『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  147

2010-02-12 07:53:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『実行事項の役務を担当する者を決めた。一同は担当の要請があった場合は、これをよく補佐してほしい。では、担当と役務について、イリオネスから説明する。イリオネス、説明を頼む。』
 『では、私から責任担当者とその役務について述べる。葬儀担当は、私とアカテス、そして、一同がこれに当たる。土地選定担当は、私とパリヌルス、そして、浜頭のトリタスに相談役となってもらう。これは大切な案件ゆえに委員会を設けてこの件に当たる。砦建設の担当はパリヌルスとアレテス、そして、私が担当する。宿舎建設の担当は、アレテスとオロンテス。警備担当は、アレテス、ギアス、カピュス、リナウス。交易担当は、パリヌルス、オキテス、オロンテス。海賊対策担当は、パリヌルス、オキテス、相談役にトリタス、サレトの両浜頭。担当と役務は、述べたとおりである。各々方よろしく頼みます。言い忘れた、食糧担当は、従来通り私とオロンテスが担当する。葬儀については、儀式が終わり次第、完了事項とする。以上だ。質問があれば聞いてほしい。あ~あ、もうひとつ、大事な案件が抜けていた。耕作担当は、オロンテスが中心になってこれを進める。』
 『団長!質問があります。担当責任者の誰かがここにいると言う場所を決めておいていただければ都合がいいと思うのですが。どうですか。』

第2章  トラキアへ  146

2010-02-11 07:47:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスが気づいて二人を中へ招じ入れた。
 『遅れまして申し訳ありません。それにしても、この浜小屋、急ごしらえにしては良くできていますね。全く感心して目にしました。』 二人は、浜小屋の完成を褒め上げた。
 『ご両人、こちらへ。』 アレテスが座をすすめた。
 『では、打ち合わせを始める。統領から、話を願います。』 イリオネスが開会を告げた。
 『では、私から一同に、私の腹案を話す。この腹案は、全体集会の前にイリオネス、パリヌルスと相談したことでもある。その前に、先ず、私が肝に銘じていることについて話しておきたい。我々にとって、大切な存在である兵たちを含めた全市民に対する姿勢である。それは、礼を持って示す人格であり、彼らに対する愛である。愛をどのようにして示すか。これは、彼らの期待に応えることであり、その期待を裏切らないことでもあると考えている。形に出来るものは形にして示すことである。彼らを愛することは、自分たちの国を限りなく愛することにつながっていく。彼らの期待に応えることのできる、彼らが頼れる、彼らが頼りたい存在にならなければならない。そのようになれば、互いに愛と尊敬と期待の立国できていくと信じている。私は、この信念に基づいて考え、諸事に当たっていくことを、一同に誓い、実行していく。宜しく頼む。』
 アエネアスの言葉には力があった。この力こそ、不可能を可能にするエネルギーであり、希望は、このエネルギーを燃焼させる炎であり、道しるべであった。
 『続いて、全体集会で述べた諸事実現の腹案について説明する。』
 アエネアスは、一同を見廻し、目線を合わせた。

第2章  トラキアへ  145

2010-02-10 09:16:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 集会後の市民たちや軍団の兵たちの目は、きらきらと輝いていた。頼れる人の言葉は、心の糧であった。統領としてのアエネアスは、彼らの期待に応えてくれる頼れる存在の人として、彼に絶大の信頼を寄せていた。
 太陽の位置は、昼下がりの位置にある。午後の打ち合わせに出席する面々が新しく建った浜小屋に集まってきた。彼らは、建っている浜小屋を見て何事か話し合っている。声には張りがあり、表情には明るさが漂っていた。
 『皆、小屋の中に入ってくれ。』
 ギアスの太くて大きな声が呼びかけた。浜小屋の中では、アエネアスは、太い木の幹を輪切りにして腰掛けている。一同は、彼を真ん中に車座に座り打ち合わせの場とした。腰掛のせいもあり、アエネアスの目は出席者一同の目よりもやや高みにあった。
 『統領、その腰掛は、いいですね。』
 『うん、いいだろう。いずれ皆の分もそろえようと思っている。』
 会話が弾む雰囲気がそこにあった。
 窓は、しん張り棒で支えられて開いている。浜風が通り抜けていく。その心地よさに、一同は心の力みがとれる思いがした。アエネアスは場の感想を口にした。
 『お~お、これはいい雰囲気だ。声も皆に届きやすい、考えにも集中できる、相談事もしやすく感じる。そろそろ始めようか。トリタスがまだ来ていないようだな。』 と話しているとき、トリタスとサレトの二人が戸口に立っていた。

