あの頃(舞台)6

2020-04-21 08:21:15 | 日記
「アンコ、立ち止まらないで❗」

「アンコ、そこに並ばないで❗」

Aのにわか演出は度を越してパワーアップしてきていた。

「アンコ、ソコ、振り返らないで❗って言ったでしょ‼わざわざ振り返るのが鬱陶しいのよ❗」

「いい加減にしろ‼️」

先生だ。

いつの間にか稽古場に来ていた。

「A、お前のせいで、混乱している❗」

「いいえ、先生、私は良かれと思って…。」

「お前は、経験がある…。だけど、何を学んで来たんだ?!私の演出をバカにしてるのか❗」

温厚な先生が烈火のごとく怒っている。

Aは、これ以上無いほどに萎縮して、口答えも出来ない。

「出ていけ!」

『出ていけ』とまで言われるとは、そこにいた誰もが思いもしなかった。

Aは、ここで出ていってしまうと、もうこの場所には戻れないんじゃないか…と思ったのが、出ていく様子は無い…。
ただ、ただ、その場で固まっている。

「それじゃ、この前の『場』からはじめる。」

先生は、Aを無視して稽古をはじめた。

そして、稽古場真ん前のディレクターチェアーにどすんと座って、いつもの顔になった。


稽古が始まった。

Aは、一歩も動けない。

このまま稽古を進めると、Aの出番の部分の稽古になる。

…どうするんだろう…。

それにしても、Aがおとなしいと、稽古もスムーズだ。

…Aの出番だ…。

先生の顔色を見ながら、Aは、思いきって出てきた。

「やらなくていい」

先生は、ぼそっとつぶやいた。

かなり怒っている。

Aは、そそくさと引っ込むと、荷物をまとめて稽古場を出ていった。