▶先週の記事で「花束みたいな恋をした」に関連して本のことを書きました。その映画の中で「その人は、きっと今村夏子さんのピクニック読んでも何も感じない人だ」というセリフがちょっとしたキーワードのような形で語られます。(→コチラ) 私ヌルボは未読だったし、気になったので読んでみました。もちろん自分自身が「何も感じない人」かどうかPCR検査を受けるような感じ(?)で。ネット上にも関連記事が多数ある中、とくに参考にかつたのは次の3つ(いずれもネタバレ)。→その1、→その2、→その3。
で判定結果は、「何も感じない」の意味が「作者の<仕掛け>がわからない」ということならno、「感動しない」ということならyesでした。今村夏子の芥川賞受賞作「むらさきのスカートの女」は文藝春秋で読んでいて、その時とほぼ同じ感想。その時の選者たちの選評は→コチラで読むことができますが、その中で私ヌルボが共感を抱いたのは高樹のぶ子さんの「裏に必死な切実さが感じられなければ・・・」というくだり、そして島田雅彦さんの「商品としては実にウエルメイド」「エンターテイメント・スキルだけでは「物足りない」のも事実」という指摘です。今村夏子さんは2010年には「あたらしい娘」(→「こちらあみ子」に改題)で太宰治賞を受賞しました。約半世紀前、私ヌルボの青春期を思い起こすと、1969年の太宰治賞・秦恒平「清経入水」はその年の「展望」8月号(大学闘争の真っただ中)で読みました。 また1970年下半期の芥川賞は古井由吉「杳子」で、これも受賞の前に「文芸」同年70年8月号(大学闘争の衰退期)で読み、何か新しい感覚が呼び覚まされた感じでした。しかし半世紀経った今、これらの本についていくら熱く語ってもとくに若い世代(だけじゃないネ)には通じないだろうし、先週の記事にも書いたように「何を求めて本を読むのか?」ということから決定的な違いがあるように思います。
▶上記の本の話はアカデミー賞について書く前フリのつもりで書き始めたのがつい長くなりすぎてしまいました。「ミナリ」に続いてアカデミー賞作品賞の最有力候補とされている「ノマドランド」を観て「やっぱりなー」と思ったことがあります。それはドチラも観終わってカタルシスがない!ということ。もちろんそれが<名作>の条件じゃないことは十分(?)承知していますが・・・。1年ほど前にも書きましたが、<歴代のアカデミー賞作品賞>を→コチラ等を見ながら振り返ってみると、近年(とくにこの10年)「コレは感動した! みんな観てね!」という作品はほとんどないんですよねー。<アカデミー賞歴代ランキング>(→コチラ)を見ても上位30位中の製作年は40年代=6、50年代=5、60年代=5、70年代=6で7割を超えています。映画と小説を比べると、本来的に映画の方が娯楽性は高かったはずだし、今もそうなんでしょうが、社会派的傾向のベルリン、文学的な傾向のカンヌ、芸術的な傾向のベネチアといったヨーロッパの映画賞に対して、以前は娯楽性も重視していたはず(?)のアカデミー賞がこのところ社会的・政治的イシュー(トレンド??)にかなりとらわれるようになってきているようです。私ヌルボとしては、やっぱり多くのファンが楽しめる作品を中心に選んでほしいと思いますが・・・。
※その一方、日本の芥川賞、いや小説全体がもしかしてエンタメっぽくなってるなじゃないの!?・・・と言いたかったのサ。
▶この1週間で観た映画は以下の2本です。
・「藁にもすがる獣たち」★★★★(観客がアタマの中で時系列を再構成するんだな、と早目に気づかないとな・・・と、こんなチミツな構成は日本人作家(曽根圭介)の原作だから? amazonの3年前のレビューに「映像化不可能の面白さ」とあったが、映像化しちゃったのは韓国だから? エゲツナイシーンがあるのも韓国映画だから、ってのも固定観念先行の見方かも。ユン・ヨジョン先生扮したおばあさんが盛大に燃え上がる炎を家族とボーッと見てるシーン、いくら記憶力の鈍い私ヌルボでもコレは憶えてるゾ・・・。)
