『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1055

2017-06-16 08:16:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスは、この時代のつたないチエック技法で空と海の状況をチエックした。
 空は雲のない晴天、海は無風の凪、潮はゆるい逆流れである、彼は5時間後の風の状態を、そして、想像できる海の状態を地理条件を加味して考えた。
 船を帆走させる、風が期待できない、漕走で行くと判断する。
 ギアスは、漕ぎかたの一人に質問してチエックする。
 『おう、テッパス、漕ぎの調子はどうだ?櫂操作の抵抗感はどんな具合だ?』
 『ギアス船長、それを俺に聞かれるのですか』
 『なんとなく船足のノリがよくない!』
 『潮の流れと進行方向の関係で漕ぎによる加速感がありません。漕ぎの抵抗感が出るように櫂操作のピッチを速くしなければ船はいい船速で進みません』
 『そうか。解った。櫂操作のピッチを速くしなければならんということか。走しなければ船速の維持が難しいということか』
 ギアスは、即座に対処指示を出す。
 『木板打ち!ピッチを速くするのだ!打ちを速くしろ!』
 彼は漕ぎかた一同に櫂操作対処の檄を発した。
 この状態で航走すると目標の停泊地のペレカノス着が日没直前のころであろうと予測した。
 ギアスは頃合いを見て、オキテス隊長をはじめスダヌス、テナクスと今日の航走について打ち合わせた。
 状況判断による予測、航走計画と漕走維持の交替計画、それらによる停泊予定地のペレカノス着が日没直前であろうと説明した。
 一同が了解する。
 ギアスは漕ぎかたの交替指示の実行をテナクスと打ち合わせる。
 『ギアス船長、解りました。漕ぎかたらの交替をうまく実行していきます』
 船が潮の流れを割る、西に向かって進む、進行方向右手に見るはクレタ島南岸の風景、左手に目にするのは、はるかの水平線。往き来する船は見当たらない。船舶の航行が少ない海域である。
 ギアスが航走に注意を怠らない、テムパキオの港の岸を離れて三刻(6時間)、昼過ぎになって、進行方向右手にレフカオリ山の峰が見えてくる。
 昨日、がブドス島の不逞の輩と海上交戦を展開した海域を通過する。ギアスは、今日の行程の6割くらいかと判断した。
 彼ら一行が乗っている船が西へ西へと海上を往く。あと半刻ぐらいで陽が海に没する頃合いとなる。
 船は無事に停泊地のペレカノスの浜に着いた。
 『オキテス隊長、停泊地ペレカノスの浜に到着しました。予定の頃合いです』
 オキテスに報告するギアス。
 『おう、着いたか。重畳!ギアス船長、ご苦労であった』
 彼ら一行は、ペレカノスの浜に停泊、宿営した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1054

2017-06-15 08:15:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 進水した新艇が晴れ晴れしている。オキテスの目にそのように映る。
 船衆らが乗る、新艇が新しい命を得る、その息吹を感じた。
 頭領がオキテスに近づく、昂ぶる声音で話しかける。
 『おう、オキテス殿、ありがとう!進水式をこのように盛大にやったのは初めてだ。心から礼を言う。君らの帰りの航海は、船を押す風は期待できない、航海の安全と無事を祈る。俺はこれからラムピまで船衆と出かける。ではな』
 『そうですか、統領の航海の安全と無事を祈ります。これからもよろしく願います』
 頭領が手をのばしてくる、握るオキテス、二人の胸に感動が走る、オキテスは目を潤ませた。
 次いで、スダヌスに身体を向ける。
 『スダヌス殿、ご苦労でしたな。帰途も二日がかりの行程だ。道中の無事を祈る!』
 『頭領、またの会う日を楽しみにしています』
 『おうっ!』
 二人は手を握り合った。
 『あ~あ、オキテス殿、もう一つ、礼を言わなければならん。昨日は、海路の掃除をしてくれたそうだな。夕べ遅く、使いの者から報告があった。ガブドス島に住み着いている不逞の輩をやっつけてくれたことに礼を言う。ではな』
