リーマン太平記

2006-03-16 | ライフ
PROLOGUE

今晩は。
風が強い。

ではいきましょう。


リーマン太平記


●入社前の3月、私は静岡にある工場へ
 研修で行くことになった。
 出発を目前に控えたとある週末。

ゆうすけ:「やっぱりサウナはいいね。」

     「うっ!」

●肺に激痛がはしる。
 立つこともできず
 家まで運んでもらう。

 肺気胸という肺に穴が
 あく病気だった。
 緊急入院。
 手術を初体験。
 退院後にすぐ工場研修という
 タフなスケジュールとなった。


ゆうすけ:「うっ!」


●静岡での1週間、トラック野郎
 達のアジトのような民宿でタフな
 連中と寝起きを供にした。
 工場での作業はいたって単純。
 必死でマスタードの巨大な樽を
 ころがしていた。
 その場では気付かなかったが帰って
 シャワーを浴びた瞬間マスタード
 パウダーの刺激が全身をしびれさした。
 術後間もない私にとっては過酷であった。


ゆうすけ:「うっ!」


●ちなみに会社へは病気の件は伏せていた。
 フレッシャーとしては健康が大切だからだ。
 それが絶対の品質だと信じていたから。

 工場での労働が終わると、終わる時間は
 結構早かったので明るい内から
 ぷらぷらできた。
 宿の前にはつぶれたスーパー。
 ものすごく私の心を不安にさせてくれた。
 夜そっと窓からそのスーパーを覗くと
 小さな頃の恐ろしい記憶が甦った。
 よせばいいのに毎晩眺めていた。

 少しいった所に寂れた服屋があった。
 そのオヤジさんが引退する時につぶれる
 のであろう、と思った。そこでグンゼの
 ランニングを買い漁った。ちょうど当時
 ヴィンセント・ギャロが来日した際に
 その下着に惚れ込んだというエピソード
 を聴いていたので私も試そうと思ってい
 たところだったのだ。

 古びた民宿でランニングを着て
 つぶれたスーパーを眺める。何故だか
 その時間の思い出ばかり甦る。
 工場のことはかなり記憶が風化している。
 シンジさんが入れてくれたお茶。
 休憩時間にみんなで飲んだお茶なのだが
 その香りは思い出せる。
 工場裏のゴミ置き場のガラクタや
 事務所にあった木のオブジェ。
 
 そう。まさに私は旅行気分であったのだ。
 興味があったものはじーっと見つめていた。
 あの一体を覆うのどかな空気が懐かしい。


ゆうすけ:「なんか成長したな~、オレ。」


●妙な充実感を引っさげて私は家に帰った。
 
 充実感に顔が緩む私だったが家族とかく
 父親から見た姿は土色の顔に目がうつろな
 ふうに見えたらしい。


父:「おまえいつから入社だ?」

ゆうすけ:「え~っと。来週かな。」


父:「ちょっと遅らせてもらえ。」

  「その間にハワイ行って焼いてこい。」


ゆうすけ:「!」

●父のこの提案を快諾した私は
 会社へ連絡し、しばらく
 アルバイトを休ませてもらった。
 そしてハワイへ。

 私もハワイが大好きである。
 応急処置的に外見は健康そうにできた。
 鏡に映る自分をみて

ゆうすけ:「んー!健康だ、オレ」


●帰国し、数日のアルバイトとしての
 仕事を終えると

 いよいよ新入社員としての
 生活がスタートすることとなる。

 緊張と不安。
 だがそれを上回る
 好奇心が当時の私にはあった。


つづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする