように語っています。

 彼は職場から抜け出してきた銀行員のようなスーツ姿で現れ、カメラの前に座ると、どのようにして人を虐殺したか語った。悪びれもせずにね。その人をモンスターに仕立てたくなかったから、その私生活を映し、ごく普通の父親という側面も見せた。その日とはとても単純な加害者だった。彼が馬鹿だというつもりはないが、とてもあけすけだった。彼は、いかにして水責めなどの拷問により人を殺したか、瞬きもせずに語った。女性をどのように強姦したかについて、また、妊娠すると殺したということについても、一人称で話した。通常、加害者はもう少し距離を置いて話すものだが。“そうした習慣になっていた”とか、“その人たちはそうした”というようにね。しかし、彼はそうする必要性を感じておらず、一人称で語ったのだ。

 そしてもう1人のK氏。

 それから、アシスタントは元高官の加害者も見つけ、彼のほうがもう少し知的だろうと告げた。彼は撮影に対し大きな制限を設け、自宅には来ないでくれ、どこも取材しないでくれ、とはっきり言った。撮影場所で1回だけ撮影したら去ってくれ、とね。それは非常にすばらしいインタビューになった。

 K氏は、自分のような者が一番恐れるのは南北統一「収容所の囚人たちから報復を受けるだろう」と語っていました。また今回の取材に対しては「申東赫のことについてだけ話すつもりだったのに・・・」と独り言も・・・。つまり今の彼は、自己の過去の行跡がどのようなものであったかわかっているようです。しかし、今回の取材では、自分の立場をあやうくするような、よけいなことをつい話してしまったということ。
 そして最後に、次のように呟いていました。
 「指示通りにしただけだ」。

 今まで、いろんな本や映画で読んだり聞いたりした言葉です。

 実は、このブログ記事が遅れてしまった大きな理由は、同様の事例をいろいろ思い起こしたり調べたりしたことと、それについて考えたりしていたからです。

 映画や本では、たとえば次のような作品。
 映画:「ハンナ・アーレント」
    「私は貝になりたい」
    「アンボンで何が裁かれたか?」

 小説:シュリンク「朗読者」 ※「愛を読むひと」のタイトルで映画化。
    岩川隆「神を信ぜず BC級戦犯の墓碑銘」
 ※オーストラリア映画「アンボンで何が裁かれたか」については、ご存知ない方が多いのでは? →コチラにかなり詳しく記されています。

 これらの作品は、捕虜収容所や強制収容所で、被収容者に対する虐待や虐殺に対して、加害者である職員や兵士の責任を問うものです。

 それぞれの事例を見ると、加害者の行為や意識はさまざまです。当時も、戦争後(現在)も。
 そして、彼らに対する見解や、裁判等の結果もまたさまざまです。

 それらを分ける要素には、次のようなものがあります。

[当時]
 ・加害者の地位と権限
 ・加害のレベル。残虐さや、「職務」を超えるものだったか否か?
 ・加害者の意識。「良心の呵責」の有無。逆に、「悪い者を罰する」という「正義感」や、「職務に忠実である」ということに誇りをもっている場合も。「悪い奴に対しては何をよい」という心理から蛮行を働いた者も。

[現在]
 ・過去の自らの行為について、「よくないことをした」という意識があるか、否か?
 ・「よくないことをした」と思っている場合、強い罪責感があるか、それとも「上官・上司の命令」「当時の雰囲気」等々で「仕方がなかった」「他の選択肢がなかった」と考え、罪責感はないか?
 ・被害者等のよる糾弾や告発があるか、否か?
 ・加害者に、なんらかの同情すべき要件があるか、否か?
 ・過去の虐待・虐殺等の問題が、その後(現在)の政治的な案件と関わったものとされるか、否か?

