「この曲が好き」と、ユミは言った。
「波が打ち寄せてくるみたい」
僕たちはシャーデーのLPを聴いていた。そいつは友人の家からかっぱらってきたもので、だいぶ歪んでいた。ターンテーブルの上で回っていると、レコード針が上がったり下がったりした。それに合わせて、シャーデーの音程も上下した。
かっぱらった時から歪んでいたのである。そのためか、友人も「返せ」と文句を言ってこなかった。
「そろそろ、学校に行くかな」
「一緒に行くわ」
「授業終わるまで待っててくれるの?」
「パン教(一般教養)だったら、教室に潜り込んじゃう」
「わははは! あれ、絶対バレないんだよな」
「あとは喫茶店で待ってるね」
こうして僕は、誰も彼もがそうするように、それをきちんとなぞらえるように、キャンパスライフを怠惰なものにしていったのである。
86年頃の話しだ。