TITLE: 宇宙人としての生き方(他2冊)
このシリーズはメタエンジニアリングで「文化の文明化」を考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。
第1の著書;書籍名;「宇宙人としての生き方」 [2003] 著者;松井孝典
発行所;岩波新書 839 発行日;2003.5.20
引用先;文化の文明化のプロセス Converging & Implementing
著者の松井孝典氏は地球惑星科学者を称する、東京大学理学部教授で多くの著書がある。
150億光年の空間スケールで地球と文明を考えるとする「アストロバイオロジー」を主張する。現代の、環境・人口・食料などの問題を、地球システムの問題として、ひとつの宇宙人の立場で新たな視点を探っている。多くの著者が発行されているが、ここでは文明に関する主要3著作を選んだ。
・地球システムについて
地球システムの駆動力は二つある。地球の外側にある太陽からの放射エネルギーと地球の内部にある熱。地球は水の惑星だが、水分が多いわけではない。海の質量は地球の全質量の0.02%。多くの惑星の成分は50%以上が水。地球では、水が液体で地表に存在することが文明にとって重要。
『狩猟採集という生き方をしている間は、地球システム論的には、生物圏に新しい生物が生まれただけのことで、地球システムの構成要素は変化していないので、人類の存在は特別意味を持たないのです。』(pp.61)
つまり、当時の人類は生物圏の一部だった。しかし、文明を手にすると地球システムの構成要素は変化することになる。
『それに対して、農耕牧畜という生き方はどうか。農耕牧畜では、森林を伐採して畑に変えたりします。この結果、地球システムの物質・エネルギーの流れが変わります。例えば、太陽から入ってくるエネルギーが地表で反射される割合を考えてみてください。農地と森林では違います。
ということは、森林を畑に変えることで、太陽エネルギーの流れを変えていることになります。あるいは、雨が降ったときに、その雨が大地を侵食する割合も、森林と農地では全く違います。(中略)地球という星全体の物質やエネルギーの流れを変えているのです。』(pp.61)
これと同じことは、多くの碩学によって述べられている。例えば、法隆寺管長の大野玄妙師は、日本経済新聞夕刊のコラム「あすへの話題」で次のように述べられている。
『野山を開き、田畑を耕し、作物を育てる。こうした自然と寄り添う農業でさえ、原野を造り変える営みという点で、自然を壊しているのだ。人はかくも深い業を背負っている。』(2017.2.10)
・文明の定義
『いまのような生き方、地球システムの中に人間圏(という構成要素)をつくって生きること(これが宇宙からの視点で考えたときの、文明の定義になります)を選択していき始めた時と、同じレベルの選択が迫られているのです。生物圏から分かれ、人間圏をつくって生きるという選択をした時と同じ岐路に立っているということです。我々とは何かについて、それと同じくらい本質的なレベルで考えないと、文明のパラドックスを克服してこの地球上で繁栄を続けることはできなくなる。』(pp.ⅳ)
『人間圏の誕生は約1万年前だということになります。以下では、「人間圏をつくって生きる生き方」を文明と呼ぶことにします。』(pp.62)
この言葉は、かつて人類が地球上の生物圏から独立して、新たに人間圏をつくったという事実に根差している。つまり、二元論である。
『地球システムの中に新しく人間圏が出現し、地球システムの構成要素が変わったというのが現代という時代だからです。』(pp.6)
この問題を考えるには、第一に、『具体的には、いわゆる分離融合、学の総合化を行うということです。』としている。すると、科学というものに対する考え方は、次のようになる。
『我々が知的生命体として知の体系を想像しているのではなく、自然に書かれている古文書を読んでいるのに過ぎないからです。知の体系が拡大するのは時代とともに自然を解読する道具が良くなるからです。道具が良くなれば、より広く、深く古文書が読めるだけのことです。』(PP.26)
・ストック依存型の人間圏
著者は、文明をストック型とフロー型に分けて考えている。そして、ストック型の生き方の問題と限界を示している。
