『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  223

2014-03-06 08:11:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
『おう、パリヌルス、杯をとれ』
 イリオネスは二つの杯を手にしていた手を差し出した。地面に突き刺して立てる逆三角ツノ形の杯である。イリオネスは、まずパリヌルスの持っている杯に酒を注ぎ、手にしていた酒の壺をパリヌルスに手渡し、手にしていた杯を差し出した。パリヌルスは、イリオネスの杯を酒で満たした。
 『話が中断したな。ところで、この時代トロイには絶大と言える力があった。この時代の北西アナトリア地方は、マルマラ海の沿岸から黒海に臨む沿岸は、エーゲ海交易の中心地であったのだ。トロイが治める領国は広かった。マルマラ海の南一帯、北西アナトリア地方の南半分が領国であった。東西に250キロ、マルマラ海の南岸から南に150キロに至る領域が領国であった。この地方一帯をこの時代<アステイラ>と呼んでいた。お前も知っているようにトロイはダーダネルス海峡をマルマラ海、黒海に通り抜ける、また、この二つの海からエーゲ海に抜ける交易船、通行する船舶に通行料を払わせた。これがひとつの収入源、もう一つトロイを潤したのが、金と銅を算出する鉱山を領国内に6か所、領国外に3か所も持っていたのだ。そういうわけでトロイの領国一帯を人々は『金の国アステイラ』と呼んでいたのだ。トロイの至近にあるカルタルダグの鉱山は金を産出、チャナツカレの東の鉱床からも金がとれる、この他に金の取れる鉱床、鉱山が3か所、銅、鉄がとれる鉱山が4か所もあった。これらの鉱山の数か所を管理監督するのが俺の仕事だったのだ。統領の父上アンキセスは将軍であり、これらの鉱山を管理監督する頭領であった。このとき鉄の製錬、冶金をする鉱山の長老から、取り扱いが厄介な鉄の棒ができたと受け取ったのがあの鉄の棒なのだ。下手をすると束ねられない、ひょっとすると一塊りにくっついてしまう、そんな鉄の棒なのだ。まあ~、そういういわれの鉄の棒であったのだ』
 ここでイリオネスは、一息入れて杯の葡萄酒を口にした。パリヌルスは真剣に話を聞いていた。
 『それからだが、俺が骨休めの日に鉄の棒をもてあそんでいた。その時に鉄の棒の魔性の質に気が付いた。鉄の棒を一本一本手に取って試してみたのだ。どの鉄の棒も決まって南北を指す、それであって、どの鉄の棒も一定して南北を指し示す、南北指し示す方向に狂いがないことに気が付いた。あの時は不思議を感じたな』