私にとって最も思い入れのあるモデルガンと言えば、1975年にMGC社から発売された「コルト・ローマンMkーIII」です。
画像のカタログ写真にあるように、MGCローマンには3種類のバリエーション(左から2インチのニュータイプ、2インチの旧タイプ、そして4インチモデル)があります。
ハイパトと並んで’70~’80年代の刑事ドラマで最もポピュラーな存在だったのが、写真中央の2インチ旧タイプ(クラシックとも呼ばれる)なんですね。だから私が強い思い入れを持つのも、この2インチ旧タイプです。
初めて自分の小遣いでモデルガンを買ったのもローマンでした。当時は(今も?)マンガ雑誌の巻末にモデルガンの広告がよく載ってて、中学3年生の時に『太陽にほえろ!』の刑事たちが愛用するMGC製ローマンの写真を見つけて、何が何でも欲しくなっちゃいました。
で、近所のプラモデル屋さんに行って、その広告を見せて取り寄せてもらったんだけど、届いた商品はMGC製のローマンではなく、コクサイ製のローマンでした。店のおっちゃんは(そして当時の私も)モデルガンメーカーによって中身が違う事を知らなかったんですね。
コクサイはニュータイプのローマンしか発売してませんでした。私が欲しかったのは、七曲署で使われてる旧タイプだったのに! だけど、メーカーを指定しなかった自分が悪いと思って、ニュータイプで妥協しちゃったという苦い思い出もあったりするんです。
しかもそのローマンは、ほんの3日ほどで壊れちゃいましたw 初めて購入したモデルガンなもんだから四六時中ガチャガチャいじってたし、やってはいけない「空撃ち」もしまくってましたから。(空撃ちが故障の元になるのはマニア間じゃ常識なんだけど、当時ガキンチョの私には知る由もありません)
だけど、それがコクサイ製ではなくMGC製のローマンだったら、そんな簡単には壊れなかった筈です。後年、自主製作映画の小道具としてMGCローマンを使ってみて、その故障知らずの頑丈さに感嘆させられました。
火薬量を増やして使ったりすると(違法です)壊れるかも知れないけど、正しく使ってる限りは、MGCローマンが故障する事はほとんど有りません。少なくとも私の身の周りでは皆無でした。
MGCローマンがアクションドラマや映画で引っ張りだこの人気銃になったのは、そのルックスが刑事の護身用にピッタリなのもさる事ながら、使用中に故障して撮影の進行を妨げたりしない、この驚異的な頑丈さが大きなポイントだったみたいです。
おまけに不発(撃っても発火しないトラブル)率も低いですから、本当に理想的なステージガンなんですよね。モデルガンっていうのは精密模型で、本来なら鉄製のものをプラスチックと亜鉛合金で再現してますから、壊れ易かったり不発が多かったりするのが、まぁ当たり前と思わなくちゃならないデリケートな代物なんです。
そんなワケでMGCローマンは、ハイパトに代わって日本のアクションドラマを代表する「刑事さんの拳銃」となりました。
『太陽』のみならず『Gメン’75』でも『特捜最前線』でも『西部警察(パート1)』でも、ほとんどの刑事さんがこのMGCローマン2インチ旧タイプを愛用する時代が、かなり長く続いていく事になります。
どの番組が最初にローマンを取り入れたかは定かじゃないけれど、我々の印象に強く残る使い方をした番組と言えば、やっぱり『太陽にほえろ!』だったんじゃないでしょうか?
’76年の秋に放映された第217話『スコッチ刑事登場!』において、新登場の刑事=スコッチ(沖 雅也)の専用拳銃として、ローマン旧タイプが初登場します。(他の刑事達はまだハイパトを使用)
なぜ、スコッチはローマンの2インチを使用拳銃に選んだのか? 『太陽』という番組は、その理由までちゃんと描いてるんですよね!