 オキテスらは、新艇に乗って出かける頭領ら一行を見送った。
 『オキテス隊長、ここまでの業務の遂行、ご苦労でした。帰途の航海を安全第一で乗り切ろうではありませんか』
 『了解!』
 新艇納入業務の句読点を『了解!』で打った。
 オキテスは、ギアス、テナクス、ゴッカス、班長らを招集する。
 『ギアス船長、まず訊ねる。負傷者二人の容態は?』
 『今朝、傷の具合を確かめました。快方に向かっています』
 『よし!そのようであれば、言うことなし!一同で朝めしにする。朝めしを終えたら、帰途に就く、風は期待できない。今夜の停泊地は、昨日と同じペレカノスだ。ギアス船長、漕ぎかたの交替をうまくやること。安全第一で航海だ。沿岸との離岸距離は、昨日と同様で航走してくれ。いいな!以上だ』
 『解りました』
 一同は、言葉を交わしながら朝めしを終える。
 軍船は、テムパキオの港を出る、凪状態の海に波をたてる。船上に響く櫂操作の調子をとる木板を打つ音、調子を合わせて海をかく、軍船は航跡を引いて進んだ。
 ギアスは、漕ぎかたの交替を漕ぎ座60座20人4班構成で交替手順を組んで航走した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1053

2017-06-14 08:12:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テムパキオの朝が明ける。
 太陽は、はるか遠くに見える(テムパキオから60キロ余り東方)クレタ島三山、三番目の高峰デクテイ山(2184メートル)から昇る。
 パキオテ方の船衆らの朝が早い。彼らは進水式の準備を整えている。ゴッカスらはオキテスの指示を受けて彼らを手伝っている。準備が出来あがる。
 パキオテ頭領が姿を見せる。オキテスとスダヌスがパキオテ頭領と顔を合わせる。
 『頭領、おはようございます。今朝も気持ちよく晴れています、とってもいい朝です。昨夕は大変、馳走になりました。ありがとうございました』
 『おう、おはよう。よく眠れたかな。昨夕はどうも、こちらこそ礼を言わなければならん。今日の太陽の第一射が届くのは間近い!その太陽をここに会する一同がそろって迎えねばな』
 パキオテ頭領が船衆の一人を呼び寄せる。
 『おう、進水式の準備が整ったのか?』
 『はい!出来あがりました』
 『よしっ!今日の太陽の第一射が間近い!一同の整列だ。式に使う剣は準備しているな』
 『はい!万事抜かりなく整っております』
 スダヌスがオキテスに声をかける。
 『オキテス隊長、私が一同を呼んできます』
 スダヌスが一同を呼びに走る。
 パキオテ頭領が新艇に向かって立つ、その背後に船衆らが二列になって横に並ぶ、その後ろに場をとって、ギアス、ゴッカスが率いる軍船、新艇操船の者らが隊列を組んで並ぶ。
 なかなかの壮観である。
 突如、気を見て、パキオテ頭領が身体の向きを反転させる、昇り始める太陽の方向に向く、デクテイ山南面の稜線から今日の太陽が顔を出す、大日輪の昇陽である。
 大日輪が全姿を輝かせて、頭領と新艇を照らす。
 頭領が大日輪に深く低頭する、体を起こす、声高らかに航海安全の祈願文言を日輪に届けよとばかりに叫んで祈りあげる。
 彼は、太陽への祈りを終えて、新艇の艇尾の波打ち際に立つ、船衆が子羊を引いてくる、波打ち際に子羊を据える、
 頭領が海神ポセイドンに新艇を求めたことを述べ、航海の安全を祈りあげる。
 『ポセイドン神!我の往く海の安全を願う!』と言葉を結ぶ。
 船衆が剣を頭領に渡す、剣を手にする頭領、浜に凛とした気が漂う、手にした剣を海につける、滴るしずく、子羊に対する、子羊と目が合う。
 頭領が剣を上段に引き上げる、剣が陽にきらめく、裂帛の気合、光の一閃、子羊の頭部が胴体から離れる、吹きあがる鮮血が風に舞う。
 子羊の頭部が海にのまれていく、船衆が頭部のない胴体を海に放り投げる、海がのんでいく。
 浜に喊声が轟く、船衆、オキテスら列席の一同が新艇に取り付く。
