生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(100) 「文明の大逆転」  

2019年01月13日 18時25分28秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(100) TITLE:  「文明の大逆転」    
                     
書籍名;「文明の大逆転」 [2002] 
著者;岸根卓郎 発行所;東洋経済新報社 発行日;2002.4.5
初回作成日;H31.1.10 最終改定日;H31.1.13
引用先;文化の文明化のプロセス Converging



このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分

 著者は、京都大学名誉教授だが、統計学、情報論、文明論、環境論、農林経済論、国土政策学などの多彩な分野での実績を残している。この著書発行時には75歳。内容は、一読して文明転換論の寄せ集めのようにも見えるのは、経歴のためと思われるのだが、主張の一貫性は保たれている。
 宇宙から始まり、生物、サイクル論、エネルギー保存則、陰陽説などなど多様な面へ議論を展開し、そこからConvergeさせてゆくスタイルは、まさにメタエンジニアリング的な文明転換論とも云える。

 「はしがき」に詳しく全体像が語られているので、そこのみの引用で充分なように思える。
 『本書の日的は、「東西文明の興亡」を「宇宙の法則」(宇宙のエネルギーリズム)としてとらえ、それを理論的、実証的に解明することにある。
 周知のように、宇宙はすべてリズム(周期)によって動かされている。地球の公転や自転をはじめとする
「天体リズム」や、その影響を受けた 「生体リズム」などがそれである。その証拠に、地球上でリズムを刻まないものは何ひとつない。 なぜなら、リズムが止まれば、 それは即、死(消滅)を意味するからである。加えて重要なことは、この世の「万物」はすべて「宇宙エネルギーの変形」にすぎないということである。事実、万物を分けて分け尽くせば、すべてエネルギーに還る。
 とすれば、以上を総じていえることは、宇宙のエネルギーリズムが、たまたま「生体」に形を変えたのが「生体リズム」(バイオリズム)であり、「文明」に姿を変えたものが「文明リズム」(カルチャーリズム)であるということになる。』(pp.1)

 ・文明もリズムを刻んでいる
 ・人類文明は「東西文明」の二極に分かれており、「800年リズム」に支配されている。
 ・21世紀は、「西洋文明の落日期」で、「東洋文明の黎明期」にあたる
 
『これまで昼間の活動期にあってエネルギーを発散し続けてきた西洋文明も20世紀の後半から21世紀の前半の約100年間に、そのエネルギーを使い果たし、これからは東洋文明と交代して800年間の夜間のエネルギーの蓄積期に突入し、逆に、これまで800年間の夜間の休止期にあってエネルギーを蓄積してきた東洋文明が、これからは西洋文明と交代し、今後800年間の昼間の活動期に入るということである』(pp.17)
 800年周期説については、既に何人かの人が挙げている。

『生物にとって、どのように不利な環境変化が起こっても、「種」としては決して消滅しないように、互いの「遺伝子」が違って創られているということである。つまり、生物の遺伝子は、「種の保存」(種の永存)のために、互いに同質化を拒否するように違って創られているということである。同様に、種についても「生物全体の保存」(生物の永存)のために、種ごとに互いに違って創られているということである 。
とすれば、私は、同じことは「文明」についてもいえると考える。その意味は、地域文明(民族文明、個体に相当)についても東西文明(世界文明、種に相当)についても各文明の遺伝子は、「人類文明全体の保存」(人類文明全体の永存)のために互いに同質化を拒否するように違って創られているということである。』(pp.20)
 
 異質の文明の原因を「種の保存」に求めるのはおかしい。気候とか歴史とか、周辺民族との関係とか、様々な要素から別々の文化が生まれて、文明に発展してゆく。むしろ、結果論のようにも思えてしまう。

