『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1045

2017-06-02 10:19:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニューキドニアの浜を遠く離れたペレカノスの地で朝を迎えた彼らは、陽の出とともに出航する。
 ペレカノスが背にしている山から吹きおろす風が止もうとしている。凪の時間帯に入ろうとしている。
 波静かな海を艇と軍船は東へと向かう。
 クレタ島の南の海洋である、南方向を見る、視界をさえぎるものが何もない、目にするのは水平線である。
 彼ら、艇と軍船の進行方向の左は、クレタ島の南岸である、北東方向に目にするのはレフカオリ山(2452メートル)クレタ島の主峰イデー山より4メートル低い、この山を仰ぎ見ながら陸岸よりの距離を維持しながら進んでいく。船の行き来が全くない、漁をする漁船の姿もない、何事か事の起こりを予感させる静けさの海を波立てて進んでいく。
 ペレカノスの浜を出て二刻くらいの時が過ぎている。進む彼らの東南方向の視界に北に向けて波を割って進み来る三隻の小船を発見する、まだ、その小船群は遠くにいる。
 先を行く新艇の艇上に緊張が走る、ゴッカスが合図を送ってくる。ギアスも同時に遠くの海上を進む三隻の小船を視野に入れた。
 即刻、オキテス隊長から信号が届く、進行方向転換の伝達信号である。受けるギアス、返答信号を送る、新艇が陸岸に艇首を向ける、ギアスが海上交戦に向けて操舵の指示を発する。
 軍船は、三隻の小船群との海上における交差地点に向けて加速する。
 テナクスが海上交戦に関する指示をする。軍船の船上が緊張する、漕ぎかたが漕ぎに力を入れる、弓の射手らが射撃体勢を整える、テナクスは弓の射程距離内への接近を待つ。
 ギアスは、小船の奴らが外敵であるのか、そうではないのかの判断をしたいと考えたとき、小船船上から放たれた矢が軍船のわきの海に刺さった。
 奴らは害をなす敵であると断を下し一拍の間をおく。
 『テナクス隊長、戦闘を開始する!』
 『おうっ!』
 テナクスは、射程距離を確認する、軍船船上に指示が飛ぶ!
 『矢を放て!攻撃開始!』
 船上の射手10人が一斉に矢を小船船上に向けて放つ!
 オキテスとの申し合わせに従い、二番目に進む小船に焦点を合わせる。ギアスが船上の一同に声をかける。
 『衝角攻撃目標、二番目の小船!衝角攻撃実行!』
 『おうっ!』
 『方向よし!船速よし!』
 『操舵、船首をやや右へ!』
 『おうっ!了解!』
 グッダスが声をあげる。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1044

2017-06-01 08:03:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 総勢90人余を率いてオキテスは、新艇の納入航海に旅立った。
 浜で作業にいそしむ者らは、日常の作業を手際よくこなしていっている、浜は平常と何ら変わらない。
 パリヌルスは、ドックスとともに揚陸されている試作艇の徹底チエックに臨んでいる。
 パリヌルスは、新方式を採用して取り付けた操舵部の構造を点検している。また、少々長く造りあげた事もあり、修正構造を加えた艇体の衝角構造体のチエックを入念に行う。彼らの知恵で考えられるすべての見地から入念にチエックした。
 『なあ~、ドックス、明日のことだが、朝から試作艇で海に出てみないか?』
 『それはいいですね。私もじっくり乗ってみたいと思っていました。やりましょう』
 『よしっ!決まりだ。朝から海に出る。それを念頭にチエックしてくれ。必要なら手を入れてくれていい。俺は今日、漕ぎかたを決める、操舵は、俺がやる試作艇操船の感触を試しておきたい』
 『オキテス隊長が納入航海から帰ってくるまでに、戦闘艇の建造にかかわる日程計画に基づいて準備を整えようと考えています。ガリダ方への用材の発注の件を含めてですがーーー』
 『おう、そうだな、解った。そのように計画する』
 打ち合わせを終えたパリヌルスが場を去っていく。
 ドックスは試作艇のチエック作業を続ける。
 ドックスは、自分が手掛けた衝角構造体の末尾部分の流線形構造を見直す。『まあ~、いいか。明日の試乗でチエックする』とした。

 納入航海に向けて早朝にニューキドニアの浜を出航した一行は、帆張りすることなく出精の漕ぎでクレタ島の西の端の突き出た二つの岬を通過して南への方向転換地点に到達する。その地点に到達する頃合いには北北西からくる風を感じられるようになっていた。
 彼らは躊躇うことなく南へと転進する。ゆるい潮の流れの海域である。クレタ島の西岸に沿って艇と軍船は南下する。
 先を行く新艇のオキテスから帆張りの信号が届く、ギアスは風を読む。 
 『おう、少しは、たよりになるかな?!』と判断する。
 軍船が帆張りする、でっかい横帆である、風をはらむ、漕ぎかたから声があがる。
 『おう、漕ぎが軽くなった!』
 風が船を押す、漕ぎに集中する漕ぎかたの力負担を減じた。
 彼らの航走は順調といえる、停泊予定のペレカノスに到る至近の地点で漕ぎかたが六、七人が乗った小船とすれ違った。
 彼らが目にしての判断は、『あの船は、漁船ではないな』であった。
 一行は、停泊予定地であるペレカノスの浜に夕刻の早い頃合いに着いた。今様の時間で言えば16時頃であろうと思われる。
 彼らは、新艇は揚陸し、軍船は海上にとどまらせてペレカノスに停泊した。
 オキテスとスダヌス、ギアスは、明日の行程の打ち合わせをする。
 スダヌスが口を開く。 
 『オキテス隊長、変事に遭遇しない限り、明日の今頃にはテムパキオの港につきます』
 『おう、そうか』
 彼らは、異郷の浜で一泊に及ぶ、明日に備えて身体を休ませた。