 頭領が新艇の艇首前に立つ、手に持つぶどう酒の壺を舳先に打ちつける、飛び散るぶどう酒と壺の破片、またもや、一同が沸き立つ。
 『新艇を海におろせ!』
 頭領が叫ぶ。
 新艇が海に降りていく、艇体を海に浮かべた。
 挺心と海心が同化する。オキテスをその気が襲う、オキテスの心は『不思議なる気』に触れて、全身に鳥肌が立った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1052

2017-06-13 07:33:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そちらに新艇納入航海に伴走してきた船の乗り組みの者らを休ませたい、そのように考えています』
 『おう、解った』
 『ありがとうございます』
 『スダヌス殿、俺の屋敷のほうへの道は知っているな。あ~あ、それから、浜のことで聞きたいことがあれば、浜衆に聞いてくれればいい』
 パキオテ頭領は船衆二人を浜に残して引きあげていく。
 オキテスは、ギアスとゴッカスに指示して、軍船の者らを浜で休ませるようにする。オキテスとスダヌスの二人は頃合いを計って、パキオテ頭領の館へと足を運んだ。
 オキテスは、オロンテスの焼いたスペッシャルパン(二日目に食するパンはそのように配慮して焼きあげてある)を携えていく、二人は大歓迎された。
 パキオテ頭領の屋敷で行われた宴は、大いに盛りあがる。彼らが持参したパンを食する彼らは『これは旨いっ!』とほめちぎる、オキテスら二人は、クレタ島南岸テムパキオ地方の料理を堪能する。スダヌスまでもがあけた口をふさがないでいる。宴はにぎわいのうちに終わった。
 二人は、丁重に礼を述べて引きあげる。浜では一夜を過ごす一同が休もうとしている、ギアス、テナクス、ゴッカスの三人が二人の帰りを待っていた。
 『おう、待っていたのか。今日は、大変ごくろうであった。俺ら二人は、パキオテ頭領の館で夕めしを馳走になってきた。一同と夕めしを共にしなかったことを許せ』
 オキテスは、三人と目を合わせる。
 『ところで明日のことを簡単に打ち合わせておく。明日は、朝一番にパキオテ方の進水式に列席する。式は陽の出の刻に行われる。それを終えてから帰り船の出航ということだ。解ったな。以上だ』
 『解りました』
 『よし、休もう。海上戦で傷を負った二人はどうしている?』
 『彼らが負った傷は、矢の刺傷ですが、運がよく、極めて浅く、海水でよく荒い、酒で消毒、手当てしました。快方に向かうと考えています』
 『そうか、解った。テナクス、気を配ってやってくれ』
 『解りました』
 夜が更ける、警備担当が任に就く、彼らは寝についた。
 オキテスとスダヌス、二人は、波打ち際に足を向ける。
 『おう、スダヌス、今日は世話をかけた。礼を言う』
 『何の礼だ?』
 『祝い品の子羊のことだ。あればいいものがないでは、様にならん。テムパキオに来て、その調達をどうするかを気にかけていたのだ。それを解決してくれた。スダヌス、お前に感謝、感謝だ。ありがとう。礼を言う』
 『そのように礼を言われると照れるな。あのドラクマ銀貨それに使いました。報告しておきます』
 『おう、そうか。重畳!俺らも寝るか』
 二人は、一同が寝ている傍らに場をとって寝についた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1051

2017-06-12 06:12:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パキオテ頭領、お待たせいたしました。新艇引き渡しの場が整いました。案内いたします』
 『おうっ!』
 パキオテ頭領が船衆一同を連れて新艇の前面に来る。
 『どうぞ、こちらへ』とオキテスが彼らを案内する。
 突如、起こる一同を迎える拍手、驚く一同。
 オキテスが新艇の前に立ち、改めて、パキオテ頭領を丁重に迎える。贈呈する櫂舵を手にする、捧げ持って頭領の前面に立つ、新艇引き渡しの文言を声高らかに述べる、贈呈の櫂舵を目の高さにささげ定常する、それを受け取る頭領。