・「ノマドランド」★★★★☆ (広大な自然が広がるアメリカ中西部の道をキャンピングカーをねぐらとして行き来している季節労働者たちがこんなにも大勢いるとは! Amazonの作業場もあるし・・・。彼らが親しくハグしたり言葉を交わしたり、美しい自然を背景に食事をする場面を見ると「1週間程度なら」そんな旅も悪くないかも、と思うかもしれないが・・・。「ミナリ」と比べると会話の穏やかさが対照的(笑)。)
▶今回の記事で紹介した作品の中で個人的に「コレは観たい!」と思ったのは、第19回東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した「アイカ」と、韓国映画の「ファイター」です。
▶今年の<花開くコリア・アニメーション2021+アジア>(花コリ2021)はオンライン開催となりました。期間は5月19日(水)昼12時~23日(日)深夜12時。詳しくは→公式サイト参照。
★★★ NAVERの人気順位(3月30日現在上映中映画) ★★★
【ネチズンによる順位】
※[記者・評論家による順位]とも、評点の後の( )は採点者数。初公開から1年以内の作品が対象。
「初登場」とは、本ブログでの初登場の意。
①(新) 復活(韓国) 9.66(104)
②(1) モンテ・クリスト:ザ・ミュージカル・ライブ(韓国) 9.59(29)
③(3) そしてパン・ヘンジャ(韓国) 9.52(31)
④(新) アイカ 9.50(10)
⑤(4) きみの瞳が問いかけている(日本) 9.49(49)
⑥(5) 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン(日本) 9.48(1,015)
⑦(-) カナの婚宴:口約 9.42(373)
⑧(-) ブータン 山の教室 9.42(155)
⑨(6) ドリーム・ファクトリー 9.42(38)
⑩(7) 復活: その証拠(韓国) 9.34(399)
①と④の2作品が新登場です。
①「復活」は、スーダンの小さな町トンズで内乱が長く続く中、貧困や病に苦しむ人々の中に入り、医者・教師、さらには指揮者・建築家としても献身的に尽くした「トンズの父」こと故イ・テソク神父の48歳の生涯を撮ったドキュメンタリー「泣くな、トンズ」(2010)と、その続編「泣くな、トンズ2:シュクラン ババ」(2020)に続くドキュメンタリーです。イ・テソク神父がトンズに蒔いた愛の種が花を開いているという話です。10年後、彼の愛に育った弟子たちを訪ねて行くと、医師、薬剤師、公務員、医学部に通う弟子等々40人余り。驚くべきことに、誰もがイ・テソク神父の生活を生きていました。10万キロの長い道程を歩き、1年間彼らを追跡した本作。人々は神父が戻ってきたと喜んでくれました。人間が人間に対して花になってゆく、そんな感動を公開します・・・。原題は「부활」です。
④「アイカ」はロシア・カザフスタン・ドイツ・ポーランド・中国合作のドラマ。2018年第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の出品作で、主演のサマル・エスリャーモヴァが最優秀女優賞を受賞しました。また同年の第19回東京フィルメックスのコンペティション部門でも最優秀作品賞を受賞した作品です。物語の舞台は冬のモスクワ。20代の女性アイカ(サマル・エスリャーモヴァ)は、より良い生活を夢見てキルギス共和国から出稼ぎに来ています。しかしアイカが持つ外国人用の労働許可証の期限はすでに切れているし、彼女のような出稼ぎ労働者にまともな仕事の口はありません。彼女は市内の病院で出産しますが、やっと得た仕事を守るため、赤ん坊を産んで初乳もしないうちに病院から逃げてしまいます。病院を出たアイカは体の具合が悪いのに、なんとかそれまでの職場、鶏肉処理場に復帰します。しかし月給は踏み倒されて、また新しい仕事を探さなければならなりません。さまよい歩く街に積もった雪のように、疲れる毎日が彼女にのしかかります・・・。韓国題は「아이카」。日本公開は未定のようです。(上記のような<実績>もあるのに、なんで?)
