『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1414

2018-11-15 03:10:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テムノス浜頭がオキテスに声をかける。
 『おう、おはよう。オキテス隊長!』
 『おはようございます、とってもいい朝です。出航の準備ができています。乗艇ください』
 水夫頭がオキテスに声をかけてくる。
 『オキテス隊長、おはようございます。元気でしたかな?』
 『はい、元気です。水夫頭殿も元気そうで何よりです。新艇の具合に変わりはありませんか?』
 『はい、彼奴も元気に私らと一緒に海原を駆けています。安心ください』
 『ありがとうございます。それを聞いて安堵しました』
 二人が再会のあいさつを交わす。
 テムノス浜頭から声がかかる。
 『オキテス隊長、出航しよう!』
 水夫頭がテムノス浜頭に声をかける。
 『頭領、行ってらっしゃい!相手方に話を通しておきます。帰着は、明日の夕刻ですね』
 『おう、その予定だ』
 テムノス浜頭が艇に乗る。
 オキテスが出航を告げる。
 凪いでいる海を泡だてる、イラクリオンを目指して波を割り進む。
 レテムノンの係留岸壁を離れて一刻半、今様時間で3時間、ジエロポタマスの沖に差し掛かる、イラクリオンへの中間とおぼしき地点である。
 陽を浴びて輝く、イデー山(2456メートル)の山頂を眺める。漕ぎかたらが感動を覚える一瞬である、見とれている余裕がない。
 艇はひたすら東への航走をゆるめない。
 テムノス浜頭がオキテスに声をかける。
 『オキテス隊長、岸を離れて沖へ出てみよう。この頃合いの風具合を見る』
 『解りました』
 オキテスがダックスに指示をする。艇を北東に進ませる、沖へと向かう。
 風を感じる、風に艇を押す力があるとは思えない、だが、ダックスは帆張りを指示する。
 艇は櫂漕ぎをやめることなく、東へ航走する、そして、小1時間後、西から風が吹き来る、いい風である、帆が風をはらむ。
 ダックスが『お~お、これなら、いける!』と断を下す、イラクリオンを目指して帆走する。艇上の者らが海の状態を眺める、波頭が風に飛び、舞い飛ぶ、海上の各所に白ウサギが跳んでいる。
 テムノス浜頭がつぶやく。
 『これでおちつける!オキテス隊長、話でもするか』
 『はい!』
 『レテムノンでも、イラクリオンでも船舶の展示試乗会を開催するとなると、いささかながら、少々、話が違ってくる』
 『そのあたりの事情については、私らは全くわかってはいません。その件は、白紙にして、話を起こしていただいてよろしいです』
 『話の切り出しとしてだな、船舶の展示試乗会を開催してはどうかと話題提起で話を進めるが』
 『解りました。テムノス浜頭に話の一切をゆだねます』
 『了解した。エドモン浜頭には、そこから話をする』
 『解りました』
 二人は顔を見合わせ、うなずき合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1413

2018-11-14 04:39:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今夜の宿営をする係留岸壁に戻ったオキテスは、ダックスの報告を受ける。
 『オキテス隊長、報告いたします。艇の点検整備を終えました。報告すべき不具合等ありません』
 『おう、そうか、ごくろう!明日の予定について一同に伝える、集まってくれ。ダックス、夕めしの準備を頼む』
 夕めしの支度が出来る、オキテスを真ん中にして浜の草地に座をとる。
 『おう、一同、今日はご苦労であった。キドニアからレテムノンに駆け抜けたといった感じの航海であった。明日は、イラクリオン、そして、マリアへと向かう。事の次第では、イラクリオンまでとなるかもしれない』
 オキテスが一同を見廻す。
 『イラクリオンへは、テムノス浜頭が同行の航海である。以上だ!』
 一同がうなずく、ダックスが声をかける。
 『おう、一同!めしにする。副菜は火を通した干し魚だ。パンとともにぶどう酒で腹におさめろ。俺はこの取り合わせが大好きだ、うまいぞ!』
 一同は、すきっ腹にパンと副菜をぶどう酒で胃におとしこむ。
 彼らは、初秋の候の十三夜の月をレテムノンの地で仰ぎ見て宿営した。
 寝についたオキテスは、寝つけないでいる、月の照っている闇を見つめる。
 結論を出していない懸念について思考を巡らせる。
 『イラクリオンまでの行程は長い、時間を要する、テムノス浜頭とは艇上で話し合える。それでよしとしよう』
 巡らせる思考が次のステップに移る。
 『イラクリオン、レテムノンの地でも展示試乗会を催行するとすればーーー』である。
 『イラクリオンのクノッソスの集散所は、集散所の元締めである。二人の浜頭の考えは、どのようであろうか?』
 彼は考える、結論にたどりつかない。
 『なるようにしかならない!彼らが差配する領域である。俺の出るところではない。エドモン浜頭、テムノス浜頭の厚意ある善処にゆだねる』
 オキテスはそれしかないと腹を括った。
 思考に冴えたオキテスに眠気が襲いかかってくる、彼は耐えきれない、深い眠りに落ちた。
 
