入所当時、田舎者の私が、皆と同じようにレッスンなども思うように出来ないと、Aは、深いため息をつきながら、「こんな簡単なことも出来ないの?」
…という。
最初は冗談混じりの言葉だと思って、笑って受け止めていた。
Uも、何となくそれを察して、
「気にしない方がいいよ」
と、言ってくれていた。
気にしないようにしていたが、レッスンも中盤になると、ますます、戦々恐々としてきた。
最初のエチュードの時、
きっかけは、スパゲッティーだった。
『スパゲッティー』のイントネーションがおかしい…と、Aがいう。
確かに、少し変なのは、自覚していた。
A「スパゲッティー⤵️」
私「スパゲッティー➡️」
A「違う、スパゲッティー!⤵️」
私「スパゲッティー➡️」
苛立つAの声が強くなる。
「⚪⚪君は?スパゲッティーって言ってみて!」
「スパゲッティー⤵️」
「⚪⚪ちゃんは?」
「スパゲッティー❔」
「ほら!違うでしょ!」
何が違うのかわからなくなってきた。
今思うと、スパゲッティーにそんなにこだわる必要は無かった…。
Uも、「何でそんなにスパゲッティーにこだわるの?」と、言い出した。
アンコを攻撃できれば、何でも良かったんでしょうね…と、Uは言う。
先生が現れた。
「先生、アンコのスパゲッティーのイントネーションが変ですよね。アンコ、スパゲッティーって言ってみて!」
「スパゲッティー➡️」
「変ですよね!」
「どっちでもいい。イントネーションなんて、その人の個性になればいいんだ。」
その一言で、スパゲッティー騒動は終わった。
その日の帰りがけ、険しい顔で振り返ったAが、
「個性だって言うなら、それでいいんじゃない?だけど、私が正しいから!絶対負けないから」
と、宣言された。
それからの私は、彼女の目が気になって仕方がない存在となった。