PROLOGUE
今晩は。
風が強い。
ではいきましょう。
リーマン太平記
●入社前の3月、私は静岡にある工場へ
研修で行くことになった。
出発を目前に控えたとある週末。
ゆうすけ:「やっぱりサウナはいいね。」
「うっ!」
●肺に激痛がはしる。
立つこともできず
家まで運んでもらう。
肺気胸という肺に穴が
あく病気だった。
緊急入院。
手術を初体験。
退院後にすぐ工場研修という
タフなスケジュールとなった。
ゆうすけ:「うっ!」
●静岡での1週間、トラック野郎
達のアジトのような民宿でタフな
連中と寝起きを供にした。
工場での作業はいたって単純。
必死でマスタードの巨大な樽を
ころがしていた。
その場では気付かなかったが帰って
シャワーを浴びた瞬間マスタード
パウダーの刺激が全身をしびれさした。
術後間もない私にとっては過酷であった。
ゆうすけ:「うっ!」
●ちなみに会社へは病気の件は伏せていた。
フレッシャーとしては健康が大切だからだ。
それが絶対の品質だと信じていたから。
工場での労働が終わると、終わる時間は
結構早かったので明るい内から
ぷらぷらできた。
宿の前にはつぶれたスーパー。
ものすごく私の心を不安にさせてくれた。
夜そっと窓からそのスーパーを覗くと
小さな頃の恐ろしい記憶が甦った。
よせばいいのに毎晩眺めていた。
少しいった所に寂れた服屋があった。
そのオヤジさんが引退する時につぶれる
のであろう、と思った。そこでグンゼの
ランニングを買い漁った。ちょうど当時
ヴィンセント・ギャロが来日した際に
その下着に惚れ込んだというエピソード
を聴いていたので私も試そうと思ってい
たところだったのだ。
古びた民宿でランニングを着て
つぶれたスーパーを眺める。何故だか
その時間の思い出ばかり甦る。
工場のことはかなり記憶が風化している。
シンジさんが入れてくれたお茶。
休憩時間にみんなで飲んだお茶なのだが
その香りは思い出せる。
工場裏のゴミ置き場のガラクタや
事務所にあった木のオブジェ。
そう。まさに私は旅行気分であったのだ。
興味があったものはじーっと見つめていた。
あの一体を覆うのどかな空気が懐かしい。
ゆうすけ:「なんか成長したな~、オレ。」
●妙な充実感を引っさげて私は家に帰った。
充実感に顔が緩む私だったが家族とかく
父親から見た姿は土色の顔に目がうつろな
ふうに見えたらしい。
父:「おまえいつから入社だ?」
ゆうすけ:「え~っと。来週かな。」
父:「ちょっと遅らせてもらえ。」
「その間にハワイ行って焼いてこい。」
ゆうすけ:「!」
●父のこの提案を快諾した私は
会社へ連絡し、しばらく
アルバイトを休ませてもらった。
そしてハワイへ。
私もハワイが大好きである。
応急処置的に外見は健康そうにできた。
鏡に映る自分をみて
ゆうすけ:「んー!健康だ、オレ」
●帰国し、数日のアルバイトとしての
仕事を終えると
いよいよ新入社員としての
生活がスタートすることとなる。
緊張と不安。
だがそれを上回る
好奇心が当時の私にはあった。
つづく
今晩は。
風が強い。
ではいきましょう。
リーマン太平記
●入社前の3月、私は静岡にある工場へ
研修で行くことになった。
出発を目前に控えたとある週末。
ゆうすけ:「やっぱりサウナはいいね。」
「うっ!」
●肺に激痛がはしる。
立つこともできず
家まで運んでもらう。
肺気胸という肺に穴が
あく病気だった。
緊急入院。
手術を初体験。
退院後にすぐ工場研修という
タフなスケジュールとなった。
ゆうすけ:「うっ!」
●静岡での1週間、トラック野郎
達のアジトのような民宿でタフな
連中と寝起きを供にした。
工場での作業はいたって単純。
必死でマスタードの巨大な樽を
ころがしていた。
その場では気付かなかったが帰って
シャワーを浴びた瞬間マスタード
パウダーの刺激が全身をしびれさした。
術後間もない私にとっては過酷であった。
ゆうすけ:「うっ!」
●ちなみに会社へは病気の件は伏せていた。
フレッシャーとしては健康が大切だからだ。
それが絶対の品質だと信じていたから。
工場での労働が終わると、終わる時間は
結構早かったので明るい内から
ぷらぷらできた。
宿の前にはつぶれたスーパー。
ものすごく私の心を不安にさせてくれた。
夜そっと窓からそのスーパーを覗くと
小さな頃の恐ろしい記憶が甦った。
よせばいいのに毎晩眺めていた。
少しいった所に寂れた服屋があった。
そのオヤジさんが引退する時につぶれる
のであろう、と思った。そこでグンゼの
ランニングを買い漁った。ちょうど当時
ヴィンセント・ギャロが来日した際に
その下着に惚れ込んだというエピソード
を聴いていたので私も試そうと思ってい
たところだったのだ。
古びた民宿でランニングを着て
つぶれたスーパーを眺める。何故だか
その時間の思い出ばかり甦る。
工場のことはかなり記憶が風化している。
シンジさんが入れてくれたお茶。
休憩時間にみんなで飲んだお茶なのだが
その香りは思い出せる。
工場裏のゴミ置き場のガラクタや
事務所にあった木のオブジェ。
そう。まさに私は旅行気分であったのだ。
興味があったものはじーっと見つめていた。
あの一体を覆うのどかな空気が懐かしい。
ゆうすけ:「なんか成長したな~、オレ。」
●妙な充実感を引っさげて私は家に帰った。
充実感に顔が緩む私だったが家族とかく
父親から見た姿は土色の顔に目がうつろな
ふうに見えたらしい。
父:「おまえいつから入社だ?」
ゆうすけ:「え~っと。来週かな。」
父:「ちょっと遅らせてもらえ。」
「その間にハワイ行って焼いてこい。」
ゆうすけ:「!」
●父のこの提案を快諾した私は
会社へ連絡し、しばらく
アルバイトを休ませてもらった。
そしてハワイへ。
私もハワイが大好きである。
応急処置的に外見は健康そうにできた。
鏡に映る自分をみて
ゆうすけ:「んー!健康だ、オレ」
●帰国し、数日のアルバイトとしての
仕事を終えると
いよいよ新入社員としての
生活がスタートすることとなる。
緊張と不安。
だがそれを上回る
好奇心が当時の私にはあった。
つづく