終生ヒトのオスは飼わず

米原万里著　文春文庫　2010年3月10日初版

認知症の母親と伴に、犬や猫といった毛深い家族（笑）との日常を綴った彼女のエッセイと、共産党員だった父母、プラハでの生活を書いたり、インタビューに答えたりしたもの。自分で書いた（ふざけた）死亡記事との2本立て。

いつもながら彼女の軽妙で、ちょっと意地悪で、滑らかな文章に引き込まれるように読み進んだ。

文庫の最後の解説で、宇野淑子さんも書いてらしたけれど、これだけの数の毛深い家族を養っている万里さんにはとうてい『ヒトのオスは割り込む隙がなかったんだろう』と、私も思う（笑）
どんなにスーパーウーマンであっても、やっぱりヒトはヒト。
1日が24時間しかないのは同じ。

仕事を持って、出来る事なんてのは、限られてくる。
ヒトのオスと暮らしていたら、毛深い家族にここまでの世話は出来なかっただろうし、愛情だって・・・多分、ヒトには大まかな定量というのがあるに違いないから・・・
毛深い家族に注がれたそれは、ヒトのオスにまで回す『余分』がなかった筈だ。

それにしても、万里さんにはもっと長生きしてもらって面白い本を書いて欲しかった。　どうも最近、読書量の激減ingの私は、面白い本を探し出す嗅覚がすっかりダメになってきたと見えて、なかなか面白かった！と感じる本に出合えないから。

ただ・・・読後感とは異なるけれど、彼女の妹さんのユリさん、が・・・この本を手に取った日に亡くなった井上ひさし氏の奥様になっていた、というのは読み進んで知った事実。　偶然に決まってるとは思うのだけど、この本の中で彼女が最後までとても気にしていた大好きな賢いゲン（犬）が、私の首にこっそりと自分のリードをつけて引っ張っていたのかしら・・・とその偶然にハッとなったのは事実。