『羊は安らかに草を食み』 宇佐美まこと 祥伝社
過去の断片が、まあさんを苦しめている。それまで理性で抑えつけていたものが溢れ出してきているのだ。彼女の心のつかえを取り除いてあげたい――アイと富士子は、二十年来の友人であり、認知症を患う益恵を “最後の旅" に連れ出すことにした。それは、益恵がかつて暮らした土地を巡る旅。大津、松山、五島列島……満州からの引揚者だった益恵は、いかにして敗戦の苛酷を生き延び、今日の平穏を得たのか。彼女が隠しつづけてきた秘密とは? 旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時、老女たちの運命は急転する――。
満州からの引き揚げが辛くて、いったん本を閉じて、しばらく時間をおかなくては読むことができなかった。
ラストは、うすうす感じていたことが事実となり、思いがけない展開になった。
今年前期に読んだ本の中では、一番。
『朱色の化身』 塩田武司 講談社
ライターの大路亨は、ガンを患う元新聞記者の父から辻珠緒という女性に会えないかと依頼を受ける。一世を風靡したゲームの開発者として知られた珠緒だったが、突如姿を消していた。珠緒の元夫や大学の学友、銀行時代の同僚等を通じて取材を重ねる亨は、彼女の人生に昭和三十一年に起きた福井の大火が大きな影響を及ぼしていることに気づく。
さまざまな人たちの証言で辻珠緒の人生が、生きてきた時代背景が浮かび上がってくる手法が見事。
冒頭の火事のシーンの描写が迫真的。
本当のことを誰にも言えずに自分にしまいんで生きているのは、さぞかし辛かったと思う。辻珠緒も母も幸せに生きて欲しいと思った。
関係ないが、京都に行ったら、何必館、長楽館に行ってみようと思った。
『悪い夏』 染井為人 角川文庫
26歳の守は生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外して――。
こんなことになるなんて。なんで こうなっちゃったの?というのが感想。危ういけれども、幸せになると思ったのに。
じりじりとした夏。絶望とあきらめ、あっという間の転落。本当に「悪い夏」だ。一気読み。
過去の断片が、まあさんを苦しめている。それまで理性で抑えつけていたものが溢れ出してきているのだ。彼女の心のつかえを取り除いてあげたい――アイと富士子は、二十年来の友人であり、認知症を患う益恵を “最後の旅" に連れ出すことにした。それは、益恵がかつて暮らした土地を巡る旅。大津、松山、五島列島……満州からの引揚者だった益恵は、いかにして敗戦の苛酷を生き延び、今日の平穏を得たのか。彼女が隠しつづけてきた秘密とは? 旅の果て、益恵がこれまで見せたことのない感情を露わにした時、老女たちの運命は急転する――。
満州からの引き揚げが辛くて、いったん本を閉じて、しばらく時間をおかなくては読むことができなかった。
ラストは、うすうす感じていたことが事実となり、思いがけない展開になった。
今年前期に読んだ本の中では、一番。
『朱色の化身』 塩田武司 講談社
ライターの大路亨は、ガンを患う元新聞記者の父から辻珠緒という女性に会えないかと依頼を受ける。一世を風靡したゲームの開発者として知られた珠緒だったが、突如姿を消していた。珠緒の元夫や大学の学友、銀行時代の同僚等を通じて取材を重ねる亨は、彼女の人生に昭和三十一年に起きた福井の大火が大きな影響を及ぼしていることに気づく。
さまざまな人たちの証言で辻珠緒の人生が、生きてきた時代背景が浮かび上がってくる手法が見事。
冒頭の火事のシーンの描写が迫真的。
本当のことを誰にも言えずに自分にしまいんで生きているのは、さぞかし辛かったと思う。辻珠緒も母も幸せに生きて欲しいと思った。
関係ないが、京都に行ったら、何必館、長楽館に行ってみようと思った。
『悪い夏』 染井為人 角川文庫
26歳の守は生活保護受給者のもとを回るケースワーカー。同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースの女性に肉体関係を迫っていると知った守は、真相を確かめようと女性の家を訪ねる。しかし、その出会いをきっかけに普通の世界から足を踏み外して――。
こんなことになるなんて。なんで こうなっちゃったの?というのが感想。危ういけれども、幸せになると思ったのに。
じりじりとした夏。絶望とあきらめ、あっという間の転落。本当に「悪い夏」だ。一気読み。
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