「アンコ、立ち止まらないで❗」
「アンコ、そこに並ばないで❗」
Aのにわか演出は度を越してパワーアップしてきていた。
「アンコ、ソコ、振り返らないで❗って言ったでしょ‼わざわざ振り返るのが鬱陶しいのよ❗」
「いい加減にしろ‼️」
先生だ。
いつの間にか稽古場に来ていた。
「A、お前のせいで、混乱している❗」
「いいえ、先生、私は良かれと思って…。」
「お前は、経験がある…。だけど、何を学んで来たんだ?!私の演出をバカにしてるのか❗」
温厚な先生が烈火のごとく怒っている。
Aは、これ以上無いほどに萎縮して、口答えも出来ない。
「出ていけ!」
『出ていけ』とまで言われるとは、そこにいた誰もが思いもしなかった。
Aは、ここで出ていってしまうと、もうこの場所には戻れないんじゃないか…と思ったのが、出ていく様子は無い…。
ただ、ただ、その場で固まっている。
「それじゃ、この前の『場』からはじめる。」
先生は、Aを無視して稽古をはじめた。
そして、稽古場真ん前のディレクターチェアーにどすんと座って、いつもの顔になった。
稽古が始まった。
Aは、一歩も動けない。
このまま稽古を進めると、Aの出番の部分の稽古になる。
…どうするんだろう…。
それにしても、Aがおとなしいと、稽古もスムーズだ。
…Aの出番だ…。
先生の顔色を見ながら、Aは、思いきって出てきた。
「やらなくていい」
先生は、ぼそっとつぶやいた。
かなり怒っている。
Aは、そそくさと引っ込むと、荷物をまとめて稽古場を出ていった。