【記者・評論家による順位】
①(1) ソウルフル・ワールド 8.44(9)
②(-) Mank/マンク 8.14(7)
③(新) スパイの妻(日本) 8.00(5)
④夏時間[ハラボジの家](韓国) 7.83(12)
⑤(2) ミナリ 7.58(12)
⑥(3) 冬の夜に(韓国) 7.33(6)
⑦(新) アイカ 7.20(5)
⑧(4) 本当に遠いところ(韓国) 7.14(7)
⑨(-) ブータン 山の教室 7.00(5)
⑩(6) 光と鉄(韓国) 6.83(6)
③と⑦の2作品が新登場です。
③「スパイの妻」は、昨年の第25回釜山国際映画祭ガラプレゼンテーションに出品された作品。黒沢清監督はコロナ禍のため釜山に行けませんでしたが、「韓国の方々がこの話をどのように受け止めるのか、僕としても興味がある」と語っていました。この高評価は私ヌルボとしては予想通り。今、あの旧満州での<おぞましい話>に対する関心は日本よりも韓国の方が高いようだし(ホンマか?)。ネチズンのレビューを見てもほとんど好評。「<個人的な快適さと利己的愛国心を捨てた"変な男>を眺める視線に。久しぶりにどっしりとした戦争映画が出てきた」等々。なお、「蒼井優がこのような傾向の映画を撮ったのは意外」との感想がいくつもありました。「これまでの思想が変わった?」なんてのもあったりして・・・。韓国題は「스파이의 아내」です。
⑦「アイカ」については上述しました。
★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績3月26日(金)~3月28日(日) ★★★
「ゴジラvsコング」が日本より7週早く韓国に上陸、即1位
【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(新)・・ゴジラvsコング・・・・・・・・・・・・・3/25 ・・・285,905 ・・・・・・・325,086 ・・・・・・3,151 ・・・・1,295
2(2)・・劇場版「鬼滅の刃」・・・・・・・・・・・・1/27 ・・・・87,755 ・・・・・1,481,868 ・・・・・14,268 ・・・・・・709
無限列車編(日本)
3(1)・・ミナリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3/03 ・・・・64,430 ・・・・・・・817,255 ・・・・・・7,416 ・・・・・・756
4(21)・・ザ・ボックス(韓国)・・・・・・・・・・3/24 ・・・・36,078・・・・・・・・・75,723 ・・・・・・・・621 ・・・・・・331
5(30)・・催眠(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・3/24 ・・・・25,617・・・・・・・・・36,663 ・・・・・・・・337 ・・・・・・506
6(3)・・ラーヤと龍の王国・・・・・・・・・・・・3/04 ・・・・19,146 ・・・・・・・302,254 ・・・・・・2,797 ・・・・・・418
7(5)・・ソウルフル・ワールド・・・・・・・・・1/20 ・・・・・7,568・・・・・・2,036,088 ・・・・・18,920 ・・・・・・183
8(35)・・スパイの妻(日本)・・・・・・・・・・・3/25 ・・・・・3,538 ・・・・・・・・・・4,983 ・・・・・・・・・44・・・・・・・120
9(8)・・モンテ・クリスト・・・・・・・・・・・・・3/19 ・・・・・2,680 ・・・・・・・・・13,010・・・・・・・・257・・・・・・・・75
:ザ・ミュージカル・ライブ(韓国)
10(9)・・ブレイブ・オン・ザ・ファイア・・3/17 ・・・・・2,128・・・・・・・・・14,348 ・・・・・・・・113・・・・・・・・75
※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。
新登場は1・4・5・8位の4作品です。
1位「ゴジラvsコング」は日本でも公開が近づいていて(5月14日)、→予告編も→公式サイトも当然用意されているので、内容等は一切省略します。韓国題は「고질라 VS. 콩」です。