『我々は地球システムの他の構成要素に蓄積されているいろいろな物質(ストック)を取り出し、人間圏に、大量かつ非常に速く運んでくることができるようになりました。我々が人間圏の中に駆動力を持つことによって、地球という星全体、つまり地球システムの物質やエネルギーの流れを変えることができるようになったのです。』(pp.71)
この記述は、正にハイデガーの「技術論」そのものだ。
また、このことは、産業革命以来顕著になったことは言うまでもない。この流れは、人間の欲望により無限に拡大する可能性がある。例えば、20世紀の人口は100年で4倍になった。これを続けると2千数百年で人の重さが地球の重さに等しくなる、と述べている。
・フロー依存型の人間圏
これに対するフロー型について、著者は江戸時代(250年間)を想定しているが、私は、縄文時代 (1万年間)の土器文明を想定したい。
『少なくとも地球システムには大きな影響を及ぼさないフロー依存型の人間圏でないと「地球にやさしく」はありません。これでも今の人口の60分の一ぐらいしか生きられません。フロー依存型人間圏としては10億人くらいの人口が上限です。』(pp.77)
『したがって、20世紀の思考法や価値観、概念、制度などをもとに21世紀を考えることは人間圏にとって自殺行為です。極端に言うと、民主主義や市場主義経済、人権、愛、神、貨幣など、20世紀的な枠組みの中で確立してきた色々な概念とか制度をもとに21世紀を考えたら、必ず破たんするともいえるのです。』(pp.78)
ではどうすればよいのか。ストック依存型とは必要な物質をつくるためのエネルギーに頼ることなので、物質を所有することから、物質の持つ機能を他の方法で得ることを考えればよいことになる。つまり価値工学の分野の問題となってゆく。
第2の著書;書籍名;「地球と文明の周期」講座;文明と環境 第1巻
著者;(小泉 格、安田喜憲 編集[2008])発行所;浅倉書店
発行年、月;1995.6.20
この講座は、全15巻で以下のように大掛かりなものだった。松井孝典氏の説は、第1巻の最初の論文として掲載されている。なお、これは改定新版で、元のシリーズは1995年から発行されている。
・刊行の言葉;
『1991年から93年まで、われわれは文部省重点領域研究「地球環境の変動と文明の盛衰」(領域代表者 伊東俊太郎)を行った。(中略)環境の問題は決して自然科学だけの問題ではなく、実は文明の問題でもあり、人文科学の問題でもあるのである。
そして環境破壊という21世紀の最大問題を解決するには、どうしても自然科学者と人文科学者の密接な連携が必要なのである。このような連携は日本の学問においてはまだ十分でないが、それは新しい、文明を作る、あるべき連携の芽を生むことになるのではないかと思う。』
・文明の周期性(pp.9)
『文明が気候変動の周期性を受けて、周期的に盛衰することは、これまで多くの人々が指摘してきた。とくに伊東[1985]は、人類文明の発達を5つの段階―人類革命・農業革命・都市革命・精神革命・科学革命―でとらえている。これらの改革期は図3(省略)をみると、いずれも気候が寒冷化する時期に当たっており、生活環境が悪化したときである。』
『こうした環境の変化に対し、創造的な技術革新の方法をもって対応したところでのみ、文明の改革は成し遂げられてきた。』としている。
・宇宙の周期性
1.「宇宙の歴史から何を学ぶか」松井孝典
農耕・牧畜というライフスタイルが、地球システムのエネルギーの流れ、物質循環に擾乱をもたらすことになり、それが産業革命により擾乱では済ませられなくなったことを述べた後で、
『これまでの地球史を見ると地球はつぎつぎと分化し、より多くのサブシステムを持つ地球システムへと変化してきている。このような歴史を見る限り、歴史の発展の方向性は分化することにあるようにみえる。なぜだろうか?結論をいえば地球が冷えるからである。』(pp.19)
つまり、火の玉から始まった地球が、冷えるたびに新たな物質圏を生むことになったというわけである。そして、最終的に生物圏から人間圏が分化した、というわけである。
著者は、生物の進化とは言わずに、生物の分化といっている。地球環境のへんかにより、生物が多様性を必要として、分化が行われているというわけである。
・分化論の視点から見た人間圏の未来
地球は、『全体として冷えつつあるが、その高温の部分と低温の部分の温度差は拡大している。このことが分化を促し、地球システムや銀河系・宇宙システム、そして生物圏内のサブシステムに、多様性とダイナミズムを生んでいる。』(pp.24)
それでは、地球システムの中で安定性を保つにはどのような方法があるか、著者は3つの問題点を挙げている。
