元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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労働基準監督権限は労働基準監督署だけではない<県等職員に関しては人事委員会が有する>

2016-03-05 16:49:15 | 社会保険労務士
 労働基準監督権限を有する規定は地方公務員法58条5項<11号(通信)12号(教育)の事業所と「一般の官公署」に対して持つ>

労働基準法や労働安全衛生法等の監督権限を持つ行政機関といえば、言わずと知れた労働基準監督署であります。しかしながら、地方公共団体(県や市等)の人事委員会も同じ労働基準監督権限を持っています。この根拠規定は、労働基準法のどこを見ても見当たりません。それもそのはずで、監督の対象が「地方公共団体の職員」に関するものあって、その根拠は地方公務員法の規定の中にあるからです。地方公務員法第58条5項では、次のように規定されています。

 労働基準法等の規定並びにこれらの規定に基ずく命令の規定のうち、地方公共団体の職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、地方公共団体の行う労働基準法別表第1第1号から第10号まで及び第13号から第15号までに掲げる事業に従事する場合を除き、人事委員会又はその委託を受けた人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長)が行うものとする。

 ここで、労働基準法別表1の事業の号別は、ザックリ云うと、
  1号 製造業     2号 鉱業      3号 建設業    4号 運輸交通業   5号 貨物取扱業
  6号 農林業     7号 水産畜産業   8号 商業     9号 金融広告業  10号 映画演劇業
 11号 通信業    12号 教育研究業  13号 保健衛生業 14号 接客娯楽業  15号 清掃と畜業  となっております。

 どこにも、「公務」という業務はありません。実は、昔はさらに「16号として、前各号に該当しない官公署」「17号として、その他命令で定める事業所」となっていましたが、今はありません。今は15号までしかありませんし、「官公署」の業務自体は1号から15号までの別表1の事業所の中には入っていません。そこで、地方公共団体の職員に関しては、人事委員会がその職権を持つのは「別表1・・・・に掲げる事業に従事する場合を除き」とありますが、一般的な官公署については、この別表1には含まれておらず、この一般的な官公署に対しては人事委員会等が労働基準監督権限を行うことになります。

 さらに、詳細に見ていくと、別表1のうち、労働基準監督機関としての人事委員会の職権は「第1号から第10号まで」と「第13号から第15号まで」を除きとありますので、これに含まれない「11号と12号」は人事委員会がその職権を持つことになります。11号の通信業はあまり地方公共団体では該当する事業所はありませんが、12号の教育研究事業として、学校とか研究機関とか該当するのはあり得ます。
 したがって、ここで一応の整理しますと、11号・12号・一般の官公署については、人事委員会が職権を行使することになります。

 ところが、11号及び12号以外でも、実は1号から15号までの事業所に該当するものが地方公共団体の事業所にはまだあります。
 たとえば、3号の建設業ですが、県では建設業関係の監督を行う「土木関係の事業所」を持っていますし、13号事業所(保健衛生業)として、病院や保健所等の事業も行っています。これらは、別表1の「第1号から第10号まで」「第13号から第15号まで」の中の事業所に入っており、人事委員会等の監督権限から除かれていますので、労働基準法等本来の規定に基づき、労働基準監督署が行います。

 では、なぜこんなふうに人事委員会の権限にしたのでしょうか。地方公務員という特殊な関係上、同じ地方公共団体の別の機関である独立した人事委員会等が行った方がよりよく監督権限を行使できることに加え、地方公共団体の監督権限とされた事業所は、より事務的な事業所であり技術的な専門性がなくても職権行使が可能ということからきていると考えられます。(ただし、これには、町村には人事委員会はないため、そこでは町長・村長が行うことになり、独立した機関が行うことにはなりませんが・・・)

 最後に、労働基準監督権限を持つ機関を「人事委員会」としてまとめて説明してきましたが、正確には、地方公務員法58条5項を再度見ていただくと「人事委員会又はその委託を受けた委員」となっています。人事委員会は合議制の組織ですので、委員が集まって決議することは、即座に職権行使をすることは困難であることから、すぐに対応することも必要なことも多くあるなど、その意味から委託された委員でも職権行使は可能ということになっています。

 なお、労働基準監督官は、犯罪捜査を行う司法警察官の職務を持っていますが、さすがに人事委員会の委員には与えられていません。
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