PROLOGUE
BEACH BOYSのDVD作品『AN AMERICAN BAND』をご存じだろうか?
ドキュメンタリータッチで描かれたアイドルバンドの変遷。
カリフォルニアンお気楽ボーイズたちの記録。
その中のSURF'S UPという曲に心をつかまれた。
ブライアン・ウィルソン
まず始めに。
ブライアン・ウィルソンとは1962デビューの
バンド、ビーチボーイズのリーダーである。
話を1964年から始めよう。
この年、ビートルズがアメリカでの活動を開始する。
彼等を始めとするイギリス勢のアメリカ侵攻は凄まじく
瞬く間に音楽シーンを変えていった。
その波に呑まれなかったのはビーチボーイズとソウルミュージックの
モータウン関連アーティストだけだったといえる。
ビートルズが感性を爆発させるのに対し
ビーチボーイズは技術を磨くことで挑んだ。
前者はフォークのメッセージ性を取り入れるなど
時代の空気を敏感に察知したのに対し
後者はより新しいサウンドを追求して行った。
64年の両者のアルバム、『フォー・セール』『オール・サマー・ロング』
を比べれば一聴瞭然である。
ビートルズでジョン・レノンが「オレは負け犬」とフォーキーに訴える。
ブライアンは「心配ないさ、ベイビー」と詩の深みはない。が、画期的な
音造りは随所に施されている。コーラスの編成、リズムパターン等等。
質の高いポップ・ミュージックである。
そして1965年。これが非常に重要な年なのである。
ここで両バンドともにドラッグを覚えた。
そしてビートルズが出したアルバム『ヘルプ!』。
ポール・マッカートニーが開花し"イエスタデイ"が炸裂。
一方、ブライアン。
アルバム「トゥデイ」ではドラッグの影響によって
サウンドはより複雑怪奇になっていた。
またB面(レコード時代なので)は陰鬱なムードが立ち上る。
"プリーズ・レット・ミー・ワンダー"という曲は
明らかにおかしい。レコード会社も焦ったほどである。
この後、ついに決定打が送り込まれる。
ビートルズの『ラバー・ソウル』。
彼等はドラッグを吸収、消化そして昇華させた。
空気が違う。
ブライアン、衝撃を受ける。
この時点迄は相手のことを「単なる勢い」くらいに
考えていたようであるが、『ラバー・ソウル』はやばかった。
実際あまり聞いてはいないだろう。
だが、アルバムを包む空気感が尋常でないことに反応したのだ。
そして情緒不安定を理由にツアー参加を拒否し
スタジオにこもりはじめる。
当時の写真を見ると凄い顔つきをしている。
既に音的にはイメージが確立していたのだろう。
そこに『ラバー・ソウル』のアルバムを貫く空気を与える。
結果生まれたのが『ペット・サウンズ』。
今も金字塔として崇められている。マスター・ピース。
ティーン・エイジャーのシンフォニー。
ブライアンの頭中の響きを直接聴いているかの様だ。
その響きが全体を包み込んでいる。
ブライアン、この時23歳。
ひとまずの満足を得たブライアンだったが
頭の中では既に次の音が鳴りはじめていた。
「グッド・バイブレイション」
一曲単位で考えられる最高の曲といわれている。
費やした時間、金額も凄いがやはりブライアンが一番凄い。
また、『ペット・サウンズ』があまり一般受け
しなかったのに対し、この曲はキャッチーでもあったため
スマッシュ・ヒットにつながった。
ブライアンの野望は燃え上がっていた。
次のアルバムに向け、歌詞の協力者にウ゛ァン・ダイク・パークスを迎える。
二人はクスリ漬けとなって作品造りに没頭して行く。
クスリの摂取量でいってもこの作品がトップなのではないか。
タイトルは『スマイル』とつけられた。
ジャケットデザインも、実際のジャケットも、宣伝ポスターも
全て整っていた。
ブライアンは結果として『スマイル』を放棄した。
クスリの旅は際限がなかったのである。
同時に被害妄想、パラノイアに陥っていたからだ。
集中するために部屋を砂で埋め、その中でピアノを弾く
など、完全にイカレていた。
その後彼は精神障害を煩い苦悩の人生を歩むことになる。
多くのファンは捨てられた『スマイル』の断片を集め
アルバムとして一体となった姿を想像した。
そして2005年、復活を遂げたブライアンは『スマイル』
を若手のミュージシャンとともに完成させたのである。
それは穏やかな音楽となっていた。微笑ましい姿だった。
当然、23歳のブライアンの凶暴なエネルギーは消えていた。
しかし、私は67年当時のブライアンに共感する。
自分の作品に対する情熱。
ここで冒頭に戻るが、「サーフズ・アップ」。
この曲は『スマイル』用の曲である。
ピアノを弾きながら歌うブライアンの姿を見る。
茶色のパジャマのような服。
どうしようもない髪型。
なかば白目に近い状態で揺れながら歌っている。
弾き語りでこれほど感動したことはない。
歌いだしから鳥肌が立った。
無限に広がるイメージの一端をさらりと歌い流している
このフィルム。なんと贅沢だろう。
そこにはっきりと魂を感じた。
BEACH BOYSのDVD作品『AN AMERICAN BAND』をご存じだろうか?
