









坊さん(小野武彦)がうっかり新聞記者に情報を漏らしたせいで犯人に逃げられ、怒り心頭のクロ(渡 哲也)は「テメエには身体ごとホシにぶつかって行く度胸も根性も無いんだ!」と、言わなくていい事まで坊さんに言っちゃいました。
何とか名誉挽回したい坊さんは、人質をとって喫茶店の2階に立てこもった強盗犯=手塚(三上 寛)の前に丸腰で飛び込み、自分を人質の身代わりにするよう交渉するのでした。
「おめえが人質だって?」
「頼む」
「人にもの頼む時ぐらい、言葉遣い綺麗にして、頭の1つも下げたらどうだい!」
「……お願いします」
「とうとうデカが、俺に頭下げたな。いつも威張ってやがるデカがよ! ガッハッハッハ!!」
階下で焦りを募らせるクロに、マルさん(高品 格)が更に悪い知らせを持って来ました。
「クロさん。撃たれた交番の巡査、死んだそうです」
「死んだ……」
「ええ。手塚もこれで、第一級の殺人犯って事になりますな。坊さんもえらい所へ飛び込んじまったもんだ」
マルさん=高品 格さんの淡々とした口調に、より事態の重さを痛感させられます。どうって事ない台詞でも、この人が言うと味わい深く、何だか含蓄ありそうに聞こえちゃうんですよね。
石原プロは演技力の弱い俳優さんばかり、あえてキャスティングしてるような傾向があるんだけど、この「おやっさん枠」だけは別格ですよね。
高品さんは後に映画『麻雀放浪記』で助演男優賞を総ナメにしちゃう名優さんだし、『西部警察』シリーズの藤岡重慶さん、井上昭文さん、小林昭二さん、『ゴリラ』の谷啓さん、『代表取締役刑事』の高松英郎さん等、味のあるベテラン実力派アクター達をレギュラーキャストに迎えてました。
これは石原プロ作品に限らず、刑事ドラマの定石であり、伝統とも言えます。『太陽にほえろ!』の下川辰平さん、『特捜最前線』の大滝秀治さん、『噂の刑事トミーとマツ』の井川比佐志さん、そして『大都会』シリーズの高品 格さんを「おやっさんデカ四天王」と呼ぶことを、たった今私が決めましたw
さて、残念ながら……いや、めでたく人質のみどり(伊佐山ひろ子)は解放される事になりました。下着姿で踊らされただけで済んだのは、何だかんだ言っても一度は惚れた女、手塚もそれ以上残酷なことは出来なかった。根は優しい……というか小心者って事なんでしょう。
「俺の靴、汚れてるな。磨けよ。Yシャツで磨けよ」
言われるがまま、坊さんはYシャツを脱いで手塚の趣味の悪いブーツを磨きます。
「手塚、今からでも遅くないぞ? いい加減に馬鹿げたこと、やめるんだ。心を入れ替えれば、まだまだ人生やり直せ……」
「うるせぇーっ!!」
今の手塚に上から目線の説教が通じるワケもなく、坊さんはボコボコに殴られる羽目になっちゃいます。そして……
「笑わせんな、何がもう1回やり直せや!? おい! ズボン脱げ!」
…………え? いやいやいや、坊さんまで脱がさなくても良いんですけど……ていうか、脱がしてどうするつもりなんですか? それだけはやめて下さいw
「俺は頭押さえつけられて、虫けらみたいに生きて来たんだよ! 刑務所入って、また1から虫けらになれってかよ!?」
ステテコ姿になった坊さんを、手塚は更にフルボッコ、蹴って蹴って蹴りまくります。脱がせた理由は不明のままですw
「クロさん、坊さんが!」
2階から聞こえて来る坊さんの悲鳴に、カッとなったトク(松田優作)が飛び出そうとしますが、マルさん達に止められます。
「手塚、顔を出せ! そっちの条件が聞きたい。最後までそこで頑張るつもりじゃないだろう? 条件を言ってくれ!」
このままじゃ坊さんの身体が保たないと判断したクロは、自ら交渉を始めます。当時のTVドラマにはSITだのSATだのと言った面倒臭い役割分担は無く、所轄の捜査課が全てを仕切ってました。
「カネが欲しいなら用意する! 国外に逃亡したいなら、すぐに手配する!」
普段はアメリカ軍みたいに(テロに屈しない)強気な姿勢を見せるクロが、全面的に要求を呑もうとするもんだから、刑事達は驚きます。それだけ今は、坊さんを助ける為に必死なんですよね。
しかし手塚の要求は、車を1台用意する事のみ。坊さんを脱がせたり、いったい何がしたいのやら意味不明です。
「クロさん、どうするんスか? みすみす野郎を逃がすんですか?」
「坊主の安全が一番だ。時間を稼ぐんだ時間を。そのうちチャンスはある!」
クロは手塚の要求を呑み、ヒラ(粟津 號)に車とライフル銃の用意を命じます。手塚は車を坊さんに運転させ、パトカー軍団を引き連れたまま六本木方面へと向かいます。
