猫じじいのブログ

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イスラエル政府やアメリカ政府の血の報復に抗議するユダヤ系団体と米国国務省幹部

2023-10-21 15:32:22 | ガザ戦争・パレスチナ問題

(議事堂内)

きのう、10月20日の朝日新聞に、いまも続くイスラエル・ハマス軍事衝突の記事と社説が、1面、2面、11面、12面と集中した。このなかから、テレビでは見過ごされがちなニュースを見ていきたいと思う。

1面で注目すべきは次の記事である。

<(ラファ)検問所はエジプトの管理下にあるが、エジプト政府によると、ハマスとの戦闘が始まって以降、イスラエル軍は検問所付近を4回空爆。イスラエルの同意なしに通行ができなくなっている。>

<イスラエル首相府府は声明で、「食料、水、薬に限り、人道支援を阻止しない」と発表した。病院の発電機や患者の搬送に必要な燃料は対象に含んでいない。>

2面にはさらに重要な記事『練られた決議案 唯一反対 侵攻容認貫く米国』がのっている。この記事は、ちょっと、紙面の都合でわかりにくなっている。

10月16日以来、15ヵ国からなる国連安全保障理事会(安保理)でイスラエル・ハマス軍事衝突の即時停戦の決議案が、アメリカの反対で、否決され続けているという記事である。安保理の決議採択には少なくとも9票の賛成と、常任理事国5カ国が拒否権を行使しないことが必要になる。

16日のロシア案は、ハマスへの非難がないというアメリカの反対で、賛成が5票、反対が4票、棄権が6票で否決された。

18日に、<ハマスへの非難を盛り込み、「停戦(ceasefire)」でなく「人道的中断(humanitarian pauses)」という文言を使った>ブラジル修正案も、アメリカ1国の反対で、否決になった。賛成が12ヵ国、棄権がロシアと英国の2ヵ国である。アメリカの反対理由は<決議案にはイスラエルの自衛権について言及がない>であった。

これについて、時事通信は「米国の拒否権行使は、イスラエルのハマス壊滅に向けた地上作戦を容認する余地を残した」ものと報道した。

2面には、この記事の横に、『ホロコースト重ね 報復の世論 引けないイスラエル』がのっている。

<(今回のハマスの攻撃が)第2次世界大戦中のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)とも重ねられ、市民の間では徹底的な報復を望む声が強い。

ハマスの計画を察知できずネタニヤフ政権への国民の反発は激しい。いまの政権に、攻撃の手を緩める選択肢は、ほぼない。>

ハマスの攻撃をホロコーストと重ねるのは、ことの性質が異なり、無理である。自分たちより弱いはずのハマスがイスラエル領内に侵入でき、大量に人を殺せたことに、現在、イスラエル国民はパニックになっているだけと私は考える。ハマスの計画を事前に察知できず、また、国境警備も巨大な壁も役に立たなかったという現実を直視し、武力でパレスチナ難民を抑えこんできたリクード党の軍事路線をイスラエル国民は再検討すべきであろう。

11面にもっと注目すべき記事、欧米にイスラエル国を非難するデモが広がっているとの記事がのっている。とくに、記事『米議会内で停戦デモ ユダヤ系団体 300人逮捕』に私は注目する。

この記事は、18日、ユダヤ系団体が連邦議会議事堂前でイスラエルとハマスの停戦を訴えるデモを呼びかけ、その一部が議事堂内に通常の保安検査を受けて入館し、議事堂内に座り込んだ抗議者を300人以上逮捕したというものである。しかし、朝日新聞の記事では、デモの参加者がどの程度かわからない。

ニューズウィーク日本語版によると、ユダヤ系の平和活動団体「平和へのユダヤ人の声」が、停戦を求めて、「アメリカ在住のユダヤ人数百人が現在、議会で座り込みを行っている。米連邦議会がガザ地区での停戦を呼びかけるまで続けるつもりだ。議会建物の外では数千人、中では350人を超えるユダヤ人が抗議を行っている。この中には24人のユダヤ教指導者も含まれ、祈りを込めて抗議活動を行っている」と公表したという。