ドキュメンタリータッチで描かれたアイドルバンドの変遷。
カリフォルニアンお気楽ボーイズたちの記録。
その中のSURF'S UPという曲に心をつかまれた。
ブライアン・ウィルソン
まず始めに。
ブライアン・ウィルソンとは1962デビューの
バンド、ビーチボーイズのリーダーである。
話を1964年から始めよう。
この年、ビートルズがアメリカでの活動を開始する。
彼等を始めとするイギリス勢のアメリカ侵攻は凄まじく
瞬く間に音楽シーンを変えていった。
その波に呑まれなかったのはビーチボーイズとソウルミュージックの
モータウン関連アーティストだけだったといえる。
ビートルズが感性を爆発させるのに対し
ビーチボーイズは技術を磨くことで挑んだ。
前者はフォークのメッセージ性を取り入れるなど
時代の空気を敏感に察知したのに対し
後者はより新しいサウンドを追求して行った。
64年の両者のアルバム、『フォー・セール』『オール・サマー・ロング』
を比べれば一聴瞭然である。
ビートルズでジョン・レノンが「オレは負け犬」とフォーキーに訴える。
ブライアンは「心配ないさ、ベイビー」と詩の深みはない。が、画期的な
音造りは随所に施されている。コーラスの編成、リズムパターン等等。
質の高いポップ・ミュージックである。
そして1965年。これが非常に重要な年なのである。
ここで両バンドともにドラッグを覚えた。
そしてビートルズが出したアルバム『ヘルプ!』。
ポール・マッカートニーが開花し"イエスタデイ"が炸裂。
一方、ブライアン。
アルバム「トゥデイ」ではドラッグの影響によって
サウンドはより複雑怪奇になっていた。
またB面(レコード時代なので)は陰鬱なムードが立ち上る。
"プリーズ・レット・ミー・ワンダー"という曲は
明らかにおかしい。レコード会社も焦ったほどである。
この後、ついに決定打が送り込まれる。
ビートルズの『ラバー・ソウル』。
彼等はドラッグを吸収、消化そして昇華させた。
空気が違う。
ブライアン、衝撃を受ける。
この時点迄は相手のことを「単なる勢い」くらいに
考えていたようであるが、『ラバー・ソウル』はやばかった。
実際あまり聞いてはいないだろう。
だが、アルバムを包む空気感が尋常でないことに反応したのだ。
そして情緒不安定を理由にツアー参加を拒否し
スタジオにこもりはじめる。
当時の写真を見ると凄い顔つきをしている。
既に音的にはイメージが確立していたのだろう。
そこに『ラバー・ソウル』のアルバムを貫く空気を与える。
結果生まれたのが『ペット・サウンズ』。
今も金字塔として崇められている。マスター・ピース。
ティーン・エイジャーのシンフォニー。
ブライアンの頭中の響きを直接聴いているかの様だ。
その響きが全体を包み込んでいる。
ブライアン、この時23歳。
ひとまずの満足を得たブライアンだったが
頭の中では既に次の音が鳴りはじめていた。
「グッド・バイブレイション」
一曲単位で考えられる最高の曲といわれている。
費やした時間、金額も凄いがやはりブライアンが一番凄い。
また、『ペット・サウンズ』があまり一般受け
しなかったのに対し、この曲はキャッチーでもあったため
スマッシュ・ヒットにつながった。
ブライアンの野望は燃え上がっていた。
次のアルバムに向け、歌詞の協力者にウ゛ァン・ダイク・パークスを迎える。
二人はクスリ漬けとなって作品造りに没頭して行く。
クスリの摂取量でいってもこの作品がトップなのではないか。
タイトルは『スマイル』とつけられた。
ジャケットデザインも、実際のジャケットも、宣伝ポスターも
全て整っていた。
ブライアンは結果として『スマイル』を放棄した。
クスリの旅は際限がなかったのである。
同時に被害妄想、パラノイアに陥っていたからだ。
集中するために部屋を砂で埋め、その中でピアノを弾く
など、完全にイカレていた。
その後彼は精神障害を煩い苦悩の人生を歩むことになる。
多くのファンは捨てられた『スマイル』の断片を集め
アルバムとして一体となった姿を想像した。
そして2005年、復活を遂げたブライアンは『スマイル』
を若手のミュージシャンとともに完成させたのである。
それは穏やかな音楽となっていた。微笑ましい姿だった。
当然、23歳のブライアンの凶暴なエネルギーは消えていた。
しかし、私は67年当時のブライアンに共感する。
自分の作品に対する情熱。
ここで冒頭に戻るが、「サーフズ・アップ」。
この曲は『スマイル』用の曲である。
ピアノを弾きながら歌うブライアンの姿を見る。
茶色のパジャマのような服。
どうしようもない髪型。
なかば白目に近い状態で揺れながら歌っている。
弾き語りでこれほど感動したことはない。
歌いだしから鳥肌が立った。
無限に広がるイメージの一端をさらりと歌い流している
このフィルム。なんと贅沢だろう。
そこにはっきりと魂を感じた。