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ツリオヤジのキドニーケアな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

日本短篇文学全集 48 (筑摩書房)

2024-12-15 05:33:05 | 読書メモ

終わりし道の標べに」を図書館で借りるついでに、文庫化されていなかった安部公房の作品も借りておこうと、「闖入者」が収録されている本書も借りました。

ところが、「闖入者」は読んだことあったんですね。しかも、「水中都市・デンドロカカリヤ」の中に収録されていました。いやぁ、、アミロイドβに脳が侵され始めたか....

せっかく借りたことだし、他に読んだことのない作家の作品もあるので、読んでみますか、と読みはじめたら望外に楽しめました。

野間宏の「肉体は濡れて(1965年)」。いかにも思わせぶりなタイトルですが、主人公の男が求めた女性からは与えられず、与えようとする女性からは求められずという相反した感情を描いた小説です。かなり暗い、昭和文学らしい男女関係が描かれています。「車の夜(1959年)」は、戦後の占領期に、GHQに対する反抗の気骨が描かれている作品。米兵相手の行動にすっとした気持ちになる短篇です。

花田清輝の「みみずく大名(1962年)」は、歴史小説というか歴史解題というか、史記をもとに歴史上の登場人物の感情を揣摩した作品。舞台は戦国時代、武田信玄の父、信虎を描いた小説です。みみずく大名とは織田信長のことかと思いながら読んでいましたが、信虎自身のことでした。「ずく奴は、おれに似ているわ」という信虎のセリフがあります。「ほうずき屋敷」は、大塩平八郎の乱の舞台裏を描いた作品。

堀田善衛の「燈台へ(1952年)」は、観音崎の灯台を舞台に、戦後の平穏に戻りつつもいまだに戦争の爪痕を感じつつ生活している人々の物語。浦賀から第一~第三海堡を眺めるシーンは、神奈川県民なら親近感の湧く描写です。この作品を読んで思ったのは、「戦後の人は、戦争が終わった安心感だけではなく、また戦争が始めるという不安感、警戒感を抱いて生きていたのだなあ」ということです。わしらの世代には戦争が起こるということ=他国の話で、頭では戦争を認識していても実感がわきません。いわゆる平和ボケの世代としては、心に響いた小説でした。「潜函(1952年)」は御用学者が建前を大事にして本質的な議論ができない、というまさに現代まで残っている問題を、技術者の視点で描いています。潜函とは建築用語でケーソンのことです。偶然ながら、堀田善衛の作品を読む機会を得たことは良かった。他の作品も読んでみたい文士です。

安部公房の「闖入者(1951年)」は、不条理な力で日常が浸食される恐怖を描いた作品。民主主義へのアイロニーも含まれるように思います。これは本書ではなく、新潮文庫の「水中都市・デンドロカカリヤ」に収録されている方を読み直しました。本作品は、戯曲「友達」にもなっています。これも新潮文庫版が本棚にあったのを忘れてた^^; 初期の安部公房を代表する作品だと思います。「夢の兵士(1957年)」は、脱走兵士とその親の物語。短い小説ですが、戦中思想の歪みが描かれています。あまり安部公房らしくないと思われる一篇。これは新潮文庫の「無関係な死・時の崖」に収録されています。

こちら書誌事項。昭和44年で360円、安い。
日本短篇文学全集は全48巻なので、これが最終巻です。

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p.s. 寝る前にガルシア・マルケスを読むと変な夢をみる。


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