小学生の時に、クラスで成績の悪い生徒は農家が多かったこともあり、僕は農業に対して偏見を持っていました。でも、よく考えてみたら、何でも作る父親と母親は共に青森の農家だったんですよね。父親は長男なのに継がないで、上京して警官をやっていましたが、根が優秀なので無理矢理昇進試験を受けさせられ、とうとう本庁勤務させられたそうです。
小学校があった仙北町は、秋田の仙北郡からの開墾者が移った地域らしいです。その元々の秋田が優秀でなかったのかどうかは分かりませんが、成績が悪い上に素行も悪いし、うちの庭に入ってきて、池の金魚を殺したりしていましたね。でも、中学の卒業時には、成績も含めてだいぶましになっていました。僕の啓蒙もありましたが。
今は百姓と表記すると差別用語扱いされますが、百姓とはもともと、百の姓(仕事)を持つ何でも屋さんという意味です。白戸三平の『カムイ伝』には、江戸時代のお百姓さんの多忙さが描かれています。米だけでなく、米を入れる米俵まで自作していたのは驚きです。『カムイ伝』を読むと、マスカキとか手練手管の語源が分かります。どちらも米に関しての仕事の中から生まれた言葉で、計量升とセンバコキ(千歯扱)以前の手作業のコキから来ています。貧しい農家の娘が郭(くるわ)に売られた名残でしょうか。
両親が農家の出であったためか、僕は自分で作るというスタンスを幼いときから確立していました。僕に言わせれば、ディスプレー専用の模型には価値がありません。模型は何らかの動力で動かして、修理したり改造したりして、最後にスクラップになる運命です。改造するためには、刃物やハンダゴテを扱う必要があり、また素材に対する要求度が高くなります。
模型であっても、車のサスペンションを作るときに、一番大変なのはアームを支持する部分なんですよね。小学生でも、自分で模型自動車のサスペンション改造をしてみれば、経験的に理解できるようになります。僕は月刊『自動車工学』が小学校高学年時の愛読書でした。
消費税が導入されたときに、真っ先に打撃を受けたのは、アンプやスピーカーのキットを販売するメーカーでした。完成品は物品税がかかりましたが、パーツを集めて自分で組み立てるキットには税金はかからなかったのです。スピーカーシステムだと税金がかかり、ユニットと板を別々に買うと無税だったのです。このシステムが消費税導入で崩壊し、自作する人が激減することになります。これが、日本の技術力低下の一因にもなっていると思います。
さて、古くてエッジが破損したスピーカーユニットの修復ですが、エッジは鹿皮や和紙、最近ではウレタンや合成ゴムなどが使われます。メーカーでは凹凸の型でプレス成形しますが、自作では無理なので頭を使います。まず、材料はレコードのクリーナーで使う、レイカクロスのビスコ(Visco)33を用います。これを広げてスプレー糊の77番を塗布し、薄美濃(うすみの)という和紙を貼り付けます。次に、Visco33をもう一枚広げ、同じように糊をスプレーし、貼り合わせた和紙+クロスの和紙側を貼り付けます。これで、クロス・和紙・クロスの三重ラミネートができあがりです。
次に、厚紙と画鋲と鉛筆で簡易コンパスを作り、合板の上に置いたラミネートに糊代などの同心円を描き、内径と外径は、カッターの刃を厚紙に刺して回転させると切り抜くことが出来ます。糊代の部分は、堅い木やスプーンなどで折り目を入れます。最後に、先端の丸い粘土細工用の篦(へら)でエッジの丸みを付けます。時間があれば、粘土や石膏で型を作った方がきれいに出来上がります。
こうして作ったエッジを、最初は内径の方から糊やボンドで接着し、エッジの丸みを付けながら外周を接着して行きます。繊維の方向性で丸くならないところがあってもケンチャナヨ。少しくらいの不出来では音が悪くなることはありません。作りたては和紙がパチパチと共振しますが、そのうちにこなれてきます。エッジに丸みを付けないで平らにすると、振動板の影響を吸収できません。パンパンという音を出して使い物になりません。
マニアが好む鹿皮ですが、重いので僕は使いません。重くなって反応が鈍くなった変化を好む物好きはいますが、エッジは軽い方がよいのです。8センチ程度の口径のユニットなら、エッジの代わりに脱脂綿を引き裂いてケバ立たせ、そのケバで振動板の外周を支えるようにすれば、信じられないほど素直な高音質となります。ただし、ユニット後ろの空気が漏れるので、低音は出なくなりますし、小音量でも振幅が大きくなるので耐入力も小さくなります。
最後に、タバコの脂で汚れている振動板ですが、ガラスクリーナーやアルコールなどでも除き切れません。そこで、日本画の胡粉(蛤や牡蠣の貝殻を粉にしたもの)や黄土(大半は中国産で黄砂と同じ)でボロ隠しをします。振動板の重量増は0.5g程度ではないでしょうか。それにしても、修理したユニットをつくづく眺めると、僕はいまだ百姓ではなくて、半分の五十姓なんだなぁと思いました。工場と工具と素材が欲しいニダと言い訳ですね。