 『オキテス殿、キドニアからの遠路ごくろうでした。新艇を受け取りました』
 『こちらが受注いたしました、新艇の帆一式でございます。こちらが当方からの贈呈の櫂一式、祝い品の堅パンです、ご受納ください。パキオテ頭領からポセイドン神に奉呈いただく子羊です。統領からの気持ちです。進水式に使っていただくぶどう酒です。お納めください』
 申し述べてオキテスは深々と低頭した。
 『オキテス殿、ありがとう。統領によろしくお伝えください』
 パキオテ頭領が言い終えて手をさしのべる、オキテスがさしのべられた手をしっかり力を込めて握る。二人の感激が頂点に達する、互いの肩を抱く。
 この光景を目にしているゴッカスらが拍手で場を沸かせる、同席している船衆一同からも拍手が沸き起こる、彼らは同調して場の感動を盛り上げた。
 スダヌスは、新艇納入の場に立ち合い、感動場面の演出に感じ入っていた。
 パキオテ頭領がオキテスとスダヌスを招き寄せ話しかける。
 『我が方では、新船を買い入れたときには、陽の出の頃合いに新船を進水させることにしている。そのようなわけで、明朝、この浜において進水式を行う。帰り船の出航は明朝ですかな?時間的に余裕があれば進水式に列席してくれれば、俺はうれしい』
 オキテスの傍らにいるスダヌスが小声でささやく。
 『承知するのだ、オキテス!』
 うなずくオキテス。
 『パキオテ頭領、承知いたしました。喜んで列席いたします!』
 『それからだが、今夕、一献差し上げたい。当方の屋敷へおいでいただきたい』
 『ありがとうございます。喜んでまいります』
 『たずねるが、同行しているのは、ここに見える一行だけですかな?』
 『いや、ほかに帰り船の連中がいます。頭領の館に伺うのは、私とここにいるスダヌスです。他の者らについてはお構いなく。ただ一つお願いいたしたいことがあります。今夜、一夜、一同を休ませるのに頭領が差配されている浜の一画を、お借りできればと考えているのですが』
 『了解、その件承知した。このあたり一帯の浜は俺の浜だ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1050

2017-06-09 07:41:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~お、待たせましたな。キドニアからの遠路の航海ごくろうでした。確か、オキテス殿と覚えておりますが?』
 『はい、オキテスです。キドニアにおいて、その節にはいろいろとありがとうございました。発注いただきました新艇を届けにまいりました。引き渡しはいずれでいたしましょうか?』
 『おう、新艇の受け取りは、俺の浜でと考えている』
 『承知いたしました』
 『よろしいかな。俺の浜は近くだ、新艇で行こう』
 『解りました』
 『それでだが、少し遠回りして、俺とこの船衆に操船を見せてやってくれ』
 『承知いたしました。それでは一同、乗艇ください』
 オキテスがゴッカスに指示する、パキオテ頭領と船衆の一同を新艇に案内する。
 ゴッカスが風の状態を確かめる、オキテスと二言三言打ち合わせる。ゴッカスが漕ぎかたに指示を出す。
 『漕ぎかた!漕ぎかたはじめ!』
 海面が泡立つ、新艇は船だまりの岸壁を西へと風上に向かってはなれていく。岸をはなれて5スタジオンくらいの地点に到達する。
 ゴッカスの声がとぶ。 
 『操舵担当!艇首、東へ回頭、反転せよ!』
 新艇が進行方向をテムパキオの港の向ける。続けざまにゴッカスの指示がとぶ。
 『全帆、帆張りせよ!』
 帆張りの担当が帆張り作業を簡単操作でやってのける。
 船衆らは、漕ぎかたらの行う操船作業に注視している。
 新艇は、帆に風をはらむ、漕ぎかたは櫂ををあげる、艇は順調に快走し始める、安定度の高い走りを艇上の船衆らに体感させた。
 パキオテ頭領がオキテスに声をかける。
 『オキテス殿、港の船だまりから4スタジオンくらいから東の一帯が俺の浜だ。そちらへ新艇をつけてくれ』
 オキテスがゴッカスに声をかける。
 『ゴッカス!船だまりから東方、4~5スタジオンの地点を目指して、艇をつけてくれ』
