賃金の直接払の原則には例外なし=弁護士等に委任されていてもダメ
労基法24条は、直接労働者に賃金を支払うことを義務付けており(直接払の原則)、違反した使用者には30万円以下の罰則が科されている。このような原則があるのは、賃金が第三者の手を介して支払われることになると、途中で中間搾取される恐れが生じるからです。そのため、労働者が未成年者である場合に、その親権者や後見人等の法定代理人さえも賃金を代理で受領できないことになっています。(「未成年者は、独立して賃金を請求できる」との別規定があり、ここでさらに「親権者又は後見人は、未成年の賃金を代わって受け取ってはならない」との確認規定があります。労基法59条)
これは、弁護士も同様で、たとえ代理受領が弁護士さんに委任されていてもダメなものはダメ(社労士試験問題として出題済み)ですので、雇用主はここで弁護士さんに支払うと罰則が科されますので要注意です。もちろん、弁護士でない第三者や近親者であっても、いくら代理人としての証明書をそろえてもだめです。ただし、例えば本人が病気で奥さんが本人と同一視することができる「使者」として、単に給料を受け取りに来ただけというような場合は、その支払いは可能です。(しかし、最近は給料振込みになっていますので、本人の口座に振りこみをするというのが一般的なケースで、この場合は問題となるようなことはないと思われます。)
いずれにしても、賃金は直接支払うことを義務付けており、代理人には支払うことはできないことになっています。
では、賃金債権を譲渡した場合はどうでしょうか。一般に民法で債権の譲渡は認められており(民法466条1項)、賃金債権についても同様に譲渡は認めれているはずです。そこで労働者が賃金債権を第三者に譲渡した場合には、その譲り渡された譲受人が賃金債権を有していることになりますので、民法上は譲受人に支払わなければならないことになります。しかし、労基法は本人に直接支払わなければならないとしておりますので、賃金支払人である雇用主は困ってしまいます。
しかし、日常的に、そもそも、賃金債権を譲り渡すというようなことが一般的に起こり得るでしょうか。月の給料のようなものでは普通には起こりにくいかも知れませんが、次のような裁判事案がありました。
労働者が退職手当の一部の「賃金債権」を酩酊中に暴行した弁償金として第三者に譲渡して、その旨の通知が(民法467条)雇用主になされて完全に譲渡の手続きを終えた場合でも、雇用主はその第三者にその退職手当を支払うことができないのかという事案です。
この場合は、考え方としては、賃金債権としては、労基法が特別法になりますので、労基法の規定が優先するというのが本来の考え方でしょう。裁判でも、この考え方に沿って、賃金債権の譲渡自体は有効であるが、雇用主が譲受人に支払うことは直接払いの原則に反することになるので、違法かつ無効として、譲受人は雇用主に支払いを求めることはできないとされました。(電電公社小倉電話局事件・最判昭和43年3月12日)これは、国家公務員の退職手当の例ですが、同じ頃続けて、民間の退職金でも同様の判決が出たのです。(住友化学工業事件 最判昭43年5月28日) この場合、退職手当の例になっていますが、「賃金」の直接払いの原則は、退職手当はもちろん、月払いの給料や年俸、日給においても「賃金」であることには変わりなく、これら「賃金」である限り適用になります。
債権譲渡という形ではなく、労働者が賃金から自分の債務の弁済として、第三者に対しての支払いを、雇用主に委任した場合(債務弁済委任)でも、直接労働者に支払うことにはならないので、直接払の原則に違反します。
直接払いの原則は、いかなる例外も認められてはいないのです。
しかし菅野著労働法では、これらの債権譲渡や債務弁済委任に基づく退職手当の第三者への支払いは、労働者の過半数を組織する組合又は過半数を代表する者との協定において賃金の一部として明示されれば、全額払の原則の例外として、協定に基づく控除の一種として、適法と認めるべきであるとしています。(菅野著労働法、大内著労働法実務講義も同旨=賃金債権について)
なお、民事執行法の手続きにより、生活費等として賃金の一定の額は差し押さえてはならないとされているが、この一定額を除き同法により賃金が差し押さえられたものついては、この直接払の原則に違反しないので、差し押さえられた賃金については、差押え債権者に支払わなければならないとされます。国税・地方税についても同様である。
参考 労働法11版 菅野著 弘文堂 P434
労働紛争解決実務講義第3版 河本毅著 日本法令 P64
労働法実務講義第3版 大内伸哉著 日本法令 P302~303
労働法第2版 林弘子 法律文化社 P68
