萌え萌えで過剰な生き方

レンゲさん。。。今日はおしっこしてきましたか?
デンマンさん。。。出だしからおしっこですか。。。まるで子ども扱いですわね。
だってねぇ、レンゲさんは大切なところでおしっこしたくなった、と言って逃げてしまうでしょう。。。おとといなど、まるで見え透いた出任せを言って逃げてしまいましたよ。
あたしは本当におしっこがしたくなったのですわ。
だから、今日は念のために出だしで尋ねるのですよ。念のためですよ。。。大切なところで逃げ出してしまわないように。。。
逃げませんわ。あたし、ちゃんと済ませてきましたわ。
そうですか。じゃあ、今日は最後まで付き合ってもらえるのですね?
そのつもりでいますけれど。。。
それで。。。おとといの続きですけれどね。。。レンゲさんがバンクーバーにやって来ると言うのは冗談ですよね?
いいえ、冗談ではありませんわ。
マ。。。マ。。。マジですかぁ~?
そうですわ。
でも。。。、でも、僕には一言の相談もありませんでしたよ。
あたし、奥様から許可をもらっていますわ。
しかし。。。しかし。。。あのねぇ。。。僕にも都合があるんだから、まず僕に尋ねるのが順当だと思うのですよ。。。そう思いませんか?
だってぇ。。。デンマンさんはおっしゃいましたわ。奥様がよければデンマンさんには異存はないと。。。
確かに、そのような事を去年言った覚えがありますよ。しかし、それは去年の事ですよ。去年の事をそのまま今年に当てはめないでくださいよゥ。
でも。。。、でも、デンマンさんは忙しい人だから余計な事で煩わせたくはなかったのですわ。
余計な事ではないでしょう。。。極めて重要な事ですよ。。。それを、レンゲさんはいつでも急に持ち出して勝手に決めてしまうのですよ。それが過剰な生き方なんですよ。tanomuさんも書いていましたよ。
![]() ![]() わたしは過剰な生き方しか できないのかもしれない。 今年の夏は異邦人を 読まなかった。 もう何年になるのか、 わたしは夏になると必ず アルベール・カミュ著「異邦人」を 読んでいた。 ここはアルジェでもパリでもない。 しかし、陽射しの強さを感じると 反射的にムルソーに逢いたくなる。 北アフリカの夏を、 わたしは何度も経験する。 アルジェの太陽の熱を感じながら、 砂に足をとられながら、ただ歩く。 ![]() 無機質な銃声を聞きながら、 感情もないままに 何発もの弾丸を、 無関係な人間たちに叩き込む。 そして、無関心に立ち去る。 アルジェの海は、 自由で愉快だ。 そして死を意識しつつも、 神を否定する。 ・・・そんな彼をわたしは 理解できているのだろうか。 実存の意味を考え続けてきたが、 やはりわたしは過剰な生き方しか できないのかもしれない。 ![]() by tanomu 2006-10-21 『今年の夏は異邦人を読まなかった』より ![]() |
またtanomuさんの手記ですか?
レンゲさんも同じような事を口癖のように言っていたのですよ。この事でレンゲさんが書いた手記がないからtanomuさんの手記を持ち出してきたまでですよ。つまり、レンゲさんにだって過剰で無い生き方ができるのですよ。
どのように。。。?
どのようにって。。。レンゲさん。。。僕が今言ったでしょう?
奥様の許可の事ですか?
そうじゃありませんよ。物事には順序がありますよ。その順序を守らないからレンゲさんの生き方は過剰になってしまうのですよ。まず、僕に尋ねて都合を聞くわけですよね。それから夏休みをとることを直美に話して許可をもらうのですよ。
だから、奥様にお話して許可をもらいましたわ。
それが。。。それが。。。順序が逆でしょう?。。。まず。。。まず。。。僕に都合を尋ねる事が先決でしょう?
でも、奥様がダメだとおっしゃったら、デンマンさんにお会いする事はできませんわ。
だから。。。だから。。。それが過剰で過激なやり方なんですよ。
どうしてですか?
やだなあああぁ~~。。。普通の女性の神経ならば“あなたのご主人と2週間ほど一緒に過ごしたいのですが許可していただけるでしょうか?”。。。こんな事を尋ねる女性は居ませんよ。
でも、奥様は許可をくださいましたわ。
なぜなら、直美はレンゲさんが過剰で過激な生き方しかできない事を充分に知っているからですよ。もし許可しなければ、あなたは会社を辞めてでもバンクーバーへやって来る。それをされると直美は困るのですよ。とにかくあなたは二人分の店長の売る上げをあげているのですよ。あなたに会社を辞められることはブティック・フェニックスを経営している直美にとって大きな打撃なんですよ。
つまり。。。、つまり、奥様にとってデンマンさんよりもブティック・フェニックスの方が大切なのですわね?
違いますよ。
どう違うのですか?
レンゲさんは直美の事を理解しているつもりでも、全く分かっていないところがありますよ。
どういうところですか?
レンゲさんは生まれも育ちも大阪だから京都育ちの人の性格を良く知っているでしょう?