4位「ザ・ボックス」は韓国のドラマ。100のうち99は合わなくても、たった1つ合うものがあるとすればそれは音楽、という2人の若者。1人は、ボックス(ダンボール)の中では音楽的才能が爆発するジフン(パク・チャニョル)、もう1人は今は文無しだけど音楽については本能的な感覚に優れたプロデューサーのミンス(チョ・ダルファン)。偶然ジフンを発見したミンスは、10回の舞台を共にすることを確約させてバスキング(路上ライブ)の旅を始めます。ジフンの最初の舞台は有名な仁川のチャイナタウン。人々の前では歌えないジフンのために、ミンスはジフンの身長でも入れる大型冷蔵庫のボックスを手に入れて誰でもが知ってる歌にしようと提案し、ジフンは「愛国歌」(国歌)をエレキギターで演奏します。それは見る人を予想外に楽しませることになり、以後<ザ・ボックス>は、全州、光州5.18民主広場、慶州の瞻星台、麗水、蔚山、そして最後は釜山の海雲台(ヘウンデ)。これら各地の美しい背景を舞台に、コールドプレイ、ビリー・アイリシュ、ファレル・ウィリアムス、マライア・キャリー等の曲を演奏します。このように各地を移動する度に、路上ライブはより完成度を高め、観客の期待も高まっていきます・・・。ふうん、ルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」も、ねー。ところで、この映画どう終わるのかな? 原題は「더 박스」です。
5位「催眠」は韓国のスリラー。学校生活に忠実な英文科の大学生ドヒョン(イ・ダウィット)。偶然、編入生ジノ(キム・ナム)を通して催眠に関心を抱き、チェ教授(ソン・ビョンホ)による催眠治療を受けることになります。しかし催眠体験後、彼は知りもしない記憶の幻影を見始め、友人たちも次々に幻影に苦しめられることに。チェ教授はなぜドヒョンと友人たちに催眠をかけ始めたのでしょうか? 記憶の透き間、真実はそこにあります・・・。原題は「최면」です。
8位「スパイの妻」については上述しました。
【独立・芸術映画】
順位・・・・題名 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・・累積収入・・上映館数
1(1)・・ミナリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3/03 ・・・・・64,430・・・・・・・・・817,255 ・・・・・・7,416・・・・・・・756
2(10)・・スパイの妻(日本)・・・・・・・・・・・・・3/25 ・・・・・・3,538 ・・・・・・・・・・・4,983・・・・・・・・・・44・・・・・・・120
3(新)・・ホタルのディンディンと・・・・・・・3/25・・・・・・・1,478 ・・・・・・・・・・・1,737 ・・・・・・・・・15 ・・・・・・・・99
勇敢な昆虫探検隊
4(6)・・ファイター(韓国)・・・・・・・・・・・・・・3/18・・・・・・・1,414 ・・・・・・・・・・・4,670 ・・・・・・・・・37 ・・・・・・・・58
5(新)・・ジ・アザー・サイド・・・・・・・・・・・・・3/25・・・・・・・1,026 ・・・・・・・・・・・1,480・・・・・・・・・・・8 ・・・・・・・・20
1位以外の4作品が新登場です。
2位「スパイの妻」については上述しました。
3位「ホタルのディンディンと勇敢な昆虫探検隊」は中国のアニメ。勇敢なホタルのディンディンと森の探検隊は森の仲間が危ない時にはいつも現れます。 探査ロボットのオーロラが宇宙から持ってきた最先端の信号灯は森の仲間の間で人気沸騰。ところが、その光を危険信号とみなす蛾の族長はディンディンや友人を攻撃し、外界の惑星から現われた赤いロボット軍団が森の仲間たち皆を捕まえていこうとします。はたしてディンディンや仲間たちは無事でいられるでしょうか・・・? 原題は「반딧불이 딘딘과 용감한 곤충 탐험대」です。(中国の人たちはまさか×近平が蛾の族長と見られるかも、とは全然思わんだろうな・・・。)
4位「ファイター」は韓国のドラマ。昨年の<釜山国際映画祭>で上映された作品で、主演のイム・ソンミが<今年の俳優賞>を受賞しました。偶然ボクシングに魅了され、そのままボクサーになった若い女性ジナ(イム・ソンミ)の物語です。かけもちのアルバイトでつらい体の彼女がリングに上がって立ち向かったのは、外の世の中に出ることができなかった自分自身でした。人生での足掻きではないステップを教えてくれたボクシング。ジナがめざすものは、生きていくための真のファイティングを身につけることでした・・・。本作が他のほとんどのボクシング映画と異なるのは、リング上での試合に焦点を当てるのではなく、リングに上がるための体と心の訓練、鍛練の時間にほとんどすべてを費やしている点であり、試合やその勝敗には全く関心が払われていません。つまり、ボクシングを素材とした一女性の成長ドラマというべき作品です。※最近の<今年の俳優賞>受賞者にはチェ・ヒソや(「チャンシルさんには福が多いね」の)カン・マルグム等がいます。イム・ソンミの今後にも注目。原題は「파이터」です。→予告編ちょっと見てみて。
5位「ジ・アザー・サイド」はスウェーデンのホラー。シリン(ディラン・グウィン)はボーイフレンドのフレデリック(ライナス・ヴァールグレーン)、そして彼の息子のルーカスと共に新しい家に引っ越すことになります。しかし、夜ごと壁越しに奇異な騒音が聞こえてきて、家の中を徘徊する奇妙な存在の気配を感じます。結局フレデリックが席を外した間、黒い影が2人を脅し始め、シリンは正体不明の存在からルーカスを守らなければならないことに・・・。え、監督自身がが直接体験した恐怖実話ですと?