 夜が明ける、レテムノンの地の朝である。オキテスらの朝は、いずれの地でも朝行事で明ける。
 陽の出はまだである、オキテスとダックスが申し合わせる。
 『隊長朝行事を終えたら、即、朝めしにしますか?』
 『おう、いいだろう。腹六分の軽めの朝めしで行こう。昼は早めの中間食とする』
 『解りました。そのようにします』
 『おう、それでいい!』
 彼らは、軽めの朝めしを簡単に済ます、出航準備を整える。
 今日の大陽が水平線を破って顔を出す、陽が昇る、一行が波打ち際に並んでいる、昇る日輪に身体を向ける、瞑目する、何事かを願う、終えて一同が艇上での位置に就く。
 テムノス浜頭が水夫頭とともに歩を運んで姿を見せた。


 *昨日の投稿で変換ミスがあります。お詫びして、訂正いたします。
  最終行です。  持す  を   辞す   に訂正します。    山田秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1412

2018-11-13 04:50:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テムノス浜頭が礼を言うオキテスと目を合わせる。
 『おう、オキテス、お前、ありがとうと言うが、手の貸し方にもいろいろある。また、それを決めるのにも、こちらの都合ってものがある。礼を言うのが早い、早合点はいかん!オキテス隊長、解るかな!』
 『はい、解りました。心得違いをしないよう気をつけます』
 『エドモン浜頭のイラクリオンはどうするのだ?』
 『イラクリオンにおいての展示試乗会の開催のことでしょうか、出来れば開催したいと考えています。そのように催行の予定を組んでいます』
 『それは大事だな。イラクリオンは、クノッソスの集散所の管轄領域だ。オキテス隊長、エドモン浜頭の立場もある。簡単に決められる問題ではない』
 テムノス浜頭が口ほどにものを言うまなざしをオキテスに向ける、口を開く。
 『キドニア集散所への対処はどのようにしている?』
 『はい、キドニアにおいては、集散所の開催ということで、これまでに幾度か展示試乗会を開催しています。今回の開催については、キドニス浜頭、スダヌス浜頭に協力かたを願いました』
 『よし!事の成り行きが見えてきている。オキテス隊長、明日の予定は?』
 『はい、マリアの集散所へ直行する予定でいますが』
 『了解した。おう、俺を乗せていけ!イラクリオンのエドモン浜頭と話し合う。マリアの集散所に行く前にエドモン浜頭のところに行く。ことによってはエドモン浜頭も同行でマリアへ行く』
 『解りました。テムノス浜頭、甘えるわけではありませんが、よきように計らってくだされば幸いです』
 『解った。お前が了解出来るか否かはわからんが話し合う。クノッソスの集散所は、何といっても集散所の中心的存在だからな、つんぼ桟敷においておくわけにはいかない』
 『言われる通りです』
 『尚、エドモン浜頭の立場と権限、俺のレテムノンにおける立場と権限にも及ぶ問題がある』
 オキテスにテムノス浜頭の言葉の重要さが理解できる。
 『解りました』
 オキテスは、事の成り行きを認識する、話が終わる。
 オキテスは、テムノス浜頭と明朝の出航について打ち合わせる。
 『おう、オキテス隊長、ところでマリアで受注した船の件はどうなっている?』
 『はい、売り出しのスタート時に引き渡し納入できるように、只今、建造の真っ最中です』
 『おっ、そうか、了解!あの受注は、君らにとって、瓢箪から駒のラッキーだったな』
 『言われる通りです。あの受注は本当にラッキーでした。浜の者ら一同、喜んでいます』
 『オキテス隊長、明日の朝は、早く出航しよう。陽が昇る、間を置くことなくの出航だ』
 『解りました。テムノス浜頭、今夜は、係留岸壁の浜で停留、宿営をしたいのですが?』
 『おう、了解!存分に休まれよ』
 『ありがとうございます』
 話を終えたオキテスは、テムノス浜頭の屋敷を持す、係留岸壁の浜に戻った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1411

