『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  947

2017-01-18 10:13:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『建造に携わっているドックスの見解から聞こう。ドックス、お前から意見を言ってくれ』
 『えっ!私からですか。解りました』
 ドックスは二人と目を合わせる、姿勢を改める、口を開いた。
 『私がものを造る、その構想を練りあげるときに大切にしていることは、心といいますか、その心情は、次のような気持ちです。ものは何でも、その性能が大事であると考えながらも、そのカタチが美しくなければならないといったスタンスで考えています。この件についてオキテス隊長とも話し合いました。真ん中に描かれている断面がいいと考えています。この断面によって造りだされている衝角のカタチがいいと想います。この3つの中で一番カタチよく、衝角としての機能発揮の鋭さがあります。また、そのカタチが工作上においても作りやすい形状でもあります。直線的な形状がとてもいい感じです。真ん中の断面の採用を押します』
 『おう、ドックス、よう言ってくれた。オキテスはどのように考えている?』
 『俺の考えか、俺もだな、ドックスの押しに賛成だ!パリヌルス、構想した当人の考えはどうなのだ?』
 『俺か、俺は何も考えず、思いつくまま図にしたまでだ。二人がそのように言うのであればそれでいい。但しだ、ドックスの図面による造作金具の問題がある。ドックス、この部分の削り出しだが、この図面に描いた角度こだわらなくてもいい、工作するうえで、この削り出しは、お前に一任する。日程表によると、明日から建造に取り掛かるのだな、よろしく頼む。俺は一日に、二、三度はオキテス隊長のところへ来る、用件があれば、その旨伝えておいてくれ。対応は適時に行う。オキテス隊長、よろしく頼む』
 『解った。すべて任せろ』
 ここは阿吽の呼吸である、三人は固く手を握り合った。
 戦闘艇の建造が始まる、構想に関する打ち合わせが終わった。
 ドックスが建造の場に向かう、残った二人はうなずきあって手を握り合った。パリヌルスは、打ち合わせの場をあとにした。
 陽は、まだ高みにある。樹木の少ない建造の場を風が吹きなけていく。

 建造の場の広場では、体技競技大会の開催の責任担当の二人、委員長のリナウス、副長のマッチスが多数の木板を目の前に積み重ねて、体技種目ごとの施行要領の図面を描いている。
 『おう、マッチス、体技種目ごとの施行要領図は、各々3枚くらいづつでいい。競技大会の施行次第については、15枚くらい作ろう。それで事足りると考えている』
 『解りました』
 二人は懸命に木板つくり作業を続けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  946

2017-01-17 08:10:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスの描いた柱材の柱体構造の断面図案3つと舳先部の衝角の形態が木板に描かれている。オキテスとドックスはしげしげと見つめた。
 『真ん中の断面図による衝角がカッコイイな、そして鋭さが強調されている!これなら一発で相手の船体を破壊できるというものだ、申し分がない!柱体の断面図から考えると、これがイチ押しというところかな。実験試作艇の造作だ、その効果のほどを評価して、改良ということにしてどうだ。ドックス、この形状で建造上の問題点は何か考えられるか?』
 『いえ、この形状でしたら問題が想起されません。ここに描かれている3つの断面のうちの真ん中の断面図を基本として建造するのですね』
 『午後一番の話し合いで決定しよう』
 『解りました。鋭意検討と行きます』
 場を去ったパリヌルスが戻ってくる。
 『おう、パリヌルス、何か用でも思い出したか?』
 『いや、なあ~、オキテス、昼めしだが、ここで一緒ということでどうだ?お前に気を使わせるけどな。今の俺は、こちらの仕事のことを『いの一番』にと考えている』