韓国題は「디 아더 사이드」です。
で判定結果は、「何も感じない」の意味が「作者の<仕掛け>がわからない」ということならno、「感動しない」ということならyesでした。今村夏子の芥川賞受賞作「むらさきのスカートの女」は文藝春秋で読んでいて、その時とほぼ同じ感想。その時の選者たちの選評は→コチラで読むことができますが、その中で私ヌルボが共感を抱いたのは高樹のぶ子さんの「裏に必死な切実さが感じられなければ・・・」というくだり、そして島田雅彦さんの「商品としては実にウエルメイド」「エンターテイメント・スキルだけでは「物足りない」のも事実」という指摘です。今村夏子さんは2010年には「あたらしい娘」(→「こちらあみ子」に改題)で太宰治賞を受賞しました。約半世紀前、私ヌルボの青春期を思い起こすと、1969年の太宰治賞・秦恒平「清経入水」はその年の「展望」8月号(大学闘争の真っただ中)で読みました。 また1970年下半期の芥川賞は古井由吉「杳子」で、これも受賞の前に「文芸」同年70年8月号(大学闘争の衰退期)で読み、何か新しい感覚が呼び覚まされた感じでした。しかし半世紀経った今、これらの本についていくら熱く語ってもとくに若い世代(だけじゃないネ)には通じないだろうし、先週の記事にも書いたように「何を求めて本を読むのか?」ということから決定的な違いがあるように思います。
▶上記の本の話はアカデミー賞について書く前フリのつもりで書き始めたのがつい長くなりすぎてしまいました。「ミナリ」に続いてアカデミー賞作品賞の最有力候補とされている「ノマドランド」を観て「やっぱりなー」と思ったことがあります。それはドチラも観終わってカタルシスがない!ということ。もちろんそれが<名作>の条件じゃないことは十分(?)承知していますが・・・。1年ほど前にも書きましたが、<歴代のアカデミー賞作品賞>を→コチラ等を見ながら振り返ってみると、近年(とくにこの10年)「コレは感動した! みんな観てね!」という作品はほとんどないんですよねー。<アカデミー賞歴代ランキング>(→コチラ)を見ても上位30位中の製作年は40年代=6、50年代=5、60年代=5、70年代=6で7割を超えています。映画と小説を比べると、本来的に映画の方が娯楽性は高かったはずだし、今もそうなんでしょうが、社会派的傾向のベルリン、文学的な傾向のカンヌ、芸術的な傾向のベネチアといったヨーロッパの映画賞に対して、以前は娯楽性も重視していたはず(?)のアカデミー賞がこのところ社会的・政治的イシュー(トレンド??)にかなりとらわれるようになってきているようです。私ヌルボとしては、やっぱり多くのファンが楽しめる作品を中心に選んでほしいと思いますが・・・。
※その一方、日本の芥川賞、いや小説全体がもしかしてエンタメっぽくなってるなじゃないの!?・・・と言いたかったのサ。
▶この1週間で観た映画は以下の2本です。
・「藁にもすがる獣たち」★★★★(観客がアタマの中で時系列を再構成するんだな、と早目に気づかないとな・・・と、こんなチミツな構成は日本人作家(曽根圭介)の原作だから? amazonの3年前のレビューに「映像化不可能の面白さ」とあったが、映像化しちゃったのは韓国だから? エゲツナイシーンがあるのも韓国映画だから、ってのも固定観念先行の見方かも。ユン・ヨジョン先生扮したおばあさんが盛大に燃え上がる炎を家族とボーッと見てるシーン、いくら記憶力の鈍い私ヌルボでもコレは憶えてるゾ・・・。)
・「ノマドランド」★★★★☆ (広大な自然が広がるアメリカ中西部の道をキャンピングカーをねぐらとして行き来している季節労働者たちがこんなにも大勢いるとは! Amazonの作業場もあるし・・・。彼らが親しくハグしたり言葉を交わしたり、美しい自然を背景に食事をする場面を見ると「1週間程度なら」そんな旅も悪くないかも、と思うかもしれないが・・・。「ミナリ」と比べると会話の穏やかさが対照的(笑)。)