著者は、更に「文明の寿命説」と称して、エントロピー増大の法則を適用して説明をしている。
『「破壊のエネルギー法則」の「エントロピー増大の宇宙法則」が、人間社会に姿を変えた 一つの「発現形態」 にほかならない。その意味は、宇宙であれ、人間社会であれ、人類文明であれ、この世の万物はその中心に「核」があって「求心力」(重力)が働き「安定」が保たれているが、それが「ある時間」たって「寿命」がくれば、「破壊のエネルギー法則」 によって破壊されて「求心力」が働かなくなるから必ず自壊するということである。
私見では、現代酉洋文明もまた800年たって寿命がきて「エントロピーが増大」し、今まさにそのような状態に陥りつつあるかにおもえる。事実、現代西洋文明にみられる、道徳の乱れや、政治の腐敗、芸術の奇形化や宗教の異様化など、総じて「文明の低俗化現象」にしよる混沌化がそれである。』(pp.30)
 確かに、何事によらず均質化してしまうと、発展や拡大のエネルギーは失われる。

 しかし、ここから、話は急に現実的になる。
 ・前回の東洋文明期に4大発明(羅針盤、火薬、印刷技術、製本技術)が中国でおこった。
 ・イギリスは、そのすべてを利用して、大英帝国を築いた
 ・西欧は、五浦無文化から民主主義、自由主義を学んだ

そして、文明の交代については、具体的に次のようになっている。
『私見では、新東洋文明は、現在の「物心二元論の西洋文明」(物を造って心を入れない文明)から、「物心一尤論の東洋文明」(物を造って心を入れる文明)へと進化するであろう、そのさい、私は、そのような新しい東洋精神文明においてとくに中心的な役割を果たすのが、ほかならぬインドと中国であろうと予見する。なぜなら、両国とも「見えない精神世界」の宗教や哲学や思想に強い「文明遺伝子」をもった国であるからである。』(pp.38)
これらは、諸宗教のほか、インドで発明された「ゼロ」と、中国で発明された「無限大」が含まれている。

しかし、人類はいつまでこの交代劇を繰り返すのだろうか。一つの答えが、日本人の脳の構造から発生する「曖昧文明」にあるとして、次のように推論している。
『左脳と右脳に「回路」があるため論理と非論理が峻別できず物事を「暖味」にしか処理できない「左右脳融合型の日本入」は、左脳と右脳に回路がないため論理と非論が峻別できる「左右脳分離型の西洋人」に比べて「非常に不利」なようにおもわれてきたし、今もなおそのようにおもわれてそうであろうか。私はそうは思わない。 なぜなら、左右脳に回路がないため、可視の物質世界(左脳で認知する世界)と不可視の精神世界(右脳で認知する世界)を「峻別」し、両者を二者択一的にしか処理できない「左右脳分離型の西洋人」に比べ、左右脳に回路があるおかげで、可視の物質世界(左脳で認知する世界)と不司視の精神世界(右脳で認知する世界)を峻別せず、両者を同時かつ多肢選択的に処理できる「左右脳融合型の日本人」は、それだけ「融通無碍な対応」と「複雑さの処理」に、向いているからであるる。』(pp.44)

歴史的に、本来の日本文化に、隋・唐の文明、様々な外来文明、明治維新の応酬文明、戦後のアメリカ文明などを纏った現代日本文明を「十二単の融合文明」と名付けている。

更に、老子の第58章を引用して、「絶対の正もなければ、絶対の善もない」としている。正義と悪は、立場を変えれば、常に逆転しているというわけである。

更に、角田忠信氏の「日本人の脳」を引用して、これらのことを裏付けている。

『このようにして私は高い文化度は「真・善・美の三位位一体化」のための「科学と宗教と芸術の三位一体化によって達成され、それはまた「酉洋物質文明」と「東洋精神文明」が互いに協力し合ったときに実現できると考える。
さらに、次の図10-4は、 そのことを、科学への道(自然を識る道、宇宙の真を識る道)と、宗教への直(生命を識る道、宇宙の善を識る道)と、芸術への道(自然と生命の美を識る道、宇宙の美を識る道)の三位一体化(三者鼎立)としてイメージしたものである。』(pp. 260)

 以上の議論は、一見とんでもないように見えるのだが、確かに、全宇宙はエネルギーによってすべてのものが作られているし、エントロピー増大の法則も科学的に正しい。そうすると、三段論法で、この説は成り立ってしまうのかもしれない。