生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(183)「モンゴロイドの道」

2021年01月07日 12時51分09秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(183)
          
TITLE: 「モンゴロイドの道」
書籍名; 「モンゴロイドの道」 [1995]
編集者;科学朝日  発行所;朝日新聞社
発行日;1995.23.25
初回作成日;2021.1.7 最終改定日;
引用先;文化の文明化のプロセス Exploring
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。「 」内は引用部分です。



 20世紀の最後に、DNA解析が一気に進み、その中で人類の起源や、民族の分化の歴史を辿ることが盛んに行われた。その中で、特に日本の古代人が何処からやってきたのかの疑問を解く著者が散見されるようになった。この書は、その比較的古いもので、しかし様々な解析方法が網羅されており、そして、日本人の複数ルーツ説の基になったものと云える。

 「はじめに」のなかで、「人間とは何か」との問いに対して、ヒトの学名の例を挙げている。「ホモ・サピエンス(知恵あるヒト)」が最も一般的だが、「ホモ・ファベル(工作するヒト)」、「ホモ・ルーデンス(遊ぶヒト)」も一般的に使われている。その中で、この著書は「ホモ・モビリス(移動するヒト)」に注目をしている。つまり、人類は出アフリカから始まって、全地球を旅して発展してきたというわけである。
 「世界三大人種」という言葉を、かつて教科書で教わった。ニグロイド(黒人)、コーカソイド(白人)、モンゴロイド(黄色人)である。この分け方は最近は人種差別として避けられる傾向があるが、「ホモ・モビリス」の立場で考えると、モンゴロイドだけがユーラシアから南北アメリカ大陸やオセアニアに進出して、地球上の陸地の70%をカバーしたことになる。確かに、ニグロイドはアフリカに留まり、コーカソイドはヨーロッパに留まった。
 著書の前半は、モンゴロイドの様々な旅を語っている。アジアから、シベリア、「ベーリンジア」を渡ってアメリカへ。
「ベーリンジア」とは、かつて氷河期にベーリング海峡が、最大期で南北1000km,東西4000kmの陸地になった場所を指す。その期間は、当然カナダの大部分は氷床と呼ばれる氷で覆われていたが、わずかにロッキー山脈の山陰に「無水回廊」が存在して、南へ下ることが可能であった。それは多くの大型動物が南へ通る道でもあった。
 他方、オセアニアへの進出も早かった。当時はオーストラリアとニューギニアは地続きで、「サフル大陸」と呼ばれる大陸と、インドネシアの列島が繋がった「スンダ陸棚」があり、比較的容易に海を渡ることができた。
 両方向とも、気候の大変動に伴う獲物を追っての移動だったが、どちらも大型動物の多くが絶滅して、植物(穀物)にも頼らざるを得なくなった。しかし、ジャガイモさえも、半数は有毒食物でその毒抜きに多くの方法が開発された。アンデスの高地で行う方法と、低地での方法は全く違っている。まさに「ホモ・ファベル」である。
 後半は、日本人のルーツ特定の話になる。ミトコンドリアDNAに始まり、PGR法、特有の9塩基対の欠落、HLA,アイソトープ分析、頭蓋骨の特徴、ATLウイルス、果ては酒に対して強いか弱いかなど、当時のあらゆる方法で導き出された結果を総合的に捉えて、縄文人、弥生人のルーツを確定している。
 結論は、過去に2回大規模な移動があり、その混血になっているとのことだが、世界中どこでも純粋種は存在せずに、混血になっている。そして、その地域独特の文化を作り上げている。

 翻って、現代の世界情勢を考えてみる。アメリカ合州国やロンドンのように、どの民族の国なのか分からない処が増えている。しかし、20世紀以降の国際情勢を見ると、やはり「世界三大人種」の作った国の存在感は昔の儘のように思われる。
 私の30年間のジェットエンジンの国際共同開発中の1000回以上の熾烈な設計議論からの経験では、確かに能力や考え方に個人差はあるが、それよりも民族差の方が大きい、ということであった。確かに、米国でも多くのニグロイドが要職を占めている。日本でも所謂外国人の登用が行われ始めたが、いずれも特殊能力を持った個人に限られている。現在の米中論争の中で思い出すのは、第2次世界大戦直前の日米関係なのだが、いずれもコーカソイドの国が、モンゴロイドの国の台頭を許さない、とのコーカソイド特有の文化から発しているように思う。つまり、地球上の70%を旅した人種と、ヨーロッパに閉じこもって、数千年にわたって覇権争いを繰り返した人種との文化の相違になる。
 
 かつて、日本が高度成長時代を始めたころの、米国からの圧力はすごかった。今の対中国政策以上のものだったように思える。しかし、いくら先端技術で覇権争いをして、一方をつぶそうとしても、新たな技術は時間と共に一般化してしまう。コーカソイド文化の中での覇権争いは、戦争にならないと結論が出ないことは、長い歴史が証明している。
21世紀は、西欧文明から東洋文明への転換期との説がある。モンゴロイドの道はどの方向へ進んでゆくのだろう。