 『了解!』
 新艇は目指す地点の浜につく。
 パキオテ頭領は、オキテスらにかけた手数の礼を言う。オキテスはうなずきながら、頭領と艇の引き渡し要領について打ち合わせた。
 『パキオテ頭領、新艇引き渡しの準備を整えます。少々ばかり時間をいただきたいのですが』
 『おう、解った』
 『準備が整い次第、案内いたします』
 オキテスらは引き渡しの準備に取りかかる。漕ぎかたらも総がかりで準備に取り組む、新艇を艇首から揚陸し、帆柱に五色の吹き流しを取り付け、艇体に幕を張っていく。
 ゴッカスはレテムノンでの引き渡しの要領を思い出して場を整えた。
 『ゴッカス、場が整ったら、一同、新艇の右舷横に整列だ。俺は頭領一同を呼びに行ってくる。一行が場に来たら、これを拍手で迎えてくれ。俺がパキオテ頭領に櫂舵を渡し、引き渡しの口上を述べる。そこで再びできるだけ盛大に拍手をしてくれ。そして、祝い品などもろもろの品を渡して引き渡しを終える。以上だ、頼むぞ』
 『解りました』
 オキテスがパキオテ頭領を迎えに歩を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1049

2017-06-08 08:08:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パキオテの館までスダヌスを案内してくれた店の主人が、いま、来た道をひき返して戻っていく。
 スダヌスはパキオテの館を目指して歩んでいく、玄関の戸口の前に立つ、大きな声で呼びかけた。
 『こんにちは!どなたかおいでですかな!』
 『はい!』と返事が返ってくる。
 屋敷の奥から船衆と思われる若い男が出てくる。
 『どなたですかな?』
 『パキオテ殿は在宅ですかな?』
 『はい、おりますが。如何なる用件かを聞きます』
 『キドニアから、発注いただきました新船を届けに来ました』
 『ええっ!船を届けに!?』
 『少々、お待ちください』
 船衆が屋敷の奥へととんでいく、奥からこの館の主人らしき男性が姿を見せる。
 スダヌスと目が合う。
 『どこかでお会いしましたな。う~む、思い出せない。あっ!思い出した。ス、スダヌス殿ではござらぬか。いやいや、その節にはーーー、なに!船をとどけにだと、いつ、港に着かれた?』
 『たった、いまです。いま、着港したところです』
 『それはそれは、ご苦労でしたな。海路でキドニアからテムパキオへは結構な距離だ。すぐ行きます。船はどこにつけられましたかな?』
 『はい、港の船だまりにつけております』
 『解った。早速、船衆を集めて、そちらへ出向く』
 『お待ちいたします』
 『おうっ!』
 パキオテ頭領は、傍らにいる船衆に指示を出す。
 『おい、船衆を集めてくれ。港へ出向く』
 用件を終えたスダヌスは、パキオテの屋敷を出て、戻りを急いだ。子羊の調達を依頼した店に立ち寄る、店には大ぶりな子羊が用意されていた。
 丁寧に礼を述べる店の主人。スダヌスは左手で子羊を引いて船だまりに戻ってくる、オキテスは待っていた。
 『おう、浜頭、ご苦労。事はうまくいったかな?』
 『うまくいきました。パキオテ頭領が船衆を連れてまもなくここへ来ます』
 『おう、浜頭、注文主のパキオテ殿と話し合い、新艇の引き渡し場所を決める。引き渡し次第を打ち合わせて引き渡しをやる。陽は西にあるが沈むまでにまだ間がある。余裕を持って引き渡しを行える』
 『分かりました。オキテス隊長の言われるように事を運びます』
 二人は打ち合わせを終える、大勢の話し声が聞こえてくる、パキオテ頭領を先頭にして20名あまりの船衆が船だまりに姿を見せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1048

2017-06-07 08:21:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスが大声をあげる。
 『オキテス隊長、テムパキオの港です。あの船だまりにつけます』
 『おう、それでいい!ゴッカスに説明して係留かたを頼む!パキオテ殿の館を探さなければならんのだが、スダヌス』
