古希からの田舎暮らし

古希近くなってから都市近郊に小さな家を建てて移り住む。田舎にとけこんでゆく日々の暮らしぶりをお伝えします。

『灰の男』(小杉健治)を読みました。

2015年03月25日 03時17分43秒 | 古希からの田舎暮らし 80歳から
 小杉健治『灰の男』を読了しました。
 知らない作家だし、題名が地味で内容がわからないし、長い作品だし(大型活字本では4分冊)、敬遠していた本ですが、ある日何気なくふっと手がいって、引き込まれて読みました。うしろの「解説」に小説家の山崎洋子さんが書いています。


 たいていの作家は、自分の宿命とも言うべきテーマを持っている。 …… 少なくとも小杉健治さんはそういう作家である。
 小杉さんの「どうしても書いておきたいもの」、それは「東京大空襲」だった。初めて彼からそのことを聞いたのはいつだったろう。 ……  それから何度か、会うたびちらりと話には出たが、どんな内容になるのかまでは聞かなかった。 ……  作品が幼虫からサナギになり、 …… 見事、羽化するには時間がかかる。  ……  夢中になって読みながら、傑作に接した時の陶酔感と共に、同業者として大いに嫉妬を覚えたものである。


 ミステリーのかたちになっていますが、列車の時刻表をめくったり、家元争いをしたり、「コン!」と灰皿で叩いたらコテンと死んだり、ちょっと押したら倒れて角で頭を打って死ぬような、安直な話ではありません。10万人の庶民が焼き殺された、昭和20年3月10日(9日)の <東京大空襲> を、視線をそらさないで凝視しています。作品の人たちが生きて立ち上がり、逃げまどう。その群像を描き切る見事な筆。
 見たい/見たくない/を越えて、もう一度あの「空襲」を見ておこうという気持ちになりました。大空襲では加賀乙彦の『帰らざる夏』が心に刻まれているので、それを読み返します。
 アメリカは「あの大空襲で日本は降伏するだろう」と考えたのに日本は戦争を継続しました。もし降伏しておればどれだけの、庶民が、兵士が、死ななくてよかったか。なぜ降伏できなかったか。その反省はできたか。
 「思い」はそこにしぼられていきます。
コメント
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