あの頃(舞台)4

2020-04-19 07:44:21 | 日記
入所当時、田舎者の私が、皆と同じようにレッスンなども思うように出来ないと、Aは、深いため息をつきながら、「こんな簡単なことも出来ないの?」

…という。

最初は冗談混じりの言葉だと思って、笑って受け止めていた。

Uも、何となくそれを察して、
「気にしない方がいいよ」
と、言ってくれていた。

気にしないようにしていたが、レッスンも中盤になると、ますます、戦々恐々としてきた。

最初のエチュードの時、
きっかけは、スパゲッティーだった。

『スパゲッティー』のイントネーションがおかしい…と、Aがいう。

確かに、少し変なのは、自覚していた。

A「スパゲッティー⤵️」
私「スパゲッティー➡️」
A「違う、スパゲッティー!⤵️」
私「スパゲッティー➡️」

苛立つAの声が強くなる。

「⚪⚪君は?スパゲッティーって言ってみて!」

「スパゲッティー⤵️」

「⚪⚪ちゃんは?」

「スパゲッティー❔」

「ほら!違うでしょ!」

何が違うのかわからなくなってきた。

今思うと、スパゲッティーにそんなにこだわる必要は無かった…。

Uも、「何でそんなにスパゲッティーにこだわるの?」と、言い出した。

アンコを攻撃できれば、何でも良かったんでしょうね…と、Uは言う。

先生が現れた。

「先生、アンコのスパゲッティーのイントネーションが変ですよね。アンコ、スパゲッティーって言ってみて!」

「スパゲッティー➡️」

「変ですよね!」

「どっちでもいい。イントネーションなんて、その人の個性になればいいんだ。」

その一言で、スパゲッティー騒動は終わった。

その日の帰りがけ、険しい顔で振り返ったAが、

「個性だって言うなら、それでいいんじゃない?だけど、私が正しいから!絶対負けないから」
と、宣言された。


それからの私は、彼女の目が気になって仕方がない存在となった。