元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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賃金請求権は労働契約に求められる⇒不就労時は決めないこと多い⇒民法任意規定が適用<3つの場合の整理>

2017-06-03 17:52:44 | 社会保険労務士
 「ノーワーク・ノーペイの原則」はあくまでも任意の原則、不就労時でも合意すれば賃金請求できる!!

  労働契約は、労務提供(労働者)と賃金支払(使用者)に関して、労働者及び使用者の合意により成立するものであるので、労働者の賃金請求権は、労働提供義務の履行に対する反対給付として具体的に発生する。簡単に云うと、労働者の賃金請求権は、労務提供に対し賃金を支払う旨の当事者の合意契約に求められる。ただし、この労働契約としての合意は、本来の意味での契約のみならず、特に日本では、就業規則(周知と合理的な規則であれば契約の内容は当就業規則の内容となる)や黙示の契約、労働慣行等の広い意味での契約による合意である。

 労働しないとき(=不就労時)に賃金請求権が発生するかについても、この賃金請求権が当事者の合意契約に求められることから、不就労時に賃金を払うか払わないかは、この契約にどういう合意があったかによることになる。
 しかし、普通には、いかなる場合の不就労時についても、この賃金支払をどうするかは、決めていないことが多い。(唯一、よくある例としては、完全月給制の場合でその月に欠勤があっても月の一定の決められた額を支給するというものであろう。)、そこで、具体的な合意契約が確定できないときには、民法の規定に沿って、次に3つの場合に分けて整理できる。合意契約に規定がない場合に適用されるものであり、この民法の規定はいずれも任意規定である。(以下の1~3の整理部分は、両角他著労働法からほとんどそのままの内容。)

 1、労使双方の責めに帰することができない事由によって就労不能となった場合は、労働者は賃金請求権を有しない。(民法536条1項)
   (例)天災地変により就労できなかった場合
 2、使用者の責めに帰すべき事由によって就労不能となった場合は、労働者は賃金請求権を有する。(民法536条2項)
   (例)①使用者の過失により工場が焼失し就労できなかった場合、②使用者が解雇を行ったとして就労拒否したため労働できなかったが、解雇権濫用により無効であり使用者に帰責がある場合
 3、労働者の責めに帰すべき事由により労働義務が履行されなくなった場合は、労務の提供がない以上(民法624条)、賃金請求権は発生しないと解される。(宝運輸事件・最三小昭和63.3.15)
   (例)遅刻、早退、スト参加による不就労

 特に2.3.の場合は、様々な論点を有しているが、特に説明に付け加えておくと以下のとおりである。

 2については、「使用者の責めに帰すべき事由」とあるが、使用者の責めに帰すかどうかが簡単に判断できない場合が多い。労務の提供は「債務の本旨」に従ったものでないと使用者としても受領を拒否できるからである。(民493条) 逆に、「債務の本旨」に従った履行でないと、3の労働者の責めに帰すべき事由になる。例えば、出張を命じられた日にいつもどおりの机上で仕事をする場合である。ただし、この「債務の本旨」とはなんなのかが日本では職務内容を決めていないことから特定できず微妙な判断となる。最高裁は、現在の命じられた業務を今だ十分に出来ない場合であっても、配置される可能性がある業務について労働者の申し出があるときは、「債務の本旨」に従った履行の提供と解するとしている。 

 3は、労働が終わった後でなければ報酬を請求できないという(ただし、期間により定めた報酬=例えば月給制=はその期間後に請求できる。)「賃金後払いの原則」を定めているところである。(民法624条) すなわち、労働がなされた後に初めて賃金請求権が発生するという「ノーワーク・ノーペイの原則」である。「ノーワーク・ノーペイの原則」は破ってはならない絶対的な大原則のように思われがちだが、法律的に突き詰めると、民法624条からきているところであり、先ほども申し上げたように、あくまでも任意規定である。いいかえると「ノーワーク・ノーペイの原則」も強行規定ではないということになり、当事者間の合意があれば、労務提供がなくとも賃金請求権が成立することになる。

 
  <参考> 両角道代・森戸英幸・梶川敦子・水町勇一郎著 労働法 有斐閣 
       荒木尚志著 労働法 有斐閣 
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