 『分かった!一緒しよう!気は使わんぞ、いいな!心得た、ドックスも同席する』
 『その頃合いになったら、ここへ来る。決まりだ』
 パリヌルスは建造の場をあとにした。
 『おう、ドックス、パリヌルスの木板を見せろ。パリヌルスもいろいろ考えるな、感心する。彼奴がいればこそのこの船の引き合いだ。難しい工作もあるだろうが、出来るだけ引き受けてくれ。俺の頼みだ』
 『解りました。いい船を建造するように、力いっぱい励みます。明日から、本格的に作業に取り掛かる段取りにしています。今、その準備に取り掛かっております。私はそちらへ行きます』
 『おう!昼めしはここでだぞ』。
 時が進んで昼となる、パリヌルスが建造の場に姿を見せた。
 『おう、パリヌルス、待っていたぞ』
 『おう、ありがとう!これをつまもう、アレテスが焼いてくれたのだ』
 『おう、うまそうではないか。こいつはいけるぜ!ドックスも来た、始めようぜ』
 『お待たせしました』
 三人の昼めしが始まった。
 彼らの習慣として、めしを食べるとすれば、めしを食べることに真剣になる、わき目もふらずに、ただただひたすらに食べることに集中する。
 パリヌルスが持ってきた焼き魚を手でつまみ、塩を振る、口に運ぶ、パンをほおばる、ぶどう酒で胃に流し込む。
 『おう、うまかったな。ドックス、味わって食べたか?』
 『はい、私は何を食べてもうまい!馳走になりました』
 三人の昼めしが終わる。
 『おう、パリヌルス、始めようか』
 『おう、オキテス、誰から意見を聞こうか?』
 オキテスは、ドックスと目を合わせる、次いで、パリヌルスと目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  945

2017-01-14 10:00:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 陽が昇る、日が変わる、パリヌルスは、朝イチに建造の場のオキテスのところに姿を見せた。ドックスが一足先にオキテスのところへ来て、打ち合わせに余念がない。
 『おう、オキテスにドックス!おはよう!君ら早いじゃないか。昨日は大変にご苦労であった。万事、当方の思うように事が運び何よりであった。重畳!』
 『おう、艇の底板の部材も積んで帰ったし、新しく採用する造作金具類についても決めて調達を終えた。うまく事が運んだ。安心の二文字だ』
 ドックスが朝の挨拶に加えて言葉をかけてくる。
 『おはようございます。パリヌルス隊長、昨日は、キドニアにおいて、オキテス隊長、オロンテス隊長に世話をかけました。そのかいあって万事うまく事が運びました。新艇の造作金具類を戦闘艇の建造に使用することが妥当ではないと判断し、新しい造作金具類を調達した次第です。戦闘艇の建造に使用する部材に対しての最適性を思考して造作金具類を決めました』
 ドックスは、造作金具類の決定に関する思考の経緯を述べて、書きあげ作成した2枚の木板をパリヌルスに手渡した。
 木板の1枚には建造の工程と日程を書き記し、もう1枚の木板には、新しく採用する造作金具類を使用しての構造工作図が描かれていた。
 ドックスが話を継いでいく。
 『建造の工程および日程は木板に書いてあります。もう1枚の木板は構造工作図であり、柱材の連結と柱材を艇体の根幹にして戦闘艇を建造するについて、底板との連関構造について描きました。目を通してください。もし、改変事項等がありましたら、指摘してください』
 『おう、解った。ようやってくれた』
 ドックスが描き、書いてくれた木板をパリヌルスとオキテスが注視する。二人の目のウロコがはがれて落ちる、感動せずにはいられない二枚の木板であった。
 『おう、これは解りやすいわ。ドックス、大変だったろう』
 『お二人の仕事ぶりに接していて、俺もという気持ちです』
 『パリヌルス、ドックスの考えをどのように考える?』
 『申し分がない!これなら、艇の根幹をなす柱材と艇の一体性が実現する。ようここまで構想してくれた。ドックス、礼を言う』
 パリヌルスが姿勢を改める。