2018-11-12 03:15:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今様時間で午前11時過ぎにキドニアの岸を離れたオキテスらの艇は、夕刻の午後4時すぎと思われる頃合いにレテムノンの港に着く。
 オキテスがダックスに声をかける。
 『おう、ダックス!いい走りでレテムノンに着いたな、重畳!重畳!ご苦労であった』
 『はい!いい風に恵まれての航海でした。無事、目的地に到着しました。感謝、感謝です』
 『そうだな』
 一拍の間をとる。話し続けるオキテス。
 『ダックス、テムノス浜頭の屋敷に行ってくる。今夜はこの浜で停泊、宿営する。艇の点検整備を頼む。それを終えたら、停泊、宿営、夕めしの支度をしてくれ』
 『解りました』
 『夕食の頃合いまでに帰る。浜頭との話し合いにもよるが、明朝の出航については、帰ってきて打ち合わせる』
 『解りました』
 言い渡してオキテスは、テムノス浜頭の屋敷に向かう。
 オキテスがテムノス浜頭の屋敷の庭先に立つ、浜頭と顔を合わせる。
 屋敷の庭先に立ったオキテスに浜頭が声をかける。
 『おうおう、オキテス隊長ではないか!どうした?』
 『あっ!テムノス浜頭、たった今、港に着きました。テムノス浜頭、元気そうで何よりです』
 『久しぶりだな、お前も元気にしていたかな?』
 『この通りです。ありがとうございます』
 『遠路、息も切らすことなく来たか。まあ~、ゆっくりしろや。お前が来る、用事があるから来る、用事がなければ、来るわけがないわな。ハッハッハ!』
 テムノス浜頭とオキテス、目が合う、笑い合う。
 『まずは一献いこう!』
 テムノス浜頭がオキテスに酒杯をすすめる、酒を注ぐ。二人は杯を合わせ口に運ぶ、飲み干す、オキテスが持参した手みやげの堅パンのケースを浜頭に手渡す。
 『皆さんで召し上がってください』
 『おう、ありがとう!いただく』
 『その後、新艇の具合はいかがですか、思いがけない不具合があるとか、何かがあればうかがいますが』
 『おう、どうってことはない!日々、用務に運航している』
 『それを聞いて安堵しました。今日、こちらへ来ました用件について、申し上げてよろしいでしょうか?』
 『ほう、オキテス隊長、特別の用件でもあるのか?聞こう』
 『はい、来月、10月のことですが、キドニアとマリアの集散所が申し合わせて、船の売り出しを計画しています。その件を知らせに来ました』
 オキテスは、船舶の売り出し計画について説明する。
 このレテムノンの地においても船舶の展示試乗会の開催したい旨をテムノス浜頭に伝える。
 『ほう、そうか、それは面白い!やれ!俺が手を貸してやってもいいが』
 『ありがとうございます』
 オキテスが礼を述べた。

 *11月9日の投稿で大変な不手際な状態で投稿をしました。深くお詫びいたします。  山田秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1410

2018-11-09 13:02:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 


























 
 













