第2章  トラキアへ  144  

2010-02-09 07:54:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トカデス、ルカデスの二人が、入り口の戸を開いて、一行を浜小屋の中に招じ入れた。しん張り棒方式の窓を開ける、光が小屋の中に射し込んでくる。浜小屋の広さは、ざあ~っとみて、たたみ30畳を超える広さがあった。
 『いかがです、統領。』 とオロンテスが言う。
 『う~ん、これは、なかなかいい。イリオネスどうだ。』
 『え~え、にわか造りにしては、なかなか良くできている。トカデス、ひとつ聞く、いいか。雨露には、これで充分と思うが、この浜に吹く風に耐えられるかな。』
 イリオネスの質問であった。
 『はい、建てている間に、とても風の強い日がありました。その風で考えて、如何なる風が吹いても耐えれる強度に仕上げてあります。』
 『そうか、判った。』
 質問のやり取りを聞いていた周囲の者たちは納得したようであった。
 アエネアスは、二人の労をねぎらい、イリオネスに声をかけた。
 『いいだろう。トカデス、ルカデス、ご苦労であった。ありがとう。早速、今日、昼から使わせてもらうぞ。イリオネス、午後の打ち合わせ会はここでやる。いいな。』
 『判りました。トカデス、ルカデス、両人ご苦労であった。』
 アエネアスは、ふと胸に浮かんだ思いをオロンテスに告げた。
 『オロンテス、この林の向こう側に、この浜小屋の3分の2くらいの広さの小屋を3棟ほど建てたらどうかと考えている。決まったら打ち合わせる、そのときはよろしく頼む。』
 『判りました。』
 話のやり取りのあと、一行は引きあげた。

第2章  トラキアへ  143

2010-02-08 07:51:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 全体集会を終えたアエネアスを待っていたのは、イリオネスとオロンテス、市民の中から浜小屋の建設に選ばれた若い二人の工人であった。
 『統領。手掛けていた三棟の浜小屋が完成しました。この二人が建て方の采配をした トカデスとルカデスです。浜小屋を見に行きましょう。』
 『おう、浜小屋が仕上がったと、それはありがたい。イリオネス、早速、見に行こう。』
 足を運ぶ先に完成した浜小屋が見えてきた。三棟の浜小屋は、林を背に、建物の長い側面を波打ち際の線に平行して並んで建てられていた。浜小屋から波打ち際までは、100メートルは離れている。この長大なエノスの浜の三棟の浜小屋は、ただの点に過ぎなかった。
 彼らは、浜小屋に近づいていく、目に入る浜小屋が歩速にあわせて加速度的に大きくなっていく、浜小屋が視野を遮る前に立った。それは想像にあまる大きさで眼前に建っていた。
 この時代の浜小屋である。現代の建築物に比べて、思考をめぐらせても想像することのできない粗末なものであったことは言うまでもない。しかし、彼らは、この時代すでに、この時代の世界水準以上の造船の技術を有していたこと考えて出来上がっている浜小屋がどのようなものであったか想像していただければ幸いである。

第2章  トラキアへ  142

2010-02-05 08:36:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『統領、皆が集まりました。いきましょう。』
 ここでもアエネアスは歓声で迎えられた。その場には、彼が立つ壇も準備されている、彼は壇上に立った。再び沸きあがる大歓声に手を振って答えた。アエネアスは、今、自分が皆に支持されていることを実感した。彼は両手を上げて歓声を抑えた。
 『諸君っ!このたびはありがとう。皆の力の結集があったればこそ、ポリメストルとの戦いに勝利することが出来た。皆には大変な苦労をかけた。耐えることの出来ない犠牲も強いた。なればこそ、なればこそ、我々を亡き者にしようとする戦いを制することが出来た。私の心は、皆に対する感謝の気持ちでいっぱいである。重ねて、この壇上から皆に感謝の礼を言います。ついては、明後日、この戦いで命を失った戦死者諸君の葬儀を執り行う。また、家族であった方たちのための葬儀でもある。先の上陸戦の戦死者、そして、ポリュドロスの葬儀もあわせて執り行う。次に大切なことであるが、今年の収穫をこの地で行う。耕作地については鋭意検討中である。少々おそいと思われるが、今なら種をまいて、今年の収穫に間に合うと思っている。それと同時に簡易な砦の建設もしたい。それとともに雨露をしのぐ、皆の宿舎も建てたい。今言ったこと、これらのことに直ちに着手する。皆でこれらのことを実現しよう。必ずうまくいく、私はそのように思っている。皆でやろう。我々は出来る!必ず出来る!』
 アエネアスは、言い終わった。歓声が沸きあがった。興奮のるつぼと化した歓声である。彼は、手を振って壇からおりた。