 『これは、昨日、描きあげた柱材の全体像である。根幹柱体の全体像であり、柱体の断面図と艇首の突端の衝角形状だ。オキテスもドックスも見て考えてくれ。衝角については、実験試作艇では、柱体の削りだしにとどめ、特別構造を講ぜずに造りあげる。オキテスにドックス、検討を頼む。今日の午後に話し合いをしよう』
 『了解!承知した』
 『午後には、ここへ来る』
 『おう、解った!』
 パリヌルスは、建造の場をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  944

2017-01-13 08:44:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、ヘルメスの荷積み状況を船だまりの岸壁に立って見つめている、その傍らにはドックスが立って見守っている。
 ギアスは、手慣れた要領で荷積み作業の指示をしている、彼はヘルメスを知り尽くしているといった風情で作業をこなしていく、運ばれてきた部材の荷積みが終わった。
 オキテスが荷車を引いてきたガリダ方の一行をねぎらう、準備していたパンを一行に手渡した。
 『おう、諸君らには世話をかけたな、ご苦労であった、礼を言う。腹も減ったであろう!これを口にして、腹に収めてくれ』
 オキテスがタブタに声をかける。
 『タブタ、ご苦労であった。心から礼を言う。あとのこと頼むぞ!ガリダ頭領にはよろしく伝えてくれ』
 『解りました。これはいただきます。ありがとうございました。連絡は言われたようにパン売り場のオロンテス殿に伝えて事を運びます』
 『よろしく頼む』
 ガリダ方の者たちが帰路に就く、オキテスらも船だまりでの作業を終えて帰途に就いた。
 オキテスは、帰途のヘルメス艇上でドックスから造作金具類の取引の事の次第を聞き取った。
 『そうか、うまくいったな、それで安堵した。後はよろしく頼むぞ!パリヌルスには俺から事の次第を伝える。これらの仕事の一切は、俺とお前の責任の領域だ。うまく言って当たり前なのだ』
 『解りました』
 『ガリダ方の作業の進捗を念を入れて見てきた。事は順調に進んでいる。戦闘艇の建造用材は期日通りに納入されることは間違いない。そして、派遣の五人については、再度、派遣されてくる。段取りはそれで組みあげて対処してくれ』
 『ありがとうございます。そこまでやっていただけたのですか』
 重量限度オーバーの荷を積んだヘルメスは、逆風の中を不安を抱えながらも順調に航走して浜に帰り着いた。建造の場で荷卸しを終えて、ギアスは安どの息をついた。
 オキテスはギアスをねぎらう、ドックスは無事の帰着をギアスの肩を抱いて感謝の念を伝えた。
 ドックスは帰着するや建造工程表の作成に取り掛かった。書きあげた建造工程表に基ずいて日程を組みあげ、戦闘艇要部の工作図も新しく採用する造作金具類を用いた図を書きあげた。明日午前中に行うパリヌルスとの話し合いに間に合うように整えた。
 浜に帰ってきたオキテスは、パリヌルスと顔を合わせた。
 『おう、パリヌルス!』
 『おう、オキテス!』
 『キドニアでの用件、全てうまく決着した。底板に使用する部材も積んだ来た。作業の進行は、お前と俺の腹案通りだ。戦闘艇の建造は予定通りに進行する。間違いなくだ』
 二人は目を合わせてうなずき合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  943

2017-01-12 09:22:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスは荷としてまとめられた造作金具類をチエックする、荷が小車に積まれる、クギテスがドックスに丁重に礼を述べる、ドックスがそれに応えて、小車を引くクギテスと連れだって船溜まりへと向かった。
 船だまりにいるギアスが二人を迎える、ドックスがギアスに声をかける。
 『おう、ギアス、荷をヘルメスに積んでくれ』
 『了解!』
 ギアスが漕ぎ方の者に荷積みの指示をする、ドックスがクギテスに声をかける。
 『クギテス殿、今日はいろいろと当方の相談にのっていただきありがとうございました。これからのち造作金具類を入用とするときには声をかけます。その折にはよろしく対応していただきたい。よろしく願います』