 これらの違いにより、たとえば「私は貝になりたい」や「朗読者」の主人公は「同情的」に受けとめられます。(自分たちと同じような)ふつうの庶民が、裁かれて刑に処せられるとは・・・。本当に悪い奴は別にいるのに・・・というように。
 「当時の価値観に洗脳されていた」というのも同情・共感を引く要素のひとつ。現実の事件として、あの金賢姫が死刑宣告を受けながらも、その後まもなく特赦を受けて一市民として解放されたのも、そうした点が勘案されたのでは? (同じ「洗脳」でも、オウム真理教関係は全然違いますね。)

 では、今まで、そして今も北朝鮮の強制収容所で虐待を繰り返している「加害者」たちは将来、たとえば南北が統一されれば処罰されることになるのか?

 上述のK氏の場合は危機感を持っているということなんですね。
 一方、O氏の場合はあまりに無頓着。

 このテーマに関連する映画で、渋谷のシアター・イメージフォーラムで4月12日から「アクト・オブ・キリング」という超問題作が公開されます。
 インドネシアで、スハルトがスカルノ大統領にかわっての実権を掌握する1965~66年の2年間、各地で約50万~200万人にのぼる市民が共産党シンパとみなされて虐殺されたそうです。その虐殺の「加害者」についてのドキュメンタリーです。彼らは、上記の「罪責感の有無」どころか、なんと現在も「英雄」であり、自身それを「誇り」としているのです。
 詳しくは2月25日TBSラジオ「たまむすび」の中で町山智浩氏が「暫定今年1位!」と熱を込めて紹介しているトークをぜひ聴いてみて下さい。

  

※「アクト・オブ・キリング」の公式サイトは→コチラです。

 「北朝鮮強制収容所に生まれて」のヴィーゼ監督は「これが収容所の囚人だけについての映画だとは思っていない。むしろ、独裁政権により生き方を定められた3人についての映画だと思っている」とも語っています。
 このような虐待・虐殺事件における加害者-被害者の問題は、この映画や上記の各事例だけの問題ではなく、国家権力と個人、善悪の基準やそれに関わる行為の評価等々、人の生き方や考え方についての基本的で根源的な問題というべきものだと思います。

 私ヌルボ、今回もまた調べたり考えたりしているうちに、結論が見えてくるどころかかえって「明確に言えること」がなくなってきた感じです。あーあ・・・。

[蛇足]
 宇都宮さんのトーク、やっぱり、と言ってはなんですが、「北朝鮮の人権問題をへイトスピーチ等のネタにしたりしないで、日本の中での人権問題も考えてみてほしい」という趣旨のことも話されていました。
 ヌルボ思うに、そういう話をつけ加えるのが北朝鮮問題を日本で語る際の1つの形になってしまっていますね。他の世界各国での人権問題を論ずる場合にはこのようなことをつけ加えたりはしないのに・・・。
 そう言わざるをえない「現実」もあるでしょうが、昨年の生保の問題やヘイトスピーチ等の人権問題と、生存権からして常に危機にさらされ、すべての自由が否定されている人たちが20万人(?)もいるという北朝鮮収容所の問題とは次元が違うのではないかと思うのですが・・・。
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北朝鮮関係の記事の情報源はどうなっているのだろう?

2014-03-20 23:41:10 | 北朝鮮のもろもろ
 今日3月21日。「毎日新聞 夕刊」の特集ワイドで、鈴木琢磨記者の「横田夫妻と孫が面会 北朝鮮の思惑は」という記事(→コチラ。会員制)が掲載されています。

 それによると、ウランバートルでの横田夫妻と孫娘との面会のニュースは3月16日の「読売新聞」(→コチラ)のスクープだったんですね。政府の情報関係者もそれを見て知ったとか。

 で、この鈴木琢磨記者といえば、あの佐藤優氏が信頼を置いているという北朝鮮情報通で、そういえば共著も刊行していますね。(→コチラ。) また、TVでもコメンテーターとしてちょくちょく(?)顔を出しているようです。
 その一方、「毎日新聞 夕刊」では2006~09年に「今夜も赤ちょうちん」という洒脱な連載記事を載せていました。(→その後ちくま文庫で刊行。)

