『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 988

　イリオネスが立ちあがる、一同と目を合わせる、口を開いた。
　『今日は、スダヌス浜頭を迎えて新艇納入に関して話し合いをした。話は落ち着くところに落ち着いた。ただいまより、この場で一同で夕食会を行う。スダヌス浜頭から、新艇商談の成立と完売の祝いとして、美酒とうまい酒肴を頂戴している。一同で酌み交わそう！スダヌス浜頭、ごちそうになります』
　イリオネスが述べる、アエネアスをはじめパリヌルスらがスダヌスに顔を向ける、礼の言葉を唱和した。
　スダヌスが目を潤ませる、彼らの言葉を受け取った。
　場が整うまでに少々の間がある、オキテスとスダヌスがレテムノン行きの洋上における合流地点について打ち合わせた。スダヌスが木板を所望して、地図を描き合流地点を描きこみオキテスに『念のため』と言葉を添えて手渡した。
　夕食会の場が整う、一同が席に着く、夕食会が始まる、アエネアスが『乾杯！』を告げた。
　『うっ、うまい！』
　感動の一言を吐いて、串ざしの焼けた肉に塩を振り、口に運ぶ、うまさが口中に広がる、胃に落とし込む、酒を口に含む、舌つづみを打ってうまさを堪能した。
　６人で場を囲む夕食会である、手を伸ばせば相手の杯に酒が注げる、気心の知れた一同である、和気ほころびての酒宴が進む、注ぎつ注がれつの杯を口に運んだ。
　肉も魚もうまい彼らは美酒に酔い、宵の長い夏の夕時を過ごした。

　建造の場に戦闘艇の実験試作艇の完成の日が訪れた。オキテスとドックスが試作艇に見とれている、感嘆の表情である。
　『おう、出来あがったな。ドックス、ご苦労であった。どうだ海に出してみるか。海に浮かべて、全体像とバランスを見てみたい』
　『いいでしょう、やりましょう！』
　ドックスが作業に携わった一同に声をかける。
　『おう、一同！出来あがった試作艇を海に出す。力を貸してくれ』
　『おうっ！』
　一同が声をあげて試作艇に取りつく、海に向けて押し出す、試作艇が水を求めている、海に向けて浜の砂上を滑り出す、海上に艇体が浮かんだ。
　一同が歓声をあげる。作業を見ていた者たちも歓声をあげた。
　オキテスもドックスも海に身を浸して、海に浮かぶ試作艇を見あげる、互いに声を掛け合ってバランスのチエックに余念がない。
　『オキテス隊長、不具合が見当たらないようです。櫂座が新艇より２座分多いので、艇長が長いのです。艇に人が乗ってみなければわからないバランスもあります』
　『そうだな、一同に声をかけて、櫂座にかけさせてみろ！』
　ドックスが一同に指示を出す、艇上の櫂座に就く、櫂舵の座にも２人が就く。
　オキテスとドックスが浜にあがり海上に浮かぶ試作艇の全体像を眺めた。