 『解りました。今後ともよろしく願います。本日はありがとうございました』
 二人は固く手を握り合う、目を合わせうなずき合った。
 パン売り場の業務も終わる頃合いである、ギアスらがなじみのある声を耳にする、オロンテスが姿を見せる。船溜まりにいる一同がオロンテスを迎えた。
 『隊長、ご苦労様です』
 ギアスが声をかける、オロンテスが船だまりの光景を見回す。
 『おう、ギアス、オキテス隊長はまだか?』
 『はい、まだ、姿が見えません』
 『彼の方も荷があるはずだ。配慮をしておけよ』と言いながら、オロンテスが近くに立っているクギテスの方へ身体を向ける。
 『おう、クギテス殿、今日は世話をかけました。商談の一切が終わりましたかな?』
 『はい、ドックス殿との商談を終え、荷の一切を渡しました。今後ともよろしくお願いいたします』
 『クギテス殿、本日の取引については私が責任をもって対処いたします。よろしく願います』
 『その件については、トミタス殿からも話を伺っています。今後の交誼をよろしく願います』
 『解りました。これからも取引が活発になるよう、心がけていきましょう』
 『今日は、ありがとうございました。では、これにて失礼します』と言って、クギテスは、ドックス、オロンテスとあいさつを交わし、船だまりを去っていく。
 それと入れ替わるようにオキテスが荷を積んだ車の一行を率いて船だまりに姿を見せた。オキテスが声をかけてくる。
 『おう、一同ご苦労!オロンテス、ちょっと遅くなったかな。ギアス、荷積みをよろしく頼む』
 彼が言い終えて、ドックスのほうに身体を向けて声をかける。
 『おう、ドックス、造作金具の方、うまくいったか?』
 『はい、うまくいきました。万全です。オロンテス隊長の配慮で手配した造作金具類の一切を受け取り、荷積みも終えています』
 『おう、そうか。それは重畳、いうことなしだな。底板の部材もこれこの通りだ。ヘルメスに積んで帰る』
 オキテスはドックスと目を合わせてうなずき合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  942

2017-01-10 09:02:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『クギテス殿、今度、私どもが建造する船に使う部材の重量を考えると、この造作金具でそれらの条件に対応できるか否かについて考えています。造作金具の構造が、丸棒状がいいのか、板状がいいのか、それも考えなければならない点なのです。それらについてよく考えてみます。この金具で板状でできたものがあれば見せていただきたい』
 『解りました。準備いたします』
 クギテスが座をはずす、このやり取りの光景を見ていたスダヌスは、ドックスと目を合わせ、うなずき合って、自分の売り場に戻っていく。
 ドックスは、手にした造作金具を念入りにチエックをする、うなずくところもあれば首をかしげて思案するところもある、彼は慎重に吟味作業を進めた。
 クギテスがドックスが要望した金具をもって戻ってくる、ドックスが眺める、チエックする、思案する、思案に及んだ金具の要点をクギテスに伝える、クギテスが倉庫に歩を運ぶ、ドックスはクギテスが持ち来た中央部分が板状に作られた造作金具を手に取って丹念に見る。
 この類の造作金具として満足のいく条件を備えた金具である。金具サイズはやや大きめである、強度については充分であると考えられる、彼は決定した。
 他の金具についても二人は意見を交わし、造作金具をドックスが考えたリスト通りに数量を打ち合わせた。
 指示した注文通りに品がそろう。
 『お~お、クギテス殿、品がそろいましたな。明細と勘定書きを作ってください』
 『承知しました』
 クギテスが木板に明細を書き、勘定書きを作成してドックスに渡した。
 『クギテス殿、こちらの数字が木札の枚数ですかな?』
 『はい、そうです』
 『持って帰れるように荷を作ってもらいたいのだがーーー』
 『解りました』