① どのような人間圏のサイズが、地球システムの中で安定なのか
② 文明のそれぞれの段階で発生する難民のための新天地がなくなったのが現代なので、新たなフロンチィアを、どこかに求める必要がある。
③ 人間圏の内部システムの向かいつつある方向性を定める。現代のグローバル化を始めとする方向性は統合へ向かっているが、その先は均質化になる。
しかし、『均質化は自然界では死を意味する。均質化を求める方向は人間圏内部のダイナミズムを喪失させる方向である。
これらの問題に関して今後具体的に検討してゆくことが21世紀の人間圏を設計するうえで必要になる。現在のまま21世紀を迎えれば、人類は生き延びられるにしても人間圏が崩壊することは予想されるからだ。』(pp.25)
で結んでいる。まさに「猿の惑星」を思い出させる文章だった。
第3の著書;書籍名;「我関わる、ゆえに我あり」 [2012]
著者;松井孝典
発行所;集英社新書 0631G 発行日;2012.2.22
引用先;文化の文明化のプロセス Converging & Implementing
彼の著書の3冊目で、かなり集大成の感がある。
・あとがきより、
『変動の人間圏への影響のことを災害といいます。人間圏が肥大化すればその変動の影響を大きく受けることになります。人間圏に深刻な影響を及ぼすでしょうし、人間圏と地球システムの調和という問題にはそのことも含まれます。自然災害の巨大化と地球環境問題とは問題の因果関係の裏表に他なりません。それはまた人間圏の駆動力の問題にもつながります。そのために文明とは何かを問い直す視点があってもよい。それはまさに明治維新以来のこの国の形を見直すことにもつながります。』(pp.222)
・ゴーギャンはなぜ文明を問うたのか
ボストン美術館所蔵の有名な「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くの、か」の絵を示して、『1897年、故郷フランスから遠く離れた南の島タチヒで、描きあげられました。急速に変化を遂げてゆく文明社会に対する懐疑と絶望、そして、そうした文明をつくり上げた人間という存在に対する根源的な問いかけ。それらをゴーギャンは絵画という芸術に見事に昇華させました。』(pp.56)
彼の、前2冊からの持論を纏めた形で
『人間圏と地球システムの関係を、人間圏の発展大階ごとに図にしてみました。』(pp.148)
図1は、「生命の惑星段階」として、中央に「地圏」があり、周囲を「大気圏」、「水圏」、「生物圏」が離れて存在する。人間は、「生物圏」の中の小さな存在としてある。
図2は、「文明の惑星段階」として、3つの圏に重なり部分が生じると同時に、第4の「人間圏」が現れる。
図3は、「地球システムⅡの文明の惑星段階」として、人間圏だけが巨大化して、地球システム全体と等価の大きさに近づく。
図4は、「21世紀の地球システム」として、人間圏が更に巨大化して、地球システム全体を飲み込んでしまう。
図4の解説は次のようにある。
『人間圏はさらに拡大を続けます。駆動力に注目すれば、人間圏は地球システムの駆動力をはるかに超えるようになります。そのため、人間圏と地球システムの関係は非常に不安定になります。一方で、地球システムと調和的な人間圏という意味では、地球システムを超えて大きくなることができないため、その内部で何らかの強制的な変化を求められるようになります。』(pp.152)
結論は、次のように語られている。
『文明の誕生と発展が、我々の認識の時空を拡大し、宇宙における観測者として、その宇宙が存在することに意味をもたらすことになったことは、実は文明とは何かを問ううえで忘れてはならないことです。しかしその存在が一方で、文明の存続にかかわる問題を引き起こしているという「文明のパラドックス」に、我々は挑むしかないのです。』(pp.153)
現代文明を見るときは、ゴーギャンやこの著者のように、文明圏の外からの眼で見なければならない。文明圏の中の人は、いつの時代でもその文明が永遠に続くと考えていた、ということは、多くの著書で指摘されている。Converging & Implementingのプロセスでは、重要なことなのだろう。
文明の定義にはいろいろあるのだが、このような外からの視点に立つと「その時代、その場所に適した人間らしい生活を営む生き方」とすることが、メタエンジニアリング的に次の文明を考える際には適当と思われる。