かつて自分が発砲をためらったスキに先輩刑事が撃たれて殉職しちゃったトラウマを抱えるスコッチは、犯人を人間として捉えるのをやめ、何が何でも「撃たれる前に撃つ」ことを信条とし、0.01秒でも相手より早く拳銃を抜いて撃てるように、銃身の短いローマン2インチを選択したワケです。
そんなスコッチを、射撃の名手であるゴリさん(竜 雷太)がたしなめるシーンがあります。自分たち警察官は、誤って犯人や人質の生命を奪ってしまうリスクを無くす為に、少しでも命中精度の高い(つまり銃身の長い)拳銃を使うべきだと。
だけどスコッチは「そんなヒューマニズムこそが命取りになる」と主張し、前任者のテキサス(勝野 洋)が銃撃戦で1人も敵を殺さずに殉職した事を批判して「テキサス刑事を殺したのは他でもない、あんた達だ」とまで言い放ち、怒りのゴリパンチを食らう羽目になりますw
1つ残念だったのは、銃身の長さを比較する為にハイパトとローマンを並べて捉えたショットがあるんだけど、3.5インチと2インチとじゃイマイチその違いが判りにくいんですよね。後にゴリさんが愛用するコルト・トルーパーなら、ちょうど倍の4インチだから説得力が増したんだけど……
さて、第256話『ロッキー刑事登場!』辺りから、ローマンは七曲署の制式拳銃として定着する事になります。ボス(石原裕次郎)、山さん(露口 茂)、長さん(下川辰平)、殿下(小野寺 昭)、そしてボン(宮内 淳)がローマン2インチ、ロッキー(木之元 亮)が4インチを使ってました。
ゴリさん使用のトルーパーもローマンと同じ「MkーIII」型のフレームで造られたモデルですから、まさに七曲署はローマン・シリーズで統一された図式になります。
第274話『帰ってきたスコッチ刑事』では、拳銃の使い過ぎで山田署に飛ばされたスコッチがゲストで再登場し、ロッキーの拳銃恐怖症を克服してやります。
スコッチがローマン2インチを使用するのはこの回が最後で、次にゲスト出演した第300話『男たちの詩』ではゴリさんと同じトルーパー4インチを、そして第400話『スコッチ・イン・沖縄』で正式復帰して以降はトルーパーの6インチを、更に後期では44マグナムの8・3/8インチをと、使用拳銃の銃身がどんどん長くなって行きますw
44マグナムまで使っちゃうのはリアリティの面で違和感があったけど、スコッチが優しい刑事に戻って行くのと比例して銃身が長くなるのは、登場編におけるゴリさんとの議論に呼応してるみたいで面白かったです。
スコッチだけじゃなく、七曲署の刑事たちは任期が長い分、使用拳銃が変遷して行くのが常なんだけど、私が好きだったボンは任期後半の2年間、ローマン一筋でした。
任期前半はハイパトでしたが使う機会が少なく、後半の2年間は拳銃アクションが格段に増えた事もあって、私にとってローマンは「ボンの拳銃」っていうイメージが強いです。アクティブだけど攻撃的なキャラではないボンには、コンパクトなローマン2インチがよく似合ってました。
ボン+ローマンで特に印象深いエピソードが第309話『危険な時期』で、暴力団に生命を狙われるチンピラをボンが救うという、ジーパン(松田優作)の殉職編に似たシチュエーション。
その回はジーパンの母=菅井きんさんがゲストで、自分の生命を粗末にするなとボンに説教する話ですから、意図的にジーパンが死んだ時の状況が再現されたのでしょう。
いや、ジーパンの時よりも状況は更に厳しくて、ボンとチンピラは狭いビルに閉じ込められ、銃で武装した十数人の敵から逃げて屋上まで追い詰められるんですよね。
いくら登っても逃げ場が無いのは目に見えてるし、拳銃の弾丸も数が限られてる。ローマンには6発しか装弾出来ませんから、1発必中でも6人しか倒せない。敵はその倍以上の人数いるワケです。
こういった絶望的なシチュエーションに置かれる緊張感は、使う銃がリボルバー(回転式)だからこそ生み出せるんですよね。弾倉を開ければ弾丸が何発残ってるか一目瞭然ですから、画としての説得力もあります。
ボンにとって最終回となる第363話『13日金曜日・ボン最期の日』でも、クライマックスの銃撃戦で「敵は3人、弾はあと3発!」っていうボンの緊迫したモノローグが入ってました。
近年のドラマじゃ刑事さん達も大抵、多弾数のオートマチック拳銃を使ってますから、そういった緊張感が表現しづらくなってますよね。たまに銃撃戦が描かれても、やたらめったら撃ちまくるばかりで面白みが無いです。
