昨今の刑事ドラマは誠に不自然です。極悪非道な悪党どもに、例えば真木よう子さんみたいなセクシー美女が拉致監禁され、ロープで身動き取れなくされても、最後まで一糸乱れぬ綺麗な姿でいられるって、あり得ないでしょう?
まして強盗や殺人を犯した上での籠城となれば、犯人のアドレナリンは沸騰しまくりだろうし、もし捕まったら何年も刑務所で禁欲生活、あるいはそのまま一生を終えちゃうかも知れない。
そうなったら、やる事は1つしか無いですよね? そういう欲求がまるで無い、草を食って生きてるような犯人だとしても、人質が逃げられないようハダカにする位の事はするでしょう? するべきじゃないかな? 頼むからしてくれ!
だから昨今の刑事ドラマは面白くないワケです。美女が拉致監禁されても、まったく無傷で解放される事が最初っから判ってるんだから、誰もワクワク……いやハラハラしませんよね。アホかっ!?
’70年代は違ってました。当然あるべき事が、ちゃんと真摯に描かれてましたよ。だから我々は、ドラマの中で美女が拉致監禁される度にワクワク……いやハラハラしながらテレビにかじりついてたワケです。親の眼を盗みながら!
中学生の頃、私は夕方の再放送で『大都会 PART II 』のこのエピソードをたまたま観て、トラウマになるほどの悦楽……いや恐怖を覚えたもんです。まったく、素晴らしい時代でしたね!
☆第3話『白昼の狂騒』(1977.4.19.OA/脚本=永原秀一/監督=村川透)
「1977年東京都。人口1168万。警視庁警察官40267人。犯罪発生件数20万9千件。犯罪検挙率88%」
↑ 次元大介こと小林清志さんのナレーションで始まるOPタイトルは、GAMEの演奏によるミドルテンポなテーマ曲が象徴するように、前作『大都会/闘いの日々』の社会派シリアス路線と、次作『大都会 PART III 』以降エスカレートしていく活劇アクション路線の、ちょうど中間をイメージさせる感じでした。
ドラマの内容自体、派手なアクションを取り入れながらも、警察組織の横暴や矛盾を皮肉る社会派ドラマ的な要素も残ってて、後の『西部警察』シリーズみたいに単純かつ健全なヒーロー番組とは一味も二味も違う、見応えのあるエピソードが多かったです。
この第3話は、城西署捜査一課の部長刑事「クロ」こと黒岩頼介(渡 哲也)と、その右腕となる中堅刑事「トク」こと徳吉 功(松田優作)による、アパート一室への強行突入シーンで幕を開けます。
ところが、部屋はもぬけの殻。犯人=山崎は、自分が容疑者としてマークされてる事を新聞のスクープ記事で知り、一足早く逃走したのでした。
「課長! 徳吉ですよ! 山崎が逃げました、緊急配備お願いします! ええ? 分からないよそんなの! 俺たちが着く前に逃げたんですよ!」
電話越しとは言え、捜査一課で一番偉い上司に向かって、この口の聞き方w トクは一匹狼キャラってワケでもないんだけど、基本的に偉い人が嫌いみたいですw
石原プロの脇役専門俳優=武藤章生さん扮する新聞記者が、署に戻ったクロに犯人=山崎の逃走先を聞き出そうとしますが、クロは相手にしません。
「クロさん、まさか山崎に逃げられたのはウチの記事のせいだと思ってるんじゃ……」
「とぼけんなよ。どっからあのネタ仕入れたんだ? 誰があんたに喋ったんだ?」
「それは言えません。こういう結果になった以上、尚更です」
「ああ、そうかい。それじゃ喋んな。だいたい目星はついてる」
まだ若々しいクロ=渡哲也さんは眼光もパチキ(剃り込み)も鋭く、サングラス無しでも近寄りがたい迫力があり、本当に喧嘩が強そうに見えます。
そんなクロに「ちょっと来い」って睨まれ、取調室に連れ込まれた「坊さん(あるいは坊主)」こと大内刑事(小野武彦)は、きっとオシッコを3滴ほど漏らしたに違いありません。
「坊主。何だこれは?」
クロに例のスクープ記事が載った新聞を叩きつけられ、坊さんはたぶん恐怖で口が聞けなくなったんだと思いますが、クロの眼にはふてくされてるように見えたようです。
「何だ、その態度はっ!?」
問答無用でグーパンチを浴びせるクロが恐ろしすぎますw