このシリーズはメタエンジニアリングで「文化の文明化」を考える際に参考にした著作の紹介です。『 』内は引用部分です。
第1の著書;書籍名;「宇宙人としての生き方」 [2003] 著者;松井孝典
発行所;岩波新書 839 発行日;2003.5.20
引用先;文化の文明化のプロセス Converging & Implementing
著者の松井孝典氏は地球惑星科学者を称する、東京大学理学部教授で多くの著書がある。
150億光年の空間スケールで地球と文明を考えるとする「アストロバイオロジー」を主張する。現代の、環境・人口・食料などの問題を、地球システムの問題として、ひとつの宇宙人の立場で新たな視点を探っている。多くの著者が発行されているが、ここでは文明に関する主要3著作を選んだ。
・地球システムについて
地球システムの駆動力は二つある。地球の外側にある太陽からの放射エネルギーと地球の内部にある熱。地球は水の惑星だが、水分が多いわけではない。海の質量は地球の全質量の0.02%。多くの惑星の成分は50%以上が水。地球では、水が液体で地表に存在することが文明にとって重要。
『狩猟採集という生き方をしている間は、地球システム論的には、生物圏に新しい生物が生まれただけのことで、地球システムの構成要素は変化していないので、人類の存在は特別意味を持たないのです。』(pp.61)
つまり、当時の人類は生物圏の一部だった。しかし、文明を手にすると地球システムの構成要素は変化することになる。
『それに対して、農耕牧畜という生き方はどうか。農耕牧畜では、森林を伐採して畑に変えたりします。この結果、地球システムの物質・エネルギーの流れが変わります。例えば、太陽から入ってくるエネルギーが地表で反射される割合を考えてみてください。農地と森林では違います。
ということは、森林を畑に変えることで、太陽エネルギーの流れを変えていることになります。あるいは、雨が降ったときに、その雨が大地を侵食する割合も、森林と農地では全く違います。(中略)地球という星全体の物質やエネルギーの流れを変えているのです。』(pp.61)
これと同じことは、多くの碩学によって述べられている。例えば、法隆寺管長の大野玄妙師は、日本経済新聞夕刊のコラム「あすへの話題」で次のように述べられている。
『野山を開き、田畑を耕し、作物を育てる。こうした自然と寄り添う農業でさえ、原野を造り変える営みという点で、自然を壊しているのだ。人はかくも深い業を背負っている。』(2017.2.10)
・文明の定義
『いまのような生き方、地球システムの中に人間圏(という構成要素)をつくって生きること(これが宇宙からの視点で考えたときの、文明の定義になります)を選択していき始めた時と、同じレベルの選択が迫られているのです。生物圏から分かれ、人間圏をつくって生きるという選択をした時と同じ岐路に立っているということです。我々とは何かについて、それと同じくらい本質的なレベルで考えないと、文明のパラドックスを克服してこの地球上で繁栄を続けることはできなくなる。』(pp.ⅳ)
『人間圏の誕生は約1万年前だということになります。以下では、「人間圏をつくって生きる生き方」を文明と呼ぶことにします。』(pp.62)
この言葉は、かつて人類が地球上の生物圏から独立して、新たに人間圏をつくったという事実に根差している。つまり、二元論である。
『地球システムの中に新しく人間圏が出現し、地球システムの構成要素が変わったというのが現代という時代だからです。』(pp.6)
この問題を考えるには、第一に、『具体的には、いわゆる分離融合、学の総合化を行うということです。』としている。すると、科学というものに対する考え方は、次のようになる。
『我々が知的生命体として知の体系を想像しているのではなく、自然に書かれている古文書を読んでいるのに過ぎないからです。知の体系が拡大するのは時代とともに自然を解読する道具が良くなるからです。道具が良くなれば、より広く、深く古文書が読めるだけのことです。』(PP.26)
・ストック依存型の人間圏
著者は、文明をストック型とフロー型に分けて考えている。そして、ストック型の生き方の問題と限界を示している。
『我々は地球システムの他の構成要素に蓄積されているいろいろな物質(ストック)を取り出し、人間圏に、大量かつ非常に速く運んでくることができるようになりました。我々が人間圏の中に駆動力を持つことによって、地球という星全体、つまり地球システムの物質やエネルギーの流れを変えることができるようになったのです。』(pp.71)
