大ヒットした『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『シン・エヴァンゲリオン』と比べると、公開中の『シン・仮面ライダー』は興行成績がイマイチなんだそうです。
が、それは仕方ないかも知れません。予告編の段階で上記3作品よりトーンが暗く、スケールも小さい印象があったから、コアな特撮ファンと庵野秀明ファンの興味しか引けなかったんでしょう。
作品の良し悪しが、決して観客の動員数に直結するワケじゃない事ぐらい、ある程度エンタメに興味ある人ならみんな分かってると思うけど、ネット民たちはここぞ!とばかりにバッシングを始め、ネットニュースの類いは「失敗作」の烙印を押したりする。
実際にちゃんと観て「つまんない」と感じたなら、そりゃ遠慮無く叩いて構わないと思うけど、ヒットしてないからとか、みんなが絶賛しないからなんてアホな理由で、よからぬ先入観を植え付けるのはホントやめて頂きたいもんです。
うっかり読んでしまったネットニュースに、庵野秀明監督が俳優陣に何の指示も出さず、なのにダメ出しと撮り直しを繰り返して、撮影現場を大いに困惑させた、みたいなことが書かれてました。
で、それを象徴する場面としてクローズアップされたのが、地上波よりいくらか早くBSで放映されたNHKのドキュメンタリー番組における、主役=池松壮亮くんの「どうせやり直しでしょ?」っていう、投げやりとも受け取れる撮影現場でのお言葉。
確かに、観たらちょっと吐き捨てるような言い方してるし、そこだけ「切り取れば」現場の雰囲気が悪かった→キャストとスタッフがモチベーションを失った→結果、失敗作……みたいに連想しちゃいそうです。
そこがネットニュースの悪辣さなんですよ! 私自身、その記事を読んで「そこまで険悪な雰囲気だったのか」って思っちゃいましたから!
けれど今回、地上波で放映された本番組をちゃんと観たら、池松くんが後日、先の言葉が庵野監督に対する誤解だったことを認めてるんですよ! 逆にそれをキッカケにして、池松くんは以前より情熱を持って撮影に臨んでる!
そこまでちゃんと書くべきなのに、ネットニュースはわざとネガティブな部分だけ切り取ってアクセス数を稼ぐワケです。ほんとタチが悪い!💢
観てない方の為にいきさつを書きますと、アクションシーンが「ただ段取りに合わせて動いてるだけ」に見えることを避けたい庵野監督がなかなかOKを出さないもんで、その日、日没が迫ってる中、アクション監督が大急ぎで組み直した立ち回りを俳優陣は大急ぎで覚えなきゃいけなかった。
で、うろ覚えのまま勢いに任せて演じたもんだから、池松くんからすればボロボロのアクションだったのに、そのときに限って庵野監督が一発OKを出しちゃった。
なもんで、池松くんは「これ以上やってもムダだから仕方なくOKにしたんだろう」と思い込み、どうせ後日やり直しでしょ?って言ったワケです。
だけど後で池松くんは、庵野さんをよく知るスタッフたちから真実を聞かされるワケです。ボロボロに見えちゃう立ち回りこそ、監督が求めてたリアルなアクションなんだと。
庵野さんは最初の打ち合わせの段階で、ちゃんと言ってるんですよね。自分の思い通りにキャラクターを動かすことはアニメでさんざんやって来たから、実写ではあえて指示を出さないって。生身の人間に演じてもらうからには、まったく想定外の動きが見たいんだって。
それはもう、アニメ畑で頂点まで行っちゃったクリエイターならではの感覚でしょうから、ろくに裏も取ってないテキトーな記事をなんの責任も背負わずに垂れ流す、ネットニュース記者ごときに解るワケがない。
そいつらと違って池松くんは、子役からずっと第一線でやって来たプロフェッショナルですから、すぐに理解出来たはず。柄本佑くんや森山未來くんも然りでしょう。
とは言え、確かに庵野監督の要求は、そもそもムチャなんですよね。立ち回りは段取りをきっちり決めて、その通りに動かなきゃ生命を落とす事故にも繋がりかねない。
そうならないよう配慮しつつ、いかに立ち回りを格好良く見せるがアクション監督の仕事なのに、段取りするな、カッコ良くするなと注文されたら打つ手が無くなっちゃう。
庵野さんは「役者から殺気が伝わって来ない」とおっしゃるけど、仮面で表情が見せられない、声も出せないとなると伝える手段が無い。
アクション監督さんがいよいよ追い詰められ、あわや庵野さんと一触即発!ってな場面もそのまま放映されて、そこだけ「切り取れば」そりゃ険悪な撮影現場に見えるでしょう。
けれど番組では、そのあとカメラが回ってない時に「(監督が)涙目になって直立不動で謝ってくれた」っていう、アクション監督さんのコメントもちゃんと出してるんです。
私はもう、泣きましたよ! 庵野さんだって、自分の要求がムチャだってことを百も承知で言ってたワケです。
ムチャだけど「これまで誰も見たことがない仮面ライダー」を見せる為には、ムチャをやるしかない。その為ならスタッフ全員に恨まれたって構わない。
それだけの覚悟を持って作品に取り組んでるクリエイターが今、この国にいったい何人いるだろう?って話です。
スタッフもキャストも皆、どうすれば庵野監督が求めてるものを具現化できるか、必死に考えて考えて考え抜いて、本当に命懸けで取り組んでるのが画面からヒシヒシ伝わって来ました。リーダーが命懸けでなきゃ、誰もそんな風にはならんでしょう?
そうして創り上げられた作品が、つまんないものになるワケないと私は思うけど、まあ感じ方は十人十色だから否定意見も出るのは仕方がない。
けど、面白半分にネガティブな部分だけ切り取って記事にするバカ、それを真に受けて悪い噂を拡散するバカ、つまり命懸けで何かに取り組んだ経験なんか一切無いであろう連中に、庵野作品を否定する資格が果たしてあるだろうか?
『シン・仮面ライダー』に文句をつけて許されるのは、庵野さん以上に仮面ライダーを深く、それこそ命懸けで愛してる人だけだと私は思うけど、まぁそうそういないでしょう。昭和ライダーをまったく知らない世代は別にして。
アクション撮影以外の部分も観たかったけど、これは歴然たる「アクション映画」だし、監督VSアクション監督のバトルを超える見どころは無いでしょうから、文句ありません。とても面白いドキュメンタリーでした。
セクシーショットは恐怖の「蜂女」を演じられた、西野七瀬さんです。