「どうしてネタをバラしたんだ! テメエそれでもデカか!?」
坊さんは言い逃れすること無く、素直に「申し訳ありませんでした」って謝罪するんだけど、クロは許してくれません。
「ずいぶん簡単に頭を下げんだな。だいたいテメエにはな、ホシに身体ごとぶつかって行く度胸も無いし根性も無いんだ! 小細工ばっかりしやがって!」
「……クロさん、そりゃ言い過ぎですよ。確かにタイムスの記者に口を滑らせたのは軽率だと思……」
「軽率だと思うんだったら辞表書け! どうしたんだ、そんな覚悟もねえのか?」
何もそこまで言わんでも……って思うけど、逃がした山崎は殺人犯で、また新たな犠牲者が出ちゃう可能性を考えると、笑って済ませられる問題でもありません。
と、そこに課長の吉岡(小池朝雄)がやって来て、山崎が検問に引っかかって逮捕された事実を伝えます。
「黒岩くん。ホシも挙がった事だし、ここは一つ大人になって。な?」
課長役の故・小池朝雄さんは『刑事コロンボ』の初代声優さんとしても知られる方で、まさにピーター・フォーク氏に勝るとも劣らぬ個性的な容姿と味のある芝居で、我々を大いに楽しませてくれました。
それにしても、後に「団長」と呼ばれ、完全無欠の絶対的ヒーローとして君臨する渡哲也さんが、ここでは上司から「大人になって」なんて言われてます。
確かに坊さんのリークは軽率だったけど、悪気は無かったみたいだし、言い訳もしないで素直に謝ってるんだから、いきなり殴ることは無かったように思います。
「……俺も、言い過ぎた。気にせんでくれ」
どないやねん!?w いやしかし、凄く人間味がありますよね。後の「団長」のスーパーマンぶりも格好良いんだけど、まだ人間らしさを残してる当時のクロには違った魅力を感じます。ドラマとしてはやっぱり、こっちの方が面白いですよ。
「だけどな坊さん。課長がどう言ったか知らんけど、サラリーマン根性じゃデカは務まらんぞ」
坊さんは黙って頭を下げ、部屋を出て行きます。クロは、カッとなって彼を追い詰めたことを後悔してる様子……否、もしかすると悪い予感を覚えたのかも知れません。
そう、さっき坊さんに浴びせたクロの罵声が、後にとんでもない事態を招く事になるのです。
それは、趣味の悪い柄物のコートを羽織った男(三上 寛)が、路地から飛び出して来た出前持ちとぶつかった事が発端でした。
その弾みで、コートの内側から物騒な物が転がり落ちたのです。それは短く切り詰めた猟銃!
ビビった出前持ちを尻目に、男は猟銃を拾って2階建ての喫茶店へと乱入、通報で駆けつけた交番の巡査に発砲すると、ウェイトレス1人を人質に取って店の2階に立てこもったのでした。
定食屋さんでメシをヤケ食いしながら、警察病院の宗方医師(石原裕次郎)に愚痴をこぼしてたクロは、事件の知らせを聞いて食いかけの丼を残し、現場に急行します。
今回、裕次郎さんの出番はこれだけw 警察と病院は切っても切れない縁とはいえ、毎回ストーリーに医者を絡ませるのは大変だった事と思います。
医者役としては裕次郎さん、貫禄と華があり過ぎる気もしますがw、危険な現場に遭遇すると腰が引けた感じを巧みに演じておられたりして、このシリーズでは役者・石原裕次郎の顔もしっかりアピールされてたように思います。
さて、現場に駆けつけたクロ&トクは、先行した坊さんから状況報告を受けます。犯人はこの店の常連客=手塚という男で、人質にされたウェイトレスのみどり(伊佐山ひろ子)をしつこくデートに誘っていたという。
どうやら最初からみどりが目的で店に押し入り、連れ出そうとしたけど抵抗され、ドタバタやってる内に警官が駆けつけた為、仕方なく2階に籠城したらしいとの事。
「サル」こと上条刑事(峰 竜太)、「ヒラ」こと平原刑事(粟津 號)、そしてベテランの「マルさん」こと丸山刑事(高品 格)も駆けつけ、僅かな時間に調べ上げた手塚の素性をクロに報告します。
年齢は31歳で岩手県出身、建築現場の労務者で、隣の城北署管内で強盗をやらかしたその足で此処に来た模様。猟銃は同僚から盗んだ物で、弾丸は約30発も所持しているらしい!
