くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

香りの湯気の彼方に

2004-11-29 17:14:51 | エッセイ
illy150


 ブログを書いてるみなさんの大多数は、紅茶派ではなくコーヒー派なのだろうな、という気がしております。時代もあるのだろうけど(80年代は確かに紅茶のほうが飲まれていた)、文作という作業には舌と脳を刺激してくれる苦いコーヒーがうってつけです。
 今日は新しいコーヒーを開けました。イリーの黒ラベル~ダークローストです。初めて飲むのだけど、開封したときに「あっこれは期待出来るぞ」と思わせる自信満々の匂いがたち昇りました。かんなをかけたばかりの木材のような、しっとりと湿った豊熟な匂い。そうしていつもよりやや丁寧に淹れて飲んでみると、これが驚き。何とも懐かしい味と香りがするではありませんか。スターバックスやセガフレードといった昨今のカフェとは違う、正統派喫茶店の味と香りです。勿論素晴らしいものです。
 プルーストは紅茶にマドレーヌを浸して頬張った瞬間、幼い頃の膨大な記憶が甦り、それがあの『失われた時を求めて』を書くきっかけとなったと言われております。僕の場合はそんな大げさなものは出てこないのだけれど、しかしこの味と香りは確かに何年も前に味わっていたものと同質です。当時はイリーのコーヒーショップなんてなかった。オータニのぺしゃわーるか、広尾のアンセーニュか、渋谷の羽冨か。どこか都内の喫茶店の味なのだろうけど、判然としない。いや待てよ、甦ってきたのは味とか店というよりも、その当時の記憶のようだ...。
 日経平均が連日下がり続け、どうやらバブルが弾けてしまったらしいと日本中が元気を失っていた頃。金よりも心が大事という至極当然の風潮が生まれ、『101回目のプロポーズ』というドラマが人気を呼んだ。ジャパンカップでは日本馬が全く人気がなく(もうこの国は何もかもダメなんだ、という雰囲気が信じられないほど濃かった)、ところがトウカイテイオーが奇跡の一着を果たした。多くの観客が日本の再生を信じて、勝ち負けに関係なく感動して泣いてたっけなあ。
 ...と、現在とめどなく様々な情景が甦っております。一体どこで飲んだのか知らん。“失われた時”を探しに、久しぶりにあちこち顔を出してみようか、なんて思わせるこのイリーさん。なかなかあなどれない、いいコーヒーのようです。