生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

様々なメタ(78)科学へのメタ懐疑論

2022年02月21日 07時03分54秒 | 様々な「メタ」、メタとは何か(公開)
様々なメタシリーズ(78)
このシリーズは文化の文明化プロセスを考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。

TITLE:科学へのメタ懐疑論(理学系 11)

初回作成年月日;2022.2.20 最終改定日;

 科学的な知見への信頼が揺らいでいる。日本では,福島原発事故が影響しているようだが、世界的には地球温暖化の議論のなかで出ている。いわば「科学に対する懐疑論」なのだが、それをアリストテレスまで遡って、メタ的に捉えた記事があった。
 Wedge 2020.12月号に載っている、「温暖化やコロナで広がる懐疑論、深まる溝を埋めるには」と題した,読売新聞の英字新聞部次長で、長くワシントン支局に勤めた三井誠の記事だ。

 2018年のギャラップ調査では、「人類の活動が地球温暖化の原因だ」と答えた人は、民主党支持者は89%で、共和党支持者は35%だった。この傾向は既に広く知られている。
 しかし、問題はこの先にある。つまり、学歴が高く、科学的な知識が高いほど、このギャップが大きくなる傾向があることだ。筆者はそれを、「確証バイアスconfirmation bias」のせいだとしている。

 『さらに問題を深刻にするのは、学歴が高いほど、あるいは、科学の知識が豊富であるほど、こうした党派間のギャップが広がることだ。ここでは、エール大学のダン・カハン教授の研究を紹介したい。「人間活動が地球温暖化の原因かどうか」についての回答と科学的知識の有無などとの関係を分析した結果、知識が少ないグループでは支持政党による違いは目立たなかったが、知識が増えるほど支持政党の違いに応じた考え方のギャップが際立った。「人は自分の主義や考え方に一致する知識を吸収する傾向があるので、知識が増えると考え方が極端になる」』と。(p.25)

 さらに続けて、『トランプ大統領がマスクの義務化に消極的な姿勢を示し、厳しい外出規制を課す一部の州知事に批判的なコメントを繰り返した。米ピュー・リサーチ・センターの調査(6月実施)によると、「公共の場でマスクを常にするべきだ」と答えた割合は、民主党支持者の63%に対 し、共和党支持者は29%にとどまった。こうした溝をいかに埋めていくのか。「科学はデータだけでは伝えられない」と気付いた科学者たちの活動が、米国で活発化していた。』(p.25)

「科学はデータだけでは伝えられないと気付いた科学者たちの活動が、米国で活発化していた」とは、いかにも米国らしい。その活動は、賛否両論で行われているようだ。

 米国では、保守系のシンクタンクが「温暖化は人類のせいとする証拠はない」との懐疑論の小冊子を30万冊作り、政治家、理科教師、メディアに無料配布したと記されている。

 そこから説明は、弁論術に移る。
『弁論術』(Rhetoric)は、アリストテレスによって書かれた。古代ギリシャのみならず、古代ローマや、その後の欧米諸国の政治文化・演説文化に大きな影響を与えたとされている。
 アリストテレスは、弁論を以下の3種類に分類し、それぞれの相違点や共通点を述べている。

議会弁論 - 何事かを奨励・慰留させる弁論
演説的弁論 - 人を賞賛・非難する弁論
法廷弁論 - 告訴・弁明する弁論
 
 この三種の弁論に関して、その際の説得手段のあり方について、3つの側面から考察されている。

logos(ロゴス、言論) - 理屈による説得
pathos(パトス、感情)- 聞き手の感情への訴えかけによる説得
ethos(エートス、人柄)- 話し手の人柄による説得

 アリストテレスはこの3つのうち、logos(言論)を技術の中心に据え、秩序立てようと努めているが、残りのpathos(感情)とethos(人柄)という2要素も、他者を説得する上では決して無視できない要素であるとしている。
 しかし、この筆者は『科学者が事実を重視して論理的に説得を試みても、それは3分の1の要素でしかない。』(p.25)と断じている。確かに、「反知性主義」が多くを占める米国では、「ロゴス」の力は、3分の1なのかも知れない。トランプの演説を見れば、そのことは歴然としているように思う。
 日本ではどうであろうか。米国までにはいかないまでも、やはり、pathos(感情)とethos(人柄)が過半であるように思うことが、しばしばある。




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