 『そこで支払いの件だが、私は、当方がやっているパン売り場まで行ってきます』
 『はい、解りました』
 ドックスは、明細と勘定書きが書かれた木板をもってパン売り場に向かう、ドックスはオロンテスに造作金具の商談が終わったことを報告し、引き取って持って帰ることを告げた。
 『おう、ドックス、事情は解った。任せておけ!』
 オロンテスは、集散所の詰め所へと向かう、彼はトミタスを連れて戻ってくる。
 『ドックス、こちらは集散所の新艇の販売担当のトミタス殿だ。一緒にクギテス殿の金具売り場に行って、荷ができていたら受け取れ。そして、明細勘定書きができていたらトミタス殿に渡して、取引をトミタス殿に引き継げばそれでいい。後の処理は俺がやるということだ』
 オロンテスが言葉を継ぐ。
 『あ~あ、それから、明細勘定書きはもらって来いよ!以上だ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  941

2017-01-09 08:51:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『なあ~、ドックス、この俺もパンの工房を預かって運営している。時々考えることがあるのだな。『創り出す』と『造る』 この二つを比べると、これに費やす我々人間の持てる力が異質であることを感じる。この二つの力が相まって、何物かを創造し、造りあげて未来へとつながっていく。パリヌルス、オキテス、そして、ドックスお前だ。お前ら三人の力が創り出し、造る物が人間の未来をきり拓いている。素晴らしいことだと思う。必ず、お前らがやっていることが未来において評価されると考えている』
 『ありがとうございます。仕事をやっていくうえで、くたばることなく力いっぱい努めます』
 『おう、人間は、仕事をするときには、その意気、その覚悟だな!しかし、言っておく、力みは広くあらねばならん注意をせばめる。そういうことだ』
 『そうですね。言われる通りです。日常の仕事を通じて感じています。気を配って仕事に携わっていきます』
 『ドックス、昼めしは充分だったかな?』
 『腹は、いっぱいです』
 『では、俺は売り場に戻る。お前はどうする?』
 『はい、私は、これから造作金具類の最終打ち合わせです』
 『そうか、うまくやれよ!』
 二人はそれぞれに足を向けて広場をあとにする、ドックスは、クギテスの金具売り場に歩を運んだ。
 売り場のテーブル上には、造作金具類が取り揃えられている。
 売り場には見知った顔の男が笑みを浮かべて立っていた。
 『おう、ドックス殿、ようこそ!ここの売り場のクギテスから事の次第を聞いてここにいる、ことはうまく進んでいるかな?』
 『それはもう、クギテス殿が大変によくしてくれています』
 『おう、それは何より』
 二人は言葉を交わしいる、頃合いを見て、クギテスがスダヌスの傍らに立った。
 『ドックス殿、造作金具類、各種取り揃えました。見てください。スダヌス殿から話は伺いました。遠慮せず何なりと行言ってください。私どもはクギ類、造作金具類については、ドックス殿の要望に応えられると自信を持っています。では始めましょうか』
 ドックスは、クギテスと軽くうなずき合ってテーブル上の金具類に見入った。
 ドックスは、考えうる構想、そして、構造を考えて造作金具はどうあるべきかを思考してテーブル上の金具を手に取って吟味する、戦闘艇の建造に際しての条件に対応できるか否かをチエックした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  940

2017-01-05 10:16:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスは最適性を考慮して選んでいる、決めることの難しさにとまどう、知恵を絞る、この時代、当然、物体の強度、材質のデータなどといったものがあろう筈がない。全てが『いいであろう』でかたずけられている時代である。人間がありったけの知恵を脳より絞り出して、原始の計測器を必要に応じて創り出して対応したであろうと考えられる。