▶今回の記事で紹介した作品の中で個人的に「コレは観たい!」と思ったのは、第19回東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した「アイカ」と、韓国映画の「ファイター」です。
▶今年の<花開くコリア・アニメーション2021+アジア>(花コリ2021)はオンライン開催となりました。期間は5月19日(水)昼12時~23日(日)深夜12時。詳しくは→公式サイト参照。
★★★ NAVERの人気順位(3月30日現在上映中映画) ★★★
【ネチズンによる順位】
※[記者・評論家による順位]とも、評点の後の( )は採点者数。初公開から1年以内の作品が対象。
「初登場」とは、本ブログでの初登場の意。
①(新) 復活(韓国) 9.66(104)
②(1) モンテ・クリスト:ザ・ミュージカル・ライブ(韓国) 9.59(29)
③(3) そしてパン・ヘンジャ(韓国) 9.52(31)
④(新) アイカ 9.50(10)
⑤(4) きみの瞳が問いかけている(日本) 9.49(49)
⑥(5) 劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン(日本) 9.48(1,015)
⑦(-) カナの婚宴:口約 9.42(373)
⑧(-) ブータン 山の教室 9.42(155)
⑨(6) ドリーム・ファクトリー 9.42(38)
⑩(7) 復活: その証拠(韓国) 9.34(399)
①と④の2作品が新登場です。
①「復活」は、スーダンの小さな町トンズで内乱が長く続く中、貧困や病に苦しむ人々の中に入り、医者・教師、さらには指揮者・建築家としても献身的に尽くした「トンズの父」こと故イ・テソク神父の48歳の生涯を撮ったドキュメンタリー「泣くな、トンズ」(2010)と、その続編「泣くな、トンズ2:シュクラン ババ」(2020)に続くドキュメンタリーです。イ・テソク神父がトンズに蒔いた愛の種が花を開いているという話です。10年後、彼の愛に育った弟子たちを訪ねて行くと、医師、薬剤師、公務員、医学部に通う弟子等々40人余り。驚くべきことに、誰もがイ・テソク神父の生活を生きていました。10万キロの長い道程を歩き、1年間彼らを追跡した本作。人々は神父が戻ってきたと喜んでくれました。人間が人間に対して花になってゆく、そんな感動を公開します・・・。原題は「부활」です。
④「アイカ」はロシア・カザフスタン・ドイツ・ポーランド・中国合作のドラマ。2018年第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の出品作で、主演のサマル・エスリャーモヴァが最優秀女優賞を受賞しました。また同年の第19回東京フィルメックスのコンペティション部門でも最優秀作品賞を受賞した作品です。物語の舞台は冬のモスクワ。20代の女性アイカ(サマル・エスリャーモヴァ)は、より良い生活を夢見てキルギス共和国から出稼ぎに来ています。しかしアイカが持つ外国人用の労働許可証の期限はすでに切れているし、彼女のような出稼ぎ労働者にまともな仕事の口はありません。彼女は市内の病院で出産しますが、やっと得た仕事を守るため、赤ん坊を産んで初乳もしないうちに病院から逃げてしまいます。病院を出たアイカは体の具合が悪いのに、なんとかそれまでの職場、鶏肉処理場に復帰します。しかし月給は踏み倒されて、また新しい仕事を探さなければならなりません。さまよい歩く街に積もった雪のように、疲れる毎日が彼女にのしかかります・・・。韓国題は「아이카」。日本公開は未定のようです。(上記のような<実績>もあるのに、なんで?)