 『隊長、それは私にお任せを!それからなんですが、ドラクマ銀貨をお持ちでしたら、一枚、私に貸しておいてください。新艇引き渡しの祝い品として渡す子羊一頭を調達してきます』
 『そうか、スダヌス、その件やってくれるか!解った、任せる』
 ゴッカスはスダヌスのガイドに従い船だまりの岸壁に新艇を係留する。
 『ゴッカス、俺、ちょっと出かけてくる。オキテス隊長と打ち合わせはすんでいる』
 スダヌスが岸壁にあがる、街中に向けて歩を運んでいく。
 彼は、まず、子羊などを商う店を探す、若かりし頃に訪れたテムパキオの港町の記憶を思い起こしながら要領よく足を運んでいく、目指す子羊などを商う店を探し当てた。
 その店の店頭に立つ、声をかける。主人と思しき男が姿を見せる、用件を伝えるスダヌス。
 『店のご主人かな?』
 『おう、そうだが』
 『子羊一頭がほしい!生きているやつだ』
 『子羊一頭ですか、店には手持ちがありませんが。少々、時間をいただければ、お渡しできます。牧場からとってこないと、そういうわけです』
 『そうか。では、頼む!代金はいくらかな?』
 『1ドラクマです』
 『おっ!そうか、分かった。俺は用足しして来る。それまでに準備しておいてくれ。ところで尋ねるが、教えてもらいたい。パキオテ殿の館を知っていないか?』
 『はい、それはよく知っていますが』
 『俺には、パキオテ殿に伝えたい用件がある。教えてもらいたい』
 『口で説明して分かりますかな?』
 『そりゃ、分かるとも分からんとも言えん』
 『客人、この港には初めてですかな』
 『来たことはあるが、それは遠い昔のことだ。そのようなわけで分かりかねる』
 『そのようなわけなら、私が案内してさしあげる』
 『そうか、それはありがたい、よろしく頼む』
 『では、子羊の代金を払う。2ドラクマ銀貨だ。取っておいてくれ。つりはいらん。俺が用足しして帰ってくるまでに子羊を準備しておいてくれれば、それでいい』
 スダヌスは、準備してきたドラクマ銀貨を手渡す、ありがたさを態度に表して受け取る店の主人、スダヌスは、用向きの達成を意識した。
 『承知しました。では、客人、行きましょう』
 二人は連れ立って店を出る、しばらく歩いて、家並みの角を曲がる。
 『客人は、どちらからこの港に?』
 『あ~、俺か。キドニアからだ』
 『船便で、それとも陸路でですかな?』
 『船便でだ』
 『パキオテ殿の館はあそこです。あのでっかい屋敷がそうです。私は子羊を準備に行きます。遠慮せずにあのドラクマ銀貨をいただきます』
 『おう、取っておいてくれ。世話をかけたな』
 『では、ご用がすみましたら店の方へおいで下さい。待っています。ありがとうございました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1047

2017-06-06 08:12:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 交戦海域を避けて、陸岸を目指して、ひた走っていた新艇が進路を反転して、軍船を目指して波を割って来る。双方が海上交戦を終えた海域で顔を合わせた。
 オキテスが声をかけてくる。
 『おう!ギアス船長にテナクス隊長、大変にご苦労であった。勝利したな!重畳!』
 彼が海上交戦が終わった海を見渡している。
 破砕されている2隻の小船に目を移す、海面に漂う敵の奴らの死体、その流す血に寄ってくる魚群、破砕された小船の残骸を目にして言葉を継ぐオキテス。
 『当方の損害は?』
 『負傷者二名です。二人とも矢による傷です。軽微の損害であったと安堵しています。考えていたより短い時間の海上交戦でした。以上です』
 テナクスがオキテス隊長に報告に及ぶ。
 ギアスがオキテス隊長に声をかける。
 『交戦に少々、時間を費やしました。いい西風が来ています。テムパキオへ急ぎましょう。軍船の船首を東へ向けます。先導よろしく願います』
 ゴッカスが答える。。
 『おう、了解!この風なら、帆走が可能です』
