2日前に、朝日新聞は「ユダヤ教の超正統派 徴兵を」「イスラエル最高裁、政府に命令」「兵役免除に批判 教徒は反発」という記事を載せた。
この最高裁判決は4カ月近く前の6月25日に出たものである。なぜ今頃になって、朝日新聞がわざわざこれを報道するのか、私は不思議に思った。
ユダヤ教の超正統派は徴兵に反対していて、いまもなお、ガラント国防相の「軍は今後1年で計4,800人の超正統派を徴兵する方針」が実行されていないのか、あるいは、超正統派の誰も徴兵に応じないのか、これらが記事からはわかりにくい。
記事によれば、現在約36万人が戦争に動員されており、超正統派はイスラエルの人口の約14%を占める。国防相方針の数字4,800人は、ずいぶん控え目な数字で、応分な負担ではない。
しかし、私は徴兵を拒否すること自体は悪いことではないと思う。人を殺してはならないという理由で徴兵を拒否することは正当だと思う。
過去の事例では、ベトナム戦争のとき、アメリカは徴兵制であったが、政府は、キリスト教の一派アーミッシュの良心的徴兵拒否を認めた。
問題なのは、ユダヤ教超正統派は、現在のイスラエルが行っている戦争、ガザ侵攻、レバノン侵攻に反対しているのか、賛成しているのか、朝日新聞の記事からは判然としないことだ。
戦争に賛成していて、自分が戦争に行きたくないというのでは、私は身勝手だと思う。イスラエルの建国のとき以来、超正統派は戒律の学習に忙しいからという理由で、徴兵免除になっていたというから、身勝手の可能性がある。超正統派は選挙で積極的に投票し、超正統派を母体とする2つの政党がイスラエルの戦時内閣に参加しているから、身勝手の可能性が高い。
朝日新聞の記事は、「男性の多くは卒業後も仕事せずに宗教を学ぶ。貧困世帯も多く、政府から補助金が支給されている」と超正統派を非難する。記事では、これ以上の詳しい説明がない。
私が昔読んだ知識では、超正統派では、男は仕事をせずに、戒律の学習や研究に一生をささげ、女が生活を支えるという。記事は、男が働かないので貧困世帯となり、生活保護を受けているという意味ではないかと私は思う。また、イスラエルでは、子どもの数が4人以上だと、子ども手当がでる。イスラエルの出生率は3.0人だが、超正統派では6.4人である。さらに、イェシヴァといってユダヤ教の戒律の学習・研究に引きこもっていれば、結婚しようが子供ができようが、政府が奨学金として最低限の生活の面倒をみる。
不公平だという一般のイスラエル人の気持ちもわかる。
アーミッシュの場合、彼らは政府に税金を納めるが、政府の補助金を拒否する。男も女も働くことに感謝と喜びを見いだし、欲望に振り回されず、静かに生きる。私はアーミッシュの生き方が好きである。ユダヤ教超正統派とずいぶん違う。
反ユダヤ主義からくるフェイクニュースも多い現在、朝日新聞には丁寧な説明と裏付けのある記事を望む。
[補遺2024.10.22]
朝日新聞の記事は、ユダヤ教超正統派がガザ侵攻やレバノン侵攻やヨルダン川西岸入植を促していると述べているのでもないようだ。芝生瑞和の『パレスチナ』(文芸春秋新書)によれば、超正統派は、戒律を守り、ヤハウェーの神を畏れよと言っているのであって、パレスチナ人の排除を主張していない。むしろ、超正統派は、領土拡大を狙うシオニズムを批判している。そういうことを考えると、朝日新聞の記事の意図はわからなくなる。
[補遺2024.11.7]
アメリカ大統領選でトランプの勝利が確実になると、イスラエルのネタニヤフ首相はガラント国防相を解任した。ユダヤ教の超正統派の徴兵を主張していたのがガラントであり、反対していたのがネタニヤフだった。徴兵は実施されていない。戦争継続のため、ユダヤ教の超正統派の支持をネタニヤフが必要としていたのである。
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