【記者・評論家による順位】
①(1) ソウルフル・ワールド 8.44(9)
②(-) Mank/マンク 8.14(7)
③(新) スパイの妻(日本) 8.00(5)
④夏時間[ハラボジの家](韓国) 7.83(12)
⑤(2) ミナリ 7.58(12)
⑥(3) 冬の夜に(韓国) 7.33(6)
⑦(新) アイカ 7.20(5)
⑧(4) 本当に遠いところ(韓国) 7.14(7)
⑨(-) ブータン 山の教室 7.00(5)
⑩(6) 光と鉄(韓国) 6.83(6)
③と⑦の2作品が新登場です。
③「スパイの妻」は、昨年の第25回釜山国際映画祭ガラプレゼンテーションに出品された作品。黒沢清監督はコロナ禍のため釜山に行けませんでしたが、「韓国の方々がこの話をどのように受け止めるのか、僕としても興味がある」と語っていました。この高評価は私ヌルボとしては予想通り。今、あの旧満州での<おぞましい話>に対する関心は日本よりも韓国の方が高いようだし(ホンマか?)。ネチズンのレビューを見てもほとんど好評。「<個人的な快適さと利己的愛国心を捨てた"変な男>を眺める視線に。久しぶりにどっしりとした戦争映画が出てきた」等々。なお、「蒼井優がこのような傾向の映画を撮ったのは意外」との感想がいくつもありました。「これまでの思想が変わった?」なんてのもあったりして・・・。韓国題は「스파이의 아내」です。
⑦「アイカ」については上述しました。
★★★ 韓国内の映画 週末の興行成績3月26日(金)~3月28日(日) ★★★
「ゴジラvsコング」が日本より7週早く韓国に上陸、即1位
【全体】
順位・・・・題名・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・累積収入・・上映館数
1(新)・・ゴジラvsコング・・・・・・・・・・・・・3/25 ・・・285,905 ・・・・・・・325,086 ・・・・・・3,151 ・・・・1,295
2(2)・・劇場版「鬼滅の刃」・・・・・・・・・・・・1/27 ・・・・87,755 ・・・・・1,481,868 ・・・・・14,268 ・・・・・・709
無限列車編(日本)
3(1)・・ミナリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3/03 ・・・・64,430 ・・・・・・・817,255 ・・・・・・7,416 ・・・・・・756
4(21)・・ザ・ボックス(韓国)・・・・・・・・・・3/24 ・・・・36,078・・・・・・・・・75,723 ・・・・・・・・621 ・・・・・・331
5(30)・・催眠(韓国)・・・・・・・・・・・・・・・・・3/24 ・・・・25,617・・・・・・・・・36,663 ・・・・・・・・337 ・・・・・・506
6(3)・・ラーヤと龍の王国・・・・・・・・・・・・3/04 ・・・・19,146 ・・・・・・・302,254 ・・・・・・2,797 ・・・・・・418
7(5)・・ソウルフル・ワールド・・・・・・・・・1/20 ・・・・・7,568・・・・・・2,036,088 ・・・・・18,920 ・・・・・・183
8(35)・・スパイの妻(日本)・・・・・・・・・・・3/25 ・・・・・3,538 ・・・・・・・・・・4,983 ・・・・・・・・・44・・・・・・・120
9(8)・・モンテ・クリスト・・・・・・・・・・・・・3/19 ・・・・・2,680 ・・・・・・・・・13,010・・・・・・・・257・・・・・・・・75
:ザ・ミュージカル・ライブ(韓国)
10(9)・・ブレイブ・オン・ザ・ファイア・・3/17 ・・・・・2,128・・・・・・・・・14,348 ・・・・・・・・113・・・・・・・・75
※KOFIC(韓国映画振興委員会)による。順位の( )は前週の順位。累積収入の単位は100万ウォン。
新登場は1・4・5・8位の4作品です。
1位「ゴジラvsコング」は日本でも公開が近づいていて(5月14日)、→予告編も→公式サイトも当然用意されているので、内容等は一切省略します。韓国題は「고질라 VS. 콩」です。
4位「ザ・ボックス」は韓国のドラマ。100のうち99は合わなくても、たった1つ合うものがあるとすればそれは音楽、という2人の若者。1人は、ボックス(ダンボール)の中では音楽的才能が爆発するジフン(パク・チャニョル)、もう1人は今は文無しだけど音楽については本能的な感覚に優れたプロデューサーのミンス(チョ・ダルファン)。偶然ジフンを発見したミンスは、10回の舞台を共にすることを確約させてバスキング(路上ライブ)の旅を始めます。ジフンの最初の舞台は有名な仁川のチャイナタウン。人々の前では歌えないジフンのために、ミンスはジフンの身長でも入れる大型冷蔵庫のボックスを手に入れて誰でもが知ってる歌にしようと提案し、ジフンは「愛国歌」(国歌)をエレキギターで演奏します。それは見る人を予想外に楽しませることになり、以後<ザ・ボックス>は、全州、光州5.18民主広場、慶州の瞻星台、麗水、蔚山、そして最後は釜山の海雲台(ヘウンデ)。これら各地の美しい背景を舞台に、コールドプレイ、ビリー・アイリシュ、ファレル・ウィリアムス、マライア・キャリー等の曲を演奏します。このように各地を移動する度に、路上ライブはより完成度を高め、観客の期待も高まっていきます・・・。ふうん、ルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」も、ねー。ところで、この映画どう終わるのかな? 原題は「더 박스」です。
