きのうの朝日新聞の、『(津山恵子のメディア私評)無視してきた闇 「演出」の裏側、忖度なく目を向けて』は、同意するところが多かった。
津山恵子は、故ジャニー喜多川の性的虐待と福島第一原発の処理水放出の「二つの問題の報じ方に、日本のメディアの問題が凝縮されている」と言う。
それは、演出された「華やかさ」や「安心」ばかりを報道し、その裏側にある闇の部分を、日本のメディアは報道しないということである。
これと重なるが、日本のメディアは、タレントをキャスターとして起用し、国家や企業に忖度しないジャーナリストを起用しない、と言う。
彼女の私評は、与えられた紙面の小ささのためか、喜多川の性的虐待問題に紙面の3分2を使い、原発の処理水放出問題は簡略化されている。したがって、私は、ここでは、後者に焦点をあてたい。
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確かに、彼女が言うように、「処理水放出」問題は高度に科学的な問題が絡んでいるように見える。
しかし、それは、安全か否かに問題を絞るからである。放射性物質の安全か否かは、生体にどう影響するかの研究が積みかさならないとわからないことであり、わかっても確率的な答えにしかならない。現状では海洋放出の「安全性」は科学的には不確かと見るべきである。
ニューヨークに滞在する彼女から見ると、
「漁業団体や水産業が懸念を示し、韓国のほか、欧米やオーストラリアなど各地で反対デモも起きた」
にもかかわらず、
「日本政府が透明性の高い、市民や諸国を納得させるプロセスを経て、海洋放出を決めたのか」
と批判する。イギリスの放送局BBCもこの点を批判する。
これは、日本政府への批判であると同じく、日本のメディアへの批判である。メディアは、反対する市民や諸国の懸念を丁寧に拾い上げ、日本政府がそれに答えているかを、専門家の助けのもと、検証すべきである。
ニューヨークから見ると全世界にトリチウム水の海洋放出の反対の声が起きているという事実を日本のメディアは伝えていない。そればかりか、中国政府が日本を貶めるために海洋放出に反対しているとの報道がテレビや紙面を騒がせている。これは、愛国心によって、国民の日本政府批判を抑え込もうという陰謀だと思う。
「透明性の高いプロセス」とは、おおやけの場での反対者と日本政府の継続的な討論である。政府主催の「識者の会議」でも「国会の多数決」でもない。
ところが、安全性は科学的な不確かなのに、日本政府は、はじめから、問題を「風評問題」と決めつけている。
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私の海洋放出に反対するのは、第1に、薄めれば放射性物質を海に捨てて良いのか、ということである。
日本政府が、薄めれば放射性物質を海に捨てて良い、とすれば、各国が、トリチウムだけでなく、なんでもかんでも海に捨てるようになるだろう。これを止める手段があるのだろうか。人類共有の海に、薄めても、放射性物質を捨ててはいけないが、基本ルールであるべきだ。
第2に、福島第1原発のALPSの処理水は、海に捨てるしか、ないという日本政府の主張に納得できない。
東電と政府が処理水処分方法として(1)海洋放出(2)大気放出(3)地中に大規模タンク埋設(4)地層注入を 上げていた。(1)と(2)とは放射性物質の拡散に結びつく。どうして(3)とか(4)とかの実現性を追求しなかったのか。(3)と(4)とはトリチウム水を福島の地にとどめることになるが、放射性物質を拡散を制御できる。(3)と(4)を最初の段階で政府が退けたのは政治的判断、即ち、福島県の自民党を守るためではないか、と私は疑う。
また、敷地のタンクにいまあるトリチウム水の処分だけでなく、炉心溶解した原子炉からトリチウム水が発生するを完全に防がないといけない。ところが、原子炉建屋のまわりの凍結が有効でなかったのに、いまだに、原子炉建屋の地下に水が流れこまないための本格的防水壁を設けようとしない。
また、ALPS処理もいかがわしい闇だ。取り除いたという他の放射性物質はどうなっているのだろう。その処分も問題である。
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また、さらに、津山恵子の「演出」の論点を補うと、海洋放出の安全性も演出されたものである。
東電の処理水ポータルサイトの「ALPS処理水の処分」に「海水希釈後のトリチウム濃度が1,500ベクレル/リットル(Bq/L)未満となるよう、100倍以上の海水で十分に希釈する」とある。
しかし、いま、じっさいには800倍に薄めて、約200 Bq/Lで放出している。800倍に薄めているのは、現在、海洋のトリチウム濃度を測定しているからである。放出口で測れば、200 Bq/Lなのに、離れた場所で測定していて、ほとんど検出できないなどと言っている。トリチウム水の拡散スピードは遅いから、いまのところ、海流にそって他の場所に流されており、測定地点に拡散していない。このことを確認しているだけである。これらは「安全」の演出である。
安全なトリチウム水濃度など現在時点では不確かである。だいたい、日本政府は飲料水の許容トリチウム濃度水など決めていない。日本にあるのは、トリチウム水のそばに人が居たときの安全基準だけである。トリチウム水を飲むことを想定していなかった。
世界の飲料水のトリチウム水の許容濃度は、EUが100Bq/L、アメリカが740Bq/Lである。現在の福島の海洋放出濃度は、EUの許容濃度の2倍の200 Bq/Lである。東電のサイトでは、いまだに1,500 Bq/L未満である。
海洋環境の保全という立場からは、どっぷりとトリチウム水に浸る海洋プランクトン、海洋植物、海洋動物についての安全性を調べるべきで、人が1日に2リットルしか飲まない飲料水の基準より厳しくなるだろう。
日本に飲料水の許容濃度がないということは、日本の他の原発はどのような濃度でトリチウム水を放出しているのだろうか。日本のメディは、これを調査して報道すべきだろう。