猫じじいのブログ

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東北大学を「国際卓越研究大学」候補に認定の怪

2023-09-04 00:02:16 | 科学と技術

きのうの新聞に、9月1日、文部科学省が「国際卓越研究大学」の初めての認定候補に東北大を選んだと発表した。

この「国際卓越研究大学」とはなんなのか、誰がえらぶのか、選ばれると大学にとって何がいいのか、この制度の裏の意図はなんなのか、と私は考えこんでしまう。

新聞によると、「この制度は、政府が巨額の資金を投じて国際競争力のある大学づくりを後押しし、低迷が続く日本の研究力を底上げしようというもの」らしい。

まず、私がわからないのは、「研究大学」とは何かである。大学は教育と研究とを行っている。東北大学を選んだとは、学生を取らない大学のことでもない。うさん臭い。

「低迷が続く日本の研究力を底上げする」のなら、本当は、研究者の身分を安定化し、研究者を目指す動機を高めるべきである。物理学や化学の分野では、将来の生活の不安から、いま、博士課程に進む者が少なくなり、研究者層が薄くなっている。

文部科学省のサイトをみると、制度を作った背景が長々と書いてあり、制度そのものについては、つぎのようにしか書かれていない。

「国際的に卓越した研究の展開及び経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学を国際卓越研究大学として認定し、当該大学が作成する国際卓越研究大学研究等体制強化計画に対して、大学ファンドによる助成を実施します。」

まさに、悪文、何を言いたいのか、わからない。

簡略化すると、「研究の展開」と「研究成果の活用」が「見込まれる大学」を認定し、助成すると言っている。単に国際的にすごい研究と言っているのではなく、経済効果を生む研究と言っているのだ。

助成するといっても、新聞によれば、初年度百億円である。小さな研究大学で研究分野が限られていなければ、研究資金としては決して多くない。文部科学省の狙いは、「認定」を餌に大学の変革を狙っていると私は考える。

認定する有識者会議(アドバイザリーボード)のメンバーは10人で、大学の研究者は2人だけで、後は富士通、NTTなど企業や政府関係者である。ノーベル賞受賞者やフィールズ賞受賞者は一人も含まれていない。

私は、産業とすぐに結び付く研究なら、企業でやってくださいと思う。国がでる必要がない。さもないと、特許権で争いが起きる。市場原理で動く社会では、企業は互いに競争している。どの企業も、当然、自分の研究成果を囲い込みたい。したがって、欧米では、成果が予測でき、成果の活用が見込まれる研究は、大手企業が自分で行うか、あるいは、ベンチャー企業に委託し、成果を独占しようとする。

大学は研究を担う新しい人材を育て、将来、企業が取り組む研究のタネを生む所である。大学の研究は国際的に公表するのが原則である。

今回の東北大の候補認定において、文部科学省はそのサイトに、つぎの3つの「審査の視点」を掲げている。

① 国際的に卓越した研究成果を創出できる研究力

② 実効性が高く、意欲的な事業・財務戦略

③ 自律と責任のあるガバナンス体制

①でわかるように、現在研究成果がでているか、国際的に評価されているかでなく、「現状を変革しようとする強い意志」があるかを審査している。それを、②や③で測るというのである。

これをさらに10の視点に分けているが驚くべき内容も含まれている。

(1) 国内の学術研究ネットワーク全体を牽引すること。(すでに学会があって研究ネットワークが民主的に運営されているのに、少数の研究大学の下に国内の大学を系列化したいのか)

(2) 全学的な変革が求められる。学内外の叡智を大学の下に結集。(いろいろな学部があるのに、なぜ一律の全学的変革が必要か)

(3) テニュア制度や評価システム等も導入。(いまでも多くの研究者が不安定な有期雇用に置かれているのに、このテニュア制度は終身雇用の地位をさらに限定するためか)

(4) 質的な向上の測定、モニタリング。

(5) 国内企業や海外からの資金調達の具体的な計画や構想。(大学は自活しろというのか)

(6) 同窓生からの寄附金獲得やスタートアップ創出などの手段や計画。

(7) ベンチマークしている海外大学の取組の比較(何のために何を)

(8) 大学の組織を再構築する有効な戦略・戦術。(組織の再構築とは何か、なぜ戦略と戦術が求められるのか)

(9) 資源の配分を決めていく仕組み。(「資源」とは助成金のことなのか)

(10) 研究マネジメント人材や技術職員、ファンドレイザー、スタートアップ育成等の専門職人材の確保の方策。(これって、お金を要する話で、大学側でお金を確保せよと言うののか)

きょうの朝日新聞2面で言っているように、認定を餌に、文部科学省が変革を「押し売り」していて、今回、東北大学が一番素直に文部科学省のいうことに従ったというのが真相のようだ。

総長が強権を発揮し、自分でお金を稼いでくる大学が「国際卓越研究大学」なら、そんな大学だと認定されることは、大学にとって恥ずかしいことだと私は思う