 
 オキテスがスダヌスの売り場に着く、朝の挨拶を交わす。
 スダヌスは身支度を整えて待っている。
 同道してキドニス浜頭の屋敷へおもむく。
 オキテスはやや緊張している。
 『オキテス、そのような緊張はすてろ!』
 『俺の立場では、緊張はやむを得ん!お前と俺が話しするようなわけにはいかん』
 キドニス浜頭の屋敷に着く。
 キドニス浜頭は、二人を快く迎えてくれる、三人は話し合いのテーブルに就く。
 オキテスはキドニス浜頭に手みやげとして持参した堅パンののケースを渡し来意を告げる。
 船舶の建造事情を話す、集散所暦の10月1日よりスタートする船舶の売り出しについて話をする。
 売り出しの販促用に作成した販促ツールを手渡す、手にとって見入るキドニス浜頭、スダヌスにも手渡す、スダヌスも見入る。
 『ホッホウ、これはこれは!』と言って、キドニス浜頭が船談義を語る。
 『オキテス殿、この木板だが船の話が相手に伝わりやすい。結果に結びつくか、結びつかないかは、いま、ここでは答えられない。スダヌス浜頭とも話し合い、船について聞かれたら私なりの協力を約束する。それでいいかな?』
 『結構です。いい返事をいただいてありがとうございます』
 『おう、なんの、なんの!』
 三人の話し合いが終わる、オキテスは丁重な言葉で話を結ぶ。
 二人は、キドニス浜頭の屋敷を辞する。
 スダヌスがオキテスに話しかける。
 『おう、オキテス、話が落ち着くべきところに落ち着いたな。キドニス浜頭との話、重畳と言わねばなるまい』
 『スダヌス、ありがとう。俺もお前が言うように受け取っている。これで安心して事前打ち合わせの旅に行ける。礼を言う』
 『これでマリアに向けて出港するのか。道中の安全を祈る、幸先のいい結果を期待している』
 『ではな、行ってくる!』
 『おう、うまい肴をとりそろえて、お前の帰りを待っている』
 二人は手を固く握り合う。
 オキテスは、船だまりの岸壁へと歩み始める。岸壁に着く、薄雲を通して光をふりおろす太陽を見あげる、漕ぎかと一同に声をかける。
 『おう、昼めしは洋上で食べる、いいな。直ちに出航する。ダックス、出航だ!』
 『了解しました!いい西風が来ています』
 『そうか、それは願ってもいない、いい兆候と言えるな』
 艇が船だまりの岸壁を離れる、外洋に出る、ダックスが帆張りを指示する。
 風をはらむ全帆、洋上には白うさぎの飛び跳ねを見る、艇は、ほどいい船速で波を割り始める、しぶきが艇上の漕ぎかたらの顔を洗う。
 艇は、レテムノンに向けて、我が意を得たと航走した。






























































































































































『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1409

2018-11-08 06:33:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスがレフカオリ山(2452m)の山頂を振り返る、山からおろしてくる風は微風である、凪いでいる静かな海をキドニアへと進んでいく。
 オキテスは、朝、浜で交わしたアエネアスの言葉を想い起している。
 『お前らがやる結果が見える、信じている。俺が待つのは、お前らが無事に帰ってくる姿だ!それ以外にない!行って来い!』
 民族の長たるアエネアスの人を思いやる心情を繰り返し思い起こす、そのような心境でありながら、頭中の思考は、ネクストステップに移っている。
 『この期に及んで思案はしなくともいい。思うところを為すのだ。いいな!』と自分自身を叱咤する。
 視界にキドニアの船だまりが見えてきている、オロンテスがオキテスの到着を岸壁上で待っている姿を見とめる。。
 『おう、オロンテス、待っていてくれたのか。キドニアにおいての仕事だが、まず、集散所の用件を済ませる。それを終えて、スダヌス、キドニス両浜頭と話し合う。昼前には終わる』
 『解った』
 『それが終わったら、レテムノンに向かう。今夜はレテムノンに停泊して、テムノス浜頭と話し合う』
 『了解!』
 オロンテスがオキテスの行動予定を承知する。二人は、集散所の詰め所に向けて歩き出す。  
 詰め所は多忙の時である、担当のトミタスがオキテスら二人の来訪に気がつく、二人を迎えるハニタス。
 『ハニタス殿、おはようございます』
 『はい!、オキテス殿、オロンテス殿、おはようございます。今朝は早いですな』
 四人が顔を合わせる。
 『事前打ち合わせに出発される朝ですな。この季節、ときならぬ海の荒れに気を付けて行ってきてください。帰られて状況を聴かせていただければ幸いです』
 『10月1日からの売り出しに幸先のいい話を持ち返りたいと思っています』
 『朗報を待っています』
 『新しい販促のツールを持参しました。役立てていただければ幸いです』
 『解りました。引き合いの発掘に最適のツールだと考えています。活用します。あ~あ、それから、マリアの集散所によろしく伝えてください。売り出し関係の事項は私の方から伝えてはいますが』
 ハニタス担当との打ち合わせが終わる。
 オキテスはスダヌスのところに向かうとする、オロンテスはパン売り場へと向かおうとしている、オキテスが引き止める。
 『おう、オロンテス、これから、スダヌス、キドニスの両浜頭と会って、俺らがやる営業の業務に力を借りる話をつめておく』
 『了解した』
 『それを終えたら、俺はレテムノンに向かう』
 『おう、了解した。安全航海を第一にして行ってきてくれ』
 『おうっ!』
 オロンテスは、オキテスの無事帰還を祈って背中を見送った。



