生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(101) 「人類文明の黎明と暮れ方」 

2019年01月15日 08時54分02秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(101)TITLE:  「人類文明の黎明と暮れ方」 
                     
書籍名;「人類文明の黎明と暮れ方」 [2009] 
著者;青柳正規 発行所;講談社 発行日;2009.11.20
初回作成日;H31.1.13 最終改定日;H31.1
引用先;文化の文明化のプロセス Converging



このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。

この書は、「興亡の世界史」(講談社が、創業100年を記念して、2007~2010に発行した全21巻)の「00巻」として発行されている。世界史全体を俯瞰しようというわけだ。そこで、その全体像を示すものとして、文化と文明、その興亡について述べている。ここでは、文化と文明の双方について多様性に重点を置いている。例えば、従来の古代世界の4大文明の農耕説に対して、インダス文明とそれと隣り合う「トランス・エラム文明」の存在を挙げて、「交易を中心とした非農耕文明」を挙げている。

 最大の興味は、「現代文明に欠けているもの」だ。個別の科学と技術の発展により、「全体をうまくコントロールできない状態にある」としている。全体を俯瞰して調和をとる機能が存在しないというわけである。そのような状態では、後進国は先進国を目標に将来への希望が持てるが、先進国では、もはや将来への希望は持てなくなる、というわけである。そして、『過去のある時期と空間を充満させていた文明の様相を知ることが、(中略)現代文明を考えるときにも、より多くの示唆をあたえてくれる・・・。』(pp.18)と。

 その原因を以下のように説明している。
 『ある物事を構成する小さな要素に還元すればするほど、全体を見ていたときにはわからなかった本質的なものが見えてくる。現在の科学技術の基盤になっているこの要素還元主義を唱えたのは、一七世紀フランスの哲学者デカルトである。 デカルトは、ある総体を、構成している根源的な要素に分解していき、その最小の要素から全体を再構築することによって本当の姿が見えてくるとした。しかし、その最小の要素に分解したときも、つねに全体を忘れてはならないと『方法序説」の中で強調している。』(pp.19)

このために、「そもそも人類がどこへ向かっているのか」の指標すら見えない状態だとしている。
現代は、世界的なイノベーション競争の真っただ中に置かれている。そのために、過去のどの時代よりも全体を疎かにする傾向が強くなっていると思う。その原因については、
『これは要素還元主義が科学技術のみならず社会全体に浸透した結果、思想さえも還元論となり、われわれが近未来の像をとらえることができなくなっているからであろう。 本来ならば、大きな世界観というものがあって初めてわれわれはどう生きるべきか、いま自分たちは幸せなのかそうでないのかが判断できるが、それができなくなっている』(pp.20) というわけである。

現代は多様性の時代ともいえるほどなのだが、その根本を生物の生存原則にあるとしている。
『生物の多様性とは、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性から構成されている。自然界には食物連鎖という生物の維持・生存システムがあるが、これはさまざまな種類の生物が 同時に存在しているからこそ機能することができる。また、熱帯の湿地帯で見られるマングローブは、海水につかるような厳しい環境の中で、いろいろな種類の植物が群生して相互に助け合って生きており、さらにそのマングローブを舞台に、じつに多様な動物が生息している。つまり個々の生物はそれ自体では弱くとも、その多様性ゆえに、自然環境に適応できる強さ、しぶとさをもちえているのである。』(pp.22)
 つまり、生物としての人類は、「多様性の維持」が生存条件の一つである。そして、文化における多様性の維持は、近年の「世界遺産」の認定などにより保たれているとしている。

「文化」の定義については、 『その地域や時代の環境に人々が適応するための方法もしくは戦略である。』(pp.25)
「文明」については、『その環境適応への努力から解放された段階』(pp.26) というわけである。

主文においては、様々な文明の詳細と興亡について述べているが、ここでは省略する。
 最後に、日本の文明と将来について、「均質社会の強さと弱さ」として、
『その発展を実現させた均質性がこんどは低迷の一因になるという文明衰亡の法則を、わが日本にも見いだすことができるのかもしれない』(pp.355)で結んでいる。

多様性の存在する文明下での進歩は、多くのベクトルがあらゆる方向に延びることを意味する。しかし、ベクトルがあらゆる方向を向いているということは、全体は「ゼロ」に留まるということで、全体としての進歩は極小になり、全体として進むべき方向も定まらないことになる。
つまり、多様性を維持しながらベクトルの方向を揃える指標なりシステムが必要というわけであり、イノベーション万能時代の現代社会において、それはメタエンジニアリングによって見出すしかないように思えるのだが。