ええ。。。聞いたことがありますわ。
直美は生粋(きっすい)の京都っ子なんですよ。何十代と続く公家の旧家に育って、まさに本音と建前を絵に描いたような性格の持ち主ですよ。
そうでしょうか?
だから、レンゲさんは直美の事が良く理解できていないのですよ。レンゲさんは“京都のオブ”という話を聞いたことがあるでしょう?
ええ、ありますわ。
つまり、関東の者が、通りがかりに京都の町屋の前で知り合いに出会ったとします。その町屋のおばはんが“オブでもどうですか?”と言います。お茶でも召し上がっていきませんか?と言うわけですよ。関東でなら、これは、“立ち話もなんですから、どうぞ家の中に入ってお茶でも飲みながらゆっくりとお話しましょう”と言う誘いの言葉になるのですよ。でも、京都ではそうならない。つまり、“用事が他にもありますので、この辺で失礼させていただきます”と言う婉曲な断りの言い方だと言うのですよ。直美が話してくれた事です。
奥様があたしに許可を下さったのは本心からではないとデンマンさんはおっしゃるのですか?
もちろん、本心からでしょう。でも、それには理由がある。
あたしが会社を辞めては売り上げに響くからだと。。。?
それもあります。
まだ他にもあるのですか?
あります。レンゲさんは『錦の袈裟』と言う落語を聞いたことがあるでしょう?
以前デンマンさんが話してくれた事がありましたわ。
錦の袈裟 (にしきのけさ)

江戸時代の頃の話です。
隣町の連中が吉原へ繰り込んで、揃いの緋縮緬(ひちりめん)の長襦袢でかっぽれを踊り、よせばいいのにその町内の連中の悪口を言って帰ったと言うのです。
憤慨した連中は隣町に負けない趣向はないかと相談します。
「錦の布を借りることができるからそれをフンドシにして繰り込もう」と言い出す者がいて話はまとまります。
ところが一本足りないので、与太郎の分は自分で都合を付ければ連れて行ってやることにします。
例によって、この与太郎がちょっとオツムの足りない面白おかしい人物なのです。
家へ帰って与太郎が女房に相談をすると、女房は考えた結果、お寺へ行って袈裟を借りて来るようにと知恵を付けます。
与太郎はどうにか袈裟を借りることができ、錦の下帯を締めて仲間に加わります。
そうやって若い衆は賑(にぎ)やかに吉原へ繰り込みます。
この落語が、奥様があたしに許可を下さった事とどのような関わりがあるのですか?
ちょっと僕の話を聞いてくださいよ。上の落語では、吉原へ町内のいい年をした女房持ちの連中が団体で女遊びに出かけるわけです。。。
昔はそのような遊びが、はやったのですか?
もちろん僕はその当時、生きていたわけではないから、なんとも言えないけれど、そのような事があったんでしょうね?何年か前だけれど、日本でも韓国へ団体で“姓生(キーセン)遊び”をしようと出かけて問題になった事があったようですからね。いつの時代にも、同じような事を考える人が居るという事でしょうね。
それで、デンマンさんは何がおっしゃりたいのですか?
与太郎の女房も実は自分の亭主が仲間と一緒に女遊びなどして欲しくはない。亭主を持つ女なら、誰だって、そう思うでしょうね。
たぶん、そう思いますわ。
しかし、この与太郎はちょっとオツムが足りない。ただでさえ、仲間から馬鹿にされている。女房にしてみれば不憫(ふびん)に思える。こういう時に、亭主が仲間はずれにされるのを見るのは忍びないし、後で、“口うるさい女房”が出さなかったと言われる事は、この女房にしてみれば我慢がならない。もし、ここで与太郎を出さないと亭主は仲間はずれになった上に、自分は物分りの悪い女として物笑いの種になる。そう言う訳で、この女房も亭主のため、自分のため、世間体のために与太郎を送り出すわけですよ。
それで、そのことがあたしと、どのような関係にあるのですか?
つまりね、直美はレンゲさんに与太郎と世間の2つを見ているのですよ。
どういうことなのか、まだ良く分かりませんけれど。。。あたしが与太郎のようにオツムが足りないという事ですの?
違いますよ。僕が言おうとしているのは、直美はレンゲさんが過剰で過激な生き方しかできない事を充分に知っている。レンゲさんとは僕よりも身近にいて知っている。また、レンゲさんが頭のいい女の子である事も知っている。さらに、店長としてレンゲさんが15店のうちで売り上げ一番の実績をいまだに維持している。レンゲさんを個人的にも、仕事の上でも、直美は充分に知っていますよ。仕事の上で信頼しているし、期待を持っている。女としてレンゲさんの魅力も分かっている。そういうレンゲさんに、直美は自分がつまらない女だとは見られたくはない。
奥様があたしにバンクーバーのデンマンさんのところにへ行っても良いと言って下さったのは、つまらない女だと見られたくないためだと、デンマンさんはおっしゃるのですか?
そうですよ。レンゲさんをバンクーバーに送り出すという事は、上の落語で言えば、与太郎が仲間と女遊びに吉原に行くのを、女房が錦のフンドシまで作って送り出してやるという事ですよ。僕の言う事が分かりますか?
ええ、なんとなく。。。