ほんの数十分でそこまで判るか!?って話ですがw、これは昨今の主流である「捜査(あるいは謎解き)ドラマ」じゃなくて、あくまで「刑事ドラマ」なんです。刑事の活躍や葛藤をメインに描くドラマであって、捜査の過程なんかどうでも良いワケです。
「こっちにはな、人質がいるんだでや! 手出し出来ねえべ? ざまぁ見やがれ!」
本来の脚本では、この手塚という犯人は標準語で喋ってるんだけど、演じる三上寛さんが青森県出身って事で、東北弁にアレンジされたんだそうです。
それが物凄く効いてるんですよね! 都会に馴染めず、好きになった女にも無視され、ヤケッパチになった男の哀愁が伝わって来るもんだからリアリティーがある。
三上寛さんが小柄で、とてもハンサムとは言えないルックスなのがまたリアルです。最近のドラマにおけるこのテの犯人は、ヘンにシュッとした二枚目野郎が多くて白けますよね。めちゃくちゃ嘘っぽいし薄っぺらい。
それはともかく、犯人の手塚は階下にいる刑事達に、音楽を流すよう要求して来ます。何だか、嬉しい予感……いや悪い予感がして来ました。
トクが店のステレオプレーヤー(まだアナログレコードの時代です)でレコードをかけると、それはベートーベンのクラシック音楽でした。
「何だばこりゃあ? もっと派手なヤツかけろ、派手なヤツ!」
「あのハゲ豚、曲を選んでるタマか!」
↑ この台詞は脚本にあったんでしょうか? 優作さんのアドリブっぽいですねw この『大都会 PART II 』って作品は、ハードボイルドな世界観の中で1人、優作さんだけアドリブギャグをかましまくってる事でも有名なんですw
次にトクが選んだレコードはノリノリのロックンロールで、ハゲ豚さんもお気に召した様子です。
以下、犯人=手塚と人質=みどりの会話ですが、三上寛さんの東北訛りがあまりに強くて台詞が聞き取れないので、だいたいのニュアンスを標準語に訳してお伝え致しますm(_ _)m
「銭だけはナンボでもあるんだ。おめえと2人で逃げても、しばらくは暮らせるようにな……今じゃただの紙切れさ。初めから2人で逃げてりゃ、こんな事にならなかったんだ!」
「ごめん。私、怖くて足がすくんじゃったの」
「うるせぇ! その気も無いくせにテキトーなこと言いやがって! どいつもこいつも、俺のこと田舎もんだと思ってバカにして……」
解るなぁ……w ただでさえコンプレックスを抱えてるのに、東京みたいな街に来て、ちょっと綺麗な女に鼻であしらわれ……そりゃヤケにもなりますよ。
そんな時に、たまたま同僚が猟銃なんか持ってた日にゃあ……私だって魔が差しちゃうかも知れません。銃を持って、強盗して大金をつかんで、好きだった女が今、目の前にいるワケですよ。
しかも、それまで自分を鼻であしらってた女が、銃口の前じゃ従順な乙女を演じてる。もう既に警官まで撃っちゃったし、階下には刑事達が潜んでる。逃げ場はありません。
さて、あなたならどうしますか? やる事は1つしか無いですよね? 格好つけてる場合じゃないでしょう?
「脱げや……」
キターーーーーーっ!!w
「蜂の巣になりたくねぇなら、脱げや!」
そうだよね! そりゃそうだよね! 女の裸を見ずして、一体なんの為の籠城か!?
