その場考学のすすめ(05)様々なサイクルに興味
日常繰り返し起こることとは、すなわちサイクリックに繰り返されることが多いと云うことで、サイクルに興味を持ち始めた。すると日常生活でも仕事の上でも、驚くほど多くのことがサイクリックに繰り返されていることに直ぐに気が付く。
大宇宙の創造からノミの心臓の鼓動まで、あらゆる物事にサイクルが存在する。思えば当然のことなのだが、サイクリックに繰り返さないものはこの世に存在し続けることが出来るのであろうか。答えは否だと思う。単調増加や単調減少を続けるものは、長期間存在を続けることはできない。現代では宇宙の存在ですらサイクリックに繰り返されていることが理論的に説明されている。
そこで、その場考学の第一は、サイクル論を考えることとした。このことを気にかけると、実は毎日出会う全ての新聞や雑誌の中にサイクルが含まれていることに気が付く。そこでサイクル論にはとめども無い楽しみが生まれてくる。そこで、デザイン・コミュニティ・シリーズの第7巻として、
「設計とサイクル論(その場考学シリーズ 1)」を次のような目次で纏めた。
目次
第1章 設計とサイクル論とは 10
・VE(価値工学)に学ぶ
・経験に学ぶ(その1、組織のありかた)
・経験に学ぶ(その2、新規調達先発掘の旅)
・経験に学ぶ(その3、品質管理)
・何故サイクル論なのか?
第2章 自然界の中でのサイクル 18
・2600万年の大絶滅周期説
・温暖化の地球史
・太陽黒点の周期
・ミランコビッチ・サイクル
・空気中の炭酸ガス濃度
・気候変動と社会不安
・短いサイクル
・長いサイクル
第3章 人間界におけるサイクル 34
・日本列島における人口波動
・世界における人口波動
・心臓の脈動
・睡眠における波動
第4章 文明と科学と技術におけるサイクル 42
・デュポンの技術革新の周期
・日本文明再生サイクル
・世界の文明サイクル
第5章 経済活動におけるサイクル 49
・キチン循環
・コンドラチェフの波
・クズネッツ循環
・ジューグラー循環
・実質GDPの伸び率の推移
・在庫循環の推移
・業況判断指数
・長期波動理論
・戦後の日経平均株価のサイクル
・株価におけるシルバー法
・円安の波
・未成熟の債務国
・資産の種類別の年間リターンの波
第6章 航空工業におけるサイクル 72
・ロードファクター70%論
・航空機発注数と太陽黒点活動
・需要の波
・エンジン開発設計の3か月ルール
第7章 その場考学におけるサイクル 78
・その場考学とは
・技術者の育成サイクル
・How とWhyのサイクル
・改革と改善のサイクル
・種々の改善サイクル
第8章 人生における波 84
そして、「おわりに」には、次のように書いた。
サイクルということに特別な興味を持ってから30年余が経った。それを、思い切って自然―人間界―文明・科学―経済―航空機工業と括ってみた。これらのサイクルを全てコンピュータに入力すれば、色々な将来予測ができるのではないかと、勝手に想像をしてみるのも楽しい。
その意味もあって、補章には二つのテーマについて、将来の楽しみにしていることを述べた。少々哲学的ではあるが、これもサイクルに大いに関係があり、かつ技術者にとっては重要なことだと思い、敢えて追加をした。
この書を読んで、色々なサイクルに興味を持つエンジニアが増えれば、私の目的は達成されたことになる。エンジニアは常に変化の1次と2次の微係数を意識して行動を起こさなければいけない。そのことが、40年間の開発技術者人生で味わった最大の教訓だったと今更ながら思う次第である。
2011年 大寒の日に その場考学研究所
「GEやRolls Royceとの長期共同開発の経験を通して得られた教訓 (その6)」
>【Lesson6】実験装置でも勝つことができた(NASAとの熱疲労試験機比較[1977])
実機翼の製造が安定したのちには,冷却翼の熱疲労解析が重要なテーマになってきた。エンジンの高温部の部品は,離着陸時に降伏点をわずかに超える応力が発生する。したがって,大部分の部品寿命は低サイクル疲労で規定される。第1段タービン翼は高温なのでクリープとのラチェット解析が必要だが,航空機用エンジンの場合には最高温度での運転時間は短いので,熱疲労が圧倒的に大きくなる。
