彼らは、寒さをしのぐ歩行を続けて山頂に到達した。頂上には誰もいない、彼ら五人がいるのみである。身を切って去る風は、ビユーッ!である。風に身をさらして頂上に立った。頭上の月、星が光を振り下ろしている、手を伸ばせば星がつかみ取れそうな錯覚を覚えさせる。
彼らは周囲を見回した。視界をさえぎる何物もない。風をさえぎる岩もない、足元に目を移す、雪の層が厚く感じられる。身を刺す寒気、考える余裕がない、イリオネスがスダヌスに声をかけようとするが、歯が成鳴る、声が出ない、スダヌスも同様な風情である。
イリオネスは、スダヌスの肩に手をかけた、声を絞り出した。吹いて過ぎる風が声を吹き飛ばす、イリオネスは両腕を伸ばして、スダヌスに抱きついた。スダヌスの耳に口を寄せた。
『おい!この寒さなんとする?』
『おう、寒い!いま、思案の真っ最中だ!』
スダヌスがクリテスに向けて大声を出す。彼らが登頂に際しての抜け落ちは、頂上における寒さ対策の欠落であった。クリテスはどうしようかと焦っていた。
『おい!クリテス、その袋の中身はなんだ?!』
『松明です!』
『とにかく、松明に火をつけろ!イデオス!クリテスを手伝え!』
『はい!判りました』
イデオスは、クリテスに身を寄せる、クリテスは石を打ち火花を散らす、イデオスが硫黄のついた火付け木を火花にかざす、苦心惨憺して松明に火をつけた。
アヱネアスは、為す術もなさそうに肩を抱いて震えている。他の四人は声を出すことで生気を振り絞っていた。
松明が燃えだした。
『クリテス、松明三本をまとめて雪に突き立てろ!』
風が松明の火をはやす、勢いよく燃え上がらせた。
『統領、炎に手をかざしてください!少しは温かくなります』
『おう!』
アヱネアスは松明の炎に手をかざした。
『皆も手をあぶれ!』
人心地つきそうである。
『次だ!いいか!五人連なって輪になるのだ。連なったら、足を踏みならせ!前にいる者の背中を両の手でこすれ!松明を真ん中にして、足を踏み鳴らして動け!前の者の背中を両手で懸命にこするのだ。声を出してやれ!』
一同が声を上げて足を踏み鳴らす、
『ダスコイ!』
『ダスコイ!』
彼らは声をあげる、足を踏み鳴らす、前の者の背中をこする、身体を動かす、寒さが遠のいていく、彼らに生気が戻ってくる、考える余裕が出てくる、人心地がついた。
遠くに目にする天地の境目、空と海を分けている水平線が明るくなってきていた。星が光を消していく、明るくなった水平線が一同の目をくぎづけた。
『こらっ!よそ見をするな!身体を動かせ!』
スダヌスが四人を叱咤した。
*お詫びします。昨日の投稿で用字間違いをやりました。深くお詫びいたします。
一行目 峰筋な単調な を 峰筋の単調な に訂正いたします。
山田 秀雄
彼らは周囲を見回した。視界をさえぎる何物もない。風をさえぎる岩もない、足元に目を移す、雪の層が厚く感じられる。身を刺す寒気、考える余裕がない、イリオネスがスダヌスに声をかけようとするが、歯が成鳴る、声が出ない、スダヌスも同様な風情である。
イリオネスは、スダヌスの肩に手をかけた、声を絞り出した。吹いて過ぎる風が声を吹き飛ばす、イリオネスは両腕を伸ばして、スダヌスに抱きついた。スダヌスの耳に口を寄せた。
『おい!この寒さなんとする?』
『おう、寒い!いま、思案の真っ最中だ!』
スダヌスがクリテスに向けて大声を出す。彼らが登頂に際しての抜け落ちは、頂上における寒さ対策の欠落であった。クリテスはどうしようかと焦っていた。
『おい!クリテス、その袋の中身はなんだ?!』
『松明です!』
『とにかく、松明に火をつけろ!イデオス!クリテスを手伝え!』
『はい!判りました』
イデオスは、クリテスに身を寄せる、クリテスは石を打ち火花を散らす、イデオスが硫黄のついた火付け木を火花にかざす、苦心惨憺して松明に火をつけた。
アヱネアスは、為す術もなさそうに肩を抱いて震えている。他の四人は声を出すことで生気を振り絞っていた。
松明が燃えだした。
『クリテス、松明三本をまとめて雪に突き立てろ!』
風が松明の火をはやす、勢いよく燃え上がらせた。
『統領、炎に手をかざしてください!少しは温かくなります』
『おう!』
アヱネアスは松明の炎に手をかざした。
『皆も手をあぶれ!』
人心地つきそうである。
『次だ!いいか!五人連なって輪になるのだ。連なったら、足を踏みならせ!前にいる者の背中を両の手でこすれ!松明を真ん中にして、足を踏み鳴らして動け!前の者の背中を両手で懸命にこするのだ。声を出してやれ!』
一同が声を上げて足を踏み鳴らす、
『ダスコイ!』
『ダスコイ!』
彼らは声をあげる、足を踏み鳴らす、前の者の背中をこする、身体を動かす、寒さが遠のいていく、彼らに生気が戻ってくる、考える余裕が出てくる、人心地がついた。
遠くに目にする天地の境目、空と海を分けている水平線が明るくなってきていた。星が光を消していく、明るくなった水平線が一同の目をくぎづけた。
『こらっ!よそ見をするな!身体を動かせ!』
スダヌスが四人を叱咤した。
*お詫びします。昨日の投稿で用字間違いをやりました。深くお詫びいたします。
一行目 峰筋な単調な を 峰筋の単調な に訂正いたします。
山田 秀雄