徳丸無明のブログ

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M-1グランプリ2022 感想

2022-12-21 23:24:56 | 雑文
寒いですね、とにかくお寒いですね。強烈な寒波が日本列島を包み込み、本当に温暖化は進行しているのか疑わしくなる今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか的な漫才の祭典、M-1グランプリの感想文です。今年は新顔中心というか、知名度の高いコンビは少なめで、今後新風を吹き込んでくれそうな顔ぶれになりましたね。

個別の感想は以下の通り。まずはファーストステージから。


カベポスター・・・トップバッターに選ばれた時点で優勝はあきらめたのでしょうか。いい具合に肩の力が抜けていました。
大声大会のネタ。自分以外が「ん」で終わる言葉を選んだために優勝を重ねる。「ん」を言うときの永見のポーズの反復が面白い。もっと大きな声が出るよう「言葉を選べよ」とツッコんだあとに「酒池肉林」という、別の意味で言葉を選ぶべきワードをもってくるのがうまい。2大会連続のゆりあへのメッセージがプロポーズへの伏線になっていたように、様々な「◯◯ん」も伏線に使えたような気がします。もっと尺が長ければいろんな展開を見せられるネタですね。
立川志らくが「ツカミの糸電話があまりに面白すぎて、それを超えてこなかった」って言ってましたけど、本編と直接関係のないツカミはあまり評価しなくていいんじゃないでしょうか。

真空ジェシカ・・・「共演者の信頼を得たい」と言ったのに、なぜだかシルバー人材センター連れていかれてしまう。博多大吉が「大喜利型漫才」と評していたように、このネタは「こんなシルバー人材センターはイヤだ、どんなの?」というお題の答えを羅列した形になっています。組み立てによってちゃんとストーリー展開があるように見えていますが、ひとつひとつの場面は独立していて、単独でも成立するんですね。なんで、話をちゃんと積み上げていくタイプが好きな人にはイマイチに思われるでしょう。去年のネタも同じ作りでしたけど、今回はひとつひとつの繋げかたが自然になっていました。
個人的には「六法全書の同人誌」と「かいみょん」が好きです。

オズワルド・・・「夢の中ならなんでもし放題」という話をしていたと思いきや、実は「今はオレの夢の中だ」と言い出す畠中。「今夢を見ている」と言い張る人を、どうやって現実だと気づかせるか、というシチュエーションがまずいいですね。ワクワクします。「現実でこんなことやったら死んだほうがマシ」の動きは、もっとコミカルにできるはず。
年々テンポが速くなっていますね。手数が増えてるぶん、余韻によって生まれる笑いが犠牲になってる気がします。忙しい中でのネタ作りが大変なら、来年は思いきってエントリーせず、2年がかりで優勝を目指してはどうでしょうか。

ロングコートダディ・・・まさかのWボケ。これも大喜利型ですね。「こんなマラソンランナーはイヤだ」の答えを次々見せていくスタイル。足音がけっこう大きくて、セリフの聞き取りに少し支障が出ていました。もっと音が出ない靴を選べなかったのでしょうか。最後の「一緒に走ろう」の伏線回収で全体のまとまりをもたせたかんじ。

さや香・・・最近珍しいケンカ漫才。聞いていて気持ちがいいです。まず「いつまでも若くないですよ」のひとことがカツーンと入る。パンチのようなツカミ。「衰えた」と言いながらもまだ若いエピソードを披露していきます。顔近づけツッコミをやることで、わかりやすくヤマ場を作れていますね。自分のオトンより相方のオトンがだいぶ年上と気づいた所で感情の切り替わりが起きて、場面転換のような劇的な効果になっています。「一番好きな食べ物は漬物」と「佐賀のタクシーだけ20%引き」に対するツッコミ変えたらもっと笑いが取れたんじゃないでしょうか。
完成度だけなら今大会一番ですね。