 *お詫びいたします。11月6日の投稿で掲載番号を間違えました。
 1406  を  1407  と訂正いたします。
                          山田秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1408

2018-11-07 05:32:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜に今日の終業の頃合いが近づいてくる、オロンテスがキドニアから帰ってくる、オキテスの席場に姿を見せる。
 『おう、オキテスごくろう。明朝、出航するのだな。日程はどれくらいだ?』
 『順調航海で行けば、16日に帰ってくる』
 『セレストスとの打ち合わせうまくいったかな?』
 『万事うまくいった。堅パンのことまで配慮してくれて、礼を言う!』
 『出航の頃合いは?』
 『それは、お前の出航のあとにだ。そのように予定している』
 『おう、お前の航海を気にかけている。用務を終えて無事に帰ってきてほしい。無事の帰りを待っている』
 『おう、ありがとう。無事に帰ってくる、それ以外はない!』
 『おう、おうっ!』『おう、おうっ!』
 パリヌルスとオキテスが声をあげる、浜には終業の時がおとずれていた。
 
 浜の朝が明ける、オキテスらの出航の朝である。
 空には刷毛ではいたような風情の薄雲が浮いている、水平線を破って陽が昇る、第一射が届く。
 荷積みを終えたオロンテスの艇が出ていく。
 クレタ海を背にしてオキテスら一行の総勢27人が波打ち際に隊列を整えている。
 向かい合って立つ、アエネアスとイリオネス、パリヌルス、ドックス、セレストスが並び立つ、その背後に見送りの者らが集まっている。
 オキテスの声があがる。
 『統領に軍団長!行ってきます!』
 『無事の帰りを待っている!』
 オキテスが指示を飛ばす。
 『全員!乗艇!』
 喫水ぎりぎり浅瀬地点に係留している試作戦闘艇に総員が乗りこむ、位置に就く一同。
 出航準備完了の知らせがダックスから、波打ち際に立つオキテスに届く。
 統領と目が合う、軽く会釈を送る、艇に向かう、乗艇したオキテスが艇上の一同に告げる。
 『おう、諸君!今、営業の事前活動に出航する!安全第一で行く、いいな!』
 『おうつ!』『おうっ!』『おおう、おうっ!』
 一同から喊声があがる。
 漕ぎかた全員が櫂に手を添えている。操船担当のダックスの指示が飛ぶ。
 『漕ぎかたはじめっ!』
 泡立つ海、艇が打ち寄せる波を割る、出航する戦闘艇が岸を離れて行く。
 見送りの者らの喊声が沸く、手を打ち振る、これに答えて艇上で手を振るオキテス。艇に届く浜の大喊声。
 オキテスらが乗った艇が白く航跡を残して遠ざかっていった。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1406