第344話『射程距離』ではローマン1丁しか持たないロッキーが、射程距離で圧倒的に有利なライフル銃を持った犯人(三浦浩一)に追い詰められるんだけど、リボルバー拳銃の少ない装弾数を逆手にとった戦法で逆転勝利を収めます。
言ってみりゃ「死んだふり」みたいなもんで、もう弾丸が1発も残ってないような芝居をし、敵が油断してこちらの射程距離に入って来た途端に最後の1発をお見舞いするという、実に姑息なヒゲ野郎なのでしたw
殿下とローマンと言えば第402話『島刑事よ、安らかに』で、明らかに自分を殺害する事を目的に襲って来る武装集団に対して、殿下がローマン1丁だけでどう戦うかを描いた、緊迫のハードアクション編でした。
年配の長さんはさすがに、そこまでハードなアクションを見せる機会は無いんだけど、その替わり第322話『誤射』や第411話『長さんが人を撃った』みたいに、1発の銃弾が重大な過失を生んじゃう厳しいエピソードが多かったりします。
山さんには第393話『密偵』というハードアクション編がありますが、それよりも第452話『山さんがボスを撃つ!?』と第453話『俺を撃て!山さん』の前後編が、何と言っても印象深いです。
愛する息子を誘拐した犯人の要求に従って、山さんがボスの心臓を狙ってローマンの引き金に指を掛けるという、七曲署史上でも最大最悪のピンチが描かれました。
そして1982年、番組が10周年を迎えたところで、ボギー刑事(世良公則)と一緒にローマン2インチ・ニュータイプが初登場します。
もっとも、初期のボギーは射撃が苦手という設定で、拳銃は犯人を殴るハンマー替わりに使うようなキャラでしたからw、ローマンを使った格好良いアクションは無かったように思います。
しばらくするとボギーも、世良さんご本人に近いスタイリッシュなキャラに変わって来るんだけど、その頃には使用拳銃もローマンからS&W・M10の3インチへ、更にM29の4インチへと変遷してました。
その後はトシさん(地井武男)がニュータイプのローマン2インチを愛用、ボスもいつの間にやら旧タイプからニュータイプに鞍替えし、番組が終わる’86年頃にはローマン旧タイプはほぼ引退みたいな感じになってました。
ところがどっこい、旧ローマンは生きていた! 『太陽~』と入れ替わるようにスタートした新時代の刑事アクション『あぶない刑事』において、柴田恭兵さん扮するユージの愛用拳銃として、我らがローマン旧タイプ2インチが復活したんですよね。
何となく前時代の遺物みたいな扱いになってた旧ローマンなのに、恭兵さんが持つとやけにスタイリッシュな銃に見えちゃうのが不思議で、面白いです。
その後『はみだし刑事情熱系』でも恭兵さんは旧ローマンを使っておられましたから、お気に入りなのかな?と思いきや、使用拳銃に細かく注文をつける舘ひろしさんとは対照的に、恭兵さんは全くこだわりを持たず、目の前に出された銃を素直に使っておられただけ、なんだそうですw
そうとは思えない位、恭兵さんの軽やかな身のこなしに、旧ローマンは実にマッチしてたように思います。ニューローマンより、やっぱ旧ローマンの方が絶対カッコイイ!
すっかりオートマチック拳銃が主流になった現在でも、MGCローマンは激しいアクションに耐えてくれる切り札として、あるいはカスタム製作のベースとしても、撮影現場じゃ重宝されてるそうです。
丈夫で長持ち。バイクに例えるとスーパーカブみたいな(?)、流行り廃りに影響される事なく生き続けるMGCローマンは、永遠の名機と言っても過言じゃないでしょう。
しかしローマンを使うような作品は緻密なデティールが必要なものは無いと思われる(失礼)ため、頑強なMGCですべて済ましていたんです。
しかしある時ローマンが主役級の扱いを受ける作品があり、どうしてもコクサイのローマンをアップ用にしたかったので、トリガーメカを大改装してカウンターボアードの形状まで修正してなんとか動作するアップ用にして使いました(勿論発砲用はMGC製ですが)。
『太陽にほえろ!』でもボギー刑事(世良公則)が撃つ時ではなく、銃尻で殴る時に使うローマンは(寄りのショットだけでしょうけど)コクサイのが使われてました。意外とマニアックな番組なんですよね。
因みにトリガーメカを改修したコクサイのローマンは、サイドプレートを開けると100円のキャップ火薬銃みたいなセコい手作りメカが入っていて寒気がします。MGCのパイソンより数百倍酷いモノです。
>コクサイはニュータイプのローマンしか発売してませんでした
そうだったんですか!ハリソン様同様、小生もガッカリした記憶が今もはっきり残っています(笑)
知っていたらMGC製のを買ったのに~(T_T)