熱疲労試験機は,定格の圧縮機出口温度の冷却空気を翼内に流しながら,最高時とアイドル時のガス温度の流れの中を,往復する機能が要求される。周囲との輻射熱の影響を低く抑えるためには,供試翼を3枚としても,全体では9枚以上の翼列が必要になる。
I社の試験機は下町の町工場で作られた。二つの風洞と翼列部以外の全体構造と往復駆動装置は全面的に彼らの技術にお願いした。その後,同じ実験結果がNASAのPaperで発表され,私は手紙の往復からLewis Research Centerへの訪問が許可されて,単身クリーブランドに向かった。そこで間近に見た彼らの試験機は,翼枚数も駆動の早さも明らかに町工場製に及ばないものだった。
学会で発表される内容は,ともすれば組織名が評価を決めてしまうのだが,個々の実験装置の内容まで精密に検討しなければ,真実は分からないとの教訓を得て,以降はNASA Paperへの評価が慎重になった。
【この教訓の背景】
全くの余談だが、この時私はニューヨークからクリーブランドへの日帰り旅行をした。ノンストップの直行便もあったと思うのだが、現地駐在員は粋な計らいをしてくれた。なんと、プロペラ機で途中に2STOPがある。つまり、一日で6回の離着陸を経験した。勿論、機内から降りることはないのだが、地上の景色、街並み、乗降客の質の変化など、大いに楽しみ、かつ文化の理解にも役立った。
米国内のフライトでは、色々な経験があった。冬のハーフォード(PWAの場所)からシンシナチィー(GEの場所)は、直行便がない。冬にはあちこちの空港が閉鎖になる。その度に乗り継ぎ場所の空港を変更する。自分はシカゴ経由だが、荷物はデトロイト経由で全く別の航空会社などは日常的で、自分のロストバッケジーを探すのには、大いに感を働かせる必要がある。
大型の機体にたった二人の乗客でワシントンに向かったことがある。こんな時にはスチュワーデス達にモテモテだった。彼女たちにとっては、暇つぶしなのだが、こちらは大歓迎だった。通常は、このようなフライトはキャンセルになるのだが、この時は、ワシントンから先のニューヨークまでは満席に近くなるので、キャンセルは免れたという次第。
日本の空が、このように自由になるのはいつのことなのだろうか。例えば、帯広から熊本まで、どこで乗り換えようと、空港で最適ルートを探してくれて、チケットを書き換えてくれる。むろん追加料金は一切ない。現代の発券システムでは簡単なことなのだが、日本でそのようなことの可能性すら話を聞いたことがない。日本の空は、全く合理性に欠けている。
その場考学のすすめ(05)ここまで
日常繰り返し起こることとは、すなわちサイクリックに繰り返されることが多いと云うことで、サイクルに興味を持ち始めた。すると日常生活でも仕事の上でも、驚くほど多くのことがサイクリックに繰り返されていることに直ぐに気が付く。
大宇宙の創造からノミの心臓の鼓動まで、あらゆる物事にサイクルが存在する。思えば当然のことなのだが、サイクリックに繰り返さないものはこの世に存在し続けることが出来るのであろうか。答えは否だと思う。単調増加や単調減少を続けるものは、長期間存在を続けることはできない。現代では宇宙の存在ですらサイクリックに繰り返されていることが理論的に説明されている。
そこで、その場考学の第一は、サイクル論を考えることとした。このことを気にかけると、実は毎日出会う全ての新聞や雑誌の中にサイクルが含まれていることに気が付く。そこでサイクル論にはとめども無い楽しみが生まれてくる。そこで、デザイン・コミュニティ・シリーズの第7巻として、
「設計とサイクル論(その場考学シリーズ 1)」を次のような目次で纏めた。
目次
第1章 設計とサイクル論とは 10
・VE(価値工学)に学ぶ
・経験に学ぶ(その1、組織のありかた)
・経験に学ぶ(その2、新規調達先発掘の旅)
・経験に学ぶ(その3、品質管理)
・何故サイクル論なのか?
第2章 自然界の中でのサイクル 18
・2600万年の大絶滅周期説
・温暖化の地球史
・太陽黒点の周期
・ミランコビッチ・サイクル
・空気中の炭酸ガス濃度
・気候変動と社会不安
・短いサイクル
・長いサイクル
第3章 人間界におけるサイクル 34
・日本列島における人口波動
・世界における人口波動
・心臓の脈動
・睡眠における波動
第4章 文明と科学と技術におけるサイクル 42
・デュポンの技術革新の周期
・日本文明再生サイクル
・世界の文明サイクル
第5章 経済活動におけるサイクル 49
・キチン循環
・コンドラチェフの波
・クズネッツ循環
・ジューグラー循環
・実質GDPの伸び率の推移
・在庫循環の推移
・業況判断指数
・長期波動理論
・戦後の日経平均株価のサイクル
・株価におけるシルバー法
・円安の波
・未成熟の債務国
・資産の種類別の年間リターンの波
第6章 航空工業におけるサイクル 72
・ロードファクター70%論
・航空機発注数と太陽黒点活動
・需要の波
・エンジン開発設計の3か月ルール
第7章 その場考学におけるサイクル 78
・その場考学とは
・技術者の育成サイクル
・How とWhyのサイクル
・改革と改善のサイクル
・種々の改善サイクル
第8章 人生における波 84
そして、「おわりに」には、次のように書いた。
サイクルということに特別な興味を持ってから30年余が経った。それを、思い切って自然―人間界―文明・科学―経済―航空機工業と括ってみた。これらのサイクルを全てコンピュータに入力すれば、色々な将来予測ができるのではないかと、勝手に想像をしてみるのも楽しい。
その意味もあって、補章には二つのテーマについて、将来の楽しみにしていることを述べた。少々哲学的ではあるが、これもサイクルに大いに関係があり、かつ技術者にとっては重要なことだと思い、敢えて追加をした。
この書を読んで、色々なサイクルに興味を持つエンジニアが増えれば、私の目的は達成されたことになる。エンジニアは常に変化の1次と2次の微係数を意識して行動を起こさなければいけない。そのことが、40年間の開発技術者人生で味わった最大の教訓だったと今更ながら思う次第である。
2011年 大寒の日に その場考学研究所
「GEやRolls Royceとの長期共同開発の経験を通して得られた教訓 (その6)」
>【Lesson6】実験装置でも勝つことができた(NASAとの熱疲労試験機比較[1977])
実機翼の製造が安定したのちには,冷却翼の熱疲労解析が重要なテーマになってきた。エンジンの高温部の部品は,離着陸時に降伏点をわずかに超える応力が発生する。したがって,大部分の部品寿命は低サイクル疲労で規定される。第1段タービン翼は高温なのでクリープとのラチェット解析が必要だが,航空機用エンジンの場合には最高温度での運転時間は短いので,熱疲労が圧倒的に大きくなる。
熱疲労試験機は,定格の圧縮機出口温度の冷却空気を翼内に流しながら,最高時とアイドル時のガス温度の流れの中を,往復する機能が要求される。周囲との輻射熱の影響を低く抑えるためには,供試翼を3枚としても,全体では9枚以上の翼列が必要になる。
I社の試験機は下町の町工場で作られた。二つの風洞と翼列部以外の全体構造と往復駆動装置は全面的に彼らの技術にお願いした。その後,同じ実験結果がNASAのPaperで発表され,私は手紙の往復からLewis Research Centerへの訪問が許可されて,単身クリーブランドに向かった。そこで間近に見た彼らの試験機は,翼枚数も駆動の早さも明らかに町工場製に及ばないものだった。
学会で発表される内容は,ともすれば組織名が評価を決めてしまうのだが,個々の実験装置の内容まで精密に検討しなければ,真実は分からないとの教訓を得て,以降はNASA Paperへの評価が慎重になった。
【この教訓の背景】
全くの余談だが、この時私はニューヨークからクリーブランドへの日帰り旅行をした。ノンストップの直行便もあったと思うのだが、現地駐在員は粋な計らいをしてくれた。なんと、プロペラ機で途中に2STOPがある。つまり、一日で6回の離着陸を経験した。勿論、機内から降りることはないのだが、地上の景色、街並み、乗降客の質の変化など、大いに楽しみ、かつ文化の理解にも役立った。
米国内のフライトでは、色々な経験があった。冬のハーフォード(PWAの場所)からシンシナチィー(GEの場所)は、直行便がない。冬にはあちこちの空港が閉鎖になる。その度に乗り継ぎ場所の空港を変更する。自分はシカゴ経由だが、荷物はデトロイト経由で全く別の航空会社などは日常的で、自分のロストバッケジーを探すのには、大いに感を働かせる必要がある。
大型の機体にたった二人の乗客でワシントンに向かったことがある。こんな時にはスチュワーデス達にモテモテだった。彼女たちにとっては、暇つぶしなのだが、こちらは大歓迎だった。通常は、このようなフライトはキャンセルになるのだが、この時は、ワシントンから先のニューヨークまでは満席に近くなるので、キャンセルは免れたという次第。
日本の空が、このように自由になるのはいつのことなのだろうか。例えば、帯広から熊本まで、どこで乗り換えようと、空港で最適ルートを探してくれて、チケットを書き換えてくれる。むろん追加料金は一切ない。現代の発券システムでは簡単なことなのだが、日本でそのようなことの可能性すら話を聞いたことがない。日本の空は、全く合理性に欠けている。
その場考学のすすめ(05)ここまで