2018-11-06 06:25:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 セレストスがパン工房へと戻っていく、ドックスが姿を見せる。
 『おう、ドックス、来てくれたか。まあ~、かけろや』
 『はい!』
 『お前とは日ごろよく話し合う。これと言って打ち合わせごとがない。留守する間、よろしく頼む。これは聞いておきたいとか、打ち合わせておきたいことがあるかな?』
 『これと言ってありませんが。明朝、浜に見送りに行きます。道中の安全航海を祈っています』
 『おう、ありがとう。なあ~、ドックス、出かけるとなると何かと心せわしい』
 『まあ~、そんなものでしょう。それで道中の安全の祈りの力をもらう。考えたら安心なものです』
 『お前、言ってくれるな。俺の知っているドックスがこのように情味豊かなドックスだったと、たった今、気がついた』
 『ハッハッハ!』『ハッハッハ』
 二人は笑い合う。
 オキテスとドックス、二人の人間味が絡み合う、これと言ってない打ち合わせを終える。
 『おう、ドックス、安全航海!これ一事で行ってくる』
 オキテスは話を結ぶ。
 昼が過ぎる、パリヌルスが出来あがった販促ツールを三人に持たせて姿を見せる。
 『おう、オキテス、販促ツールだ!絵の巧拙は別だ、うまくできたと思っている、活用してくれ』
 『おう、ありがとう。考えているところを為す、百戦するとも危ぶからずだ!目指す成果を獲得する』
 二人の目が合う。
 『おう、心強い!』
 『おっ!それを信じてい行ってくる。俺が一番、気にかけているのがイラクリオンの状況だ。マリアについては安心している。キドニアはどうかと言うと、果たしてという感じだ。レテムノンは成果を期待している』
 『お前の船の売れ行き状況分析か。オキテス、何も考えずにやれ!我を捨ててこそ生きる地ありだぞ!』
 『おう、心得た!道中の安全のみを考えて行ってくる』
 『おう、それそれ、それがいい!それに徹しろ!受注成約は、集散所、関係者にゆだねればいい!』
 『おう、それでいいかなと、少々不安に思うところもありだ』
 『オキテス、それお前の本音か?この期に及んでびくつくな!敵は不断の自分自身かもだ』
 『解った!』
 『航海の安全を気にかけている。俺の出来ることはそれくらいといったところだ』
 二人の話し合いが終点に行きつく。
 オキテスが考える、思いつく立ち位置から自分を見つめてみる、発見がない、自分の姿を高みから俯瞰して見つめる。
 『そういうことか!』と自分自身にうなずく。
 考える徒労、この期に及んでの無意味にに気づく、彼は、思考作業を捨てる。
 『前進あるのみか!』
 オキテスは、やる気十分のバーニングハートに点火する、燃えあがる。
 『おう、パリヌルス、!行ってくる!』
 二人は起ちあがる、ハイタッチを打った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1406

2018-11-05 04:57:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今日の業務を終えたオキテスが自分の席場に戻ってくる。彼は考える、明後日のことを明日で考える。
  
 星がまた一つ光を消す、朝がおとずれる。
 朝行事を終えたオキテスがアエネアスらと顔を合わせる。
 『おはようございます。いい朝です、晴朗の朝です』
 イリオネスが応じる。
 『おう、おはよう。いい朝だ!売り出しの事前打ち合わせに明日出航するのだな』
 『はい!そうです』
 『空模様が変わりやすい季節となりつつある。空模様に気配りして行ってくるのだな。急いては事を仕損じるだぞ』
 『解りました。明日から留守にします。よろしく願います』
 『おう、了解した』
 朝行事を終えたパリヌルスが浜に立つアエネアスらのいるところへと向かってくる。
 『おはようございます。いい朝です!おう、オキテス、おはよう!』
 『おう、おはよう!いい朝だ』
 『いよいよ。明朝、事前打ち合わせに出航だな。安全航海、第一に努めて無事に帰って来いよ』
 『5~6日留守にする、よろしく頼む。使用艇は、試作戦闘艇で行く』
 『何か用事のある時は言ってくれ』
 『解った。あの販促ツ∸ルだが、昨日、集散所の関係者に渡した。販促ツールの印象は極めていいといえる』
 『それはよかった。明日、持参するツールの枚数は、どれくらい持っていく?』
 『おう、120枚くらいがいいと考えている』
 『おう、解った。今日の昼過ぎに届ける』
 『解った、頼む!四枚組のツールも5~6組頼む』
 『了解、了解!』
 朝行事後の浜での打ち合わせが終わる。
 オキテスの心は売り出し事前打ち合わせの旅の空に飛んでいる。あれもこれもと考えがふくらむ、彼はそのふくらみを抑える。
 ドックスがやってくる。
 『オキテス隊長、おはようございます、いい朝です』
 『おう、ドックス、いい朝だ!』
 『隊長!留守中の打ち合わせの件ですが、建造の場の朝の始業指示を終えて席場のほうに来ます』
 『おう、了解!ダックスと顔を合わせたら、朝めしを終えたら俺のところへ来るようにと伝えてくれ』
 『解りました』
 オキテスは朝めし前にやっておくべき用件を終える。昼前のオキテスは多忙である。
 『おう、緊張度がたまらんな!』と独りごちりながら用務をこなしていく。ダックスと使用する試作戦闘艇の整備要領を打ち合わせる。
 セレストスが顔を見せる。
 『オキテス隊長、明日からの航海に出向く総員は何名になりますか?』
 『おう、27名だ!』
 『オロンテス隊長からの言伝てですが、持っていかれる手みやげの堅焼きパンですが、どのようにしましょうか?』
 『おう、そうだな、俺らの消費分を含めて、25ケースくらい持参する』
 『了解しました。食糧については、30人3日分10食予定で整えます。船への積み込みは明朝やります』
 『おう、世話掛ける。よろしく頼む』
 セレストスと航海中における食糧に関する打ち合わせを終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1405

