夜半、雨が降りだしました。
起きなさいと促されてやっと寝床へ入りました。
原因不明の音がします。大工が金槌でものをたたく音のような。
ベートーベンの第九ではありません。
換気扇の蓋かとしばらく聞いていました。
妻が、ぱっと起きだして換気扇を回しました。違います。
換気扇は、静かな音です。
雨が止み、音がしなくなったようです。樋が長年の落葉で詰まっているのです。
この大工さん、家のあちこちで夜中中仕事をしてくれました。
夢を見ました。
学生時代に、見染められて結婚することになったようです。
大勢の若者が、車座になって酒をまわしています。
子どもを抱えた女が、酒を飲もうとする我が子をやんわりと制止しています。
杯は、なぜかオーブンで使う直方体のガラスの器。
あいかわらず、大工さんは働いています。
夢の続き。私は、顔に顔料を塗られました。どうやら、娘を横恋慕する男と決闘のようです。
車座の中心で始まるのでしょう。男は、中学生の同級生。運動が万能でした。
勝ち目はありません。なんでこんな目に合うんでしょう。
昼間の決まりごとのような、手続きだけが大切な経費申告の説明を思い出しました。
遠くで、大きな船が動き出す音がします。
島で聞いた軽い音ではなくて、横浜の海で聞いた重い音です。
こんな山の中、船が通る訳がありません。風が破れた網戸で舞っているのでしょう。
居抜きで借りた家には、7枚の遺影が飾られています。見られていることにも慣れました。
妻が寝ています。寝顔をしばらく眺めていました。
妻の口からフルートの音、鼻からはなんかこする音、下からは時々トランペットの音。
きれいに見せる意志のない顔です。
それを妻に言うと、あなたの臭いのついた音よりいいわよとの返事。
私は、60歳を過ぎて再婚しました。
この寝顔を見て、誰が反対するというのでしょう。
決闘を控えていた私は一人思いました。
夢を反芻するのをやめて起きだしました。
喉が渇いています。コーヒーは残っているかと妻に聞きました。
やかんに水が残っているとの返事。
コーヒー豆を出して挽こうとしました。
二種類の豆をブレンドします。缶に入った豆をミルに入れました。
次の豆を袋から取り出しました。なんかの拍子に袋をひっくり返してしまいました。
黒い豆が所かまわず散りました。部屋中にコーヒーの香りが充満しました。
ざるを持って来て拾い始めました。
最近そこらへん掃除をしていないのよ。と妻から声がかかります。
熱湯で出せば大丈夫よ。と追い打ち。
ねずみの糞より少し大きいから間違わないと言い聞かせながら夜中に拾いました。
気持ちだけざるを篩って、豆を袋に戻しました。
ありがとうと寝床から妻の声がします。
夜中の大工さんの仕事も終わったようです。
換気扇の音がやけに大きく聞こえます。
雨しずくの音、風の音、風流とも言えるのでしょう。
筍が 床を貫き 愛でるかな
2016年4月14日