この記述は、正にハイデガーの「技術論」そのものだ。
また、このことは、産業革命以来顕著になったことは言うまでもない。この流れは、人間の欲望により無限に拡大する可能性がある。例えば、20世紀の人口は100年で4倍になった。これを続けると2千数百年で人の重さが地球の重さに等しくなる、と述べている。
・フロー依存型の人間圏
これに対するフロー型について、著者は江戸時代(250年間)を想定しているが、私は、縄文時代 (1万年間)の土器文明を想定したい。
『少なくとも地球システムには大きな影響を及ぼさないフロー依存型の人間圏でないと「地球にやさしく」はありません。これでも今の人口の60分の一ぐらいしか生きられません。フロー依存型人間圏としては10億人くらいの人口が上限です。』(pp.77)
『したがって、20世紀の思考法や価値観、概念、制度などをもとに21世紀を考えることは人間圏にとって自殺行為です。極端に言うと、民主主義や市場主義経済、人権、愛、神、貨幣など、20世紀的な枠組みの中で確立してきた色々な概念とか制度をもとに21世紀を考えたら、必ず破たんするともいえるのです。』(pp.78)
ではどうすればよいのか。ストック依存型とは必要な物質をつくるためのエネルギーに頼ることなので、物質を所有することから、物質の持つ機能を他の方法で得ることを考えればよいことになる。つまり価値工学の分野の問題となってゆく。
第2の著書;書籍名;「地球と文明の周期」講座;文明と環境 第1巻
著者;(小泉 格、安田喜憲 編集[2008])発行所;浅倉書店
発行年、月;1995.6.20
この講座は、全15巻で以下のように大掛かりなものだった。松井孝典氏の説は、第1巻の最初の論文として掲載されている。なお、これは改定新版で、元のシリーズは1995年から発行されている。
・刊行の言葉;
『1991年から93年まで、われわれは文部省重点領域研究「地球環境の変動と文明の盛衰」(領域代表者 伊東俊太郎)を行った。(中略)環境の問題は決して自然科学だけの問題ではなく、実は文明の問題でもあり、人文科学の問題でもあるのである。
そして環境破壊という21世紀の最大問題を解決するには、どうしても自然科学者と人文科学者の密接な連携が必要なのである。このような連携は日本の学問においてはまだ十分でないが、それは新しい、文明を作る、あるべき連携の芽を生むことになるのではないかと思う。』
・文明の周期性(pp.9)
『文明が気候変動の周期性を受けて、周期的に盛衰することは、これまで多くの人々が指摘してきた。とくに伊東[1985]は、人類文明の発達を5つの段階―人類革命・農業革命・都市革命・精神革命・科学革命―でとらえている。これらの改革期は図3(省略)をみると、いずれも気候が寒冷化する時期に当たっており、生活環境が悪化したときである。』
『こうした環境の変化に対し、創造的な技術革新の方法をもって対応したところでのみ、文明の改革は成し遂げられてきた。』としている。
・宇宙の周期性
1.「宇宙の歴史から何を学ぶか」松井孝典
農耕・牧畜というライフスタイルが、地球システムのエネルギーの流れ、物質循環に擾乱をもたらすことになり、それが産業革命により擾乱では済ませられなくなったことを述べた後で、
『これまでの地球史を見ると地球はつぎつぎと分化し、より多くのサブシステムを持つ地球システムへと変化してきている。このような歴史を見る限り、歴史の発展の方向性は分化することにあるようにみえる。なぜだろうか?結論をいえば地球が冷えるからである。』(pp.19)
つまり、火の玉から始まった地球が、冷えるたびに新たな物質圏を生むことになったというわけである。そして、最終的に生物圏から人間圏が分化した、というわけである。
著者は、生物の進化とは言わずに、生物の分化といっている。地球環境のへんかにより、生物が多様性を必要として、分化が行われているというわけである。
・分化論の視点から見た人間圏の未来
地球は、『全体として冷えつつあるが、その高温の部分と低温の部分の温度差は拡大している。このことが分化を促し、地球システムや銀河系・宇宙システム、そして生物圏内のサブシステムに、多様性とダイナミズムを生んでいる。』(pp.24)
それでは、地球システムの中で安定性を保つにはどのような方法があるか、著者は3つの問題点を挙げている。
① どのような人間圏のサイズが、地球システムの中で安定なのか
② 文明のそれぞれの段階で発生する難民のための新天地がなくなったのが現代なので、新たなフロンチィアを、どこかに求める必要がある。
③ 人間圏の内部システムの向かいつつある方向性を定める。現代のグローバル化を始めとする方向性は統合へ向かっているが、その先は均質化になる。
しかし、『均質化は自然界では死を意味する。均質化を求める方向は人間圏内部のダイナミズムを喪失させる方向である。
これらの問題に関して今後具体的に検討してゆくことが21世紀の人間圏を設計するうえで必要になる。現在のまま21世紀を迎えれば、人類は生き延びられるにしても人間圏が崩壊することは予想されるからだ。』(pp.25)
で結んでいる。まさに「猿の惑星」を思い出させる文章だった。
第3の著書;書籍名;「我関わる、ゆえに我あり」 [2012]
著者;松井孝典
発行所;集英社新書 0631G 発行日;2012.2.22
引用先;文化の文明化のプロセス Converging & Implementing
彼の著書の3冊目で、かなり集大成の感がある。
・あとがきより、
『変動の人間圏への影響のことを災害といいます。人間圏が肥大化すればその変動の影響を大きく受けることになります。人間圏に深刻な影響を及ぼすでしょうし、人間圏と地球システムの調和という問題にはそのことも含まれます。自然災害の巨大化と地球環境問題とは問題の因果関係の裏表に他なりません。それはまた人間圏の駆動力の問題にもつながります。そのために文明とは何かを問い直す視点があってもよい。それはまさに明治維新以来のこの国の形を見直すことにもつながります。』(pp.222)
・ゴーギャンはなぜ文明を問うたのか
ボストン美術館所蔵の有名な「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くの、か」の絵を示して、『1897年、故郷フランスから遠く離れた南の島タチヒで、描きあげられました。急速に変化を遂げてゆく文明社会に対する懐疑と絶望、そして、そうした文明をつくり上げた人間という存在に対する根源的な問いかけ。それらをゴーギャンは絵画という芸術に見事に昇華させました。』(pp.56)
彼の、前2冊からの持論を纏めた形で
『人間圏と地球システムの関係を、人間圏の発展大階ごとに図にしてみました。』(pp.148)
図1は、「生命の惑星段階」として、中央に「地圏」があり、周囲を「大気圏」、「水圏」、「生物圏」が離れて存在する。人間は、「生物圏」の中の小さな存在としてある。
図2は、「文明の惑星段階」として、3つの圏に重なり部分が生じると同時に、第4の「人間圏」が現れる。
図3は、「地球システムⅡの文明の惑星段階」として、人間圏だけが巨大化して、地球システム全体と等価の大きさに近づく。
図4は、「21世紀の地球システム」として、人間圏が更に巨大化して、地球システム全体を飲み込んでしまう。
図4の解説は次のようにある。
『人間圏はさらに拡大を続けます。駆動力に注目すれば、人間圏は地球システムの駆動力をはるかに超えるようになります。そのため、人間圏と地球システムの関係は非常に不安定になります。一方で、地球システムと調和的な人間圏という意味では、地球システムを超えて大きくなることができないため、その内部で何らかの強制的な変化を求められるようになります。』(pp.152)
結論は、次のように語られている。
『文明の誕生と発展が、我々の認識の時空を拡大し、宇宙における観測者として、その宇宙が存在することに意味をもたらすことになったことは、実は文明とは何かを問ううえで忘れてはならないことです。しかしその存在が一方で、文明の存続にかかわる問題を引き起こしているという「文明のパラドックス」に、我々は挑むしかないのです。』(pp.153)
現代文明を見るときは、ゴーギャンやこの著者のように、文明圏の外からの眼で見なければならない。文明圏の中の人は、いつの時代でもその文明が永遠に続くと考えていた、ということは、多くの著書で指摘されている。Converging & Implementingのプロセスでは、重要なことなのだろう。
文明の定義にはいろいろあるのだが、このような外からの視点に立つと「その時代、その場所に適した人間らしい生活を営む生き方」とすることが、メタエンジニアリング的に次の文明を考える際には適当と思われる。
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