イスラエルの地上軍のガザ侵攻を容認するバイデン政権への非難が、アメリカ国内のユダヤ人にも広がっている様子がうかがえる。

きょうの朝日新聞11面に、これを補足する記事『米政権苦しい同時支援 掲げる「大義」国内外冷ややか』がのっていた。とくに注目すべき箇所はつぎである。

<バイデン氏の民主党内では、左派を中心に一部で懐疑的な意見があり、現職の米国務省幹部が支援に反発して辞職したことも明らかになった。>

イスラエルの地上軍のガザ侵攻を止めようとするアメリカのユダヤ系団体、民主党左派、米国務省幹部の存在に、私は平和への希望を見いだす。


イスラエル国とパレスチナ人の軍事衝突は宗教戦争ではなく土地の争奪戦だ

2023-10-21 01:27:41 | ガザ戦争・パレスチナ問題

きのうから、図書館から鶴見太郎の『イスラエルの起源 ロシア・ユダヤ人が作った国』(講談社選書メチエ)を借りて読む。この本は2020年11月10日に発行の書で、今回のハマスのイスラエル攻撃に対する徹底した報復の、約3年前に出版されたものである。

私には、イスラエル国がなぜパレスチナ人を軍事力で追い払って建設されたのかが、長らく謎であった。

第1次世界大戦以前は、パレスチナの地はトルコ帝国の一部であって、イスラム教徒(ムスリム)、キリスト教徒、ユダヤ教徒が争わずに住んでいた。第1次世界大戦後、敗戦国のトルコ帝国は解体され、パレスチナはイギリスの統治下にはいった。第2次世界大戦後の植民地解放の流れのなかで、当然、パレスチナの地のイスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が共同で戦線を組んで、パレスチナ独立国を作ることができたはずである。それなのに、1948年に、ユダヤ人が、なぜ、パレスチナの地にユダヤ人の国家を武力で建設し、パレスチナ難民や周りの国々と戦い続けるたか、と疑問である私は疑問に思っていた。

鶴見も、また、「ホロコーストを体験したユダヤ人がなぜイスラム教徒を武力攻撃するのか」という疑問に答えるために、本書を書き上げている。

彼によれば、まず、抑えておくポイントの1つは、ユダヤ人とユダヤ教徒とは異なるということである。

ユダヤ教徒とは、シナゴーグで日に3回祈りを捧げ、タルムードの規定する生活様式を守る人々である。ユダヤ人とは、自らをユダヤ人と考えるか、他からユダヤ人と見なされる人びとのことである。近代にはいり、ユダヤ人は必ずしもユダヤ教徒ではなくなった。ユダヤ人は、それぞれ、非常に多様な思想をもって、多様な生活を送るようになった。しかし、彼らの内面は、歴史からくるユダヤ人としての側面と生まれ育った国の文化からくる側面とが複雑に入り混じっており、並存型、融合型、不協和音型、矛盾型、相補型に分けられるという。

第2のポイントは、ユダヤ人すべてが、パレスチナの地に国家を建設しようとしたわけでないということだ。じっさい、現在、イスラエル国のユダヤ人とほぼ同じ数のユダヤ人がアメリカに住んでいる。

鶴見は、イスラエル国建設は、ロシア・東欧を発祥の地とするシオニスト運動によるものだという。このロシアとは、現在のリトニア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドヴァのことで、かって500万人のユダヤ人がいた。

けっして、イスラエル国は、ホロコーストを体験したユダヤ人が建設した国ではない。イスラエルの歴代の首相は、ロシアからの入植者か、その子孫である。

第3のポイントはシオニストにもいろいろあるということだ。軍事訓練を行っていた武闘派のシオニストが中心になってイスラエル国は建設された。鶴見は、モノの考え方の根底に、「敵か味方か」の2者択一があると、軍事的な防衛と敵のせん滅に走りやすい、と言う。

これは、現在の自民党右派にも当てはまると思う。

私もリアリストとのところがあり、各集団は自己の利益を最大にするために戦っていると考えがちだ。しかし、軍事的な戦いは非常な労力と人的犠牲をもたらす。軍事的な戦いよりも共存のためのコストのほうが安い。軍備にお金を掛けることに反対する。

とりあえず まとめると、鶴見の『イスラエルの起源』は、従来のユダヤ人の古代史やヘブライ語聖書やタルムードにもとづいたユダヤ人論ではなく、現代史と国際関係論にもとづいたユダヤ人論になっており、現在のイスラエル紛争を理解するに最適の書と思う。