5位「催眠」は韓国のスリラー。学校生活に忠実な英文科の大学生ドヒョン(イ・ダウィット)。偶然、編入生ジノ(キム・ナム)を通して催眠に関心を抱き、チェ教授(ソン・ビョンホ)による催眠治療を受けることになります。しかし催眠体験後、彼は知りもしない記憶の幻影を見始め、友人たちも次々に幻影に苦しめられることに。チェ教授はなぜドヒョンと友人たちに催眠をかけ始めたのでしょうか? 記憶の透き間、真実はそこにあります・・・。原題は「최면」です。
8位「スパイの妻」については上述しました。
【独立・芸術映画】
順位・・・・題名 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・公開日・・週末観客動員数・・累計観客動員数・・・累積収入・・上映館数
1(1)・・ミナリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3/03 ・・・・・64,430・・・・・・・・・817,255 ・・・・・・7,416・・・・・・・756
2(10)・・スパイの妻(日本)・・・・・・・・・・・・・3/25 ・・・・・・3,538 ・・・・・・・・・・・4,983・・・・・・・・・・44・・・・・・・120
3(新)・・ホタルのディンディンと・・・・・・・3/25・・・・・・・1,478 ・・・・・・・・・・・1,737 ・・・・・・・・・15 ・・・・・・・・99
勇敢な昆虫探検隊
4(6)・・ファイター(韓国)・・・・・・・・・・・・・・3/18・・・・・・・1,414 ・・・・・・・・・・・4,670 ・・・・・・・・・37 ・・・・・・・・58
5(新)・・ジ・アザー・サイド・・・・・・・・・・・・・3/25・・・・・・・1,026 ・・・・・・・・・・・1,480・・・・・・・・・・・8 ・・・・・・・・20
1位以外の4作品が新登場です。
2位「スパイの妻」については上述しました。
3位「ホタルのディンディンと勇敢な昆虫探検隊」は中国のアニメ。勇敢なホタルのディンディンと森の探検隊は森の仲間が危ない時にはいつも現れます。 探査ロボットのオーロラが宇宙から持ってきた最先端の信号灯は森の仲間の間で人気沸騰。ところが、その光を危険信号とみなす蛾の族長はディンディンや友人を攻撃し、外界の惑星から現われた赤いロボット軍団が森の仲間たち皆を捕まえていこうとします。はたしてディンディンや仲間たちは無事でいられるでしょうか・・・? 原題は「반딧불이 딘딘과 용감한 곤충 탐험대」です。(中国の人たちはまさか×近平が蛾の族長と見られるかも、とは全然思わんだろうな・・・。)
4位「ファイター」は韓国のドラマ。昨年の<釜山国際映画祭>で上映された作品で、主演のイム・ソンミが<今年の俳優賞>を受賞しました。偶然ボクシングに魅了され、そのままボクサーになった若い女性ジナ(イム・ソンミ)の物語です。かけもちのアルバイトでつらい体の彼女がリングに上がって立ち向かったのは、外の世の中に出ることができなかった自分自身でした。人生での足掻きではないステップを教えてくれたボクシング。ジナがめざすものは、生きていくための真のファイティングを身につけることでした・・・。本作が他のほとんどのボクシング映画と異なるのは、リング上での試合に焦点を当てるのではなく、リングに上がるための体と心の訓練、鍛練の時間にほとんどすべてを費やしている点であり、試合やその勝敗には全く関心が払われていません。つまり、ボクシングを素材とした一女性の成長ドラマというべき作品です。※最近の<今年の俳優賞>受賞者にはチェ・ヒソや(「チャンシルさんには福が多いね」の)カン・マルグム等がいます。イム・ソンミの今後にも注目。原題は「파이터」です。→予告編ちょっと見てみて。
5位「ジ・アザー・サイド」はスウェーデンのホラー。シリン(ディラン・グウィン)はボーイフレンドのフレデリック(ライナス・ヴァールグレーン)、そして彼の息子のルーカスと共に新しい家に引っ越すことになります。しかし、夜ごと壁越しに奇異な騒音が聞こえてきて、家の中を徘徊する奇妙な存在の気配を感じます。結局フレデリックが席を外した間、黒い影が2人を脅し始め、シリンは正体不明の存在からルーカスを守らなければならないことに・・・。え、監督自身がが直接体験した恐怖実話ですと?
韓国題は「디 아더 사이드」です。