自民党総裁選が終わってから株価が乱高下している。新聞を読むと、新首相になった石破茂は、株価維持のためにこれまでの発言を修正し、金融緩和を続けるという立場をほのめかしている。
金融緩和の問題は、円安を維持するのか、円ドル相場を元に戻すのか、そして、株価高と物価高のどちらを選択するのか、という問題に帰着する。経済政策の目標をどこに置くかの問題である。株価があがっても株保有者の名目上の所得が上がるだけで、デフレの本当の原因、富の偏在のために需要が減少していることの対策にならない。
デフレは生産力にくらべ需要が伸びないときに起きる現象である。日本の戦後の復興期のデフレは、アメリカに需要を見出すことで解決してきた。しかし、それは、デフレの輸出にあたる。当然、日米摩擦が起きる。最近のデフレは、中国の経済成長による需要の増大によって、日本のデフレが多少カバーされてきた。
私が現役のとき、当然潰れるはずの新日鉄や小松製作所が、中国の需要の増大で、息を吹き返した。しかし、その中国も経済成長に陰りが出ている。建設業に破綻が出始めている。
日本は、もはや、輸出によってデフレを脱却できないことが、一般には充分に理解されていないように思える。金融緩和も、株価維持政策も、インフレ政策も、日本の不景気の根本解決に導かず、富の偏在の解消しかない。
金融資産の課税を強化するという政策は、石破茂が最初に言いだしたのではなく、3年前に岸田文雄が首相になったとき、施政方針で初めて述べたことである。しかし、岸田は財界からの反対でそれをできず、かわりに、新NISAなどと言いだした。石破はもっとひどく、首相になったとたんに、過去の発言を撤回し、富の偏在の是正に言及しなくなった。
3週間前に、朝日新聞の夕刊に、一橋大学の経済学教授の陣内了が、インフレ政策が如何にいけないことか、述べていた。第1に、インフレは実質的に賃金の引き下げである。第2にインフレはお金の借り手に有利で貸し手に不利である。インフレは連鎖倒産を防げるかもしれないが、年金生活者や福祉に頼っている人たちを生活困窮に貶める。
J. ガルブレイスは『ゆたかな社会』で、年金や生活保護や失業保険は、社会の需要の底支えをする役割があり、社会の安定性を保つために必要だと言っている。
また、泉健太は、今回の立憲民主党の代表選で、インフレは消費税による税収入を増やすが、企業や資産家の課税は増やさない、結果として、貧しい人たちの税負担の割合を増す、と指摘していた。
円安によるインフレに良いことなんてありはしない。
富の偏在に言及せず、株価維持だけに心が奪われる自民党政権が、このまま、続いていいものと私はおもわない。