 私ヌルボ、以前その居酒屋めぐりの記事を読みながら、鈴木記者も今は北朝鮮取材の最前線から退いて、のんびりとベテラン記者生活を過ごしているのかなと思ったりもしたのですが、そうでもないみたいですね。

 しかし、鈴木琢磨記者にしてもスクープをした読売の記者にしても、どういうふうにして情報を得るのでしょうか? 
 ※今日の夕刊の鈴木記者の記事中にも、「平壌の活動家マニュアルともいうべき「祖国繁栄の偉大な旗 金正日愛国主義」(社会科学出版社)をつい先ごろ入手した」というようなことがさらっと書かれているし・・・。

 報道記事記事には、「○○によると・・・」と情報源を明記しているものもあれば、「消息筋によると・・・」とぼかしているものもあります。
 そして上記の「読売」のスクープ記事の場合は、(横田夫妻等は)「今月10~14日、モンゴルのウランバートルで、初めて面会していたことが分かった」と書かれているだけで、「なぜ分かったのか」については記されていません。「徹底したかん口令」をも乗り越えるような「特別な人脈」でもあったのでしょうか?

 ところで、最近私ヌルボが情報ルートについてあれこれ考えさせられたのは「文藝春秋」3月号掲載の「米太平洋軍が傍受した張成沢粛清の内幕」という記事。「北朝鮮の核と弾道ミサイルを牛耳る真のナンバー2の「正体」」という副題がついていて、内容は要するに金正恩は崔竜海等の軍のトップのロボットのようなものではなく、逆に彼らを抑える強い権力を持つに至っているということ。そして彼に影響力を持つ人物はというと、金日成に繋がる<白頭血統>で、とくに金正恩の腹違いの姉の金雪松(キム・ソルソン.39歳)とその夫のシン・ボクナムということ。
 この記事は、意外性に乏しい韓国・朝鮮記事がアマタ出回っている中、なかなか興味深い内容でした。(「さすが文藝春秋!」とちょっと思ったものの、今出ている4月号の「朴槿恵「反日大統領」の深い孤独」はどうということのない記事でした(笑)。)

 で、どういうところが興味深いかというと、崔竜海なんかも金正恩の前では平伏していて、とてもああしろ、こうしろというような口の聞ける関係ではないとか、シン・ボクナムは金正恩とうちとけた雰囲気で話していたとか、ディーテイルが書かれている点。
 それらは、記事の副題にあるような米太平洋軍の傍受でも、そしてもちろんスパイ衛星でも知りえない屋内のことではないですか。
 そんな内部情報がどんな経路で、よりによって、この記事の筆者である評論家・田中博氏のところに入ってきたのでしょうか?
 それについては何も書かれていません。
 記事の最初の方にあるように、北朝鮮内に潜入するにも白人ならすぐに目についてしまうし・・・。(何かの仕事を装って「情報収集」をしている人はいるかもしれませんが。)
 そこで参考になるかもしれないのが昨年12月13日付「中央日報(日本語版)」の「金正恩、「白頭の血統」も崩すか…北の権力構図「運命の17日」」という記事。(→コチラ。)
 そこではすでに「国会外交通商委所属の民主党・洪翼杓(ホン・イクピョ)議員は11日に開かれた安保討論会で「金雪松が労働党組織指導部で重要職責を担っており、張成沢の粛清を主導した」として「金雪松と夫のシン・ボクナムが今後、権力の核心に浮上する可能性が大きい」と主張した」と記されています。
 ・・・ということは、韓国の国家情報院あたりがからんでいるのか・・・。
 権力層内部の、それもごく内輪の具体的な情報が外に漏れると、関係者が少ないほど漏洩者が絞られます。 そんなことも関係して、虚々実々の駆け引きのようなものもあるようです。(わざとウソの情報を流すとか・・・。)

 そのあたりの内幕もわからないわれわれ読者としては、確実なこととそうでないことを見分けながら、また「どんな意図の下にその情報が流されているのか」等も考えながら、100%うのみにしないで接するしかないということでしょうか。
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