「一体どういうワケだ、俺は何も聞いとらんよ! 俺は許可してないよ? 知らんよ! 知らんぞ? どういう結果になろうと責任持たんよ!」
↑ 署に戻った吉岡課長(小池朝雄)が、現場で大変な思いをしてる刑事達に向かって、無線で言い放った台詞ですw 同じ課長でも西部警察の木暮課長(石原裕次郎)とは全く正反対のキャラですw
さて、手塚が向かった先はなんと、東京タワーでした。坊さんを人質に連れたまま展望台へ、更に外側の非常階段で上へ上へと登っていく、猟銃を持ったハゲ豚とステテコ刑事w
そんな絵にならない2人を、わざわざヘリから空撮する石原プロの心意気が素晴らしい!w 恐らく当時でも、こんな大掛かりで危険なロケを東京タワーでやっちゃうパワーを持つのは、石原プロだけだった事でしょう。
「やめてくれ! 無理だ、俺は高所恐怖症なんだよ!」
命綱も着けずに、地上250メートルにある非常階段を登らされたら、高所恐怖症でなくともオシッコを漏らすかも知れません。朝からクロに凄まれ、ハゲ豚に脱がされ東京タワーを登らされ、坊さんは厄日なんてもんじゃないですよね。
「どうするつもりだ!? もう逃げられんぞ!」
「そんなこたぁ喫茶店に入った時から分かってんだでや! だけど俺ぁ、必ず逃げて見せるどっ!」
すぐ下まで迫って来てるクロ達に、手塚はテレビ中継を要求したり等、もはや言ってる事が支離滅裂。どうやら本気で逃げる気は無く、坊さんを道連れに飛び降りるつもりなのかも知れません。
クロは、狙撃担当のトクにライフルを託します。
「チャンスがあれば撃て。肩を狙ってな。もし坊主に万が一の事があったら、構わん、手塚をぶち殺せ!」
そんなに無茶なことを言ってるワケじゃないんだけど、言い回しが物騒すぎますよねw 思わずベテランのマルさんが割って入ります。
「クロさん、そりゃ過剰防衛ですよ。この際、課長と深町次長の意見も聞いてですね……」
深町次長っていうのは、佐藤慶さん扮する本庁のキャリア。前作からの続投メンバーですが、パート2には数回しか登場しなかったと記憶します。
「マルさん! 課長や次長が何を言おうと、このさい関係ないっスよ! 問題は坊さんの命です!」
「しかしだな」
「しかし何ですか!?」
元より偉いさんの命令なんか聞く気がないトクですからw、マルさんの意見と真っ向から衝突します。しかし、一刻を争う状況下で、議論してる場合じゃありません。
「冷静になれ! この現場の責任者は自分です。自分が全責任を取ります。いいか、みんな!?」
クロによる鶴の一声で全員が納得、素早く配置につきます。
「手塚、もう1度言う! おとなしく出て来い! 我々はお前の要求を聞くつもりは無い!」
「ああ、結構だでや! その代わり、このデカの命もねえと思えや!」
最前線でクロが手塚を引きつけ、トクがライフルで狙い、他のメンバー達が外堀を固める。そして坊さんが猟銃の銃身に噛みついた瞬間w、トクが手塚の肩を撃ち抜いた!
すかさずクロが鬼の形相で突っ込み、アタフタと床に這いずる手塚を蹴って蹴って蹴りまくる! それは捕り物アクションと言うよりも、ただの暴力にしか見えませんw 渡さんの演じる暴力は本当にリアルですw
「いでででで! 冗談だでや、冗談だでやぁーっ!」
クロとバトンタッチしたトクは、ニヤニヤ笑いながら手塚を蹴って蹴って蹴りまくりますw 暴力を楽しむ優作さんもまた、リアルなんですよねw
「坊主、大丈夫か? よく頑張ってくれたな」
「クロさん……」
ここで坊さんが涙を見せるんじゃなくて、クロに煙草をおねだりするのが良いですよね。活劇の中でしっかり人間ドラマを描きながらも、決してウェットにならず乾いた世界観を貫いてるのが『大都会 PART II 』の魅力です。
そして、渡さんが「都会~の裏窓~袋小路~♪」って唄うネクラな演歌『ひとり』が流れ、独りで佇むクロの画で幕を下ろすのが『大都会』シリーズのお約束。地上250メートルでも、やっぱり佇むんですねw
冒頭のアパート突入から、取調室におけるクロの坊さんイジメ、喫茶店での攻防戦、そして東京タワーへと畳みかける怒涛の展開。
さらに、でんでん氏を若くしたような三上寛さんの怪演(ブラボー!)、伊佐山ひろ子さんのブラジャー姿、小野武彦さんのステテコ姿w、渡さん&優作さんのリアル暴力と、てんこ盛りの見せ場に人間ドラマも加味された、あっという間の約45分。
誉れ高い『大都会 PART II 』の中でも、これは指折りの傑作エピソードかと思います。あらゆる意味で、現在のテレビ業界では製作不可能な作品です。
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