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元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

就業規則が労働者を拘束する場合の要件とは<労働契約法で「労働者への周知」と「内容の合理性」>

2016-07-02 17:54:47 | 社会保険労務士
 2007年制定の労働契約法7条で明確に記載されたところ(「労働者への周知」と「内容の合理性」が要件)

 次のような問題Qがある。

 コンビニで働いているフリーター・山崎君は、彼女とのデートが急に入ったため深夜勤務を1回さぼってしまった。翌日何食わぬ顔で出勤。店長から呼ばれ「始末書を書けば今回のことはなかったことにするから、今日からまたしっかり働いてくれ」といわれた。山崎君は始末書を書かされることなんて入店以来聞いたことないと言ったところ、会社の就業規則にちゃんと書いてあると店長は言って、見せてくれた。そこには、「無断欠勤した場合は始末書の提出を命じる」と書いてある。山崎君は始末書を書かないといけないか。(労働法第6版 水町勇一郎著 有斐閣 P90事例7)
 
 一般的には、労働者を採用する場合、労働契約書には賃金や就業時間等の大まかな取り決めは書くが、後の細かなことは、就業規則に書いてあるとおりとの取り決めになっているところが多い。山崎君は、就業規則に書いてあることは知らなかったのに、始末書を書かなければならないのかということで、納得がいかないようである。

 就業規則については、労基法には、常時10人以上の労働者がいるところは就業規則を作成しなければならないとした上で、作成手続きの方法などは書かれているが、就業規則の内容に労働者はどんな場合に従わなければならないのか(就業規則の拘束力)については、2007年(平成19年)に制定された労働契約法によって初めて、明確な規定が置かれたものである。
(しかしながら、この規定は、むしろ判例の積み重ねによってできた法理をそのまま規定したものであり、具体的な規定ではなくむしろ包括的な規定となっている。)

 労働契約法第7条
 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させている場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による。(就業規則の契約補充効)
 
 労働者である山崎君は、労働契約を締結する場合=すなわち労働者の山崎君が採用時されたときに、合理的な労働条件を定めた就業規則が周知されていた場合には、その就業規則が山崎君と使用者との労働契約の内容となる。この場合は、就業規則が山崎君が結んだ労働契約そのものになるので、その就業規則に従わなければならなくなり(就業規則の契約補充効果)、始末書を書かなければならないということになるのである。

 ここで、「合理的な」とは、そのような規定を置くことに企業経営・人事管理上の必要性があり、それが労働者の権利・利益を不相当に制限するものではないかという観点から判断されるとされており、また、「周知」とは、労基法で規定してある「掲示」や「備え付け」、「書類の交付」や電子機器での公開といった決まった周知の方法(労基法106条)とは異なり、実質的な周知であって、「山崎君を含めて労働者が知ろうと思えば知り得る状態に置かれれば良い」とされている。したがって労働者が就業規則の内容を知っているかは問われない。すなわち、労働者は就業規則が周知されている限り、内容を知らなかったとはいえないのである。
(しかし、就業規則が山崎君を縛る要件である「周知」はこれでいいということであって、労基法に違反しない(罰則30万円以下)ためには、労基法の定めのとおりしておいたほうが良いことは言うまでもない。)

 最初に申し上げたように、多くの日本の企業においては、労働者と使用者が労働契約を結ぶ際は、労働契約にはおおまかな契約内容しか書かれておらず、多くは就業規則に委任しているところであり、この就業規則が労働者を拘束するためには、労働契約を締結する際に、合理的な就業規則が周知されていることが条件となる。したがって、使用者が労働者に就業規則に従ってもらうためには、就業規則の周知とその内容の合理性がなければならないところであり、その周知のためには、就業規則を労働者がいつでも見れる状態にしておかなければならないのである。
 少なくとも、会社社長しかわからないところに就業規則は保管してあるというのでは、その条件はクリアーしてないことになる。一方、労働者は、周知してある限り内容を知らないとはいえないので、どんなことが書いてあるか見ておいて分かっているということが必要である。(特に懲戒処分を受けても、周知してある限り、後からそんなことは知らなかったとは言えない。)
 
 就業規則は、会社のルールであり、社長と従業員を結ぶ架け橋なのである。

 なお、就業規則の内容は、法令や労働協約に反してはならないことは言うまでもない。(労基法92条、労働契約法13条)

 参考 労働法第6版 水町勇一郎著 有斐閣

 
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