「全部だでや! 全部!」
当たり前でしょう! 上着とか靴下だけ脱がれても意味あらへんがな!
みどりは、素直にブラウスとスカートとシュミーズを脱ぎ捨て、下着姿になります。伊佐山ひろ子さんのふっくらしたカラダが妙になまめかしくて、下着が残ってても充分にエロチックです。
実際、最近になってDVDで再見するまで、私は伊佐山さんがこの場面でトップレスになったものと思い込んでました。乳首が見えてようとなかろうと、伊佐山さんの発するフェロンがハンパないんですよね。
「踊れや。踊って見せろでや! ほら、腰ふって! ヒッヒッヒ、なかなかええど。脚、上げて。おっぱい寄せて。ウヒヒヒヒヒ!」
ハゲ豚に言われるがまま踊る伊佐山さんの腰つきがまた、めちゃくちゃエロいんですよね、ウヒヒヒヒヒ!
ところで階下では、遅れて駆けつけた吉岡課長がクロに状況を尋ねてます。
「逮捕の手立てはあるのかね? せめて人質だけでも何とかならんかな……」
「もうしばらく時間を。時間が経てば、必ず手塚は何かを要求して来ます」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろう? 警察の威信がかかってるんだよ!」
『大都会』シリーズから『西部警察』シリーズを通して歴代、渡さん直属の上司はこんなキャラですw 事なかれ主義で口うるさくて、だけど何となく憎めない人間味がある。小池朝雄さんは特に、コミカルな要素も強かったですね。
「よし、私が説得しよう。音楽を切りたまえ。早く切れと言っとるんだ!」
偉そうに部下達を叱咤した吉岡課長は、ここで上司としての威厳を示すべく、颯爽と手塚の説得に向かうのですが、すかさず猟銃乱射の返礼を受けて階段から転がり落ち、クロに抱き止めてもらうという、最高に格好悪い姿を披露しますw 巻き込まれた部下達はたまったもんじゃありませんw
「参った参った、俺の美しい顔が課長みたいな顔になるとこだった」
「バカ!」
↑ 優作さんと小池さんのアドリブですw 脚本には普通に「蜂の巣になるとこだった」と書いてあったそうですw
「いやぁクロさん、危なかった。助かったよ、ありがとう」って、課長……w これは脚本の段階で既に、笑いを狙ってますよねw 石原プロ作品でこのテのユーモアが見られるのって、この『大都会 PART II 』が唯一かも知れません。
しかし、これでは埒が開きません。犯人逮捕はともかく、早く人質を救い出さねば事態は悪化する一方です。そこで、課長がこんな提案をしました。
「警察の面目を保つ為にも、俺が替わりに人質になるよ。クロさん、奴がそれを受け入れる可能性あるかね?」
「分かりませんね。今だいぶ刺激しちゃいましたからね」
「ちっ!」
課長、あんたのせいやがな!w
その会話を、じっと眉をひそめて聞いていた坊さんが、静かに立ち上がります。彼は仲間に気づかれないよう自分の拳銃と手錠をテーブルに置くと、いきなり2階へと駆け上がるのでした。
「坊さん、何やってんだ!?」
そう、坊さんは、自分が人質になろうとしているのでした。クロは慌てて彼を止めようとしますが、振り切った坊さんは2階フロアに飛び込んでしまいました。
「坊主、やめろ! やめてくれ! 坊主! やめてくれ!」
必死に叫ぶクロの脳裏に、自らが言い放った坊さんへの罵声が蘇ります。
「だいたいテメエにはな、ホシに身体ごとぶつかっていく度胸も無いし根性も無いんだ!」
……自分が、坊さんを追い詰めてしまった……暴走する狂犬の前に、可愛い部下を飛び込ませてしまった……。ここまで焦燥しまくる渡さんの顔も、なかなか見られないんじゃないでしょうか?
さて、坊さんの運命やいかに!? 伊佐山さんの身代わりになって、下着姿で腰を振るんでしょうか? そんな事になったら私は即刻テレビを消しますw
ある意味、それよりも遥かに過酷で、遥かに恥ずかしい運命が、坊さんを待ち構えているのでしたw
(つづく)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます