ささやかな幸せ

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『パトリックと本を読む』

2021-05-03 22:33:49 | 
『パトリックと本を読む -絶望から立ち上がるための読書会』 ミッシェル・クオ 神田由布子訳 白水社
 ハーバード大学を卒業した著者は、ロースクールへ進む前に、アメリカ南部の最貧地域の町で2年間、ボランティアの教師となることを決める。だが、劣悪な環境で育った黒人の生徒たちに読書を通じて学ぶ楽しさを教え、誇りを持たせたいという著者の理想は、最初からつまずく。読書以前に、生徒たちの読み書き能力は年齢よりはるかに劣っていたのだ。自治体に予算がなく人々に職のない小さな町で、生徒は将来を思い描けず、学校は生徒を罰することしか考えていない。それでも著者の奮闘の甲斐あって生徒たちは本に親しみはじめるが、当局の方針によって学校が廃校になってしまう。
ロースクールへ進んだ著者はある日、もっとも才能のあった教え子、パトリックが人を殺したという知らせを受ける。数年ぶりの彼は読み書きもおぼつかず、自分が犯した過ちに比べて重すぎる罪に問われていることが理解できていなかった。かつての聡明さを失った姿に衝撃を受けた著者は、拘置所を訪ねてともに本を読むことで、貧困からくる悪循環にあえぐ青年の心に寄り添おうとする。
 まず、作者の率直さに驚いた。思い込みが先行した授業の失敗も拘置所へ違法物の運び屋にされていたことも、さらけ出す。そうなのだ、すんなりいい結果が出るってことはないのだ。
 しかし、作者の取り組みは感動的だ。一行詩から生徒の気持ちを引き出していくところなどすばらしい。
 そして、拘置所の中の読書会の本は、ナルニア!そして、俳句も出てくる。パトリックが自分の表現を取り戻していくところは、いい。特に、我が子への手紙が瑞々しくて好きだ。始めは、謝罪ばかりだったが、だんだんと娘に語りかける内容が美しく、愛があふれるものになっていく。この手紙を読むと、娘はパトリックに愛されることを絶対的に感じるはず。
 たった一人しか と取るか、一人でも と取るか。「求めていることを正直に言っても叶えられないのが怖い」社会の構造的な問題もあるが、パトリックが自分を取り戻すことができてよかったと思った。
 エレイン人大虐殺、フレデリック・ダグラスなど知らないこともあって驚いた。
 
コメント
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