第2章  トラキアへ  141

2010-02-04 07:29:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~、よしっ。皆揃っているな。では、集会で話す要点について、私の考えを述べる。そのあと、諸君らの思いを聞かせてくれ。』
 アエネアスは、皆を見廻して話を続けた。
 『前置きはなしだ。即刻、要件について述べる。一番目は、上陸戦及びこのたびの戦いの戦死者たちの葬儀を執り行う。それとともにポリュドロスの葬儀をもあわせて行う。急いで着手したいのは、土地を耕し、種をまき、秋の収穫を期する。これが二番目だ。つぎに、耕作地の選定は、砦建設の件もあるゆえに、日をおかずに決定する事が三番目だ。最後になったが、我々皆が雨露をしのぐことの出来る宿舎の建設を行いたい。だいたい、今、述べた四つのことについて、皆の意見、考えはどうだろうか。イリオネス、皆の意向を聞いてくれないか。以上だ。』
 イリオネスは、即、一同の考えを質した。
 『統領。異論はないようです。では、急いで皆を集会の場に集めます。』
 打ち合わせを終えた一同は、各自の持ち場に散った。イリオネスとパリヌルスは、その場に残り、アエネアスと細部にまで踏み込んで要点をまとめた。

第2章  トラキアへ  140

2010-02-03 07:12:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 久しぶりに家族と従者たちと囲んだ朝食は落ち着いた雰囲気であった。アエネアスたちが朝食を終えたところへイリオネスが、パリヌルス他隊長連を引き連れてやって来た。
 『統領。おはようございます。いい天気が続きます。今日の予定は、どのように計らいましょうか。』
 『おはよう。皆、目覚めはどうだった。よく眠れたか。私の考えでは、軍団の者たち、そして、市民たち皆に、このたびの戦いのことについての礼を述べ、戦死者たちの弔いの件について話したいことが、ひとつ、次に、今後のことについてだが、砦の建設と今年の収穫について、そして、雨露をしのぐ宿舎の建設のことを話したい。全ての仕事を同時進行させなければならない。だが、戦死者たちの弔いを最優先したい考えを述べておきたい。いいかな。皆に話す前に、ここにいる皆と打ち合わせておきたい。』
 『判りました。』
 『そのあと、昼が過ぎた頃、ここにいる皆とオロンテスも呼んで、各自が受け持つ担当の役務について話し合い、その上で事に着手していきたいと思っている。その段取りで事を運ぼうと考えている。いいかな。』
 『判りました。即刻、皆が広場に集まるようにします。準備でき次第、統領、貴方を呼びに来ます。』
 言い終わって、皆は、アエネアスを中心に車座となって座った。
 そこは、涼しい風の通り抜ける浜に近い林の一隅であった。

第2章  トラキアへ  139

2010-02-02 08:42:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、頭から足の先まで丹念に洗い、身体の目覚めを実感していた。それが終わると腕を眺め、足のすねを眺める、彼らは就寝中の蚊による刺されあとをしげしげとながめ、それを話題にして、朝の挨拶と会話を交わしている風景がそこにあった。
 アエネアスもユールスを抱いて身体を海中に沈めている、冷ややかな水の感じがたまらなく心地よかった。ユールスは、腕についている蚊のさされあとに手をやり掻いている。
 『ユールス、そこがかゆいのか。』 『うん、かゆい。』 
 彼は、ユールスの掻いているところを優しく掻いてやった。
 『ユールス、お前、ずいぶん、蚊にやられたな。かゆいか、それにしても、あっちこっちに掻きあとがありすぎるな。蚊はお前の血がうまいのかな。』 と話しかけながら、自分の蚊の刺されあとに目をやった。
 『統領、おはようございます。』
 丁寧に朝のあいさつがけをしてくれる者もいた。

第2章  トラキアへ  138

2010-02-01 08:33:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、配備している警備の兵たちの箇所を一巡して、何事も起きていないことを確かめた上で自分の寝所に向かった。
 宴から帰ってきたアエネアスは、ユールスを傍らに寝についた。上陸以来、大変な日々の連続であった。ポリメストルとの戦いを終えた決着の安堵感と宴の酒による酔いも加わり眠りに入るのは早かった。彼は熟睡した、蚊よけのいぶし煙も気にせず、心地よく眠った。
 一番鳥が声をあげる、瞬く星が姿を消していく、ひとつ、またひとつ。東の空から明るくなってくる。大日輪が昇ってくる、地上のものたちの目覚めのときでもあった。
 アエネアスも目覚めた、ユールスを起こす、彼はユールス抱いて浜へ向かった。あちこちから浜へ向かう人の流れがあった。
 『おはよう。』『おはよう。』 の挨拶言葉が交わされている。
 皆、足を止めることなく海に入っていく、身を浸していくというより、沈めるといった風景であった。