 ドックスも己が生きた経験則の中からの見当を物差しにして事に対処していた。想定される建造する戦闘艇の諸状況を思考し、造作金具の構造を使っての柱材の保持構造に対するマッチングを決定させた。また、柱材の連結構造についても、それに使用する造作金具と連結構造のありかたとのマッチング構想をこの場で構想した。
 最重要度の艇構造に関する懸念を解決した。あ~でもない、こうでもないともやもやしていた懸念が霧消する、これについてはこうであるという強い確信に満ちた結論を下した。
 ドックスは午前中の時間をこの決定に費やした。
 造作金具のサイズ、金具を構成する太さ、考えられる強度に到るまで考えつくして決定した。誰が何と言おうとも譲ることのできない決定である。
 ドックスは、クギテスと造作金具の仕様と数量の打ち合わせを行う。
 『解りました、ドックスさん。これらについて、当方が持ち合わせている造作金具が合致するか、しないかを確かめます。また、ドックスさんが期待される堅牢性、強度が保証できるか否かも検討します。そのうえで、特別に注文を頂いて調製し要望に応えるかを考えましょう。昼過ぎにはその準備ができます』
 『解りました。その頃合いにこちらへまいります』
 『解りました。準備を整えてお待ちしています』
 『では、頼みます』
 ドックスはそのように言いおいて、オロンテスの待っているパン売り場へ歩を向けた。
 『おう、ドックス、造作金具の件うまくいったか?』
 オロンテスが声をかけてくる、ドックスが顔をほころばせる。
 『オロンテス隊長、私の用向き知っておられたのですか』
 『オキテスから聞いている。どうだ、昼めしを一緒に食べるか。今日はこの天気だ、広場のほうへ行こう』
 『ありがとうございます。造作金具類の打ち合わせは午後イチの仕事です。そこで決めたいと考えています』
 『そうかそれは重畳!行こう』
 二人は連れ立って広場へ足を運んでいく。広場の木陰に場をとって腰を下ろした。
 『おう、ドックス、このように二人で昼めしを食べる。初めてだな』
 『オロンテス隊長、気を使っていただいてありがとうございます』
 『おう、ドックス。これな、スダヌスの売り場から調達してきたつまみ物だ。うまいぞ!口に入れてみな』
 『あ~、これはうまい!』ドックスは頬に手を当てる。
 『これはだな、スダヌスが自分用に作っているのをもらってきたのだ。食べようぜ、遠慮なくつまめ!』
 二人は、ぶどう酒を飲み、パンを食べながら話に花を咲かせた。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  939

2017-01-04 08:57:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ドックスさんと言われましたな。私はこの売り場で釘、造作金具類を取り扱っている、クギテスです。何なりと聞いてください』
 『ありがとうございます。とりあえず、売り場に置いてある造作金具類を見せていただきます。そのうえで、いろいろと金具類についての話を伺わせていただきたい。まあ~、時間はたっぷりあるので、そう急ぎません。よろしく頼みます』
 『どうぞどうぞ、ゆっくり見てください。何かあったら声をかけてください』
 二人は言葉を交わした。
 ドックスは売り場を見て廻る、建造する戦闘艇各部を思い描き、その構造に対する造作金具がどうあれば、最適であるかを考えながら売り場を見て廻った。
 クギテスは、売り場に備えてあるテーブルに喉を潤すぶどう酒を準備して、くつろぎの場を作ってくれた。
 『ドックスさん、どうぞ、こちらでくつろいで下さい』
 『はい、ありがとう。ところで、クギテスどの、木板と木炭がありましたら、貸していただきたいのだが』
 『はい、わかりました』
 クギテスは、木板と木炭を持ってくる。
 『ドックスさん、これでよろしいかな』と言ってテーブルの上に置いた。
 『ありがとうございます。これで充分です』
 ドックスは礼を述べて、雑ではあるが頑丈に組み立てられた椅子に腰を下ろし、クギテスが準備してくれたぶどう酒をひとくち口に含んで飲み下した。