男性ブランコ・・・音符運びという架空の仕事のネタ。運びかたのコツを説明するも、失敗して浦井が死んでしまう。「そんな仕事はないよ」とか、根本を否定するツッコミなしで本編に入ったのはよかったです。最後の「音符運び危ないからやめとく」ってセリフ、フツーすぎ。
なんかインポッシブルっぽかったですね。出血を表すムーブとか、まさにそのものじゃないですか。こんなコミカルなネタ持ってきたのは、何か心境の変化でもあったのでしょうか。ロングコートダディもそうですけど、やっぱコント師ですね。

ダイヤモンド・・・余計な単語が付いた不自然な話を繰り広げる。「いちいちうるせえな」って怒鳴るのは、感情の爆発としてはタイミングが早いし、ツッコミをもうちょっと言い返してほしかったです。「もねってやめてよ」には共感できません。オネエみたいになっていくのはちょっと面白いですけど。ひとつひとつのワード選びはセンスあります。しかしセンスはあってもあまり笑いを生み出すには至らなかったか。「不自然ローソン」と「定価ローソン」が一番よかったです。
野澤の声はなんかクセになる。ダイヤモンドはネタごとに違った工夫をしていますね。そこはちょっとキュウに似ています。

ヨネダ2000・・・イギリスで餅をついてひと儲けをたくらむネタ。「ペッタンコ」のリズムをベースに、周囲の人々が様々な音楽的反応を繰り広げます。前半笑い低めで後半爆発。ダンスの披露に歌までうたっちゃって、これを漫才とするのはちょっとズルい気もします。イギリスの設定は必要だったのでしょうか。USA踊るならむしろアメリカのほうがよかったのでは。
今年THE Wもファイナリストで準優勝だったヨネダ2000。将来は安泰でしょう。

キュウ・・・「全然違うもの」を次々挙げていき、違っていると思ったものがなぞかけ的に関連していた、というネタ。関連が明らかになった瞬間、「うまい!」という笑いが起きます。まったく一緒のものを聞いているときの清水の表情が笑えますね。「~でしょう」の反復でリズムをつけていましたが、少しわざとらしいというか、芝居くさくなっていたかもしれません。
サンド富澤が言う通り、キュウは発想がすごいから、その感心のほうが上回ってしまうきらいがありますね。清水は平場が弱いのか、ネタの後は空回りしていました。
9年目のキュウが9番手で9位。9よっつでしょう!

ウエストランド・・・井口が悪口を言うためだけの、あるなしクイズ設定。見え透いているけど、笑いは届けやすいですね。出だしはゆっくりジワジワのウケ具合でしたが、「警察に捕まり始めてる」で客の心を完全につかみました。井口の答えの連呼がちょっと多いか。それを減らせば手数を増やせますね。
僕もナイツ塙と同じように短く感じましたが、それはネタを飛ばしたからだけでなく、「もっと悪口ほしい、もっとくれ」ってなってたからだと思います。分析してごめんね。