労基法24条は、直接労働者に賃金を支払うことを義務付けており(直接払の原則)、違反した使用者には30万円以下の罰則が科されている。このような原則があるのは、賃金が第三者の手を介して支払われることになると、途中で中間搾取される恐れが生じるからです。そのため、労働者が未成年者である場合に、その親権者や後見人等の法定代理人さえも賃金を代理で受領できないことになっています。(「未成年者は、独立して賃金を請求できる」との別規定があり、ここでさらに「親権者又は後見人は、未成年の賃金を代わって受け取ってはならない」との確認規定があります。労基法59条)
これは、弁護士も同様で、たとえ代理受領が弁護士さんに委任されていてもダメなものはダメ(社労士試験問題として出題済み)ですので、雇用主はここで弁護士さんに支払うと罰則が科されますので要注意です。もちろん、弁護士でない第三者や近親者であっても、いくら代理人としての証明書をそろえてもだめです。ただし、例えば本人が病気で奥さんが本人と同一視することができる「使者」として、単に給料を受け取りに来ただけというような場合は、その支払いは可能です。(しかし、最近は給料振込みになっていますので、本人の口座に振りこみをするというのが一般的なケースで、この場合は問題となるようなことはないと思われます。)
いずれにしても、賃金は直接支払うことを義務付けており、代理人には支払うことはできないことになっています。
では、賃金債権を譲渡した場合はどうでしょうか。一般に民法で債権の譲渡は認められており(民法466条1項)、賃金債権についても同様に譲渡は認めれているはずです。そこで労働者が賃金債権を第三者に譲渡した場合には、その譲り渡された譲受人が賃金債権を有していることになりますので、民法上は譲受人に支払わなければならないことになります。しかし、労基法は本人に直接支払わなければならないとしておりますので、賃金支払人である雇用主は困ってしまいます。
しかし、日常的に、そもそも、賃金債権を譲り渡すというようなことが一般的に起こり得るでしょうか。月の給料のようなものでは普通には起こりにくいかも知れませんが、次のような裁判事案がありました。
労働者が退職手当の一部の「賃金債権」を酩酊中に暴行した弁償金として第三者に譲渡して、その旨の通知が(民法467条)雇用主になされて完全に譲渡の手続きを終えた場合でも、雇用主はその第三者にその退職手当を支払うことができないのかという事案です。
この場合は、考え方としては、賃金債権としては、労基法が特別法になりますので、労基法の規定が優先するというのが本来の考え方でしょう。裁判でも、この考え方に沿って、賃金債権の譲渡自体は有効であるが、雇用主が譲受人に支払うことは直接払いの原則に反することになるので、違法かつ無効として、譲受人は雇用主に支払いを求めることはできないとされました。(電電公社小倉電話局事件・最判昭和43年3月12日)これは、国家公務員の退職手当の例ですが、同じ頃続けて、民間の退職金でも同様の判決が出たのです。(住友化学工業事件 最判昭43年5月28日) この場合、退職手当の例になっていますが、「賃金」の直接払いの原則は、退職手当はもちろん、月払いの給料や年俸、日給においても「賃金」であることには変わりなく、これら「賃金」である限り適用になります。
債権譲渡という形ではなく、労働者が賃金から自分の債務の弁済として、第三者に対しての支払いを、雇用主に委任した場合(債務弁済委任)でも、直接労働者に支払うことにはならないので、直接払の原則に違反します。
直接払いの原則は、いかなる例外も認められてはいないのです。
しかし菅野著労働法では、これらの債権譲渡や債務弁済委任に基づく退職手当の第三者への支払いは、労働者の過半数を組織する組合又は過半数を代表する者との協定において賃金の一部として明示されれば、全額払の原則の例外として、協定に基づく控除の一種として、適法と認めるべきであるとしています。(菅野著労働法、大内著労働法実務講義も同旨=賃金債権について)
なお、民事執行法の手続きにより、生活費等として賃金の一定の額は差し押さえてはならないとされているが、この一定額を除き同法により賃金が差し押さえられたものついては、この直接払の原則に違反しないので、差し押さえられた賃金については、差押え債権者に支払わなければならないとされます。国税・地方税についても同様である。
参考 労働法11版 菅野著 弘文堂 P434
労働紛争解決実務講義第3版 河本毅著 日本法令 P64
労働法実務講義第3版 大内伸哉著 日本法令 P302~303
労働法第2版 林弘子 法律文化社 P68
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