いきなりの先生の登場で、Aが傍若無人なにわか演出をしていたことがバレた。
烈火のごとく怒った先生に怒鳴られ、Aは稽古場を出ていった。
ーーあの流れからすると、もう戻れないんじゃないだろうか…。
しばらくAは、稽古場に現れなかった。
Aの役は、代役を立てて進行していたが…、そのまま代役さんが、本役さんになりそうだ…。
Aは、戻るか辞めるかを決めないとまずい日がやってきた。
舞台監督との打ち合わせで、正式なキャストじゃないと困るという日だ。
先生は、早くから来ていた。
「おはようございます」
Aがやって来た。
荷物を持ったまま、先生のところへ向かい、何度も頭を下げる。
「もういい」
と、先生が合図をすると、Aはこそこそと準備をして稽古場の隅に座った。
そして、Aは、稽古に戻った。
皆は時折ひそひそと内緒話しをする中、稽古は進められた。
今思うと、本当にAは、メンタルが強かったと思う。
そうでもないと、子役からこの世界で頑張って来れないんだろうなぁ…と、思った。
彼女Aは、子役と言っても、本当に小さい頃、有名な女優さんの子供役を演じていた…と聞いただけで、実際見た!という人はいなかった。
むしろ、Aよりも、現在進行形で活躍中の仲間もいたので、過去を振り回すAの存在は、仲間から鬱陶しがられていた。
それからAは、すっかりおとなしくなった。
…かのように見えた。
表面上は、おとなしかったが、
「彼女が、このままおとなしくなるはず無いじゃない!」
…と、思われていて、裏では何かを画策しているんじゃないか…と、仲間も言っていた。