『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  516

2015-04-29 07:42:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、寒さをしのぐ歩行を続けて山頂に到達した。頂上には誰もいない、彼ら五人がいるのみである。身を切って去る風は、ビユーッ!である。風に身をさらして頂上に立った。頭上の月、星が光を振り下ろしている、手を伸ばせば星がつかみ取れそうな錯覚を覚えさせる。 
 彼らは周囲を見回した。視界をさえぎる何物もない。風をさえぎる岩もない、足元に目を移す、雪の層が厚く感じられる。身を刺す寒気、考える余裕がない、イリオネスがスダヌスに声をかけようとするが、歯が成鳴る、声が出ない、スダヌスも同様な風情である。
 イリオネスは、スダヌスの肩に手をかけた、声を絞り出した。吹いて過ぎる風が声を吹き飛ばす、イリオネスは両腕を伸ばして、スダヌスに抱きついた。スダヌスの耳に口を寄せた。
 『おい!この寒さなんとする?』
 『おう、寒い!いま、思案の真っ最中だ!』
 スダヌスがクリテスに向けて大声を出す。彼らが登頂に際しての抜け落ちは、頂上における寒さ対策の欠落であった。クリテスはどうしようかと焦っていた。
 『おい!クリテス、その袋の中身はなんだ?!』
 『松明です!』
 『とにかく、松明に火をつけろ!イデオス!クリテスを手伝え!』
 『はい!判りました』
 イデオスは、クリテスに身を寄せる、クリテスは石を打ち火花を散らす、イデオスが硫黄のついた火付け木を火花にかざす、苦心惨憺して松明に火をつけた。
 アヱネアスは、為す術もなさそうに肩を抱いて震えている。他の四人は声を出すことで生気を振り絞っていた。
 松明が燃えだした。
 『クリテス、松明三本をまとめて雪に突き立てろ!』
 風が松明の火をはやす、勢いよく燃え上がらせた。
 『統領、炎に手をかざしてください!少しは温かくなります』
 『おう!』
 アヱネアスは松明の炎に手をかざした。
 『皆も手をあぶれ!』
 人心地つきそうである。
 『次だ!いいか!五人連なって輪になるのだ。連なったら、足を踏みならせ!前にいる者の背中を両の手でこすれ!松明を真ん中にして、足を踏み鳴らして動け!前の者の背中を両手で懸命にこするのだ。声を出してやれ!』
 一同が声を上げて足を踏み鳴らす、
 『ダスコイ!』
 『ダスコイ!』
 彼らは声をあげる、足を踏み鳴らす、前の者の背中をこする、身体を動かす、寒さが遠のいていく、彼らに生気が戻ってくる、考える余裕が出てくる、人心地がついた。
 遠くに目にする天地の境目、空と海を分けている水平線が明るくなってきていた。星が光を消していく、明るくなった水平線が一同の目をくぎづけた。
 『こらっ!よそ見をするな!身体を動かせ!』
 スダヌスが四人を叱咤した。
 
 *お詫びします。昨日の投稿で用字間違いをやりました。深くお詫びいたします。
  一行目  峰筋な単調な  を  峰筋の単調な  に訂正いたします。
                          山田 秀雄