振動板よりも巨大なマグネットを持つフォステクスUP203Sの修理完了
エフライム工房 平御幸
小学校があった仙北町は、秋田の仙北郡からの開墾者が移った地域らしいです。その元々の秋田が優秀でなかったのかどうかは分かりませんが、成績が悪い上に素行も悪いし、うちの庭に入ってきて、池の金魚を殺したりしていましたね。でも、中学の卒業時には、成績も含めてだいぶましになっていました。僕の啓蒙もありましたが。
今は百姓と表記すると差別用語扱いされますが、百姓とはもともと、百の姓(仕事)を持つ何でも屋さんという意味です。白戸三平の『カムイ伝』には、江戸時代のお百姓さんの多忙さが描かれています。米だけでなく、米を入れる米俵まで自作していたのは驚きです。『カムイ伝』を読むと、マスカキとか手練手管の語源が分かります。どちらも米に関しての仕事の中から生まれた言葉で、計量升とセンバコキ(千歯扱)以前の手作業のコキから来ています。貧しい農家の娘が郭(くるわ)に売られた名残でしょうか。
両親が農家の出であったためか、僕は自分で作るというスタンスを幼いときから確立していました。僕に言わせれば、ディスプレー専用の模型には価値がありません。模型は何らかの動力で動かして、修理したり改造したりして、最後にスクラップになる運命です。改造するためには、刃物やハンダゴテを扱う必要があり、また素材に対する要求度が高くなります。
模型であっても、車のサスペンションを作るときに、一番大変なのはアームを支持する部分なんですよね。小学生でも、自分で模型自動車のサスペンション改造をしてみれば、経験的に理解できるようになります。僕は月刊『自動車工学』が小学校高学年時の愛読書でした。
消費税が導入されたときに、真っ先に打撃を受けたのは、アンプやスピーカーのキットを販売するメーカーでした。完成品は物品税がかかりましたが、パーツを集めて自分で組み立てるキットには税金はかからなかったのです。スピーカーシステムだと税金がかかり、ユニットと板を別々に買うと無税だったのです。このシステムが消費税導入で崩壊し、自作する人が激減することになります。これが、日本の技術力低下の一因にもなっていると思います。
さて、古くてエッジが破損したスピーカーユニットの修復ですが、エッジは鹿皮や和紙、最近ではウレタンや合成ゴムなどが使われます。メーカーでは凹凸の型でプレス成形しますが、自作では無理なので頭を使います。まず、材料はレコードのクリーナーで使う、レイカクロスのビスコ(Visco)33を用います。これを広げてスプレー糊の77番を塗布し、薄美濃(うすみの)という和紙を貼り付けます。次に、Visco33をもう一枚広げ、同じように糊をスプレーし、貼り合わせた和紙+クロスの和紙側を貼り付けます。これで、クロス・和紙・クロスの三重ラミネートができあがりです。
次に、厚紙と画鋲と鉛筆で簡易コンパスを作り、合板の上に置いたラミネートに糊代などの同心円を描き、内径と外径は、カッターの刃を厚紙に刺して回転させると切り抜くことが出来ます。糊代の部分は、堅い木やスプーンなどで折り目を入れます。最後に、先端の丸い粘土細工用の篦(へら)でエッジの丸みを付けます。時間があれば、粘土や石膏で型を作った方がきれいに出来上がります。
こうして作ったエッジを、最初は内径の方から糊やボンドで接着し、エッジの丸みを付けながら外周を接着して行きます。繊維の方向性で丸くならないところがあってもケンチャナヨ。少しくらいの不出来では音が悪くなることはありません。作りたては和紙がパチパチと共振しますが、そのうちにこなれてきます。エッジに丸みを付けないで平らにすると、振動板の影響を吸収できません。パンパンという音を出して使い物になりません。
マニアが好む鹿皮ですが、重いので僕は使いません。重くなって反応が鈍くなった変化を好む物好きはいますが、エッジは軽い方がよいのです。8センチ程度の口径のユニットなら、エッジの代わりに脱脂綿を引き裂いてケバ立たせ、そのケバで振動板の外周を支えるようにすれば、信じられないほど素直な高音質となります。ただし、ユニット後ろの空気が漏れるので、低音は出なくなりますし、小音量でも振幅が大きくなるので耐入力も小さくなります。
最後に、タバコの脂で汚れている振動板ですが、ガラスクリーナーやアルコールなどでも除き切れません。そこで、日本画の胡粉(蛤や牡蠣の貝殻を粉にしたもの)や黄土(大半は中国産で黄砂と同じ)でボロ隠しをします。振動板の重量増は0.5g程度ではないでしょうか。それにしても、修理したユニットをつくづく眺めると、僕はいまだ百姓ではなくて、半分の五十姓なんだなぁと思いました。工場と工具と素材が欲しいニダと言い訳ですね。
振動板よりも巨大なマグネットを持つフォステクスUP203Sの修理完了
エフライム工房 平御幸