2018年10月現在公開中の、大森立嗣 監督・脚本による日本映画。森下典子さんの人気エッセイが原作です。
是非とも多部未華子さんと共演して頂きたい女優として、私は以前から黒木 華さんを熱望してました。平成生まれの二大「昭和顔」女優たちが組んだ時、果たしてどれほど昭和的な作品が生まれるだろうかと、興味津々でした。
そしたらお二人が従姉妹という設定で、樹木希林さん扮する師匠に茶道を学ぶ映画だと聞いて、なるほど、それならこのコンビにピッタリだと納得した反面、意外性が無さすぎてつまんないかも?って思ったりもしました。
けど、実際に観て私は意表を突かれました。華さんは地味で真面目で不器用なキャラで、言わば予想通りの昭和的ヒロインなんだけど、多部ちゃんはそんな華さんと対照的に派手めで器用でアクティブな、現代っ子を代表するキャラクターとして登場するんですよね。
そこに私は、女優・多部未華子の進化を見た気がしました。10年前の多部ちゃんなら昭和的ヒロインの役しか有り得なかったと思うんだけど、それと対比して描かれるサブヒロインの役を、ごく自然にこなしてる今回の多部ちゃんを見て、ホントこの人に出来ない役はもう無いんだなと。
黒木華さんもホントに凄い女優さんだけど、今回の多部ちゃんが演じた役はさすがに似合わないだろうと思います。対して、主人公は多部ちゃんが演じても普通に成立した筈です。(しかし最近の多部ちゃんはもう昭和顔とは言えないかも?)
それはともかく、これは作品としても素晴らしかったです。進路が定まらない女子大生の華さんが、従姉妹の多部ちゃんに誘われて一緒に茶道を学び、やがてその道を究める決意をするまでの、実に24年間というw、長い長い歳月が描かれます。
その間にヒロインは就職や恋愛で挫折を味わったりもするんだけど、それらはモノローグで語られるだけで、映画の大半は茶道シーンで占められてます。つまりほとんど動きが無いにも関わらず、私はまったく退屈せずに観られました。同じ日に観たハリウッド製アクション映画は途中でちょっと居眠りしたのに、淡々と静かに進む本作では一瞬も眠くなりませんでした。
それは愛する多部ちゃんが出てるからでもあるし、黒木華さん、そして亡くなったばかりの樹木希林さんの演技に引き込まれたお陰もあるでしょうが、何より茶道そのものが面白いからだろうと思います。
動きが無いって書きましたけど、実際は実に細かい動きに埋め尽くされたハードな世界で、一挙手一投足をパーフェクトに憶え、1ミリ単位の間違いも許されない、言わばダンスの振り付けみたいなものなんですよね。
ガチガチに決められた所作1つ1つに一体どういう意味があるのか、教わる側としては知りたくなるんだけど、先生は「意味なんか知りません。そういうもんなの」ってw 希林さんが仰るだけに何だか可笑しいw
激しい動きが無くても、これはアクションでありコメディでもある。だから退屈しないんだと思います。淡々と進むと言っても2時間に満たない尺で24年間ですから、実はメチャクチャめまぐるしいとも言えるしw
なぜ、24年もの長い歳月を描く必要があったのか? そしてタイトルの「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」という言葉にこめられた、本当の意味とは?
それは是非とも作品を観て確かめて頂きたいです。多部ちゃんが演じた従姉妹のキャラが、なぜ本作に必要だったか、その理由も最後まで観れば解る仕掛けになってます。
余談になりますが、この映画の上映前に、新作映画の予告編を何本か観ました。日本映画はどれもこれも家族愛をテーマにしたお涙頂戴モノで、しかも揃いも揃って息子(イケメン)が死ぬ話ばっかりなんですよねw 猫を主人公にした映画ですら、飼い主の若いイケメンが死んじゃうみたいだしw
それで心底ゲンナリした直後に観たのが、ただ女の子がお茶を習うだけの映画だったもんで、なおさら素晴らしく感じちゃいました。キャストはほとんど女性ばかりで、登場する男性キャラは華さんのパパ(鶴見辰吾)ぐらい。つまり客寄せパンダの若いイケメンは1人も出てきません。
本作でも家族の死は描かれるけど、それはヒロインの24年間に起こる普遍的な出来事の1つに過ぎず、彼女が「日日是好日」の意味を悟るために必要不可欠な要素でもあり、安易なお涙頂戴とは一線を画するものです。
この辺りに、同じ日本映画でも志の著しい高低差を感じました。若いイケメンの死で女性客を泣かせたいだけの映画に樹木希林さんは出ないだろうし、そんな映画の創り手には多部ちゃんを起用する器量も無いだろうと思います。
ヒロインの心情はモノローグでつぶさに語られますから、静かな映画でも難解さはありません。逆に「解り易すぎる」ってな批判が出そうだけど、どんなに崇高なメッセージでも伝わらなきゃ意味が無いし、客層(私が観た劇場では9割方が年配女性)を考えてもそれで正解だろうと思います。
茶道だけじゃなく、人生においても為になりそうな言葉が満載の作品だけど、堅苦しさは微塵も感じない、とにかく「面白い」映画です。
そして何より、黒木華&多部未華子の初共演! 二人がカラオケBOXや浜辺でじゃれ合うシーンを観て、これは日本映画界の至宝だと思いましたよマジで。
もちろん、もう新作じゃ二度と観られない樹木希林さんの名演をじっくり味わえる映画としても、これは必見。
音響効果がけっこう重要な役割を果たす作品でもあるので、設備の整った劇場での鑑賞をオススメします。
音響も劇場で最大限の効果が果たせるように設計されてるでしょうから、絶対に映画館で観るべき作品ですよね。
いつも出掛ける映画館ではなく、別の映画館だったのですが、この映画館、狭いんだけど音響設備だけは素晴らしいと評判の映画館なのです。せせらぎの音とか、お茶を混ぜる音とか、雨の音とか、本当にクリアに聞こえて、おっしゃる意味がよくわかりました。
黒木華さんと多部未華子さんが並んでスクリーンに映ってる姿には感動しました。二人の共演を待ちこがれていた身には、夢のような時間でした。
蒼井優さんや二階堂ふみさんなど、ほかにも名だたる女優さんは大勢おられますが、この二人はやっぱり別格だと思うのです。
これからもいろんな作品で私たちを感動させてくれるにちがいありません。これからも期待したいと思います。
それにしても眼福でした。