 艇と軍船の船上に帆張りの指示が飛ぶ、追い風を帆にはらむ、舳が波を割り始める、潮の流れが船足の加速に力を貸す、艇と軍船の航走は快調といえた。
 スダヌスのオキテスに話しかける声がする。
 『オキテス隊長、予期していなかった事態でしたね。襲ってきた者どもは、この海域の南にあるガブドス島に巣ぐっている奴らです。この海域を過ぎれば外敵のことは考えずともいいと思います。一路、テムパキオへです』
 『おう、そうか!解った』
 『今は昼間の長い季節です。私の想いでは、いい頃合い、夕時の少し前にテムパキオに着港すると考えています』
 スダヌスは太陽を仰ぎ見ながら、ここで間を取り、進行方向と沿岸の風景を見て取る。
 『いま、進んでいるのは、ケラメスの沖です。ここから半刻後には、ラムピの沖を通過します。そこまでいけば、テムパキオは目の鼻先です』
 艇と軍船はクレタ島西地区の南岸に沿って進む、順風満帆快調に航走している。
 ラムピの沖を通過する、進む正面にテムパキオの港が見えてきていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1046

2017-06-05 06:19:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 外敵との海上遭遇である。軍船上の者らが緊張する、ギアス、テナクスが遠目に外敵と思しき三隻の小船を見つめる、小船は、船と船との間隔を30メートル余りで航走している。
 敵は船上に14~15人くらい乗っている、弓を手にしている者は二人、他の者は船を漕いでいる。
 軍船上のギアスとテナクスは、敵の仕掛けを待つ、船上の二人の射手が矢を射かけてくる、奴らの敵性を確認する。
 奴らが射かけてきた矢が海面を割って進む軍船の舷側わきの海面に刺さる、敵の矢の的中が外れる。
 間髪を入れることなくテナクスが指示を発する。
 『弓隊、矢を放て!敵を射殺すのだ!』『1番目と2番目の船に集中しろ!』
 矢継ぎ早に指示を出す、彼らも射撃開始直後は的中が定まらない、双方の船が接近する、的中が定まってくる、テナクスの攻撃手順が効を奏してくる、射手の射放つ矢が敵の小船船上の奴らを射倒す。敵1番船に仕掛けた集中攻撃で3人を射倒す、10人中の二人に敵1番船攻撃を続けさせる、8人の射手に敵2番船に集中攻撃を指示して飛矢戦を展開する、敵射手2人を含めて5人を射倒す、次に射手6人に命じて敵3番船に攻撃を仕掛ける。
 戦いを展開している間に敵との距離が狭まっている、ギアスが操船の指示をしている、眼前に敵2番船が迫っている。
 敵2番船の左舷の中央部分に軍船の衝角を突きこむ、すさまじい破砕衝撃、二つに折れて海上で破砕する小船、ぶっ飛ぶ船上の者、断末魔の悲鳴が風に消える、軍船が破砕した敵2番船を割って通過する、射手らは今だとばかりに敵1番船と敵3番船の船上の奴らに矢を射かける、至近距離の敵である、的をはずすことなく奴らを射倒した。
 『海に漂う敵をやっつけろ!生かしておくな!』
 彼らは、海に漂う破砕した敵2番船の者らの命を絶った。
 敵1番船の15人中の11人が射倒されている、もう、当方の新艇を追走は不可能である、敵3番船では船上の者らの半数が射倒せれている、敵3番船は交戦をあきらめ、船首を南方向へ回頭している。
 敵2番船を破砕して通過した軍船は、船首を反転させる、海上交戦から逃げようとしている二船のどちらかに衝角攻撃を仕掛けようとしている。ギアスは、敵二船との距離を算定する。
 海上交戦から逃げ遅れかけている敵1番船に衝角攻撃を加えることを決断する。
 ギアスは、漕ぎかたを叱咤する、敵船と距離がつまる、敵1番船の左舷船首部に軍船の衝角が突きこむ、敵船を破砕する、テナクスの指示が飛ぶ。
 『敵に矢を射かけろ!全滅させるのだ!やれっ!』
 船が破砕されて海に投げ出された者らを彼らは容赦することなく矢で射る、その命脈を絶った。
 逃げていく敵3番船を追うことはしなかった。
 軍船の彼らは海上での戦いに勝利した。ギアスとテナクスは、海上交戦に勝利する使命を果たした。
 敵船を破砕して戦場を通過した軍船上の者らは凱歌の喚声をあげた。