2018-11-02 06:25:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 建造の場へと歩むオキテスの背中を見送るアエネアスら二人。
 アエネアスとイリオネスがオキテスからの報告を受けて感想を語り合う。
 『おう、イリオネス、望んだ成果獲得路線に乗って進行し始めたと思っていいかな。野望が希望となり、成果達成計画になった。実行していく姿をイメージしたら心がワクワクする。やる!案ずるな!事の成るを信じろだ!』
 『統領!燃えていますな!解りました。オキテスの計画を聞いて、達成へのシフトは万全です』
 『おう、イリオネス、建造の場の巡察に行こう』
 『はい!』
 建造の場の船台では、新々艇の建造がスタートしている。
 ドックスが忙中の冴えでもって仕事を展開させている。
 建造の場は晩夏の強い陽射しにさらされている、日影がない、高く澄んだ青天井である。
 強い陽射しが作業者らの肌を焼く、汗を滴らせて作業に取り組んでいる。
 二人は、その風景に目をとめる。ごく短い言葉で彼らをねぎらいながら歩を進めて行く。
 二人は、攻めの立ち位置で事業展開を見つめる。
 イリオネスの心の中は、脚下照顧を行きつ戻りつして、順調展開のイメージを瞼の裏に描く。
 過ぎ去った日の営業航海を想い起す、鮮明に浮かぶ、成果期待を結果とした姿を描ききる。
 アエネアスに気づかれないように口元がゆるみ、微笑みが浮かぶ。気づいたアエネアスが声をかけてくる。
 『おう、イリオネス、どうした?何を考えている?笑っているではないか』
 『え~え、チョット!想い浮かんだことで』
 『何を想いうかべたのだ?過ぎた日の成功譚か、失敗談か?』
 『いえ、そうではありません。何でもありません』
 『そうかそうか、何でもいい、笑う、いいことだ!笑いは百薬の長だ』
 話を交わしながら歩く、建造の場の風景をつぶさに目に収めていく。
 アエネアスの心中に得体のしれないクラウドが沸く、クラウドが漂う。
 『俺は、いま、それを考えない』と強い気持ちで沸々とするクラウドを打ち捨てる。
 『なあ~、イリオネス、オキテスが事前打ち合わせに出航するのは明後日だな』
 『そうです。この業務の初手は、まず、人に会う事から始まり、想いを伝える。ですから』
 『そうだな。その役にうってつけのオキテスになったか』
 『そのようです。無欲恬淡、まっさらな気持ちで語り合う!道開くですな』
 『お前の言う通りだ。無欲の大欲か。無我と簡単に言うが、言うと実際は、大いに違う、過ぎる欲は物事の大事において、人をめくらにする。見えない!それでは成るを失う。人と対峙したときの俺の心のありかただ』
 『心得ました。心します』
 『イリオネス、素直だな!俺の言ったこと、当を得ているか、得てないかは別だぞ』
 二人の交わす会話が終わろうとしている。
 建造の場の巡察が終わる。二人は歩みの向きを変えた。
 二人は、互いが統べる領域の違いに考えを馳せた。