 気持ちが落ち着く、木板に懸念の要点である柱材の連結部の構造略図を描く、また、建造する艇の底板と柱材の保持構造と保持に使用する造作金具についての略図を描く。
 ドックスは描いた略図を見ながら根を詰めて考える。頭中に嵐が吹きまくる、ブレンストームである。想い浮かべては行きつ戻りつ考える、考えつく造作金具の形態を片っ端から描いていく、時は過ぎていく、思考の嵐の収まる時が訪れた。
 造作金具のカタチは単純である、描いた造作金具をじいっと見つめる。どれもこれも似たカタチである、それでも描いたカタチは20余りに及んでいる。
 ドックスは種差の選択をする、数点に絞り込む、売り場に並ぶ造作金具と描いた略図を比較する。
 次いで艇の重要部分の重量構造との関連を考慮して、造作金具の最適スケールについて考えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  938

2017-01-03 14:26:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 戦闘艇の試作艇を造るドックスに船棟梁として大きな懸念があった。
 パリヌルス隊長には告げることのできない懸念である。ドックス自身が検討し、選定し、決定しなければならない大切な案件である。
 船は海に浮かび、波に抗って、海洋を移動する建造物である。そのような物であるだけに堅牢であり、受ける外力に対する抗力をも必要としている。
 ドックスは、遂行目的を有して海洋を航行する建造物は、どうあるべきかについて、深く、広くに想いを到らせて構造を思考した。
 『パリヌルス隊長、どうしてもその場にスタンスして、手で触れ、考え、検討をして、選び、解決しなければならないことがあります。試作艇建造の工程に関する件ですが、明日、午前中に提示すると言いましたが、明後日の午前中ということにしていただけないでしょうか。明日、オキテス隊長がキドニアに出かけられるのに同道して、キドニアに出かけてきます。お願いいたします』
 『おう、何かむつかしいことのようだな。工程等の提示の件だが了解した』
 打ち合わせを終えたパリヌルスは、席を立って場を離れていく、見送ったドックスは身をオキテスに近づけて、ささやくような小声で話しかけた。
 『おう、ドックス、どうした?小声でなんだ?』
 『オキテス隊長、大きな声で言えない心配事です。明日のオキテス隊長のキドニア行きに同道します。試作艇の建造に取り掛かる前に、何としてもやらなければならないことがあります』
 『ほう、と言うとなんだ?』
 『よくよく考えると、戦闘艇建造に使う造作金具類は、いま私たちが使っているものでよいのかどうかということです。このたびの建造に使う造作金具類を検討したいと考えています。戦闘艇に使う部材は、新艇に使った部材とは違います。戦闘艇を造りあげる造作金具類を検討して選びたいと考えています。よろしくお願いします』
 『おう、解った。そのような品物を取り扱っている集散所の売り場に案内してやる。よく検討して、選び、決めろ!買うと決まれば、その時に話を聞く、あとは任せろ!そういうことだ』
 『ありがとうございます』
 ドックスのキドニア行きが決定した。
 
 日が新たまる。オキテスに連れだってドックスはキドニアに出かけた。
 オキテスは、迷うことなくドックスが用件をする売り場へ連れていく。
 『ドックス、ここだ!』
 『ありがとうございます』
 オキテスが売り場の担当者に声をかける。
 『おう、ご主人。この者は我々の造船の場を取り締まっている船棟梁のドックスだ。建造する船の造作金具類を見たいと言っている。俺は所用があって同席しない。よろしく頼む』
 『これはこれは、オキテス殿、了解しました』
 『ドックス、そういうことだ。俺は、ガリダ頭領のところへ行ってくる。なんでも相談して、検討しろ、そのうえで決めればいい。ではな。あ~あ、それからだが用件の都合で俺たちが返ってくるのが遅くなるやもしれん。ギアスに俺が返ってくるまで待つように言ってくれ』
 『解りました』
 オキテスはそのように言って従卒を連れて集散所をあとにした。