続きましてファイナルステージ。


ウエストランド・・・1本目と同じ形式のネタにして正解ですね。先に書きました通り、観客は1本目を観て「もっと悪口ほしい」という心理になっていました。そこに「ほら、これがほしいのか」と言わんばかりに、同じあるなしクイズのネタを放り込んだら、みんな「まってました!」とばかりに食いつくのです。ようは観客の飢餓感につけこむ形で爆笑をかっさらうことに成功したわけです。
しかし今年はR-1でお見送り芸人しんいちも優勝しましたし、世間は今、毒を求めているのでしょうか。コンプライアンスだ、痛みを伴う笑いはダメだ、ルッキズムだって、今まで当たり前のように言えていたこと、できていたことが軒並みダメってなっちゃって、みんな「もういい加減にしてくれ」ってなっているのでしょうか。
仮に世間が今、毒を求めているというのであれば、ウエストランドは時代が味方をしてくれたということになります。これまでずーっと悪口を言い続けてきた井口。そのキャリアによって、研ぎ澄ましに研ぎ澄まされた悪口が、毒を求める時代の願望と出会った。まったく計算していなかった、偶然による需要と供給の一致。言いたいことも言えないこんな世の中で求められたポイズンは、井口の毒だったのです。2020年のM-1が9位で終わったのは、ネタがイマイチだったからでも、ウデが未熟だったからでもなく、まだ時代の空気が強く毒を求めるまでに至っていなかったからなのかもしれません。苔の一念岩をも通す。悪口言い続けてきて本当によかったね。
それから、なぜ井口の悪口が笑えるのかというと、もちろん共感の部分もあるんですけど、それだけじゃなくて、井口の悪口は、「下から」の悪口だからなんですね。売れない芸人で、コンプレックスのかたまりのような小男が、なんかギャーギャーわめいている。その様は、滑稽ではあっても、威圧的ではありません。
社会的に下の立場にいる人間の悪口。それが「下から」の悪口です。下からの悪口は、発言者の劣位が気の毒であるがゆえに、不快感をもよおしません。キャラクターによってはポップですらある。だから許容される。許される悪口なのです。
たとえば有吉弘行なんかは、猿岩石でのブレイク後、仕事がなくなった時期を経て、復活し始めのころはガンガン毒を吐いていました。ひるがえって、テレビ界の頂点を極めた今、ほぼほぼ毒を封印しています。これはなぜかと言うと、「上から」の毒は過度に攻撃的で威圧的になるので、毒を吐かれた側が可哀想になり、笑えなくなってしまうからです。有吉は年を取って丸くなったのではなく、その自覚があるから意図的に毒を抑えているのでしょう。
なので井口の毒も、時限性というか、長期間は使えないかもしれません。志らくは「あなたがたがスターになったら時代が変わる」と言いましたが、ウエストランドがスターになったら毒を吐けなくなる可能性大です。井口の毒は、ウエストランドがスターではない限りで通用する毒だということです。改めて、分析してごめんね。
最後に河本が泣いたとき、「お前が泣くんかい!」とツッコんでしまいました。優勝予想の記事に書きました通り、心情的にはウエストランドに一番優勝してほしかったので、予想は外れましたが、嬉しい結果となりました。
しかしこうなると、アナザーストーリーが楽しみですね。まさか泣きながら電話したりしないでしょうね?いや、ひょっとしたらフリなのかもしれません。

ロングコートダディ・・・タイムマシンで江戸時代に行こうとするネタ。ツッコミの声が大きいのはいいとして、なぜガッツポーズする?
面白いんですけど、やっぱりこういうネタならコントとしてやってほしいです。

さや香・・・「男女の友情は成立する」という石井と、それを論破しようとする新山。石井のほうがおかしいのかと思いきや、「大人の関係」がただのアクシデント的キスだったことが明らかになった瞬間、立場が逆転する。すると「シラフの1回はベロベロの5回、昼の1回は夜の25回」という独自の計算式が変態性の表れに見えてきます。途中で立場が入れ代わるのは珍しくありませんけど、それでも物語の組み立てがよくできています。
1本目もそうですけど、羅列型の漫才と違って話が積み上がっていってるし、展開にメリハリがある。ひたすらヒートアップさせていくだけのケンカ漫才(誰とは言いませんけど、まあブラックマヨネーズ)とは違って、話の流れを追う楽しみがあります。
2本ともよかったです。僕の中ではさや香優勝。


今回審査員が2人変わりました。オール巨人と上沼恵美子が引退して博多大吉と山田邦子に。個人的には大歓迎です。オール巨人は少し考えが古くて頭固いし、上沼恵美子は感情的になりがちで自分の好みを優遇しがちという印象でしたので。でも山田邦子は山田邦子で、自由すぎて制御きかなそうなかんじでしたね。それでもえみちゃんよりクニちゃんのほうがマシかな。
全体的には、大爆発したネタはなく、中爆発がいくつか起きた程度の、わりとおとなしめな大会になりました。ウエストランドは(少なくとも2,3年は)売れるとして、ほかの組はどうなるでしょう。ダイヤモンドがキャラもってそうな予感はあります。カベポスターとキュウは今後も変わらず劇場と営業メインで行きそうな気がします。ヨネダ2000は遅かれ早かれなんで、あとはさや香がこれを機に東京進出するか否か。ロングコートダディも大阪拠点でしたっけ?これ以降、お笑い勢力図はどのように変化していくのでしょうか。