解雇をおそれ反省の意思を示すために退職の意思なくして退職願いを提出した裁判例
いくらで売る、買う、代金はいつ支払う、この契約を解除するなどのいろんな意思表示があり、相手方はそれに対応して、自分の態度を決めることになる。後になって、あれは冗談だったと、それをないものとすることは、誰も安心しては取引はできない。このような、うそ、冗談など、意思表示をする者の「真意」と「表現」が食い違い、その者がその食い違いを自覚しているものを「心裡留保」といいいますが、意思表示を行った者はそれがうそであっても、自分の言ったものについては責任をもつというのが民法の原則である。うそ・冗談であっても、そのために無効とはならず、そのとおりの効力を生じることになるのである。ただし、相手方がうそを知っていた場合や、普通ならうそや冗談だとわかる場合は、無効となる。(口語民法全書、自由国民社、山川一陽他著、民法93条解説から)
解雇をおそれ反省の意思を示すために退職の意思なくして提出された退職願いの効力が争われたことがありました。(昭和女子大学事件、東京地裁平4.2.6) そのまま受け取るなら、会社の言うように、退職する意思がなくても退職願を出した以上は、心裡留保の原則に立って、そのとおりの効力を生じますから、退職は認められるところです。
しかし、会社側が本人の本当の意思は「辞めるつもりはない」、ウソだと知っていた場合は、無効となり、ここで但し書きの規定が適用になります。
先の事件では、従業員は、業務上取引先とトラブルを引き起こし、調査の際に、謝罪を述べたものの、自分の正当性を主張し、代表者はその従業員に反省の態度はないとみて、「辞めてもらうしかないが、勤めを続けたいのなら、それなりの文書を提出しろ」と言ったものです。
そこで、従業員は退職願を出したものですが、(1)退職願いは、代表者の先の発言を受けて、代表者の指示に従い提出されたものであること (2)退職願いを提出した際に、代表者には、「十分に反省しているので、勤務の機会を与えてほしい」といって、継続勤務の意思を表明していること から、但し書きの規定により、会社は辞めるつもりはないことを十分知っていたことになり、退職願の効力は無効となり、会社側の主張は認められません。
心裡留保の但し書きは、形式だけを整えて、退職願を出させても、無効となるので、会社側は注意をしなければなりませんし、従業員としては、退職願を出したとしても、本意でないことを会社が知っていた時は、無効となるので、あきらめることはないことを示唆しています。
しかし、心理留保は、このように従業員の「主観」の問題であり、客観的事情から推察するしかありません。そこで、以下の要素があげられています。
1 従業員が退職願いを提出した契機
2 従業員が退出願いを提出するときの言動
3 退職届を受けとる際の、代表者の言動
4 退職願いを提出した後の従業員の言動
(参考、一部引用)ビジネスガイド2012.5月号 P60 弁護士木原康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)
いくらで売る、買う、代金はいつ支払う、この契約を解除するなどのいろんな意思表示があり、相手方はそれに対応して、自分の態度を決めることになる。後になって、あれは冗談だったと、それをないものとすることは、誰も安心しては取引はできない。このような、うそ、冗談など、意思表示をする者の「真意」と「表現」が食い違い、その者がその食い違いを自覚しているものを「心裡留保」といいいますが、意思表示を行った者はそれがうそであっても、自分の言ったものについては責任をもつというのが民法の原則である。うそ・冗談であっても、そのために無効とはならず、そのとおりの効力を生じることになるのである。ただし、相手方がうそを知っていた場合や、普通ならうそや冗談だとわかる場合は、無効となる。(口語民法全書、自由国民社、山川一陽他著、民法93条解説から)
解雇をおそれ反省の意思を示すために退職の意思なくして提出された退職願いの効力が争われたことがありました。(昭和女子大学事件、東京地裁平4.2.6) そのまま受け取るなら、会社の言うように、退職する意思がなくても退職願を出した以上は、心裡留保の原則に立って、そのとおりの効力を生じますから、退職は認められるところです。
しかし、会社側が本人の本当の意思は「辞めるつもりはない」、ウソだと知っていた場合は、無効となり、ここで但し書きの規定が適用になります。
先の事件では、従業員は、業務上取引先とトラブルを引き起こし、調査の際に、謝罪を述べたものの、自分の正当性を主張し、代表者はその従業員に反省の態度はないとみて、「辞めてもらうしかないが、勤めを続けたいのなら、それなりの文書を提出しろ」と言ったものです。
そこで、従業員は退職願を出したものですが、(1)退職願いは、代表者の先の発言を受けて、代表者の指示に従い提出されたものであること (2)退職願いを提出した際に、代表者には、「十分に反省しているので、勤務の機会を与えてほしい」といって、継続勤務の意思を表明していること から、但し書きの規定により、会社は辞めるつもりはないことを十分知っていたことになり、退職願の効力は無効となり、会社側の主張は認められません。
心裡留保の但し書きは、形式だけを整えて、退職願を出させても、無効となるので、会社側は注意をしなければなりませんし、従業員としては、退職願を出したとしても、本意でないことを会社が知っていた時は、無効となるので、あきらめることはないことを示唆しています。
しかし、心理留保は、このように従業員の「主観」の問題であり、客観的事情から推察するしかありません。そこで、以下の要素があげられています。
1 従業員が退職願いを提出した契機
2 従業員が退出願いを提出するときの言動
3 退職届を受けとる際の、代表者の言動
4 退職願いを提出した後の従業員の言動
(参考、一部引用)ビジネスガイド2012.5月号 P60 弁護士木原康雄(ロア・ユナイテッド法律事務所)